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第20話 記念撮影

「最後に見て頂きたいのがこちらなのだが。」


宝石ケースに入れた高額商品5点を見てもらった。


「おお、これが会長の手紙にあった真珠ですか。素晴らしい。ここまで粒が揃ったものはなかなかお目にかかれませんね。他の宝石も含めて担当の者に査定させますので、お待ち頂けますかな?」


事前連絡で知っていたようだ。話が早くて助かるな。

宝石担当と思われる女性がやって来て鑑定が始まった。しばらくすると、もう一人年配の男性が入室してきた。何やら分厚い本を捲りながら首を傾げている。何かまずいものを出してしまったのだろうか。


「お待たせ致しました。こちらが査定結果でございます。」


ようやく終わった査定結果が書かれた紙面を覗いてみる。


ダイヤモンドペンダントネックレス:大金貨15枚

イエローダイヤモンド:大金貨12枚

ピジョンブラッドルビー:大金貨7枚

ピンクゴールドモルガナイト:ダイヤモンドペンダントトップ:買取不可

花珠真珠パールネックレス/イヤリング2点セット:大金貨18枚


うん、大体予想していた結果だな。この中だと真珠が一番資金効率が良いようだ。だが、カツラと双眼鏡を売る方が遥かに資金効率がいいな。


「この買取不可というのは、やはり鑑定書がついていないからか?」

「いえ、鑑定書は読めないので、査定は純粋に商品の価値のみで行っております。こちらのピンクのペンダントトップはとても素晴らしい物です。周りに散りばめられたダイヤモンドも実に丁寧な仕事がされています。この国の一流職人でもこれほどの細工が出来る者はいるかどうか。」

「では何故?」

「逆にお尋ねしますが、このピンクの宝石は何という宝石なのでしょうか?」

「モルガナイトという宝石だと聞いているが。」

「この国には、いえ、ミトラ大陸にはおそらく存在しない宝石です。ピンクダイヤモンドかと思ったのですが、違うようですし。過去のオークション履歴を調べてもこのような宝石はございませんでした。実は会長からは全て適正価格で買い取るようにと言われておりまして、この宝石には適正価格がないのです。」

「なるほど。そういうことか。一点物に相場はないか。」

「はい。先程の造り髪や双眼鏡は従来の類似商品の延長ということで値付けを致しましたが、ここまで未知の物は値が付けられません。オークションに出品されることをお勧めいたします。もしご希望でしたら、我々の商会が代行して出品いたします。当店の名前で出品すれば信頼性は増しますし、常連のお客様も食いつく可能性は高いです。」

「ううむ。しかし、我々は先を急いでいるのだ。王都には長く逗留する予定がない。」

「商業ギルドを通して送金致しましょうか?他の街でも受け取れますよ。」

「分かった。ではお願いしようか。出品にかかる費用は売上から引いてくれ。取り分はどうする?」

「当店が出品代行する場合は一律で売上の一割を頂いております。」

「それで構わない。」

「承りました。大切にお預かりいたします。当店としても、珍しいものを出品できるのは店の宣伝にもなるので、今回のご依頼は大変嬉しく思います。より高値が付くように尽力いたしましょう。」


こうしてバーンスタイン商会との取引は終わった。

最終目的地のルーテラスの街の商業ギルドに連絡、送金してもらうように依頼して宿に戻った。


「やれやれ、やっと終わったな。」

「気持ち悪いな。」

「何がだ?」

「フランシーナ会長夫妻がマフィアだとしたら、買い叩くこともできたはずだ。『適正価格で買い取るように』なんて指示をあの店長に出したのは何故だ?今まで会ったマフィアの対応と違う。オークションの代行にしても、ここまで手厚く手を貸す理由は何だ?」

「場所が表の商会だったからだろう?ああ、でも裏の方を紹介することもできたのか。」

「そうだ。相当な規模の力を持った組織なら紹介先なんていくらでもあるだろ。それこそ街の外のゴミ処理場でも良かったはずだ。」

「必要だった大金が手に入ったんだからいいじゃないか。」

「俺の杞憂か?そうだといいんだが、気持ち悪いんだよな・・・。」

「あの店長は信用のおける人物だったと思うぞ。」

「ああ、あの店長さんはマフィアとは無関係だと思う。会長の指示に忠実に従って対応をしただけだ。何も後ろ暗い思惑は感じなかった。ただ、その会長の『適正価格で買い取れ』という指示内容が気味が悪いんだよな。」

「考えすぎだろう。ミスリル金貨41枚に大金貨2枚の売上だぞ?オークションの結果も期待できそうだし、これだけあれば良い物件を購入できそうだ。今夜は祝杯だ!酒だ!酒を持って来い!」


