第17話 盗賊
数日後、とある街のゴミ処理場を訪れていた。
街の憲兵に西側の盗賊に関する話を聞いてみたのだが、奴らは知らないと言うのだ。仕方がないのでマフィアから情報を聞くことにしたというわけだ。
もうお馴染みになった安酒セットを手土産に、事務所の扉をノックする。
「誰だ?」
野太い男の声が中から聞こえてきた。
「旅の者だ。この周辺の情報が欲しいのだが。」
「客か。裏の倉庫に回ってくれ。入り口は開いてるから入ってろ。」
倉庫に入って待つこと数分。裏口から巨漢の男が入ってきた。その後ろから更に5人の男がぞろぞろと入ってくる。
今まで訪れたゴミ処理場の時とは対応が違うな。何かを警戒しているのか?雰囲気がピリピリしている。
「待たせたな。」
「構わない。急な訪問だしな。」
手土産をテーブルに載せて差し出す。人数が多いので何となく2セット差し出した。
「うむ。確かに受け取った。で、用件は?」
「西側から盗賊が流れてきているという噂を聞いた。詳細な話を聞きたい。」
「耳が早いな。被害件数はまだ少ない。場所もここからは離れている。ただ、厄介な連中だ。元マフィアの一団だ。西のベールフェンの街で縄張り争いに敗れて犯罪者集団に成り下がった。」
「離れているなら王都までの道のりは安全か?」
「保証はできねえな。東側に向かって移動してきているのは確かだからな。日数的に考えても既にこの辺りにいてもおかしくねえ。連中は騎士の定期巡回ルートも周期も把握しているから、当分捕まることはないだろう。」
元マフィアか、厄介だな。ずっとお世話になってきたからこそ、この連中の有能さは思い知っている。こいつらは完璧な仕事しかしない。簡単に捕まるような間抜けなミスはしないだろう。
「ん?マフィアの人間なら武装は魔導銃だよな?そのうち弾薬が尽きるだろう?」
「他の街のマフィアを頼るだろうな。ここにも来るかもしれねえ。」
ああ、それで警戒してるのか。力付くで奪いに来る可能性も想定してるんだろうな。
「その盗賊連中が来たら売るのか?」
「金さえ払うなら客だ。売るぞ。」
「見上げた商売根性だな。」
元マフィアとなると普通の盗賊とは危険度が段違いだろう。もう少し情報が欲しいな。
安酒セットを更に2セット追加で差し出してみた。
「現時点での被害状況だが、街の騎士団に搬入されるはずだった竜車が2台やられてる。積荷は食料と武器だ。積荷のリストを入手している。これだ。」
エルメラが受け取った紙面を確認する。
「魔導銃に弾薬が満載じゃないか。これ、ピンポイントで狙ってるな?」
「ああ、間違いなくな。情報を掴んでターゲットを絞ったのだろう。もちろん、積荷は綺麗さっぱり無くなっていた。結構な性能のマジックバッグを持っていると思われる。それで連中の戦力は大体分かるだろう?」
「人数は?」
「元マフィアの生き残りは10~20人と推定している。その他にゴロツキや冒険者崩れみたいな連中を扇動して配下にしている。全体の人数は不明だ。」
「・・・対策無しで遭遇したら助からないな。」
「被害は冒険者にも及んでいる。賞金首狩りを積極的に行うことで知られているBランクパーティ『ジャッジメンズ』と『ブラックハンターズ』が手を組んで合同で討伐に向かった。他の冒険者も参加して合計18名で挑んだ。結果は返り討ちにあって全滅だ。」
「ただの盗賊と侮ったか。当然の結果だな。対人戦闘なら裏の住人の方が遥かに上手だろう。」
「その通りだ。現場の状況からは、罠に嵌められて一方的に撃たれ、蜂の巣にされたものと思われる。俺たちが掴んでいる情報はこんなところだな。」
「とても良い情報だった。アキラ、追加で何か出してくれ。」
