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第16話 謎の老夫婦

結局、俺はギルーインの街に入ることなく、先へ進むことになった。

主街道に沿って歩みを進めていく。どうしても俺の姿が目立ってしまい、他の通行人から警戒するような視線を送られる。だが、もう慣れたものだ。幼いキャロちゃんが一緒にいることで、警戒心を緩和させているのだろう。特に何か咎められるようなこともなく、順調な旅だ。


「まず、王都に寄っていこうと思う。」

「真っ直ぐルーテラスタ辺境伯領に向かわないのか?」

「最終的には拠点を構えたいんだ。つまり物件を買おうと思っている。まとまった金がいる。」

「ああ、金策か。それなら途中の街でもいいんじゃないか?」

「基本的に王都が一番物価が高いんだ。高値を吹っ掛けやすいだろう。そんなに遠回りになるわけでもないしな。」

「そうか。今までマフィアに散々ぼったくられてきたが、ようやく俺たちもぼったくる側になれるんだな。」

「人聞きの悪い事を言うな。今の私は健全な行商人マリアンだぞ。」


そうだった。エルメラの名前変わったんだった。他の人がいる所では名前を間違えないように呼ばないとな。キャロちゃんにも気をつけるように言っておこう。


ぎりぎり日暮れ前に本日の野営場に到着した。もうひとつ前の野営場を利用するつもりだったのだが、先を急いだ結果、遅い到着時刻になってしまった。

主街道は交通量が多いため、野営場は随分混雑している。場所は空いているだろうか。

徒歩で移動している人たちはテント泊が主流のようだ。この野営場は襲撃の心配はいらないのだろう。うちもテント泊にするか。

一番端のスペースに何とか陣取ることができたので、早速テントを設営していく。初テントだ。


今回設営するのは、二人用の山岳用テントだ。お値段が高かっただけのことはあって、初めてでも簡単に設営できた。二人用なので、コットを二つ入れるのにぎりぎりのサイズだったが。

お手頃価格の4人用テントも買っているのだが、野営場の混雑具合を見てやめた。大きすぎて邪魔になる。


キャロちゃんはアウトドアチェアやテーブルを組み立ててくれている。いつも使っているので、もう覚えたようだ。

エルメラはお隣さんに挨拶に行った。俺は性能の良い魔導ゴーレムを演じなければならないので、喋らないように気をつけなければ。表の住人は根掘り葉掘り聞いてくる奴が多いから困る。マフィアなんかの裏の住人相手なら、気を遣わなくてもいいから楽なんだけどな。裏の住人は訳有り者が多いから、他人の詮索は基本しないのが暗黙のルールなのだ。


魔導ランタンを提げたエルメラが戻ってきた。何だか困ったような顔をしている。


「アキラ、ちょっとこっち来てくれ。」


テントの陰に隠れてひそひそと話し始めた。


「何だ?俺は喋らない設定だぞ。」

「隣の老夫婦なんだが、奥方がよく喋る方でな。軽く挨拶だけするはずが、自己紹介する羽目になったんだよ。色んな国をまわって行商してるんだと言ったら、何か珍しい物があったら見せてくれないか、とせがまれてな。」

「そうか。じゃあ、何か用意しようか。」

「ギルーインの街にいる外孫に会いに行くんだとかで、孫の土産になるような物がないか?と。キャロと同じくらいの6歳の女の子らしい。」

「キャロ用に買った服でよかったらたくさんあるぞ。エルメラとペアルックのものしか着てくれないから、可愛い服が大量に死蔵している。」

「一体何着買ってるんだ、馬鹿者め。しかし、サイズが合わない可能性がないか?」

「コートとかなら大きめサイズでも問題ないだろう。寒い時期だし丁度いいんじゃないか?」

「そうか、何でもいいから適当に準備しておいてくれ。今日はもう暗いから、明日の朝見せる約束になっている。」

「分かった。いくつか見繕っておこう。ちなみに予算は?」

「特に指定はされていない。だが、あれは相当な資産家だな。王都で商会を営んでいるそうだ。もう息子夫婦に椅子は譲って引退の身らしいが。」

「金持ちか。ビジネスチャンスじゃないか。孫の土産だけで終わらせるのは勿体ないぞ。エルメラ、明日早起きしてくれ。フルメイクで商談に臨むぞ。」

「金策は王都に着いてからでいいだろうに。私は疲れたから夕食まで休むぞ。」



翌朝、エルメラを叩き起こして、早朝から時間を掛けてフルメイクをバッチリ決めた。服もエレガントな黒のワンピースにワインレッドのコートを着せて、どこかのモデルみたいになった。

別人のようになったエルメラを見て、キャロちゃんはポカンと口を開けている。エルメラの真似をしたがるキャロちゃんでも、これは真似できないと思ったのかもしれない。


「おい、ここまでする必要があるのか?こんなに気合いの入った行商人、見たことないぞ?」

「久々のフルメイクの仕事だったから、つい本気出してしまった。もう時間がないからそのまま頑張ってくれ。」


鏡を見たエルメラが文句を言っている。

服装も商談用としては何か間違ってる気がしてきたが、もう着替えてる時間はない。このまま行こう。



組み立て式のハンガーラックを準備して、子供用のコートを掛けていく。


お隣さんがやって来た。エルメラが挨拶をして対応し始める。気合いの入ったエルメラの出で立ちを見て、まず驚かれ、続いて俺が紹介された。


「あれは私の身の回りの世話をさせている『お世話魔導ゴーレム』です。特に危険はありませんので、気になさらないでください。」

「あらあら、色んな国を巡っているとおっしゃっていましたけど、本当に変わった物をお持ちですのねえ。私も商売には携わっていましたから色々な物を見てきましたが、まだ見たことのないものがこの世にはあるのですねえ。お若いのに素晴らしいですわあ。あなたのそのお召し物も本当に素敵ですし・・・」


