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第27話 戦勝会

会場は強面のおっさんの割合が多く、パーティという雰囲気がしない。だが、マルダシリが言うにはマフィアの集会はこういうものらしい。

会場の現場監督、もとい宴会部長のマルセルが来場者の応対に追われている以外は、今のところ問題は発生していない。並べられた料理や酒、そして中央にそびえ立つチーズタワーはしっかりと注目を集めているので、新生ミュゼルファミリーが舐められている様子はなさそうだ。


「客の反応は良さそうだ。いよいよ出番だぞ。」


俺たちはは2階の小会議室で待機している。


「フンッ。面倒事はさっさと終わらせるぞ。早く酒を飲みたいからな。」


フルメイクして黒いパーティドレスに身を包んだエルメラが現れると、会場は静かになった。

今回の各組織の助力に対する礼と戦勝を祝う言葉を述べると、傘下の組の各ボスが呼ばれた。8人のボスが並ぶと、一人ずつ報酬のエルメラ製オリジナルモデルの魔導銃が授与された。この数日間ずっと引き籠もって作っていたやつだ。領主から受け取ったミスリル金貨も、派遣された戦闘員の人数割で配布された。


「あー、堅苦しい話はこれで終わりだ。今後も変わらない付き合いが続くことを願う。後は適当に飲んで食って騒いでくれ。」


エルメラは退出して2階の小会議室に戻った。この後はマルセルが乾杯の音頭をとることになっている。後はあいつに任せておけば良いだろう。マルダシリも上手くサポートしてくれるはずだ。


「仕事は終わりだ!酒だ!酒を持って来い!」


当然だがエルメラが騒がしく、むさ苦しい場所で酒を飲むはずがない。この会議室にいるのは俺とキャロちゃん、レインとラルフだ。


「で?何で冒険者のお前らがいるんだ?呼んだ覚えはないぞ?」


エルメラはスペードマークのボトルで有名なシャンパンを飲みながら顔を顰めた。


「戦勝会って聞いたから来たんだよ!そしたら何だよ、あの会場の物々しい雰囲気は!あんな所で飲めるわけないだろ!」

「裏の宴会はあんなものだぞ。文句言うなら帰れ。そもそもどこから聞きつけてきたんだ。」

「レーゼが親父に報告したようだぞ。で、それとなく様子を見てこいと言われたんだ。」

「そういえばお前は貴族の家の出身だと言っていたな。ここの領主の息子だったか。」

「ああ。随分前に家を出たから政務には一切関わってないがな。今回の作戦も金で雇われただけだ。」


折角来てもらったんだから何か出すか。冒険者と言えばアレだな。ビールとジャーマンポテトだ。何だまたジャーマンポテトか、と思うかもしれないが、今回作るのは料理のレシピ本を見ながら作る正統派なジャーマンポテトだ。

ふーむ、どうやら本場ドイツではジャーマンポテトのことをブラート・カルトッフェルンと呼ぶらしい。早速、レシピに従ってブラートカルツf・・・ジャーマンポテトを作っていこう。


「今日は我々の監視が目的か?」

「はっきりとは言われていない。暴動が起きたりしないか見張っておけ、といったところだと思っている。」

「友好的な組織同士の会合はそんなに問題が起きることはないがな。敵対組織が混じると腕の一本や二本は普通に飛ぶが。」

「裏の事情に詳しいんだな。」

「裏の連中とは学生時代から付き合いがあるからな。魔導銃の販売をしていたから、ゲストとして招かれることが何度かあったのだ。」

「・・・バイオレンスな学生時代を過ごしたんだな。ちょっと想像できないな。」

「それに会場を見たなら分かるだろう?華がないのだ。私がゲストとして招かれることが多かったのは、その辺りの狙いもあったと思うぞ。私は学生時代はモテていたからな。」

「あんた、会う度に容姿も名前もキャラも変わるよな。」


エルメラは酒が入ったせいか、残念な人になってきた。折角フルメイクしたのに美人が台無しだ。このままではボスの威厳が損なわれてしまう。助けなければ。

俺は会話を遮るように、出来上がったブラートカルトフッr・・・ジャーマンポテトとビールを冒険者組に差し出した。キャロちゃんにはハンバーグドリアだ。

前回と同じ料理を出したことには特に何も言われなかった。オードブルを摘みながらジャーマンポテトを貪っている。やはり冒険者の主食はジャーマンポテトで間違いなかったようだな。


「うむ。美味い。前回は酒が飲めなかったのが残念だったのだ。そのごついボトルはワインか?それももらっても良いか?」

「駄目だ。これは貴重品なのだ。冒険者風情が私と同じ酒を飲めると思うな。アキラ、下の連中に出したのと同じ物を出してやれ。」

「おおう。辛辣なお言葉。俺らそこそこ出世したつもりだったけど、マフィアのボスには敵いませんなあ。」


見るからに高級そうな酒が断られてラルフは残念そうだ。反面、レインは楽しそうだ。キャロちゃんがオードブルに手を伸ばしている隙きに、ハンバーグドリアをこっそり食べようとして阻止されたりしている。先見スキルでハンバーグドリアが奪われる未来が見えたのかもしれない。いい動きだった。


「嬢ちゃん、なかなかやるなあ。訓練もサボってないみたいだな。」

「ん。ハンバーグは渡さない。」


キャロちゃんはフンスッと鼻息荒くスプーンを構えている。そのスプーンにレインはテーブルナイフをゆっくりと近づけてコツンと当てた。すると、スプーンは切断されてポトリと落ちた。


