第13話 それぞれの行き先
マーダーグリズリーの討伐を終えたレインが戻ってきた。
「この双眼鏡というのはいいな。索敵範囲が大幅に広がる。複数持ってるようだし、良かったら売ってくれないか?」
「ああ、構わない。どのみち、どこかの街で売るつもりだったから。いくら出してくれる?」
「そうだな。珍しい物だし、大金貨5枚でどうだ?」
大金貨!?大金貨1枚が金貨10枚に相当するから金貨50枚だと!?そんな大金をポンと出せるということは、やはり相当稼いでいる冒険者ということか。かなりの実力者だとは思っていたが、俺の中で彼らの評価が更に上昇した。
「そんなに出してくれるならもっと性能のいいやつを売るよ。こっちのは倍率の切り換えができるんだ。」
最初に渡したのは、お値段:2480魔力のお手頃価格のものだ。コンパクトで持ち運びやすさを売りにしたもので、倍率を変えることはできない。
新たに取り出したのは、お値段:15840魔力。倍率は8~24倍まで切り換え可能。そして何よりデザインがすごくカッコいい!メタリックなダークブルーカラーに惚れてポチってしまった。
使い方を説明して実際に使ってみてもらった。
「すげえ。さっきのよりハッキリ見えるし、視界が広い。それに何よりこの色がいい!こいつは最高にイケてるぜ!」
「おお、分かってくれるか!正直、双眼鏡の性能の違いなんて俺にはよく分からんのだ。結局、デザインが決め手だったんだ。このデザイン、カッコいいよな!」
レインと意気投合していると、マーダーグリズリーの解体を終えたラルフもやってきた。目的はどうやら毛皮だったようだ。
「・・・俺の分は?」
盛り上がってる俺たちを睨みながら、ちゃっかり要求してきた。
「任せろ。ラルフのはこんなのはどうだろうか?この渋めのデザインも悪くないと思って仕入れていたんだ。」
お値段:25780魔力。『伝統的なスタイルを守り抜く、正統派双眼鏡。50mmレンズが届けるライブ感。双眼鏡はこうあるべきと貫いた。』がテーマらしい。鈍いメタリックブラウンの渋さが光る逸品だ。
「こいつの倍率は10~22倍でレインの物より少し劣るが、完全防水仕様で雨の日でも使える。あと、専用のケースとかネックストラップとか附属品がついてる。」
「うむ。悪くない。」
「ああ、いいんじゃないか。俺、ラルとお揃いとか嫌だから。違うやつにしてくれ。」
「ただ、お値段がちょっと高かったんだ。大金貨8枚でどうだろう?」
「問題ない。払おう。」
「ああ、ラルは実家が貴族の家でボンボンだから。金額は吹っ掛けても問題ないぞ。」
「レイン、お前は黙っていろ。」
双眼鏡は気に入って頂けたようだ。街に着いたらどこかで売って金策しようと思ってたから助かったな。思わぬ臨時収入を得ることができた。できればマフィアを通しての金策は避けたい。買い叩かれるのはもう御免だ。
「そうだ。丁度、昼飯にするところだったんだ。良かったら二人も食べていかないか?簡単なものしかできないが。」
おにぎりだけで済ますつもりだったが、何か適当に作るか。この二人がいるなら周囲の警戒は不要だろう。
冒険者が好きそうな料理というと、ジャーマンポテトはどうだろうか。スパイシーでジャンキー味わいは、冒険者が好みそうな気がする。うむ、冒険者はきっとジャーマンポテトが好きなはずだ。街ではジャーマンポテトばかり食べてるに違いない。奴らの主食は絶対にジャーマンポテトだ。きっとそうだ。
俺の中の冒険者像が固まったところで、早速調理開始だ。
ブロックベーコンとソーセージをオリーブオイルで炒めておく。次に、フライパンにバターを溶かしてジャガイモを並べ、蓋をして3分程加熱する。その間に玉ねぎとニンニクを切っておく。ジャガイモを裏返し、上に玉ねぎ、ニンニクを広げて蓋をして再び3分程加熱する。アウトドアスパイスで味付けして、炒めておいたベーコンとソーセージも混ぜる。味変用に粒マスタードも添えて完成だ。
コンソメスープとバゲットの残ってたやつも出しとくか。
飯を用意している間、エルメラはラルフと何か話しているようだった。まだ疑われてるのか?大丈夫かな。胃に穴が空いてたりしないだろうか。晩飯は胃に優しそうなものにするか。
キャロちゃんはレインから何か教わっている。
「そうだ。それを毎日続けるんだぞ。」
「ん。分かった。」
「おーい。飯できたぞ。」
「おお~。美味そうな匂い。こんな山奥でまともな飯が食えるとはなあ。」
「大したものじゃないけど食っていってくれ。キャロちゃんも少し食べるか?」
既におにぎりを食べたキャロちゃんも欲しそうだったので、少し取り分けてあげた。
「あああ~。久々のまともな飯はうめえなあ。」
「・・・だが、アキラは食えないんだよな?」
「ああ、俺は作るだけだ。食べれるのは魔石だけだな。」
「これを食えないのは気の毒だよなあ。」
