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第2話 裏の住人

建物からの脱出はすんなり成功した。建物内に誰もいなかったからだ。ヤバそうな研究をしているし、人の出入りを最小限にしていたのかもしれない。建物周辺も寂れた様子で人通りは少ない。丁度、日が暮れてきたし、身を隠すには都合が良いな。


できるだけ研究施設から遠ざかるため、走って移動する。今夜の間にできるだけ距離を稼ぎたい。


しばらく走っていると、日が沈んで真っ暗になった。どうやらこの体は夜目が効くようで視界に不都合はない。体力も気にせず走り続けられるし、本当に便利な体だ。


しかし、問題が浮上してきた。

まず、この街はどうやら壁に囲まれている。街の外に出るには壁を超えなければならないが、よじ登るのは難しそうな高さだ。街中に潜伏するしかないか。

体感2時間以上は走り続けた気がするから、距離はそれなりに稼げただろう。寂れた建物伝いに走ってきたが、スラム街だろうか。崩れた廃屋もちらほらある。

適当な廃屋にお邪魔して身を隠すか。睡眠はいらない体だし、持ち出した資料を読むとしよう。


喫緊の問題として急いで調べねばならないのが、俺の駆動可能な時間だ。

資料を読み進めていくと燃料は魔石という物らしい。胸のあたりにある投入口を開いて魔石を放り込めばいいようだ。

エネルギー残量は何となく体感で分かる。覚醒した直後の残量をMAXとするなら、今は1割位減ったかなといった感じだ。俺が覚醒してから体感4~5時間位経過してると思うから、残りの駆動時間は短めに見積もって30時間くらいとみておくか。その間に魔石を入手しなければならない。あの研究施設なら魔石があっただろうに。拝借してくればよかったな。済んだことを悔やんでも仕方がないか。


当面の目的が決まった。追手を警戒しながら魔石探しだ。


早速、聞き込みをと思ったが、外はまだ真っ暗で誰もいない。朝まで待つか。明るいうちは出歩くのが危険だがやむを得ない。しかし、仮面を被ってるような怪しい風貌だ。聞き込みに応じてくれる人がいるだろうか。


資料を読みながら時間を潰し、明るくなってから魔石探しを開始した。

まだ早朝だというのにちらほら人が歩いている。だが、死んだような目をした人がほとんどで、すごく話しかけにくい。マスクで顔を隠しているような奴もいたから、俺の姿を気にしている奴がいないのは有り難いが。


しばらく歩きながらどうやって情報収集をするか考えていると、重そうな荷物を積んだ荷車を運んでいる子どもたちがいた。

あんな子どもたちまで働いているのか、などと眺めていたら、荷車の後ろを押していた子供が、狭い路地から飛び出してきた男に襲われ、路地に引き込まれた。荷車の前を引っ張っていた子供も異変に気付いたようで、後ろの様子を見に来た。そして、さっきの男が再び路地から飛び出して子供に襲いかかった。


流石に黙って見ているのもどうかと思ったので、駆けつけて間に割って入った。


「チッ!邪魔するんじゃねえよ!」


男は捨て台詞を吐いて路地に引き返そうとしたので、首根っこを捕まえて拳骨を喰らわせてやった。

子供は走って逃げていったようだ。

路地を覗いてみると襲撃犯はもう一人いたようで、最初に襲われた子供をズタ袋に押し込んでいるところだった。どうやらこいつらは人攫いのようだ。ズタ袋に押し込まれた子供が暴れていて、襲撃犯は俺に気付いていない様子だ。遠慮なく背後から拳骨を喰らわせて昏倒させる。


・・・俺、転生してから拳骨しかしてないな。身長が高くなったから相手を見下ろす形になって拳骨しやすいんだよな。

どうでもいいことを考えていると、袋に押し込まれていた子供が警戒した様子でこちらを見ていた。


「無事か?襲われているように見えたから手を出したが。」

「この人、死んだの?」

「いや、手加減したから多分生きてるだろう。あっちの奴は死んだかもしれんが。」


最初に拳骨した奴は逃げようとしたから、手加減する余裕がなかったのだ。倒れた男の所持品を漁りながら、脱がせた服で手足を縛っておいた。襲われていた子供はじっと俺のすること観察していた。

最初に拳骨した男の所持品も漁っていると、逃げていた子供が厳つい顔をした5人の男を連れて戻ってきた。


「おう。お前さんか?うちの従業員を襲ったってのは?」

「いや、俺が襲ったのはこのくたばってる連中だが?何かまずかったか?」


俺をずっと観察していた子供が厳つい顔の男の元へ走っていった。


「ん?ビス、お前無事だったのか。」

「ん。この人が助けてくれた。」


俺が所持品漁りをしている間に子供が状況説明をしてくれていた。


「そうか。おい、お前らそこに転がってるゴミを片付けとけ。息があるなら尋問して情報吐かせろ。ノールとビスは仕事に戻れ。おい、あんた。うちの従業員が世話になったな。」

