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第28話 マルダシリという男(回想)

----------マルダシリ視点----------


「やれやれ、戦勝会が何事もなく終わって良かったでやす。」

「全くだぜ。幹部なんてなるもんじゃねえな。ろくに飲めなかったぜ。」

「会場の片付けは部下に任せるとして、溜まってる書類仕事を片付けやすか。」

「なあ、俺たち休みってないのか?」

「考えたら負けでやす。」


戦勝会の翌日、マルセルとマルダシリはミュゼルファミリー本部で仕事に追われていた。そこへ部下の男がマルダシリの元へやって来た。


「マルダシリさん、帝国のブラックリストの最新版が届きました。」

「ん?もうそんな時期でやすか・・・」


受け取ったブラックリストを捲り、更新された内容を確認していく。新たに手配書に加わった者の顔と名前を記憶し、削除された者は記憶から消していく。


「まだ残っていやすか・・・。生きているうちに時効にはなりやせんかね。」


まだ十代後半だった頃の自身の人相書きを見て、思わず溜め息が漏れる。


『A級戦犯:旧デイノア王国軍所属兵マールドゥッセル』


「あの戦争が終わってから、もう15年も経ちやすか・・・」

-------------------------------


~18年前、デイノア王国~


今年で15歳だ。成人して社会に出る時が来た。

特に何かやりたい仕事があるわけでもない。とりあえず、住む場所があって飯が食えればそれで良かった。それだけの理由で王国軍の入隊試験を受けた。体力にはそこそこ自信があったし、体が丈夫なのも取り柄だった。持ち前の『超回復』スキルがあるから、多少の怪我ならすぐに治るのだ。

同世代には一攫千金を夢見て冒険者の道に進んだ奴もいた。誘われたりもしたが、収入が不安定なのと色々と学ぶことが多そうだったので断った。軍人ならのんびり巡回任務をしたり、適当に訓練をしているだけで安定した収入が得られるはずだ。


入隊試験は問題なく合格することができた。これで晴れて軍人だ。

新人の体力強化訓練はなかなか苦しかったが、ついていけない程ではなかった。それどころかトップクラスの成績だったので、とても将来を期待されたものだ。

しかし、剣の技術指導が始まると状況は一変した。どうやら俺には剣を扱う才能はないようだ。この国では何故か剣術の腕前が評価に大きく関わる。この時、俺は早くも出世街道を外れることになった。

だが、俺は全く気にしなかった。元々、安定した収入が得られて飯が食えればそれでいいと思っていたのだ。出世したかった訳ではない。むしろ、苦しい剣の訓練をしたくなかったので、楽な弓の訓練を中心に行った。


的を狙って射る。うん、なかなか楽しいじゃないか。これで飯が食えるなら人生楽勝だな。


そんな感じで一年が過ぎた頃だった。

東のエルトリア王国が帝国を名乗り、ミトラ大陸で覇を唱え始めた。帝国は周辺の小国群に進軍し、次々と支配下に治めていく。そして着実に勢力を拡大しながら、西へと進軍を続けていった。


更に一年が経過する頃には、帝国は我が国デイノア王国に迫ってきていた。

属国になるように通達があったようだが、デイノア王国はこれを拒否。徹底抗戦の姿勢をとったのだ。


これはアカンやつだ。俺でも分かる。国力の規模が違いすぎる。勝てるわけがない。

しかも聞いた話だと、帝国では魔導銃というすごい武器が開発されているらしい。対してデイノア王国は古い慣習をとても大事にする国で、新しい物を取り入れるような姿勢は見えない。何せ、未だに剣術の腕前だけで評価が下されるような国なのだ。挙句の果てには『魔道具を持って戦うなど武人の恥。そのような国に我が国が負けるわけがない。』とか訳の分からんことを上層部は言い始める始末だ。


俺の上司も『祖国の為に剣をとるのだ!』と息巻いている。周りの連中も『祖国の為に!祖国の為に!』と、プロパガンダにより完全に洗脳されてしまっている。

どうしたものかと考えているうちに開戦してしまい、雑兵の俺は最前線に送られていた。


それから俺の地獄の半年間が始まったのだった。


初陣では俺は後方配置だった。弓が扱えたからだ。

ここならすぐ攻撃されるようなこともないだろう。そんな俺の希望はあっさり壊された。敵の魔導銃部隊による一斉射撃で、前線はあっという間に崩壊したのだ。


これは撤退だな。そう思った矢先に飛んできた指揮官の指令に耳を疑った。


「弓隊!抜剣!構え!」


思わず指揮官の顔を二度見してしまった。

え?何言ってんの?ゆみたいばっけんって阿呆みたいなセリフが聞こえたんだけど冗談だよな?


