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第23話 通過儀礼

エルメラは壁際の拘束されている人たちの前に移動した。


「ここのボスは優秀な者だったようだな。犯罪の証拠品と一緒に自爆して、結果的にミュゼルファミリーを守ったわけだ。この中に幹部の者はいるか?」

「幹部ならボスの集合住宅に一緒に住んでたから全員吹き飛んだぞ。」


レーゼと名乗った褐色エルフの女から答えは返ってきた。


「・・・組織に詳しい者はもういないのか?ここは本部なのだろう?こいつら全員下っ端なのか?」

「全員、事務職の構成員のようだぞ。幹部ではないようだが、このマルダシリという男が一番組織を把握していそうなんだ。」

「そうか。おい、マルダシリ。今すぐ傘下組織のボスを全員ここに集めろ。エルメラ製オリジナルモデルのミュスカを一人一挺ずつ作ってやるから、しばらく指示に従えと伝えろ。遅れた奴は作ってやらないとも言っておけ。」

「へ、へい。あの、部下たちを解放してもらってもいいですかい?足に使いたいんで。」


拘束されていた人達が開放され、マルダシリの指示に従って走り出した。


「ミュスカとは何だ?」

「私の作る魔導銃の銘だ。一点物のオリジナルモデルとなると、これまでマフィアのボスで欲しがらなかった奴はいない。素材の費用は後で領主に請求するからな。」

「必要経費は勿論構わない。報酬とは別に用意させよう。ただ、常識の範囲で頼むぞ。」

「さて、ボスが集結するまでの間に情報が欲しい。領主は他の組織も襲撃したと聞いているが、そっちはどうなっている?」

「フィッツヴァルツとは現在も交戦中だ。ボス宅の襲撃で取り逃がしたらしい。ただ、そっちは自宅から押収された品があるから大義名分は立つ。」

「戦況は?勝てそうか?」

「倉庫街に追い詰めることはできたが、激しく抵抗されている。傘下の組織もどんどん集まってきていて攻め切れずにいるようだ。ミュゼルファミリーのボス襲撃に当たっていた部隊にも攻撃を仕掛けてきていて、合流できずに足止めを食らっている。」

「市街地戦はマフィアの方が上手だな。地の利もありそうだ。ミュゼルファミリーの戦力が加わったとして、フィッツヴァルツを壊滅させることは可能か?こちらとしても過激派の連中をのさばらせておきたくない。」

「軍は敵を逃さないように包囲していて、攻め手に欠けているといった状況だな。攻め手に加わってくれるなら一気に戦況はひっくり返るだろうな。」

「分かった。何とかしよう。アキラ、武装しておけ。私の側に立っていろ。だが、手は出すなよ。」

「キャロちゃんはどうする?別室に待っていてもらった方が良くないか?」

「いや、キャロも同席させる。少し見せておきたい。」


エルメラも武装を整え始めた。小型魔導銃ミュスカ四挺を準備している。いつものように隠し持つのではなく、見えるように体に身に着けている。対人専用の本気のフル武装のようだ。最後にサングラスを掛けて一番質の良さそうな椅子に座った。


「おい、マルセル、マルダシリ。お前たちは今から幹部だ。私の隣に立っておけ。」

「お、おう。何か雰囲気が変わったな。」

「俺が幹部ですかい?いきなり現れて何のつもりd・・痛ぁい!」


スパァンッ!と良い音が響き、マルダシリのケツが蹴られた。


「何か文句があるのか?お前も事務職なら今の状況を理解しているだろう?このままだと過激派連中が街を支配するのは目に見えているぞ。領主が馬鹿なことをしなければこんな事態にはならなかったが。」

「うぅ・・・、分かりましたよ。従いますよ。だからケツは蹴らないで。」


確かに今の状況はこの街にとって良くない状況だろう。二大組織が争うことで、ある意味では均衡が保たれていた。しかし、領主の介入で均衡は崩れた。穏健派のミュゼルファミリーは力を失い、傘下の統制も執れていない有様だ。今戦っている領軍が退けば、過激派は勢いを増して元穏健派一派を駆逐するか、取り込むかするだろう。

迅速に元穏健派を立て直す必要がある。そして、領軍に加勢して過激派の主組織を壊滅させることができれば、街は平和になり、領主に恩を売れる形にもなる。ついでにエルメラはこの街で一気にのし上がることもできる。



