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第15話 身分証

さて街が近づいてきた。地図によるとギルーインの街となっている。

マフィアから入手した国境越えの地図はとても詳細に書かれているのだが、この街までしか記載されていない。この国の地図も入手しなければならないな。


途中で聞き込みをして街道から外れた所にあるゴミ処理場に向かう。子供たちがゴミを運んで行く姿が見えたので、目的の場所はすぐに見つかった。事務所らしき建物の扉をノックすると、強面のおっさんが出てきた。


「何だ?ゴミを捨てたいなら外にいる奴に言ってくれ。」

「ああ、ゴミも捨てたいのだが、それは後でいい。他に扱っている商品があれば取引したいのだが。」

「・・・入れ。」


強面のおっさんは周囲を警戒しながら俺たちを事務所に入れてくれた。


「俺はマルセルと呼んでくれ。あんたらは余所者だな?街への侵入が目的だろ?ここに来るやつは大体そうだ。運賃は片道一人当たり大金貨1枚だ。」


やはりこのゴミ処理場も裏の住人が運営しているようだ。

俺は用意していたワイン5本と贈答用の高級缶つまセットをエルメラに渡した。エルメラがそれをマルセルに差し出す。


「これはボスへ渡してくれ。お前も一杯飲むか?」

「お?俺の分まで用意してるのか。折角だから貰おうか。」


俺はもう1本ワインを取り出して、2つのグラスに注いで差し出した。

先にエルメラが口をつけて飲んで見せる。一瞬、顔を顰めて横目でこちらを睨まれた。安物のワインだから気に入らなかったのかもしれない。昨日飲んだお高いワインと比べられても困る。


「この街のは不味いから俺はワインは基本飲まないんだが、こいつはイケるな。何かつまみも持ってないか?」


予想通りこの連中には安物で十分だったようだ。アルコール度数の高いものを選んでおいたのも正解だったのだろう。余分に準備していた缶つま(黒毛和牛ロースト&ズワイガニ)も出してやると、マルセルは更に機嫌が良くなった。これで交渉が上手くいくと良いのだが。


「おう。悪いな。残りのワインは夜にゆっくり楽しむぜ。で、あんたらは何が欲しいんだ?」

「身分証の販売はしていないか?」

「ああ、商品として取り扱ってるぞ。料金は大金貨20枚だ。10歳未満なら大金貨5枚。」

「それは偽造か?」

「偽造でいいのか?それなら金貨5枚だ。ただ、検問所ですぐバレるぞ?」

「大金貨20枚の方は正式な身分証なのか?」

「ああ、間違いなく『正式』に発行される身分証だ。」

「正式な方が欲しい。アキラ、金は足りるか?」

「2人分で大金貨25枚か。少し足りないな。」


これまでマフィアに買い叩かれながら金策してきた金と双眼鏡を売った金、その金額は合計約大金貨22枚。すごく足元を見られてる気がするが、偶然の価格設定だろう。

仕方がないので安物の双眼鏡を5つ差し出した。


「こいつを1つ当たり大金貨1枚分に換算してもらえないか?遠くを見るための道具で珍しい物だ。とある凄腕の冒険者はこれ一つに大金貨5枚の値を付けてくれた。」

「ふむ。確かに面白い物だな。情報収集担当の連中が欲しがりそうだ。しかし、大金貨5枚分か。うーむ・・・、分かった。いいだろう。美味い酒を貰っちまったしな。」

「ありがとう。これが残りの代金だ。」


大金貨20枚を差し出した。


「OK。確かに受け取った。では、詳細な説明をする。まず、取得するのは商業ギルド発行の身分証になる。うちの息のかかった者が潜り込んでいるんだ。」

「ああ、どこが発行していようが構わない。」

「それと名前や出自はこちらが用意したものを使う。ちなみに取得するのは嬢ちゃん2人だよな?歳はいくつだ?」

「23だ。」

「ちょっと待ってろよ。」


ゴードンは紙の束をめくり始めた。


「20代前半くらいの女は・・・こいつがいいな。名前はマリアンだ。ここから馬車で10日位の辺鄙な所にあるコルサット村の出身だ。2年前に村を出た後、馬車の事故で死亡している。身分証の取得歴はなし。」

