第26話 戦勝会準備
「当日用意する飲食物だが、こんな物を予定している。」
俺が昨夜購入した商品は主にこんな感じだ。
パーティ用洋風オードブル2段セット4~6人前(冷凍品):お値段13800魔力×50セット
ローストビーフ25個セット(冷凍品):お値段26990魔力×2セット
鶏の炭火たたき300g(冷凍品):お値段1200魔力×80個(10個買うごとに4個オマケで付いてくる!)
お徳用レトルトビーフシチュー200g×50パック入:お値段17000魔力×6ケース
オランダ産ゴーダチーズ11kgお値段20790魔力×10個
250人分となると温めるだけでも作業は大変だ。そういう商品はできるだけ避けることにした。今回選んだ冷凍品の商品は温めなくても解凍するだけで食べれる物だ。しかし、それなりに寒い時期なので、温かい料理も一品いれるかと選んだのがレトルトビーフシチューだ。炊き出し用のでかい鍋も10個買ったので、これで湯煎にかけて出そうと考えている。合わせてバゲットも出すが、これは以前まとめて大量に購入していたものがあるので今回は購入していない。
ホールで買ったチーズは完全にネタだ。部屋の中央に積み上げてチーズタワーを作っておくつもりだ。特に深い意味はない。宴会はこういうよく分からないものがあると盛り上がるものだ。
クククッ、あいつらがこのチーズタワーを前にして動揺する様が目に浮かぶぜ。
酒はマフィアへの手土産でいつもお世話になっている、おっさんの顔のラベルで有名なモルトウイスキーだ。今回はこれを業務用サイズで購入した。4リットル4本セットでお値段13880魔力。10セット購入した。流石にこれだけあれば足りるだろう。
あとは割って飲むためのミネラルウォーターとストレートティーのボトルを置いておけば準備OKだ。
各商品をマジックバッグから1つずつ取り出して、マルダシリに見てもらって説明をする。これは購入してすぐ『受け取り』をしたので、冷凍品はほぼ解凍された状態になっている。もう少し時間を置けば食べれる状態になっているだろう。購入した数量も伝えて意見を伺ってみた。
「随分と洒落た料理でやすね。でも見た目華やかなのは悪くないでやす。ただ、この数量では全然足りやせん。」
「足りないってことはないだろう。250人分になるように計算して購入したぞ。これに更にバーベキューまですると、絶対に食いきれないぞ?」
「食いきれない量を準備しないといけないでやす。今回のはただの戦勝会ではありやせん。新たに生まれ変わったミュゼルファミリーの力を見せつける場になりやす。うちはたった数日でこれだけの物を準備できるんだぞ、と力を誇示しなければならないでやす。少なくとも参加者はそういう目で見やすぜ?」
「そういうものなのか。他所の組との親睦会じゃなかったのか。」
「考えてもみてくだせえ。確かにボスは認められやした。しかし、幹部全員失って組織力は低下しているのでは?そう疑われているのは間違いありやせん。」
「確かにその通りだな。この戦勝会で組織力を疑われるのはまずいな。折角エルメラが体を張ってまとめたのが水の泡になる。」
「ついでに言うと、参加者はおそらく300人は楽に超えると予想してやす。各組織が運営する商会なんかの長には声が掛かりやす。家族や知り合いを連れてくる奴とかも絶対にいやす。こちらは力を誇示する必要があるんで、そういった関係のない輩を追い返すことはできやせん。ケチくさいことをするのはマイナス評価になりやすんで。」
「懐の深さも見せる必要があるわけか。思ってた以上に重たいミッションだったんだな。分かった、俺も尽力しよう。数は倍量にするか。バーベキュー用の具材も大量に用意しておく。」
「お願いしやす。野菜の皮むきとか鍋を火にかけたりは部下にやらせやす。何かこっちで準備するものがあれば用意させやしょう。」
「そうだな。巨大な冷蔵の魔道具とかあるか?このオードブル、本来は冷蔵庫で24時間掛けて解凍しろって書いてあるんだ。」
「流石にこれを100セットも入るほどは・・・。そうだ、臨時で魔法師を雇いやす。この会議室を氷室にしてもらいやしょう。」
「それは良いアイデアだ。会場から近い方がいいからな。それと大至急、魔石を用意してくれ。もう手持ちがないんだ。商品を買い足す前に、俺が停止しそうでな。残高10万魔力を切ったから、3日後に停止するんだ。」
「それを先に言ってくだせえ!魔石だってまとまった量を確保するのは大変なんでやすよ!」
マルダシリが走って会議室を出ていった。
確かにもっと早く言っておくべきだったな。領主が採掘場をくれることになったが、履行されるのはもう少し先になるだろうしな。魔石を取り込むまですることがなくなってしまった。
「アキラ、アキラ。」
キャロちゃんが俺の服の裾を引っ張って呼んでいる。
「ん?どうしたの?お腹へった?」
「働いてる下々の者に感謝の意を示さねばならない。」