エルメラは大金を手にして浮かれているようだ。明日もギルドと取引があるんだから、酒は程々にしておいて欲しいな。



翌日は予定通り商業ギルドに向かった。

フルメイクばっちりで徒歩移動なので、注目の的になってしまっている。エルメラはとても機嫌が悪そうだ。ずっと眉間にシワが寄せて、周囲にガンを飛ばしている。


ギルドの受付でフランシーナ会長のギルド紋章を提出すると、別室に案内された。

そこからのエルメラのセリフは3つだけだった。


テーブルの上に、販売する蜂蜜や胡椒などのスパイス類を俺とキャロちゃんが積み上げる。


「査定を頼む。」


査定額が提示されると、


「それでいい。」


金を受け取ると、


「では失礼する。」


そして、逃げるようにギルドを後にした。


どう見ても後ろめたい奴の挙動じゃないか。怪しすぎるだろう。


「よし、終わったぞ!さあ、東に向けて出発だ!」

「その格好でか?せめて着替えてから行こう。メイクも落とすから。」

「むう。じゃあ、銭湯にでも行くか。」

「ああ、そうしてくれ。それにしてもさっきの対応は不審者丸出しだったぞ。もう少し交渉するような素振りを見せるとかさあ・・・。」

「いや、元々すぐに撤退するという予定だっただろう。」

「あそこまで露骨な態度で接するとは思ってなかったよ。折角フルメイクしたのに、ずっと能面みたいな顔してるし。ギルドの職員さんも気まずそうだったぞ?」

「余計な詮索をされないように圧をかけていたんだ。ん?あれは何の店だ?」


エルメラが視線を向けた先には、確かにこの世界では見慣れない店があった。


「写真屋か?この世界はカメラがあるのか?」


いや、そんな物があるなら何故もっと普及していないんだ?身分証に利用するとか手配書に使うとか。もっと色んな所で利用されているはずだろう。


「これは風景を記録する魔道具か?ラフタリア王国にはこんな物を作ってる魔道具師がいるのか。ふーむ、興味深いな。」


エルメラは同じ魔道具師として興味を持ったようだ。


「折角だし、寄って行かないか?丁度、フルメイクして余所行きの格好になってるわけだし、記念に撮ってもらうのもいいんじゃないか?」

「うむ、覗いてみるとしよう。」


店内は小さなスタジオになっていた。


「いらっしゃい。おや、綺麗にお化粧までされて記念撮影のご希望ですか?」

「ああ、3人で撮って欲しいんだ。この魔道具で撮るのか?」

「ええ、最近できた魔道具なんですよ。王宮にも献上した自慢の撮影機なんです。」

「ううむ。素晴らしい。この国には良い職人がいるのだな。」

「さあ、お客様こちらへ。そんなに眉間にシワを寄せていると、折角のお化粧が台無しですよ。」


デリカシーのない店員の指示に従って配置についた。

なんか七五三の家族写真みたいだな。


「では、そのままでお願いしまーす。何枚撮りましょうか?」

「そうだな、3枚お願いしたい。」


どうやら焼き増しはできないようだ。3回シャッターが切られた。


「はい、よく撮れていますよ。こちらになります。」

「おお~。これが写真か。どういう仕組みになっているんだ?」

「それが擬態スライム液が必要になるんですよ。そのせいでコストが掛かってしまうのが難点で。」


魔道具師同士で話に花が咲いているようだ。二人は奥の工房の方へ入って行った。


折角だからキャロちゃんの写真をもっと撮ってあげたいな。俺は置いてあった撮影機を手にとって撮影を開始した。

俺は生前、七五三シーズンになるとフォトスタジオをよく出入りしていた。勤務していた美容院が写真屋と提携していて、着物の着付けヘアメイク要員で出向するのだ。着付けが終わった後は撮影が終わるまで暇なので、よく撮影のお手伝いをしていた。なので、子供の写真の撮り方は心得ている。


キャロちゃんの服を着せ替えながら、気が付けばたくさん撮影してしまっていた。キャロちゃんも自分の写真が出てくるのを楽しんでいたから、つい張り切ってしまった。

このアップの写真なんて最高の笑顔だ。家を購入したら写真立てに入れてずっと飾っておこう。


「ああっ!何を勝手に使ってるんですか!あああ、こんなに撮影して。枚数分お支払いして頂きますよ!」

「希少な素材が使われてるんだぞ!何をやってるんだ!お前は!」


エルメラも写真屋側の味方のようだ。


「勿論、全額支払おう。いくらだ?」

「・・・最初の3枚も合わせて、全部で68枚。1枚当たり金貨1枚です。」


俺は大金貨6枚と金貨8枚を支払った。なかなかの出費だが、俺は反省も後悔もしていない。何なら定期的にここに通ってキャロちゃんの成長記録を撮影したいくらいだ。そうだ、ショッピングサイトでアルバムと写真立てを買わなきゃ。


「こういう写真も良いものだぞ?子供の笑顔とか躍動感のある写真とか。撮影機だけじゃなくて、写真の撮り方も研究することをお勧めするぞ。」

「ううむ。確かに売上アップにはなりそうですね。」



写真屋を出た後は銭湯に行って旅支度を済ませた。


「よし、じゃあ東に向けて出発するか。」


何だかんだで王都での良い思い出も作れた。


俺は歳を取らない。ずっと今のままの姿でいるだろう。だが、目の前を歩く二人は違う。今日の記念撮影は、いつかきっと二人にとって特別な思い出になる日がくるはずだ。

いや、俺にとっても思い出にはなるか。3人で旅をした良い思い出に。


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