第25話 戦後処理
「傘下の組も含めてうちは死者はなしか。悪くない戦果だ。」
「後始末は軍の連中に任せやしょう。」
エルメラがマルダシリから報告を受けている。
あの後、倉庫に突入した部隊によって敵のボスは確保された。最後まで往生際が悪く、逃げようとしていたようだ。ミュゼルファミリーの元ボスのように自爆するような奴じゃなくて良かった。
「マルダシリ、今回の作戦の参加者250人を収容できそうな場所はあるか?」
「滅多に使わない多目的施設がありやす。一階がワンフロア丸ごと大部屋になってやす。広いテラスもあるんで、そっちも開放すれば収容できるかと。戦勝会でもやるんですかい?」
「ああ。傘下のボスには報酬を提示したが、末端の参加者に何もなしというわけにもいくまい。アキラと協力して宴会の準備をしてくれ。日程などの細かい計画も含めて任せる。」
コンコンコンッ。
ノックの後、部屋に入ってきたのは第二の幹部マルセルだ。
「ボス、客が来たぞ。」
客はレーゼだった。
「やっと来たか。さっさと報酬を寄越せ。」
「改めて、ルーテラスタ家に仕える暗部部隊の部隊長のレーゼだ。まずは今回の鎮圧戦の協力に感謝する。」
「領主の尻拭いをするのはこれで最初で最後だぞ。」
「まあそう言わずに、今後も友好的に付き合うことはできないだろうか?新たに追加の依頼をしたいのだが。」
「まだ何かあるのか?」
「貴女は裏社会において、ある種のカリスマ性を持っておいでのようだ。その力でこの街全体のマフィアの纏め役を依頼したい。」
「あんたがすればいいだろう?元より、領主側で裏の実権を掌握することが目的だったのではないのか?」
「当初はその予定だった。しかし、想定していた以上にマフィアの持つ力や影響力、そして何より規模が大き過ぎた。うちの部隊で管理するには人手が足りなさ過ぎる。フィッツヴァルツの後処理で手一杯だ。」
「暗部を使って統治するつもりだったのか。」
「ああ、鎮圧後の統治は私に一任されていた。しかし、先程述べた理由により、私より貴女の方が適任であると判断した。」
「マフィアの頭をすげ替えただけではないか。」
「正直なところ、マフィアがどこまで潜んでいるのか、完全に掴みきれないのだ。私ではおそらく、残党や規模の小さな組まで取り締まることはできない。ずっと小競り合いや反乱が続くことになるだろう。それならば取り締まるよりも、有能なリーダーを据えて統制をした方がいい。・・・そうするしかないと判断した。」
「領主は納得しているのか?」
「現状を報告の上、承諾済みだ。」
「報酬のことを含めて、直接領主と話したい。」
「分かった。伝えよう。場所はどうする?」
「おい、マルダシリ。領主との会談に良い場所はないか?」
「それならビアチェス商会の会議室を用意させやしょう。領主が訪れても不自然ではないはずでさあ。」
「よし、そこだ。領主に伝えてくれ。時間はそっちの都合に合わせよう。」
マルダシリは有能だな。会談のセッティングもできるのか。
領主との会談は翌日に行われることになった。随分早い対応だ。過激派の下位組織の扱いに余程困っているのか。
指定された時刻に会談の場に向かうと、領主の方が先に到着していた。
「領主のウォルター=ルーテラスタだ。この度の助力感謝する。」
領主が席を立ち、挨拶をしてきた。エルメラはそれを無視して大股開きでドカッと椅子に座り、お気に入りのサングラスを外した。
今日のエルメラは威圧感がいつもより増している。アイシャドウ濃いめのメイクで目力が強くなっているのだ。普段はメイクに興味を示さないエルメラが珍しく注文をつけてきたと思ったら、領主を威圧するためだったようだ。
威圧感を高めるために俺が後ろに立ち、異国の剣士コンビのバンドーとイナムラが横に立つ。こいつらはうちの組の者ではないが、今日のためにわざわざ借りてきた。うちの幹部は風格が足りないのだ。特にマルダシリは有能なのだが、漂う小物臭が拭えず、どう見ても幹部には見えない。
ちなみに傘下の組の者を呼んだのは、領主との交渉の場を見せるという目的もあるらしい。後で他の組の者にも伝えてもらうのだとか。
「追加で仕事の依頼があると聞いた。まだ先日の報酬も貰っていないのだが?」
我らがボス、エルメラは大層機嫌が悪いようだ。前屈みになってガンを飛ばしながら貧乏揺すりしている。
挨拶を無視された領主は若干戸惑った様子を見せたが、表情には出さず椅子に座り直した。きっと、レーゼから受けていた報告とエルメラの印象が大きく違ったのだろう。街が荒れることを嫌い、領主へ協力的な姿勢を見せている友好的な人物、そんな感じで報告を受けていたはずだ。だが、目の前にいるのはどうみても態度の悪いチンピラだ。
「う、うむ。報酬は用意している。ミスリル金貨で300枚用意した。これとは別にかかった経費は請求してくれ。」
「300か・・・。まあ、妥当なところか。それで?次は街の北側の組もまとめろと?」