「でも自分の肉体があった頃は、料理なんてほとんどしなかったんだ。飯を作るのが趣味になったのは、この体になってからなんだよ。不思議なもんだよな、人生って。」
調理器具を片付けながら話を聞いていると、彼らはまだ数日この山に滞在するらしい。本格的な冬が来る前に、この時期のこの山で採取できるものを全て採取するのが目標なんだとか。ちなみにマーダーグリズリーもターゲットの一つだったらしい。
「嬢ちゃんがマーダーグリズリーを見つけてくれたから、依頼が一つ片付いたな。お手柄だったな。」
レインが機嫌良く、キャロちゃんの頭を撫でている。汚い手で触るのは止めて頂きたいものだ、このロリコン野郎。
「じゃあ、俺たちは山頂方向に向かうとする。良い物を譲ってもらって感謝する。」
「飯美味かったよ。ご馳走さん。道中、気を付けろよ。」
「こちらこそ、良い取引ができたよ。路銀に困ることはなさそうだ。ありがとう。」
冒険者組と別れて俺たちは川沿いの山道を下っていく。
「やれやれ、飯まで出してやる必要はなかったんじゃないか?こっちはどこかでボロが出ないかとヒヤヒヤしたぞ。」
「すまないな。だが、双眼鏡をいい値段で買ってくれたしな。何か礼をしたかったんだ。」
「レインの方はともかく、ラルフはまだ疑っていたぞ。アキラが飯を作ってる間、さりげなく探りを入れられた。いつから追われていたのか、とかな。」
「飯で懐柔は無理か。ベテラン冒険者は手強いな。」
それからの道中は大きなトラブルもなく、予定通りの日程で下山することができた。
「さて、地図によるとここから最寄りの村まで約2日となっているがどうする?」
「村には特に用事はないからスルーだな。街のゴミ処理場を目指そう。」
「他にマフィアと接触できそうな場所がないもんな。」
「この国のマフィアの働きにも期待だな。」
「きっと完璧な身分証を用意してくれるさ。いくら金がかかるか知らんが。」
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エルメラ一行が街を目指して数日経った頃、依頼品の収集を終えたレインとラルフは国境検問所の事務所を訪れていた。
「すまない、冒険者をやっている者だ。バルテラ王国のブラックリストを提供してもらえないだろうか?」
二人は冒険者証を差し出す。
「Aランク冒険者のラルフ=ルーテラスタ様とレイン様ですね。確認致しました。冒険者証をお返し致します。ご希望の手配書はございますか?」
「そうだな・・・。この一年の間に王宮が発行している手配書を全て欲しい。」
「王宮発行ですか?ここは王都から離れておりますから、この辺りにターゲットはいないと思いますが・・・。」
「大物狙いなんだ。地方の小物を狩っても金にならないからな。」
「なるほど。流石Aランク冒険者様ですね。すぐに準備致しますのでお待ちを。」
指名手配書の束を受け取って検問所から離れる。二人で手配書を捲り続け、レインが1枚の手配書で手を止めた。
「おい、ラル。この女、顔立ちが似てないか?」
「確かに。髪型でかなり雰囲気は違って見えるが・・・。エルメラ=スノウベルクか。」
「罪状は王宮魔法師の殺人罪だとよ。」
「だが、不自然な罪状だ。王宮勤めなら貴族の出身のはず。被害者の個人名まで記載されるはずだ。」
「確かに他の犯罪者の手配書には被害者の個人名、もしくは家名の記載があるな。窃盗やら器物破損やら、つまらん罪状ばかりだが。貴族ってのはこんなことでいちいち目くじら立てるんだな。」
「貴族は面子を重視する。被害者側の家がスノウベルク家を責め立てるためには、最低でも被害者の家名を公開しないといけない。」
「何か事情があって公開しなかった、又は公開できなかったか。」
「まあ、その辺りは考えても憶測の域を出んな。しかし、俺たちが会った『イライザ』とこのエルメラが同一人物だった場合、犯行の際の状況は推察できる。」
「国の秘密を知って追われてる最中に、迎撃して殺してしまった・・・か。」
「そう考えるのが自然だろうな。」
「どうする?追って捕らえるか?」
「いや、必要ないだろう。俺たちが会ったのは、研究材料にされた者や行き倒れた少女に手を差し伸べる『イライザ』だ。」
「そうだな。捕らえればあの二人は行き場がなくなるもんな。」
「それよりも、隣国が王国公認で非人道的な研究を行っていることの方が問題だ。こちらのラフタリア王国にも、そのうち何らかの悪影響が及ぶ可能性がある。」
「それは俺たち冒険者の仕事の範疇を超えてるだろ。」
「ああ、手に余る。・・・久々に実家に帰るか。」
「なるほど。ラルの親父さんや兄貴なら何か手を打てるか。」
「上に報告するだけしかできないと思うがな。それでもラフタリア王国側でも周知しておくべき案件だろう。」
「じゃあ、次の行き先は決まりだな。」
「ああ、領都ルーテラスへ向かおう。」




