第22話 マフィアの扱い
エルメラ一行が領都ルーテラスに到着する10日程前。
冒険者レインとラルフは先に到着していた。
「久しぶりの故郷だな。」
「また街が広がってるな。結局、外壁の建設は諦めたみたいだな。」
「もう完全な統治は無理だろう。親父と兄貴は気の毒なことだ。俺は家を出て正解だった。」
ラフタリア王国が隣国のルファール王国と国交を結び、関税が緩和された。更には両国が出資のもと、新しく大規模な交易街道が建設されることになった。元々、国境を守る防衛都市だった領都ルーテラスが、交易都市に変貌するのには時間はかからなかった。
どちらかといえば武門の家柄だったルーテラスタ辺境伯家だが、決して統治能力が低いわけではない。状況の変化に合わせて街を変えるべく、即座に動いた。しかし、状況の変化は予想を遥かに超える速度だった。まず、交易街道を建設するために大量の人が流れ込んだ。商人やマフィアも動き出し、犯罪者やよく分からん連中も流れ込んできた。
「父上、この街はもう駄目です。マフィア連中が街の拡大を増長している限り、歯止めがかかりません。もう踏み込んで、あいつらたたっ斬ってしまいましょう。」
次期辺境伯になる予定のラルフの兄:アドルフは脳筋だった。
「アドルフ落ち着け。」
「しかし!このまま手をこまねいていては悪化する一方です!犯罪件数はもう数えることすらできない状態になっているのですよ!暗部の者が二大組織の首領を特定しました。頭を討てば奴らの動きも収まるはず!」
「特定できたのか!?場所もか?」
「ええ。レーゼには大分苦労をかけましたが、間違いない情報だとのことです。今も張り込ませて監視中です。」
「・・・そうか。あいつらが脱税しているのは分かりきっているしな。仮に仕留め損なっても踏み込めば証拠は掴めるか。」
扉がノックされてメイドが部屋に入ってきた。その後ろには久しく見ていなかった顔がある。
「ラルフ!帰ってきたのか。」
「弟よ!良いタイミングで戻ってきてくれた!力を貸してくれ!」
「な、何だよ、兄貴。俺は統治には関わらないぞ。昔にも言っただろ。」
「今回だけでいいんだ。頼む。お前がいれば心強い。」
「アドルフ、落ち着くのだ。ラルフ、すまないな。帰ってきて早々、見苦しいところを見せてしまった。だが、話だけでも聞いてやってほしい。」
「俺も話があって帰ってきたんだが。」
一旦、場所を変えて話し合いを行うことになった。
「そうか。バルテラ王国でそのようなことが行われているのか。喋る魔導ゴーレムか、うーむ。この双眼鏡というのも優れた技術が使われているな。分かった、陛下に伝えよう。我が国の貴族間でも情報を共有してバルテラ王国への警戒を強めるように進言してみよう。」
「ああ、頼んだよ。で、兄貴はそのマフィアのボスを討ちに行くのか。」
「そうしたいところなんだが、流石に俺は前線に出るわけにはいかない。自分の部下の実力を疑っているわけではないのだが、今回の敵はどこまで抵抗されるか分からない。一人でも多く戦力が欲しい。ラルフ、力を貸してくれ。」
「まあ、報酬が貰えるなら構わないが。レインも参加させてもいいよな?」
「レイン君も帰ってきてるのか。勿論、歓迎するよ。彼の実力も疑うべくもない。」
「いつ決行するんだ?」
「連中は情報収集に長けてるから、警戒される前にすぐにでも行動を起こそうと思う。ようやく敵の首領の情報を掴めたんだ。逃がす訳にはいかない。領軍の総力を挙げて、二大組織の首領を同時に襲撃する。」
「首領討伐後の残党や下位組織はどうするんだ?掃討は不可能だろう?」
「ああ、マフィアの根絶は無理だろうな。全体が把握できないからな。ひとまず、暗部の者を頭に据えて、指揮を執らせようと考えている。」
「今のボスを討伐して、新しいボスをうちの息のかかった者にすげ替えるわけか。街の機能麻痺を避けるにはそれしかないか。連中も街に貢献している面もあるからなあ。末端の構成員はほぼ一般人と変わらないだろうしな。」
こうして、領軍による一大ミッションが決行された。
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時は戻り、エルメラ一行は街の西側のゴミ処理場に到着していた。
「よう、御三方。遅かったじゃねえか。待ってたぜ。」
事務所にいたのはどこかで見た顔だった。
「マルセルじゃないか。何でここにいるんだ?ギルーインの街の組織の者ではなかったのか?」
「ギルーインには兄弟組織があるんだよ。仕事で一時的に出向していただけだ。俺はこの街のミュゼルファミリー所属だぜ。」
「我々にこの街を勧めたのは組織の勧誘のつもりか?」
「いいや、そんなつもりはねえよ。前にも言ったが、あんたらが来れば面白くなりそうだと思ったんだよ。だが、少し遅かったかもしれん。事態が大きく変わっちまった。」
「組織抗争が終わったのか?」
「いや、違う。領主が軍を動かした。で、うちのボスが死んだらしい。」
「それはまた急展開だな。お前はこんな所でのんびりしていていいのか?」
「俺みたいな末端の構成員は関係ねえ話だ。誰か別の奴が新しいボスになって指揮を執るだろ。・・・まだ本部からは何の連絡もこねえが。」
「全員死んでるんじゃないのか?」