会場準備をしている事務職の人達を指さして、何だか変なことを言い出した。
ああ、遂にエルメラのセリフまで真似し始めたのか。先日、戦勝会の説明をしていた時にそんなことを言っていたな。キャロちゃんの教育方針について、エルメラと改めて話し合う必要があるかもしれない。
だが、確かに事務職の人達には宴会当日も頑張ってもらわねばならないし、労を労うとしようか。
「お昼ごはんを作ってあげようか。何がいいかな。」
「ふれんちとーすと。キャロが作る。」
「うん、任せるよ。俺はクリームシチューでも作ろうかな。」
折角大きな鍋を買ったからね。レトルトビーフシチューの湯煎に使うだけでは勿体ない。
サンプルで持ってきた宴会メニューもいい感じで解凍できている。これも食べてもらって、ついでに宴会当日の説明もしておこう。
キャロちゃんがフレンチトーストを焼き始めた。バターの香りが漂い始めると、会場準備をしていた人達が集まってきた。
「うひょー、いい匂い。嬢ちゃんはもう料理ができるんだな。」
「お嬢の手料理が食えるのは役得だな。後で他の部署の連中に自慢できるぜ。」
「ん。並んで待つ。」
キャロちゃんは既にミュゼルファミリーのアイドルだ。小さいボスだと思ってる構成員もいる。いつも本部に出勤する時にボスとペアルックの服を着ているからだ。
顔の怖いおっさんに囲まれてもキャロちゃんが臆することはない。俺を含めて日常的に周囲に不審者が多いから、見た目は気にしないのだろう。彼女の指示に従って、強面のおっさん達は律儀に並んで待っている。シチューはもうできているのだが、俺の前には誰も並ばない。
みんな、キャロちゃんから受け取りたいのだろう。気持ちは分からなくもないので、シチューの給仕もキャロちゃんに任せることにした。
全員分の給仕が終わると、やり切った顔でキャロちゃんも俺の膝の上に座って食事を食べ始めた。
みんな美味い美味いと嬉しそうに食べている。
そりゃ美味いに決まってるだろう、キャロちゃんが作ったんだから。文句を言う奴がいたらぶん殴ってやる。
そしてマルダシリが帰ってきた。昼食中のみんなを見て悲しそうな顔をしている。
キャロちゃんはマルダシリの分を作る気はないようで、食べることに集中している。
下々の者に感謝の意を示すんじゃなかったのか。一番働いてるのは多分こいつなんだが。
キャロちゃんはハッとした様子で顔を上げた。
「イチゴのせてなかった。」
みんなの席を回ってイチゴをのせていく。やっぱりマルダシリの分はなさそうだ。会場にいなかったから働いてる奴として認定されていないのかもしれない。
流石に気の毒なので、余っていたシチューとバゲットを食べてもらった。フレンチトーストは漂うバターの香りだけで我慢してくれ。強く生きろ、マルダシリ。
用意された魔石を取り込んでからは、急ピッチで準備は進められた。
そして、いよいよ戦勝会当日がやってきた。
夕方が近づいてきたので、臨時の冷蔵室に保管してある料理を会場に並べ始める。
やはり、色鮮やかなオードブルが並ぶとパーティっぽい雰囲気になる。マリネやラタトゥイユなど全18品からなる2段式の大きなオードブルだ。ピンチョスとかエスカベッシュとか、よく分からん名前の料理も入ってる。よく見るとフルーツの盛り合わせやパウンドケーキなどの甘味も入っているようだ。
うーむ、このお洒落なオードブルを強面の連中が囲む姿が想像できないな。
ローストビーフと鶏のたたきは、半解凍のシャリシャリした状態の時に切ると切りやすいことが分かったので、既に切り分けられて綺麗に皿に盛られている。
会場ではキャロちゃんが紙コップと紙皿を配置してくれている。テラスでもバーベキューコンロの炭に火を入れ始めているようだ。全て段取り通り準備が進められている。
今回の戦勝会につぎ込んだ魔力は300万を楽に超える。だが、これは必要経費だ。いつかのように無駄な宝石類を買ったわけでもないし、準備が整った会場を見渡すと達成感すらある。
俺の仕事は終わった。後はトラブルが起きないことを祈るだけだ。
「準備は万端だな。」
「傘下に農村とパイプを持つ食料事情に強い組もありやすが、流石にこれだけの準備をできる組は絶対にいやせん。」
「これが上手くいってミュゼルファミリーの噂がいい感じで広まってくれれば・・・」
「今後の敵対組織の取り込みもスムーズにいくかもしれやせんね。」
俺とマルダシリは会場と人員配置の最終チェックを行い、二人で勝利を確信していた。
そして我らがボス、エルメラ様も遅れて到着された。俺とマルダシリは自信満々で、準備万端の会場をボスに見てもらった。エルメラは並べられた料理を見て眉間にシワを寄せた。
「この料理の内容に合わせるのがウイスキーだけなのか?安物でいいからスパークリングワインとフルボディの赤は準備しろ。」
完璧だと思われた準備は一蹴されてしまった。俺は『お急ぎ便』で追加注文する羽目になった。痛い出費だ。