「その女に成りすますのか。」

「村では村長が発行する出生証というものがある。村出身の者は街で身分証を得る際にこれが必要になる。こいつを偽造する。」

「なんだ、結局偽造じゃないか。」

「身分証は商業ギルドが発行する正式なものだから安心しろ。出生証は身分証を得た後は使用することはほとんどない。」

「ふむ。それなら大金貨20枚の価値はあるな。」

「そっちのちっこい嬢ちゃんは何歳だ?」

「この子は年齢が分からないんだ。」

「ふむ。7~8歳くらいということにしておくか。」


キャロちゃんは、最初に会った時は5歳位かと思ったけど、肌艶が良くなってきてからは、もう少し年上な雰囲気になったな。背は低くて小柄だけど。


「ちなみに10歳未満の料金が安いのは、村の子供は死亡率が高くて候補を用意しやすいからだ。名前も同じ名前があれば用意してやれることもある。嬢ちゃんの名前は?」

「キャロルだ。」

「ふむ。『キャ』から始まる名前はっと・・・。んー、おっ!あったぞ。キャロル。4年前に流行り病で死亡、当時4歳。身分証の取得歴はなし。さっきのマリアンと同じコルサット村出身。こいつは都合がいいぜ。二人で村から一緒に出てきたってことにしておけばいい。」

「そうか、良かったなキャロちゃん。キャロちゃんは名前を変えなくてもいいみたいだぞ?」


キャロちゃんはよく分かっていない様子で首を傾げている。でもキャロちゃんが8歳というには背が低すぎる気がするが・・・、今日からカルシウム多めの食事にするかな。


「さて、ここからが重要な話になる。偽造した出生証はすぐ渡せる。だが、街へ行くのは明日だ。今日はここの従業員用の宿舎に泊まっていけ。」

「何故だ?」

「検問所の憲兵にもうちの息のかかった者がいる。そいつのシフトが明日なんだ。今日は休みでな。」

「なるほど。」

「偽造の出生証で検問所を通過するには、必ずそいつに担当してもらわないと駄目だ。そいつには事前に連絡を入れておく。頭に赤いバンダナを巻いている憲兵だ。その列に並ぶんだ。間違えるなよ?」

「了解だ。」

「街に入ったら次は商業ギルドだ。4番窓口のフランツという男の元へ行け。痩せ型の眼鏡をかけた男だ。あとはそいつの指示に従ってるだけで、大手を振って表の街を歩けるようになるさ。」



偽造の出生証を受け取って、宿舎へと移動した。


「よし、明日には自由に街を出入りできるようになるぞ!」

「良かったな。俺の貯金、ほとんど持っていかれたけどな。」

「身分証があれば街の商会といくらでも取引できるようになる。大金貨20枚位、すぐ取り返せるさ。」

「俺はここで留守番していればいいんだな?」

「ああ。流石に辺境の村から出てきたという設定で、魔導ゴーレムを連れて歩くのはおかしいからな。明日はキャロと二人で行ってくる。アキラが街へ行くのは他の街にした方がいいかもしれないな。」

「俺は構わないよ。金策するのはこの街でなくてもいいし。明日は二人で街を楽しんで来てくれ。よーし、キャロちゃん、明日街に着て行くお洋服を選ぼうか。」

「ん。黒い服。エルメラと同じのがいい。」

「ええ~、可愛い服いっぱいあるんだぞ。エルメラも明日は違う服にするよな?流石にその黒装束で村から出てきたってのは無理があるぞ?」

「むぅ。それもそうか。あんまり派手じゃないものにしてくれ。」


キャロちゃんがエルメラと同じ服を希望しているので、『ママとお揃いで楽しめるサイドプリーツワンピース』というペアルックのものにした。ちょっと大人っぽい気がするけどよく似合ってるな。仲の良い親子に見えるだろうし、疑われることはないはずだ。