安酒セットを更に2セットと高級缶つまギフトセット3箱を差し出して、ゴミ処理場を後にした。
それにしても、先日の老夫婦はどこで盗賊の噂を知ったのだろうか。あまりにも情報を掴むのが早すぎる。未だにこの街の憲兵は何も知らないというのに。
「どうする?しばらく街の宿屋で大人しくしておくか?」
「あの老夫婦が戻ってくるまでに王都の用事は済ませなければならない。先は急ぎたい。」
「しかし、件の盗賊に遭遇したら助からないだろう。目撃者を一人でも逃がすような甘い連中じゃない。」
「主街道は人通りが多いし、流石に狙わないと思う。」
「どうだかな。騎士団に搬入されるはずの積荷を狙うような連中だぞ?それに大所帯なら食い扶持を賄うためにも、人通りの多いところを狙う可能性はあるだろ。」
「ううむ。だが進むしかない。アキラは最大限警戒してくれ。夜はタープもテントも不要だ。火も焚くな。キャロはずっと抱えていろ。会敵した場合は練度の低そうな奴の所から突破して逃走だ。」
ボスが進むと決めたなら俺は従うしかない。
敵は目撃者を減らすために皆殺しにするだろう。つまり、逃さないように包囲して攻撃してくるはずだ。突破するにはどうしても被弾は避けられない。
せめてキャロちゃんを守れる防具はないだろうか。ショッピングスキルを『防弾』で検索してみた。そして見つけてしまった。
対ライフル用防弾シールドレベル3 お値段650000魔力
警察の人が鎮圧用に構えてるシールドみたいな形の対ライフルバージョンの重装甲なやつだ。重量14kgだが、今の俺なら片手でも持てるはずだ。日本で何故こんなものが販売されているのかは謎だが、今はとても助かる。
しかし、値段が高いな。もっと安い『レベル3A』というのもあるのだが、それだとハンドガンまでしか防げないようだ。敵の武装はライフル型の魔導銃だと判明している以上、この商品でないと意味がない。
採掘場でマジックバッグに溜め込んだ魔石は目減りしてきている。痛い出費ではあるが、これ以上の防具はない。
キャロちゃんを守るためにも必要な出費なのだと自分を納得させて、俺は購入ボタンを押した。
旅を再開して2日目だった。
「なあ、この野営場はまずくないか?」
「ああ、格好の標的にされそうな立地だな。」
「次の街まで一気に走るには時間が遅いか。夜は街に入れないよな。」
「まだ賊が出ると決まったわけじゃない。昨日と同じだ。警戒心を高めて休もう。」
「野営場の出入り口は2箇所、あの近辺は襲撃されれば人が殺到するだろうな。」
「当然、そこには賊も人数を多く配置する。出入り口から離れた所にするぞ。敵は数十人、外周部は手薄になる。」
主街道を通る連中は平和ボケしているように見える。しっかり護衛をつけてる馬車なんてほとんどいないのだ。一応、出入り口には衛兵がいるのだが、形だけ配置されてるだけにしか見えない。全く頼りになりそうにない。
夕食は手早く済ますため、レトルト惣菜で済ますことにした。最近のレトルト食品は種類も豊富で美味そうな商品がたくさんある。昨日は中華セットだったが、今日は何にするかな。
よし、今日はビーフシチューにしよう。『一流シェフの味をご家庭で』と書かれてある商品だ。具もゴロゴロ入ってるし、美味そうだな。だが、食事中は人間の気が緩む時でもある。警戒を怠ってはならない。
食事中は何事もなかったのだが、深夜になって寝静まった頃に変化は訪れた。
俺の視界の端、野営場の入り口側に微かに動く人影を捉えた。マフィアの人間にしては鈍くさい動きだ。宿泊中の人間が用を足しに行くことはあるが、直前に野営場に動いた者はいなかった。ゴロツキ共を配下にしていると言っていたからヘマをした奴がいたか?
