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第18話 王都に入る前に

立派な城が遠くに見えてきた。王都というだけあって、城下町はこれまでの街よりも遥かに大きい。


先日の俺の全力疾走による逃走劇の後、野営場が盗賊の襲撃にあったことを街の憲兵に報告した。すぐに早馬で先遣隊が送られ、その後、討伐隊も組まれたようだ。しかし、既に現場には賊はおらず、行方をくらましているという。あれだけ派手に襲撃して、まだ近くに潜んでいるはずもないだろう。どこに逃げたのか知らないが、早く捕まって欲しいものである。


その後は平穏な旅が続いている。

今日は村の宿屋で宿泊だ。早めに到着したので、エルメラは寛いで休息モードだ。明日には王都に入ることになる。厄介な商談の前にのんびりしたいそうだ。

キャロちゃんはムンッと気合いの入った顔で、胡座をかいて座ったまま固まっている。魔力を練っているらしい。

国境越えの時に冒険者のレインから何か教わっていたようだったが、身体強化の基礎訓練法だったようだ。

エルメラも身体強化は行っているようだが、より練度の高いプロに教わることができたのは良いことだと言っていた。あのロリコン野郎は危険人物かと思っていたが、もしまた会うことがあれば何か礼をするか。


「アキラ、ワインを出してくれ。」

「昼間から飲むのか?程々にしとけよ?」

「ああ、昼間だからな。軽めのものにしてくれ。赤白は問わない。安物でも構わないが、マフィアに渡していたものは駄目だ。口に合わなかった。」


ワインは難しい。しかし、以前の反省から俺は学んでいる。シチュエーションに合ったものを選ぶのが正解なのだ。軽めのものを希望しているということは、飲みやすい初心者向けのものが良いのではないだろうか。エルメらはワイン玄人だと思われるが、玄人が初心者向けワインを飲んではいけないなどというルールはないはずだ。

悩んだ結果、日本ワインを出すことにした。日本ワインは歴史の浅い新世界ワインの一角だ。だが、近年の品質の向上は目覚ましく、その繊細な味は評価が高まってきているというニュースを見たことがある。


選んだのは北海道産のナイヤガラ品種の甘口白ワインだ。値段もお手頃価格だ。

アルコール度数は8.5%と低めで、濃厚でフルーティーな飲み口が特徴的と記載されている。昼下がりに飲むには悪くないのではないだろうか。


「俺の故郷の国の白ワインだ。楽しんで飲んでくれ。ところで、氷を作る魔道具はできたか?」

「いや、まだだ。王都で素材を調達するつもりなんだ。最優先案件だな。」


ワインクーラーは買ったけど、まだ出番はないようだ。


「じゃあ、俺は洗濯物があるから、悪いけど一人で飲んでくれ。」

「キャロもお洗濯する。」

「よーしよし、キャロちゃんも一緒に行こうか。キャロちゃんは働き者だな。」


キャロちゃんは誰かさんとは違ってよく俺の手伝いをしてくれる。あんな生活力のない駄目人間にならないように、俺がちゃんと育てなくては。


宿の裏の水場で洗濯だ。洗剤はヤシノミ洗剤というものを使っている。排水は微生物によって水と二酸化炭素に分解されるらしい。この世界の排水システムがどうなっているのか分からないので、環境に良さそうなものを使うことを心掛けている。


キャロちゃんには洗濯後の脱水を担当してもらう。使用するのは『手動式グルグル洗濯機』だ。商品名の通り、これで洗濯もできる。だが、排水に時間がかかって手で洗う方が早いのだ。そういうわけなので、脱水用として利用している。1回ハンドルを回すと中の洗濯槽が6回転する。その遠心力によって脱水が行われる。

初めてこの商品を使った時は感動した。脱水は大変な作業だったのだ。手で絞って干しても水滴が滴り落ちてきたりするし、旅をしていると翌朝までに乾いてもらわなければ困るのだ。それがキャロちゃんの力でもグルグル回してるだけで、ジャバジャバ脱水できる。遠心力すごい。旅の必須アイテムだね。脱水が終われば後は部屋干しでも十分だ。


俺が洗ってキャロちゃんが脱水する。流れ作業で進めていき、最後にエルメラのパンツ(ショッピングサイトで購入:色は黒)を洗って、キャロちゃんに渡して終わった。二人でやると終わるのが早いね。


「キャロちゃん頑張ってくれたから、おやつにしようか。何が食べたい?」

「ふれんちとーすと。いちごがのってるの。一緒に作る。」

「うん。キャロちゃんはもう何でもできるね。お洗濯も料理もできるし。」

「ん。アキラとふれんちとーすと屋さんになりたい。」

「うんうん。お家を買ったら一緒にお店をやるのもいいね。」


室内で料理は駄目かと思ったので、再び宿の裏のスペースを借りることにした。


良い感じで焼けてきた。ふと視線を感じて警戒すると、建物の陰から村の子供たちがこちらを覗いていた。

バターの香ばしい香りに釣られてやってきたか、あるいは可愛いキャロちゃんを見に来たのか。

うん、多分後者の方だろうな。キャロちゃんは控えめに言ってとても可愛い。美容には毎日気を遣っているし、村では手に入らないような可愛い服を着ているのだ。村の芋臭い坊主共からしたら、天使のように見えていることだろう。