「ああ、街の秩序を保つために協力してほしい。どこに潜んでいるのか実態が把握できず、我々では接触をとることすらできない組もあるようなのだ。」
「で、報酬は?難易度の高い依頼だ。相応の報酬を要求する。敵対組織までまとめるとなると、穏健派を立て直すより更に難しくなるだろう。それと時間はかかるぞ。」
「貴女は祖国に追われている身だと聞いている。身柄の要求など、バルテラ王国からの干渉があれば庇護しよう。」
「弱いな。国から引き渡すように指示があれば、辺境伯とて庇護できまい。それにマフィアの実権が握れるなら、各地で偽情報を流して追手を撹乱させることくらい自力で出来る。」
「では何を要求する?欲しい物があるなら用意しよう。」
「税の永久免除。私が支配下においた組織全てだ。それと魔石の採掘場の権利を半分寄越せ。」
「それは・・・無理だ。マフィアの占める割合は大き過ぎる。魔石も流通量を操作しなければ、市場価格が不安定になる。」
すごい無茶振りするなあ。この領主もマフィアの規模を知ったから、その影響の大きさが分かるのだろう。
「交渉は決裂だな。頑張って残党を取り締まってくれ。私も反乱しようかな。」
「待ってくれ!期限付きでならどうだ?2年間、税を免除する。魔石の採掘場は1箇所だけなら譲ろう。」
「この広い街の裏の統治だぞ?初期投資がいくらかかると思ってるんだ。2年分じゃ割に合わん。」
「ぐっ・・・!3年分だ。これ以上は無理だ。」
「仕方がない。それでいい。3年分の税免除と採掘場一つ、それと私の庇護。それで引き受けよう。」
ちゃっかり庇護も要求するのか。さっき必要ないみたいなこと言ってたのに。
エルメラはすっかりマフィアのボスの風格が板についているな。領主もかなり威厳のある人物なのだが、今回の失策で立場が弱くなってしまっている。
会談後はレーゼの機嫌が良いようだった。マフィアの統治という面倒な仕事から開放されたからだろう。
「やはり私の目に狂いはなかった。領主様をあそこまで追い詰めるとは。貴女ならきっとこの街のマフィアを制御できる。」
「それは褒めてるのか?」
「ああ、勿論褒めているとも。ところで、マフィアの情報を時々売って欲しいのだが、利用させてもらっても良いか?」
「勝手にしろ。金を払うなら連中は客として見てくれるぞ。そうだな、おい、マルダシリ。暗部の者の対応はお前がやれ。」
「えっ?俺ですかい?」
「ああ、上客だ。多少は値を引いてやれ。あの領主の頭が禿げそうだからな。」
「へ、へい。分かりやした。」
「それは有り難い。今度うちの部下を紹介しよう。よろしく頼むぞ、マルダシリ。」
会談が終わるとエルメラは魔導銃の製作のため、本部の作業部屋に引き籠もることになった。
後日、俺とキャロちゃんは宴会場となる多目的施設に来た。3日後の日暮れ前にマフィアがここに集結する予定だ。会場では既にマルダシリが部下の事務職の連中に指示を出して準備を進めていた。
「随分張り切ってるじゃないか、マルダシリ。飲食物のサンプルを持ってきたぞ。」
「旦那、待ってやしたぜ。失敗したら死活問題になるんで、全力を尽くしやす。ただ、時間がないんで人数分、数を揃えられるかどうか。」
「何が足りないんだ?」
「椅子もテーブルも足りやせん。足りない分は本部から運ぼうかと思ってやすが。本当はテラスにバーベキューコンロも並べたかったんでやすが、これも数を揃えられそうにないんで諦めやした。」
「明日、俺が準備しよう。足りない数をまとめて後で報告してくれ。バーベキューコンロも必要なら用意しよう。宴会後はそのまま組に寄付してやる。」
「持ってるんで?どんな容量のマジックバッグを持ってるんでやすか・・・。ボスはマジックバッグを作る腕もすごいんでやすね。」
「それについてお前に説明をしておく。どこか人目のない場所はあるか?」
「二階が小会議室になってやすぜ。」
マルダシリには俺が異世界の転生者であることと、スキルの説明をしておくことにした。こいつは今後も組織の中枢を担う人物だ。知っておいてもらわないと色々と不都合だ。
俺のスキルの説明を聞いたマルダシリは何やら難しい顔をしている。
「これはヤバいスキルでやすね。絶対に知られちゃまずい。特に軍の連中には。」
「戦争に利用されるか。」
「まず間違いなく。これまでスキルで得た物品を販売したことはありやすか?」
「王都の商会とギルド、道中のマフィアに少し。後は個人取引が数回くらいかな。だが、何れもマジックバッグに収まる程度の量だから、不審には思われていないと思う。」
「今後はうちの組織を通しての販売のみにしてくだせえ。何とか出処を隠蔽しやす。」
「ああ、分かった。頼りにしているぞ。」
こいつが隠蔽してくれるのは頼もしいな。
さて、いよいよ俺が準備したパーティー用メニューのお披露目だ。マルダシリから合格はもらえるだろうか。