翌朝、二人は街へ向けて出発した。

俺はマジックバッグに溜まっていたゴミを捨てたり、洗濯したりしながら時間を潰した。

街を散策したりもするだろうし、夕方まで戻って来ないだろう。そう思っていたのだが、昼過ぎには二人は帰ってきた。


「随分早かったな?」

「ああ、身分証は問題なく入手できたぞ。ただ、キャロが早く帰りたがってな。」

「ごはん、美味しくなかった。」


どうやら昼飯に立ち寄った店の料理が口に合わなかったらしい。それで機嫌を損ねて帰りたいと駄々をこねたようだ。とりあえず、フルーツで飾ったフレンチトーストを作って、おやつタイムにすることにした。

キャロちゃんはメープルシロップをたっぷりかけてご機嫌になった。


「まあ、目的は果たせたんだから良いんじゃないか?で、次はどこに行くんだ?」

「この国の地図を買ってきた。次の行き先はマルセルと相談する必要がある。」



というわけで再び事務所に向かう。


「マルセル、ちょっと相談があるんだが。」


おっさんの顔のラベルのモルトウイスキー700ml入りを渡して話を切り出す。


「どうした?何か問題でもあったか?」

「いや、身分証は滞りなく入手できた。素晴らしい仕事だった。」

「おうよ。俺たちは金額に見合った完璧な仕事しかしないぜ?」

「次の目的地の相談をしたいんだ。拠点を構えて身を隠すのにお勧めの街はあるか?私は交易で栄えているような人が多くて雑多な街がいいと考えているんだが。」

「ああ、身を隠すなら交易都市は正しい判断だ。物が集まる街は急速に発展する。結果、複雑な作りの街並みが完成する。隠れるにはもってこいだ。この国で特に栄えている交易都市は2つある。東のルファール王国と交易が盛んな内陸の都市、それと海路による交易で栄えた港町だ。」

「どちらがお勧めだ?」

「どっちも身を隠すには都合がいい。選べねえな。」

「ふーむ、そうか。どちらにするかな。」

「・・・あまり客の詮索はしない主義なんだが、あんた錬金術師のエルメラ=スノウベルクだよな?」

「ああ、そうだ。よく分かったな。」

「うちの情報網を舐めてもらっちゃ困る。というより、あんたは俺たちの業界では有名人だからな。知らない方がおかしいだろ。それはそうと、あんたは魔導銃を作れるだろ?それなら内陸の都市の方をお勧めする。」

「戦争の気配でもあるのか?」

「いや、この国は平穏だ。交易相手のルファール王国の方だ。あの国は常に帝国の侵略の危機に晒されている。武器はいつでも需要があるだろう。それと内陸のほうが金属素材も入手しやすい立地だ。」

「ふむ、なるほど。」

「ただ、懸念点もある。地元のマフィアの抗争が激化していて、領主が制裁に乗り出すかもという情報がある。まだこれは噂レベルの話だが、あそこの領主は清廉潔白でマフィア嫌いで知られているからな。」

「面倒事に巻き込まれるのは避けたいな。」

「だが、チャンスでもあるぞ?こういった時に裏社会の勢力図は大きく塗り替わるからな。上手いこと立ち回れば領主に恩を売れたり、余所者でも裏の主導権を握れることもある。」

「そんなものはいらん。平穏に研究生活を送ることができれば、それで良いのだ。」

「おいおい、領主の庇護や裏の権力があれば、それこそ盤石な隠遁生活が送れるぜ?何せ、情報操作でも隠蔽でもやり放題だ。あんたら国境を越えれるぐらいなら、腕に自信があるんだろ?俺は挑戦することを勧めるぜ。面白くなりそうだしな。」

「エルメラ、俺も内陸の方がいい。魔石も安く手に入りそうだし。」

「ううむ。金属資源が入手しやすいのは私にもメリットが大きい。じゃあ、内陸の方にするか。」

「おう!頑張ってくれや。サービスで現地マフィアの勢力図の情報をくれてやろう。場所はここだ。ルーテラスタ辺境伯領、領都ルーテラスだ。」

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