「襲撃があったのはボスの住んでいた集合住宅だけだと聞いている。自爆したらしいぜ?建物ごと派手に吹き飛んだそうだ。本部が襲撃されたとは聞いてねえから、今後の指示があるはずなんだがな。」
「まあ、お前の組織が大変そうな状況なのは分かった。だが、私達には関係のない話だ。ギルーインでも言ったように、この街で隠れ住むのに都合がいい物件を紹介してくれ。」
「それなら本部に行かないといけないな。よし、ついでだから俺が本部まで案内してやろう。」
「待て、何故そうなる?」
「ここが不動産屋に見えるか?本部に行かなきゃ、物件の紹介はできないぞ?担当の奴を紹介してやる。」
マルセルについて行くしかないようだ。領軍に襲撃されたばかりのマフィアの本部か。大丈夫なのかな。
「それにしても領主側はどうやってボスを突き止めたんだか。大したもんだぜ。構成員の俺でもボスの顔すら知らねえってのによ。」
「そもそも何で襲撃されるんだ?以前のお前の話だとミュゼルファミリーは穏健派だと言っていなかったか?」
「穏健派でも過激派でも、毎日派手に街中でドンパチやってれば制裁の対象にはなるだろ。まあ、うちは相手が手を出してくるから応戦しているというだけだがな。」
穏健派のミュゼルファミリー、過激派のフィッツヴァルツ。この二つの組織が街の二大組織だ。
「過激派の方も襲撃されたのか?」
「分からねえ。だが、うちのボスの自宅とは違う場所で、もう一箇所だけ領軍が攻撃した場所があると聞いている。そこがフィッツヴァルツのボスの自宅かもしれねえな。両組織のボスを逃さねえように同時襲撃したんじゃないか?向こうの襲撃の結果までは情報が入っていないがな。」
「ふーむ、頭を失えば逆に荒れそうな気がするが。」
「ああ、全く同感だな。領主は一体何を考えているのやら。この街のマフィアの規模を舐めているとしか思えねえな。実際に既に動き出してる下位組織もあるみたいだし。領軍にちょっかいかけた組もいるとかいないとか。」
「組織抗争に留まらず、領主に対しての反乱か。これは泥沼化するな。」
喋っているうちにミュゼルファミリー本部に着いたようだ。
「おーっす。客を連れて来たぞ。・・・ん?おかしいな。受付に誰もいねえ。」
「やっぱり襲撃されたんじゃないのか?」
「いや、そんなはずはねえ。軍がここに向かっているという話はなかった。それに襲撃されたにしては荒らされてもいない。奥に紹介するはずの奴がいるんだ。ついてきてくれ。」
通路を進み、マルセルは奥の部屋の扉を開いた。
「おーい、マルダシリ。客を連れてきt、うおっ!」
部屋の中には覆面をした連中が、マルセルに刃物を突きつけていた。振り返ると後ろにも覆面連中がいて、俺たちにも刃物が突きつけてられている。
「おい、マルセル。どうなってるんだ。私たちはとばっちりだぞ。」
「い、いや、俺も知らねえよ。何だよ、お前ら。」
「ああ、すまないな。ちょっと捜し物があってお邪魔させてもらっている。お前たちはミュゼルファミリーの構成員か?」
部屋の奥にいた人が質問を投げかけてきた。その人物だけ覆面をしていない。この覆面連中のリーダーだろうか。
その人物は褐色肌の女性エルフだった。その女の足元にはケツを蹴られている男がいる。壁際にも拘束された人達がいるようだ。
「俺はゴミ処理場の管理をしている者だ。そこに客が来たからここに連れてきたんだ。あんたがケツを蹴ってるその男に用があるんだが。」
「なんの客だ?」
「物件探しだ。こいつらは街に来たばかりなんだ。」
「お前はミュゼルファミリーの財務書類を管理している場所を知っているか?」
「俺みたいな下っ端が知ってるわけないだろ。」
「マルセル、もういい。大体の状況は分かった。私に代われ。」
お、うちのボスが機嫌を悪くしているようだ。この状況でどうするというのか。
「あんたは領主の手の者だな?ここのボスを襲撃したらしいが、大方、犯罪を立証するための証拠品も吹き飛んで、住民や傘下の組織に説明ができなくなったんだろ?それでここにもガサいれに来たわけだ。」
「その通りだ。まさか自爆するとは思っていなかったからな。私も困っているのだ。」
「お前らはマフィアを舐め過ぎだぞ?頭を失えば統制がきかなくなる。下位組織は下剋上のチャンスとばかりに争うぞ。お前らがやってるのは蜂の巣をつついているだけだ。」
「その言い方だと何か策でもあるのか?貴女はこの街に来たばかりなのだろう?」
「このミュゼルファミリーとその傘下の組織に関しては、私ならまとめられると思う。これでもマフィアの間では名が売れてるからな。」
「流石に会ったばかりの者を信用できないな。貴女が何をするのか側で見ていても良いか?もし、貴女が組織をまとめられた暁には報酬を出すように領主様に掛け合おう。」
「ああ、構わない。存分に見ていろ。マフィアの扱い方を教えてやる。参考にはならんと思うがな。」
「大層な自信だな。お手並み拝見といこう。自己紹介がまだだったな。私はレーゼと呼んでくれ。うちの部隊は領主軍には属さない非公式な部隊だから他言はしないでほしい。」
随分自信がありそうだが、安請け合いし過ぎじゃないか?大丈夫なのかな。もう完全に面倒事に巻き込まれちゃったな。抱っこしているキャロちゃんは刃物を突きつけられてるのに寝ちゃってるし。どうなることやら。