「いや、構わん。路銀が欲しかったから、襲っただけだ。」

「路銀?金が無いのか。あんた、見ない顔だが余所者か?」

「ああ、昨夜この街に来たばかりだ。この街のことを聞きたいんだが。」

「顔を隠してるのは訳ありなんだろ?従業員が世話になった礼もある。ついてきな。」


連れて行かれた先はどうやら酒場のようだ。早朝だからだろう、客は誰もいない。


「座ってくれ。ああ、俺のことはバッケスと呼んでくれ。何か飲むか?奢るぜ。」

「いや、必要ない。俺は・・・アキラだ。」


咄嗟に前世の名前を名乗ってしまったが、まあいいか。今生もアキラとして生きるとするか。


「こんな所に足を運ぶような奴はみんな訳ありだ。深くは聞かねえでおくぜ。だが、世話になった分は礼はする。うちの面子にも関わるからな。」

「じゃあ、魔石をくれ。」

「魔石?そんなもんでいいのか?分かった、準備しよう。」


駄目元で頼んでみたらあっさりOKがでてしまった。まさかこんなに簡単に手に入るとは。


「持ってるのか?それは継続して取引することは可能か?」

「ん?そりゃ持ってるに決まってるだろ?魔導光点けるにも使うわけだし。魔道具なんてよほど貧乏じゃない限り、どこの家にもあるだろ。普通に店に売ってあるぞ?禁制の品ってわけでもねえし。」


バッケスは天井の明かりを指さしながら呆れた様子だ。どうやら魔導光という明かりを始め、魔道具というのが一般的に普及していて、その燃料になっているのが魔石らしい。つまり、俺の体・・・魔導ゴーレムというのは魔道具の一種ということか。


「・・・普通の店に行きたくないんだ。というより人通りの多いところに行きたくない。俺は目立つからな。」

「ああ~、成る程な。大体の事情は察したぜ。分かった。魔石が必要になったらここに来い。ここの店主に話を通しておく。ただ、正規の値段より少し割増になると思っておいてくれ。」

「ああ、構わない。それとこの辺りで腕の良い魔導具職人はいないか?いたら紹介してほしい。」

「それも表の職人じゃ駄目なんだよな?丁度、この街に滞在してる奴が一人いるな。ちょっと待ってろ。」


バッケスは店の奥に入って行き、酒場のマスターっぽい格好の渋いおっさんを連れてきた。


「まずはこれが魔石だ。先に渡しておく。」


小さい麻袋を投げて寄越してきた。中を覗いてみると小石くらいの大きさの濃い紫色の石がたくさん入っている。


「それだけあればとりあえず十分だろ?何に使うのか知らんが。」


うーむ、十分なのかどうなのか分からない。すぐにでも取り込んでどれくらいエネルギー残量が増えるのか試したい。


「んで、こっちがさっき話したここの店主だ。魔石が必要なら今後はこいつに言ってくれ。」

「ロークだ。情報の取引もしている。魔道具師を紹介して欲しいと聞いたが?」

「アキラだ。よろしく頼む。とある魔道具の修理、メンテナンスを依頼したいんだ。」

「それならその魔道具をこちらで預かって魔道具師に渡そう。仕事の依頼という形での紹介になる。」

「それはできない。直接その人物に会わせてくれ。まずその人物に設計図の一部を見せる。その上でメンテナンスが可能かどうかを聞きたいんだ。現物を見せるのはその後だ。」

「魔道具師はあんたと同様にうちの客だ。つまりそういう立場の人物だ。あんたが表を歩けないのと同様に、魔道具師も気軽に人には会えない。あんたが刺客の可能性もあるからな。うちは客の安全を守る義務があるんだ。」

「・・・じゃあ連絡をとることは可能か?」

「ああ、それは構わない。連絡料は金貨一枚だ。」


俺はカバンの中から硬貨袋を取り出し、金貨らしきものを一枚差し出した。


「確かに受け取った。連絡の内容は?さっき言っていた内容でいいか?」

「ああ、直接会って設計図の一部をまず見て貰う必要があることを伝えてほしい。報酬も応相談ということで。」


現時点で俺には全く報酬支払い能力はないがな!顔合わせが目的なのだ。俺の体はまだどこも破損してないからね。修理可能な人材を探して確保しておくのは最優先事項だ。


「今日の夕方には返事が来るはずだ。」

「分かった。その頃にまた来るよ。」


その後はしばらくバッケスと世間話をした。この街のスラム街には、ローブルファミリーとガドペインという2つのマフィアの縄張りがあるらしい。バッケスが所属しているのがローブルファミリーの方だ。この酒場もローブルファミリーの経営らしい。最近、この周辺で人攫いが増加していて、この地区の監督役のバッケスの頭を悩ませているんだとか。今朝の人攫いもそれらしい。犯人はガドペイン側の組員なのは判明していたらしいが、証拠が掴めずに捜査は難航。今朝、犯人を捕獲できたのは大きな進展だと言うことで、バッケスは機嫌が良いようだ。


バッケスと別れて酒場を後にする。夕方まで時間を潰す必要があるが、明るいうちはあまり外を出歩くのは危険だ。近くの廃屋に身を隠し、夕方まで待つことにした。


さて、エネルギー残量の回復量の検証だ。もらった魔石をまずは一個取り込んでみる。

・・・うん、ちょっと残量が増えた感覚がある。更に取り込み続けて、小石サイズの魔石5個取り込んで覚醒時と同じくらいの残量になったような気がする。魔石の価格を聞き忘れたが、俺の体は燃費が悪いかもしれない。夕方、酒場に行ったら早速追加の魔石を注文しておこう。


持ち出した資料を読み耽っていると、日が暮れてきたようだ。そろそろ酒場に向かうかな。


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