周りを見ると、みんな使い慣れない剣をいそいそと準備していた。





いかん。頭が真っ白になって思考が停止してしまっていた。どうやら冗談でも夢でもないようだ。

と、とりあえず抜剣するか。形だけ持ってきていた小剣を抜いて構えた。なんていうか木の棒を握っている気分だ。実に心許ない。

そろそろ真剣に現実に向き合った方が良さそうだ。俺は死にたくない。逃げれば敵前逃亡と見なされて処刑されるだろう。かといってこの戦いに勝つのは無理だ。考えろ、どうやったら生き残れる!?

敵の魔導銃は強力だ。だが、当たらなければどうということはないはずだ。そうだ、全部避ければいい。戦場を駆け回ってかき乱す。敵の部隊長っぽい奴を討ち取れば戦果は十分だろう。その戦果を持ち帰れば、敵前逃亡とは見なされないはず。

攻撃を避けることに集中して、隙きを見て討ち取る。よし、この作戦でいこう!


『祖国の為に!祖国の為に!』と叫びながら突撃する味方を盾にしつつ、敵の攻撃のパターンを必死で観察した。3発だ。連続で撃てるのは3発まで。その後に隙きができる。

身体強化も行いながら、俺は必死で戦場を駆け回った。



数時間後、俺は後方の砦に逃げ帰ってきていた。


「この軍服紋章を届けに参りやした。最後まで戦った証として遺族に届けて欲しいと、指揮官に指令を受けやした。」

「そうか。ご苦労だった。その様子だとお前も勇敢に戦ったようだな。傷が癒えたら私の部隊に配属しよう。」


結局、戦果を得ることができないまま、味方は全滅してしまった。

考え抜いた結果、自分の上司の死体から軍服の紋章を引きちぎって、遺族に届ける指令を受けたことにしておいた。死人に口なし。全員死んだから何とでも言い訳できる。我ながらナイスアイデアだ。

しかし、死にかけたな。致命傷は避けたが、何発か被弾してしまった。『超回復』スキルのお陰で行動不能になることはなかったが、身体強化をもっと鍛えないといけないな。走り方も工夫したほうが良さそうだ。狙いにくいように不規則な動きで走ると良さそうだった。


こうして初陣から生還を果たしたが、我が国はどんどん形勢が悪化していき、後方への撤退を余儀なくされていった。俺は何度も戦場へ送られ、その度に死にかけながらも奇跡の生還を果たし続けた。



いつか終わりはくる。自国は降伏するはずだ。それだけを信じて生き延びた。だが、心身共にもう限界が近い。


『祖国のために。』そう言って飯が食えてるうちはまだ良かった。補給を断たれ、食糧はなくなった。武器と呼べるような物すらなくなった。奪うしかない。俺は敵の偵察部隊と思われる小隊を見つけて単独で挑んだ。まずは一人、静かに撲殺して武器を奪った。これが魔導銃か。使い方は何度も見たから大体分かる。隠れながら一人ずつ確実に仕留めていく。弾切れしたらこれまで戦場で磨き上げたオリジナル走法で銃撃を避け、距離を詰めて撲殺する。こうして携帯食料や物資を集めて何とか生きながらえた。


そして開戦から半年が経った。


既に本陣まで撤退して敵軍に包囲されており、投降するように呼びかけられている。

どうやら敵の別部隊が王都に進軍して王城まで攻め込んだらしい。王族は全員処刑されたようだ。良かった、これで戦争は終わったのだ。戦争捕虜として奴隷落ちかもしれないが、最後まで生き延びてやったぞ。


「国王様は最後まで戦われたのだ。我々も最後まで戦おうではないか!祖国の為に!」



希望とは打ち砕かれる為にあるのだろうか。ようやく光が見えたと思ったら・・・


総司令官のヒューゲル将軍が大剣を手に取り、最後の一頭の馬に跨った。残った他の連中も決死の表情で司令官の指示に従っている。全員死ぬ気のようだ。


俺も黙って従うしかないか。これが本当に最後の戦いだ。包囲網を突破してどこか遠くに逃げるんだ。俺はこの戦争を最初から最後まで生き延びたんだ。絶対に逃げ切ってやる。

周辺の地形は全て記憶している。俺一人だけなら逃げやすいルートがある。そのルートに入りさえすれば逃げ切れる自信がある。問題は敵の布陣だ。包囲の薄い箇所を突破して、何とか逃走ルートに入るのだ。


俺たち歩兵隊が駆け出して、最後の戦いの火蓋は切って落とされた。

最初に飛び出した連中は一斉掃射を受けて、あっという間に倒れていった。仲間の死体を乗り越えて、その後も決死の特攻は続く。俺は前の奴が倒れるのに合わせて一緒に倒れ込んだ。上手い具合に更に数人が折り重なって俺の上に倒れ込んできた。

チャンスだ!死んだふりをしている間に包囲網を抜けられそうな場所を探さねば。俺は死体の山の中から必死で目を凝らした。逃走ルートから遠すぎる所は駄目だ。できるだけ近くで抜けられそうな所は・・・、あそこだ。若い兵が集められたような場所がある。その中に馬に乗っている少年がいる。貴族の坊っちゃんの指揮官だろうか。その周りは強そうな武装の連中が固めているが、数は少ない。