「エルメラ、起きてくれ。」
「来たか?」
「可能性が高い。準備してくれ。」
俺たちがいる外周部には人影は見えない。こちら側には元マフィアの構成員が張ってる可能性が高いな。だが、どんなに腕が良くても射殺できない俺の存在は想定していないだろう。初見殺しは俺の十八番だ。真正面から突進して圧をかける。相手は絶対に怯む。
一発の銃声が響いた。それを合図に容赦なく一斉に射撃が始まった。
俺たちがいた近くにも間隔を開けて数人の姿が目視できた。魔導ゴーグルまで装備してやがる。
用意していた盾は片手で問題なく持つことができた。
俺は抱っこしたキャロちゃんを隠すように盾を構えて、発砲してくる敵に正面から突撃した。その後ろに隠れるようにエルメラが続く。
「チッ!おい!手を貸してくれ!重装備の盾持ちがいる!」
発砲を続けていた敵は効果がないとみるや、少し離れた所にいる味方に援護を求めて移動し始めた。
当然、その隙をエルメラが逃すはずもない。俺の後ろから小型魔導銃ミュスカを発砲し、見事に仕留めてくれた。そのまま俺と場所を入れ替わり、先導するエルメラを守るようにして後を追う。
包囲網を突破することには成功したが、後を追ってきている奴がいるな。
うーん、追いかけてきている奴はやはり元マフィアの構成員だろうな。良い腕してるよ。走りながら撃ってるのに、俺の背中にバンバン当たってるもん。でも当たってみて何となく分かる。エルメラの作ったキャメロンより威力は低そうだ。やっぱりエルメラの銃は性能が良いのだな。文字通り、身をもって思い知った。
追いかけてきていた奴はすぐに諦めたようだ。
「アキラ!私も抱えて全力で街まで走れ!」
「何でだ?あいつらもう追ってきてないぞ?」
「少しでも早く憲兵に報告するんだ。それがあいつらを追い詰めることになるんだ。早くしろ!」
やれやれ、ゴーレム使いの荒いボスだな。
二人抱えて走ると、俺、人攫いにしか見えないと思うんだ。憲兵に逆に捕まらなきゃいいけど。
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「ボス。南口の掃討も完了したとのことです。」
「よし、予定通りだな。金品、物資の回収が終わり次第、報告しろ。警戒を怠るなよ。」
「了解。」
計画通りだ。次の巡回が来るまでには十分な時間がある。
「ボス!ケビンがやられた!包囲を抜けられちまった!」
「何?お前、カバーに入らなかったのか?」
「後を追ったけど無理だった。重装備の奴で何発撃ち込んでも倒れねえんだ。しかも重装備なのに俺の全力以上の速度で走りやがる。」
「高練度の身体強化で重装備か。だが、すぐバテて足は止まるだろう。それ程の身体強化はそんなに持続しないはずだ。街まで着く頃には朝になってるだろう。」
「ボス。ひょっとすると、最近この国に入った賞金首が連れてるって噂の魔導ゴーレムかもしれねえ。細身の奴が一緒にいて、そいつにケビンは銃で殺られた。」
「魔導ゴーレム?」
「魔導銃製作者のエルメラ=スノウベルクはご存知でしょ?そいつが妙な仮面被った大男を連れてるって話だったんだが、魔導ゴーレムらしいんだ。ごく最近入った情報なんで真偽は微妙だが。」
「もし本当にゴーレムだとしたらまずいな。体力が無尽蔵だとしたら、どこまでも走り続けられることになる。憲兵に報告されるのも想定よりずっと早くなるぞ。全員撤退の準備をしろ!すぐにここを離れるぞ。指示に従わないゴロツキ共は射殺して構わん。」
「ボス。すまねえ、俺が取り逃がしたせいで。」
「いや、魔導ゴーレムは完全に想定外のイレギュラーだ。不問にする。お前も撤退準備を進めろ。」
くそっ!ここで十分に補給して東まで一気に抜けるはずだったのに。とんだ邪魔が入ったものだ。古参のケビンを失ったのも痛いな。計画は練り直しだ。
襲撃回数を増やせばそれだけ足がつく。この近辺ではもう略奪は無理だ。かといって補給が十分できなかった以上、あまり遠くまで移動できない。
荒れてると噂のルーテラスの街なら、余所者の俺たちでも抗争に割り込む余地があると思ったのだが。これはもう間に合わないか。可能な限り早く東に入りたかったが、やむを得ないな。辺境の村でも一時的に占拠して態勢を整えるとするか。
それにしても、エルメラ=スノウベルクか。この借りはいつか必ず返すぞ。