「エルメラに持っていく。お部屋で一緒に食べる。」


なんとこの天使は、あの飲んだくれの駄目人間の分まで作ってあげているのだ。なんていい子なんだろう。だが、部屋で食べることには俺も賛成だ。村の坊主共の汚い視線にこの天使を晒したくない。


片付けをした後の去り際に、俺は村の坊主共の方に魔導銃を向けた。坊主共は蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。


「アキラ?」

「いや、何でもない。悪い虫を追い払っただけだよ。部屋に戻ろうか。」

「?」


キャロちゃんは俺が守らないといけない。エルメラはキャロちゃんに自衛手段を叩き込むと言っていたが、少なくともそれまでは俺が守ってやらなければ。俺の目の黒いうちは、いや、俺の目が光ってるうちは、指一本触れさせるつもりはない。

俺は仲良くおやつタイムを楽しむ二人を眺めながら決意を新たにした。


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side:とあるマフィアの構成員(情報収集部隊)

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「おっちゃん、無理だよ。何か武器みたいなの向けられたよ。」

「ああ、俺も離れて見ていた。まさかいきなり銃を抜くとはな。悪かったな。これは駄賃だ。もう行っていいぞ。」


小銭を握らせてやると、村の子供たちは去っていった。


白昼堂々と村の子供に銃を向けるとは。村の自警団が動くリスクもあるのに、冗談であんなことはしないだろう。奴は本気だったとみるべきだ。探りを入れようとしたのが、何らかの方法で感付かれたか。

この村に入ってから警戒心が一段と落ちていたように見えたから、いけると思ったのだが。あの魔導ゴーレム、思ったよりできるな。


エルメラ一行の所有する謎の酒や道具には、謎の言語で書かれたラベルが付いている。どんなに調べても、その言語が使用されている地域が特定できなかった。別部隊が言語情報の解析を進めているが、恐ろしく複雑な言語で成果は芳しくない。どうも複数の言語が混じっているようだということまでしか分かっていない。

あれらの秘密を探りたかったのだが、警戒されてしまったな。これ以上、深入りして探りを入れるのは悪手だ。

仕方がない、退くしかないか。連中との関係を拗らせるのは、不利益にしかならないしな。今後も良好な関係を築けるように舵を切るとしよう。

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「今日のワインはとても興味深かったぞ。何とも評価の難しいワインだった。おそらく貴族社会の頭の固い連中には受け入れられないかもしれないが、私は気に入った。あの果実感の強さは品種由来のものなのか、醸造法によるものなのか。重たいワインや渋みが強いワインが苦手な層には需要がありそうだな。」


いつになくエルメラが饒舌だ。アルコール度数の低いワインだから、酒豪のこいつが酔っているということはないだろう。つまり機嫌が良いということだ。今日のワインの選択は間違っていなかったようだな。


「気に入って頂けて何よりだ。今後は俺の故郷のワイン中心に出すよ。それより、いよいよ明日は王都だぞ。予定はどんな感じで考えてるんだ?」

「うむ。明日は昼前には王都に入れるだろう。まず、件の商会とギルドの場所を確認する。次に必要な物を購入して宿をとる。初日は以上だ。二日目に商会と取引、三日目に商業ギルドと取引。ギルドと関わると危険度が増すかもしれないから、その日のうちに王都を出て東に向けて出発だ。」

「滞在は三日間か。その間に物件が買えるだけの金策ができるといいな。物件はどれくらい費用がかかるか目安はあるか?それによって販売する物品の金額設定と量を調整したい。」

「物件の金額は全く分からん。というのが、購入するのは普通の物件では駄目だからだ。隠れ住むのに都合の良い物件となると、マフィアが経営する不動産屋を頼ることになる。」

「ああ、またぼったくられるのか。それは資金を多めに準備しなきゃな。王都でしっかりぼったくろう。」

「うむ、あの老夫婦はかなりの資産家だと思われるから、商会との取引は期待できるだろう。ギルドの方は交渉はなしだ。相手の言い値でさっさと売ってすぐに撤退だ。関わりたくない。」


あの御婦人からもらった名刺には『王都総合百貨店バーンスタイン商会:会長フランシーナ』と書かれている。息子夫婦に椅子は譲ったと言っていたが、現役の頃の名刺なのだろうか。ご夫人が会長ならご主人は一体何者だ。


「総合百貨店か。何を主に扱ってる店なのか分からんな。販売する商品の選定に困る。フランシーナ会長が欲しがってた真珠のネックレスは売るとして、他にはどんな商品で攻めるべきか。」

「その辺はアキラに任せる。明日、場所を確認した時にどんな店か確認してからでもいいと思うが。」

「そうするか。アポを取るついでに、ちょっと店内を見せてもらうか。」



翌朝、王都へ向けて出発した。王都ラフタリアはもう目の前だ。


「キャロは大分歩けるようになってきたな。」

「元気になって何よりだ。」

「よし、キャロ。走るぞ。しばらくは体力作りだ。そのうち格闘術を教えてやろう。」


お揃いのダッフルコートを着た二人が走っていく。

あ、キャロちゃんが転けた。でも、一生懸命エルメラの後を追いかけている。強い子だな。

エルメラも初めて会った時とは随分印象が変わってきた。心に余裕ができたのだろう。

逞しく生きている二人の姿を見ながら、遅れないように俺も後を追った。

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