「身体強化を極めた先は、物を強化することもできるようになる。魔力を練る鍛錬は続けるんだぞ。」


キャロちゃんが柄だけになったスプーンを呆気にとられて見ている隙きに、レインはハンバーグを奪って口に運んでいた。やれやれ、大人げない奴だ。これも魔力操作の指導の一環か。

キャロちゃんが癇癪を起こしてレインに掴みかかるのを何とか宥めて、代わりのハンバーグを準備してあげた。解凍しておいたフルーツロールケーキも出してやると機嫌は良くなったようだ。俺の膝の上に移動してきてロールケーキを守るようにして食べていた。


エルメラとラルフの元貴族組も何だかんだで酒の席を楽しんでいるようだ。俺はみんなの世話をするので忙しい。特にエルメラの世話が。今日からワインクーラーを使っているのだが、温度にまで文句を言うようになった。


「そうだ、言い忘れていた。バルテラ王国の地下実験の件は親父に報告させてもらったぞ。その過程であんたらのことも少し話した。ラフタリア王国側でも周知されるはずだ。」

「ああ、お前らはその為にこの街に帰って来たのか。だが、状況は何も変わらないだろう。あの腐った国が禁忌の道を閉ざすことはない。」

「それは分かっている。流石に他国に干渉はできないだろうからな。しかし、隣国の動きをより一層警戒するようにはなる。せめてこちらの国には被害が及ばないように計らうだろうさ。」


冒険者組は酒と飯を堪能すると、満足した様子で帰っていった。


入れ替わるように傘下のボス8人が一人ずつ部屋を訪ねてきて、改めてエルメラに挨拶と礼を言っていた。


「あんたはワインが好みなのか。会場のワインは飲ませてもらったが、白の方は特に新感覚だった。うちのシマでもワインは力を入れて扱っているが、あんな商品はない。」

「ほう。ワインの産地とパイプがあるのか?」

「ああ、ワイン男爵の所を・・・ってこの国の人間じゃないから知らねえか。シュトロハイム男爵っていうワインで成り上がった貴族がいるんだ。男爵自身も相当なワイン好きで、私財を投げ売ってワイン生産に心血を注いだ話が有名でな。それで付いた渾名がワイン男爵。」

「ほう。興味深いな。その領地はこの近辺か?」

「ああ。近いからワイン生産に興味があるなら行ってみると面白いと思う。件の男爵はルーテラスタ辺境伯の寄子だから、あんたなら辺境伯にちょっと圧力かければ紹介状くらい書いてもらえるだろ?」


最後の組のボスが退出していった。どうやら今の組がマルダシリが言っていた食糧事情に強い組のようだ。


階下からは歓声が聞こえる。マルセルが上手く会場を盛り上げてくれているのだろう。何かあったら連絡が来る手筈になっているが、何もないから放って置いても大丈夫ということだ。銃声が聞こえない限り問題はないはずだ。


「やっと静かに飲めるな。」

「まだ飲むのか。程々にしておけよ。」

「宿に戻るのは面倒だ。今日はここで寝るぞ。」

「じゃあ、先に化粧を落としておこう。お湯沸かすから待ってろ。」


エルメラの世話をしてコットを準備する。このコットは何だかんだで役に立つな。もう使うことはないと思っていたのだが。

キャロちゃんはもう寝るかな・・・どうやら、集中して魔力を練っているようだ。レインにハンバーグを奪われたのがそんなに悔しかったのだろうか。


「アキラ、明日は家を買いに行くぞー。」

「やっと落ち着いて暮らせるんだな。」

「ああ。先延ばしになってしまったが、アキラのメンテナンスや改良も設備が整い次第行おう。」

「そういえばそんな話もあったな。でもそれは後回しでいいぞ。それよりキャロちゃんの教育を優先してくれ。」

「うむ。だが、最優先はミュゼルファミリーの武装を整えることなのだ。その間に読み書き計算をキャロに教えておいて欲しい。」

「分かった。それくらいなら俺でもできるな。」

「ファミリーの経営が安定したら、私が錬金術の基礎、格闘術、銃の扱いなんかを指導しよう。その後は冒険者ギルドの見習い養成コースに放り込んで、社会勉強させる。」

「ん?商業ギルドじゃないのか?」

「確かに身分証は商業ギルドで発行したが、学びの場も仕事先も基本自由に選べるのだ。子供が通う養成所は絶対に冒険者ギルドの方が学ぶことが多い。」

「うーん、でも危なくないか?冒険者って荒っぽい奴もいるだろ?ほら、国境越える時に会った若い冒険者みたいな奴とか。」

「日常的にマフィアに囲まれてるんだから今更だろ。」

「そう、それだよ。キャロちゃんが変な言葉を覚えるんだよ。やっぱり教育環境を考えないと・・・」

「おーい、キャロ。お前はどうしたい?」


キャロちゃんから返事はなかった。どうやら魔力を練ったまま寝ているようだ。


「器用なことをする奴だ。将来大物になるんじゃないか?」

「ならなくていいよ。キャロちゃんは俺と一緒にフレンチトースト屋さんになるんだから。」


階下の喧騒も少し落ち着いてきた。宴もたけなわといったところか。

こうして、キャロちゃんの教育方針について語り合って夜は更けていった。


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