いよいよ、傘下の組のボスが到着したようだ。


最初に入ってきたのは3人組だった。2人は用心棒だろう。この国の人間ではなさそうだ。異国風の男で、小太刀らしきものと小型の魔導銃が武装のようだ。


「うーむ。思ったより強そうな奴が来たな。マフィアに個の能力が高い者がいるとはな。」

「あれは穏健派の中では一番武闘派の組でやす。用心棒の二人はバンドーとイナムラという者で、剣術は中々の腕前でやす。元々、剣士なんで銃の扱いは大したことはねえです。」


ひそひそとエルメラとマルダシリが会話している。

多分、エルメラは実力を示すことで穏健派をまとめ上げようと考えているのだろう。だが、あれの相手は俺がした方が良い気がする。しかし、手は出すなと言われてるしな。


続々と傘下のボスが用心棒を連れて集まってきた。


「8組揃いやした。これで全部でやす。」

「うむ。集まってもらって早速だが、優秀な諸君らは既にこの街の状況を把握していることと思う。伝えた通り私の作った銃が欲しい者は、この状況を打破するために私の指示に従ってもらう。しかしながら、余所者の私が首を突っ込むことに文句を言いたい奴もいるだろう。前に出ろ。」


最初の異国風の男のうちの一人とガタイのいい男3人が少し前に出て、残りの連中は壁際に移動した。


「キャロ、スキルを使ってよく見ておけ。」


エルメラが小声でキャロちゃんに声を掛けた。


まず、ガタイのいい男3人がガンを飛ばしながら近づいてくる。


「気に入らねえな。ミュゼルファミリーはもう終わりだろ。あんたは都合よくボスの椅子に座れた気になってるみてえだが、うちは認めねえ。」

「銃作るのがあんたの仕事なんだろ?出しゃばってんじゃねえよ。悪いが腕の一本くらいもらうぜ?」

「分かった。お前も腕の一本は覚悟してもらおう。」


エルメラは椅子から立ち上がると同時に発砲した。いつ銃を抜いたのか、一瞬の早撃ちだった。男の一人は宣言通り、腕を撃たれたようだ。残りの二人が銃を抜いた時には既にエルメラは間合いを詰めており、相手の銃を払い除けるとミュスカで顎を殴りつけていた。もう一人も知らないうちに撃たれていた。両手に銃が握られているから、もう片方の銃で撃ったのか。3人が倒れるまであっという間だった。


残ったのは異国風の男が一人。小太刀を手に間合いを詰めてくる。エルメラは避けるどころか、相手の間合いに飛び込んで、相手の小太刀を持った手を受け止めていた。先回りして動いているような動きだ。そのままピッタリ間合いを詰めたまま攻撃を捌き、男が反対の手で銃を抜こうとした隙きにミュスカで顔面を殴って決着した。

銃口を眉間に突きつけられ、男は降参した様子で両手を挙げている。外野からは口笛が聞こえる。


「他に文句がある奴はいるか?そこのお前はいいのか?」


異国風のもう一人の男に話を振っている。


「いや、俺は文句はない。認めよう。」

「そうか?武器を取りに戻るまで待ってやるぞ?それは主装備じゃないだろう?」

「構わない。話を進めてくれ。」

「そうか。では、各ボスに用意する報酬のミュスカだが、これは後払いになる。各々の希望を聞かないといけないからな。命中精度重視、射速重視等、後日希望を伺って製作する。希望者はキャメロンでもいいぞ。ここまで何か質問がある奴はいるか?・・・いないな?それでは、最初の仕事の説明をする。今夜、フィッツヴァルツが立て籠もっている倉庫を襲撃する。各々、準備してここに集まれ。以上、解散。」


「えっ?今夜?」という声も聞こえていたけど、時間がない状況であるのを理解しているためか、集まっていた傘下組織は急いで退出していった。


「マルセル!ミュゼルファミリーの戦闘員も全員用意させろ。」

「あ、ああ。了解した。」


マルセルはまだ動揺しているようだ。エルメラがここまで戦えるとは思っていなかったのだろう。俺もとても驚いている。あんな無茶な戦い方をするエルメラは初めて見た。俺も無茶な戦い方はしてきたが、それは頑丈な体があってこそだ。魔力で身体強化したからと言って、生身の人間がする戦い方ではない気がする。


「あそこまでする必要があったのか?」

「マフィアの人間はああいった儀礼的な慣習を重んじる傾向があるのだ。やった方が印象が良くなる。今回の作戦後も友好的に付き合うためにもな。」

「エルメラ、かっこよかった。」

「キャロならもっと上を目指せるぞ。スキルの使い方は何となく分かっただろう?」

「ん。」


うーん、自衛のためとはいえ、キャロちゃんにあんな戦い方を教えて欲しくないのだが。


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