話に聞いていた通り、よく喋る御婦人だ。一体、いつ息継ぎをしているのかと思うくらい言葉がポンポン出てくる。後ろのダンディな御主人はずっとニコニコしているだけだ。主導権を握っているのは御婦人の方か。


早速、気になった子供服を見つけたようで、マネキン代わりにキャロちゃんに着せてみている。キャロちゃんは可愛い服を着るのが決して嫌なわけではない。むしろ娯楽の少ない世界だし、カラフルな服を着るのを楽しんでいる。着せ替え人形にされてもご機嫌な様子だ。でも最後はやっぱりエルメラと同じ服を着たがる。


どうやら御婦人は、チェック柄のコートと縁取りがモコモコのピンクのコートがお気に召したようだ。そこへすっとさり気なく、それらのコートに合うようなマフラーと手袋を差し出す。追加で買わせる戦略だ。


大人用の冬物アイテムも見せて、御婦人用のブレスレットやらネックレスなどのアクセサリーまで出していった。


最終的なお買い上げ金額は大金貨12枚となった。狙い通りの大商いだ。俺は思惑通りの金策ができて内心ほくそ笑んでいた。だが、俺たちの快進撃はここまでだった。何やら雲行きの怪しい展開になってきた。


「旅の途中でこんなに良い物が手に入るとは思いませんでしたわあ。先程の真珠のネックレスも欲しいのですけど、今はあまり手持ちがありませんの。あなたは王都へ向かうとおっしゃっていましたわね?うちの商会に立ち寄ってくださらないかしら?これ、私の名刺ですの。これを出して、商会に販売しておいてくださらない?」

「え、ええ。それくらいなら大丈夫です。」

「それと食料品も良い物をお持ちのようですし、それは商業ギルド本部に卸してくださらないかしら?これ、私の商業ギルド紋章ですの。これをギルドに渡してもらえばよろしいですわ。」

「いえ、紋章まで受け取るわけには・・・」


商業ギルド関係者だったか。公的機関と関わるのはまずいな。エルメラは身分証を得たとは言え、詳しく探られると身元がバレる可能性が高い。早めに撤退しなければ。

ん?気のせいだろうか。後ろのご主人のニコニコ具合が強まっている気がする。


「まあ、そう言わずに。ここでお会いしたのも何かのご縁ですわ。ぜひギルドにお立ち寄りになって。」

「いえ、王都には長く滞在する予定もなくて、すぐ次の街へ向かいますので・・・」


エルメラが更に断ろうとすると、ご主人のニコニコ具合がやっぱり強まった。気のせいじゃなかった。ちょっと前に出てきてるし。

これは断ってはいけない。とても嫌な予感がする。俺の中の危険信号が警鐘を鳴らしている。この老夫婦、只者ではない。

どうやらエルメラも何か感じ取ったようで、目線が一瞬後ろのご主人の方に泳いだ。


「わ、分かりました。ギルドにも商品の販売を致します・・・。」

「まあ、嬉しい。王都に帰るのが楽しみですわ。」


御婦人はとてもご機嫌な様子だ。後ろの御主人もニコニコしながら頷いている。

これ以上、この人達と関わるのは危険な気がする。今すぐこの場を離れたい。


俺は急いで商品を撤収して旅支度を整えた。


「それでは私たちはこれで失礼します。お買い上げ頂きありがとうございました。」

「ええ、引き止めてしまって悪かったわねえ。そう言えば、西側から盗賊が流れてきている、という噂を耳にしましたわ。気をつけてくださいね。」



俺たちは足早にその場を離れてようやく緊張が解けた。


「ギルドの本部とは厄介なことになったぞ。」

「まさか、そこまで関わりのある大物だとは思わなかったな。」

「紋章を受け取ってしまったし、もう無視はできない。素早く用件を済ませて王都は去ろう。あの老夫婦が戻ってくるまでには必ずだ。」

「ああ、鉢合わせたくないな。あの老夫婦、ただの商売人って感じじゃないよな?」

「ああ。あの奥方、多分私と同類だ。服の中におそらく魔導銃を隠し持ってる。体の構え方がいつでも銃を抜ける態勢だった。堅気の人間ではないのかもしれん。」

「あのご主人は、ずっと俺の方を見ていたぞ。何か感付いていたのかもしれない。」


あの老夫婦からは、何だか分からないがとても恐ろしい物の片鱗を感じた。


「あの老夫婦のことは一旦忘れよう。夢に出てきそうだ。」

「そうだな。臨時収入が入ったのは事実だし、死蔵していた在庫処分もできた。良かったと思うことにしよう。」

「それより盗賊がどうとか言っていたな。次の街で憲兵にでも詳しく聞いて見るか。」


国境を越えてから気が緩んでしまっていたかもしれない。得体の知れない人物に会ったことで、久しぶりに恐怖を感じてしまった。よく考えたら暗殺者を一般人に紛れ込ませて送りこんでくる可能性だってあるのだ。盗賊も出るらしいし、気を引き締め直さねば。


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