やはり、場を混乱させるにはあの指揮官の少年を仕留めるのが良いだろう。以前、敵から奪った魔導銃を隠し持っているからこいつで狙撃するか。経験の浅い若い兵は、場を混乱させればすぐには状況判断ができないはずだ。その隙に一気に走り抜ける。


死体の中で密かに銃を構えて狙いを定め、チャンスが訪れるのを待つ。


どうやらヒューゲル将軍が敵陣まで辿り着いたようだ。雄叫びを上げながら獅子奮迅の戦いをしている。あの将軍、腕は確かなのだ。デイノア王国では随一の剣士と言われている。毎年、剣術大会で優勝しているんだとか。

身体強化もかなりの練度なはずなので、すぐにくたばりはしないだろう。できるだけ派手に注目を集めておいてくれると有り難い。


流石、ヒューゲル将軍。思ったより頑張っている。だが、そろそろ限界だな。

敵側の将軍だろうか。強そうな武人が出てきた。魔導銃ではなく、ハルバードを持っている。最後は一騎打ちのようだ。うちの将軍は疲弊していたこともあり、数合打ち合った後に腹を貫かれた。その瞬間にワッと歓声が上がる。次第に勝鬨は伝搬していき、包囲網全体が大きく勝利に沸いた。


チャンス到来だ!敵は全員浮かれている。今ならいける!


俺は狙いを定めていた少年指揮官に向けて発砲した。命中したのを確認し、死体の山から這い出て一気に走る。

運の良いことに、俺の撃った銃声は敵の勝鬨にかき消されたようだ。包囲網の中でパニックになっているのは、倒れた少年指揮官の周りだけだ。最前線の連中は走り出した俺に気付いたようだが、その程度のまばらな射撃では半年間弾幕を避け続けた俺に当たるはずもない。


ここでまたしても幸運が訪れる。

敵の勝鬨を割る程の凄まじい雄叫びが響いたのだ。どうやらヒューゲル将軍はまだ死んでいなかったようだ。その方向を見る余裕はないが、きっと鬼気迫る勢いで大剣を振り回しているに違いない。化け物だな。


ヒューゲル将軍が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。

若い兵の集団に向けて残った二発の弾を撃ち、銃を放り捨てた。更に投げナイフを投擲し、小剣を抜いて集団の中に滑り込んだ。集団の奥の方はまだ勝鬨に沸いているようだ。戦場が見えていないのだろう。どのみち集団の中では銃は撃てまい。俺は包囲網を一気に走り抜けた。

背後から銃撃を受けるが、俺の身体強化はこの半年間で練度が飛躍的に向上している。今では部分的に集中強化することもできる。背面の強化に集中させて銃弾を弾き続け、逃走ルートの川に飛び込んだ。


やってやったぜ!今度こそ俺は生き延びたんだ!



それから逃亡生活がしばらく続き、ルファール王国に滞在している時だった。帝国のブラックリストを入手する機会があった。包囲網を抜ける時にバッチリ目撃されているから、指名手配はされているだろうな、とは思っていた。ところが、その罪状が予想外のものだった。


「A級戦犯!?生き残ったとはいえ、ただの一兵卒なんでやすが。罪が重すぎやしませんかねえ。・・・罪状、エルトリア帝国第一王子殺害の罪?まさかあの時撃った若造が王子だったでやすか。」


何であんな所に王子がいたのか。絶対に負けのない初陣の場として参加していたのだろうか。何にせよ、殺してしまった事実は変わりない。もう少し遠い国に逃げた方が良さそうだ。更に隣のラフタリア王国まで逃げるか。


「確か帝国は王子が後二人いたはず。跡目争い、荒れそうでやすねえ。」


案の定、数年後には第二王子と第三王子の派閥が争いを始め、ミトラ大陸統一のための進軍は鈍化した。その間にルファール王国は軍備を整え、今尚国境を維持し続けている。

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そして現在。


手配書を片手に自分の波乱万丈の人生を振り返っていると、ボス御一行がやって来た。


「マルダシリ、昨日の戦勝会はご苦労だったな。」

「いえいえ、俺も美味い飯が食えたんで満足してやすぜ。」

「うむ。今後も働きに応じて食わせてやるぞ。それで今日は物件を紹介して欲しいのだ。隠れ住むのに丁度良い住居はないか?いつまでも宿暮らしではな。」

「住居ならボスにぴったりの物件がありやすぜ。ボスの部屋に資料を持っていきやしょう。」


持っていた手配書を苦い思い出と共にしまいこんで席を立つ。

『祖国の為に。』と言って仕事をしても、飯が食えないなんてのはもう御免だ。

今のファミリーの仕事は美味い飯を食わせてもらえる。今も昔も俺の働く理由は飯と安定した収入なのだ。


さて、今日も仕事を頑張るとしやすかね。

『ミュゼルファミリーの為に。』


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