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第12話 化け物

細い尾根道をエルメラが先導し、キャロちゃん、俺という並びで進んでいく。


30分も経たないうちにキャロちゃんの足は止まってしまった。


「アキラ、抱っこ。」

「疲れちゃったかな?でもよく頑張ったな。ここまで歩けるとは思ってなかったよ。」


数日前までひどく衰弱していたのだ。思っていたよりも長く歩いてくれた。少しずつ体力をつけていけば良いのだ。無理をするのは良くない。それに、キャロちゃんが足を踏み外して斜面に落ちないだろうかと、ヒヤヒヤしながら見ていたのだ。ようやく安心して絶景の稜線歩きを楽しめる。


「キャロちゃん、寒くないか?」

「ん。だいじょぶ。」

「そうか。雪がないのが幸いだな。」

「ゆき?」

「うん。ほら、あの高い山の天辺のあたりが白くなってるだろう?あの白いのが雪だよ。あれが降るとすごく寒くなるんだ。」


遠くにとんでもなく大きな山がそびえ立っているのを指差す。その迫力のある山に比べると、今登ってる山はそれ程標高の高い山ではないようだ。


「なあ、エルメラ。俺たちがいた国は雪は降らないのか?」

「降るぞ。もうすぐ本格的な冬がくるが、バルテラ王国はそれなりに積もる方だぞ。そうなっていたら今回の国境越えは、より厳しいものになっていたな。」

「キャロちゃん、雪を見たことがないらしいんだが。」

「ずっと閉じ込められていたのだろう。売られる前の子供の奴隷の扱いなんてそんなもんだ。」


キャロちゃんは奴隷商館で生まれ育ったのだろうか。外に出たことはほとんどないのかもしれない。これからいろんな物を見て経験して欲しいものだ。


「そうだ。キャロちゃんにこれをあげよう。双眼鏡だ。これを覗くと遠くまで見えるぞ。」


キャロちゃんは受け取った双眼鏡を覗いて、しばらくは不思議そうにキョロキョロしていた。やがて使い方に慣れたのか景色を楽しんでいるようだった。



キャロちゃんを抱っこしたまま先へと進み、今日の野営場に到着した。


「明日から明後日のルートは、またマーダーグリズリーの生息域に入るぞ。だが、ここさえ抜ければ難所はもうない。」

「嬉しそうだな。隣国に入ったら何か予定があるのか?」

「うむ。まず、偽名で身分証を得ることができないか、マフィアに相談してみようと思っている。」

「それができれば普通に暮らすこともできるな。」

「問題はアキラだ。お前は身分証を得ることはできん。取得時に顔を見せろと絶対言われるからな。」

「そうか。だが、俺も考えていたことがある。エルメラが作った性能の良い魔導ゴーレムということにしておけばいいんじゃないかと思ってるんだ。そうすれば、身分証なしでも街へ入れるんじゃないか?」

「開き直ってしまうわけか。ふむ、私が同伴することが前提となるが、悪くない案だ。」

「いけるかな?」

「喋るのは流石にまずいかもしれんが、いけそうな気がする。禁制の品でもない私物を取り上げるようなことはしないだろう。」

「検問所では黙って機械的な動きをするようにしておくよ。」

「そうなると、私とキャロの身分証の取得が次の目的になるな。」


この世界の表の街を普通に歩けるようになるかもしれない。希望が見えてくると明日からの難所越えも頑張れそうな気がしてきた。

しかし、今は飯の準備が最優先事項だ。キャロちゃんが調理器具を並べ始めてる。


「キャロちゃんも一緒に作ろうか。」

「ん。ぐらたん。」

「グラタンが気に入ったのか。じゃあ、今日はトマトグラタンにしよう。」


フライパンで作るお手軽グラタンのトマトバージョンだ。


ベーコン、ナス、エリンギをオリーブオイルで炒める。火が通ったらトマト缶、水、コンソメ固形タイプを入れて煮詰める。マカロニを入れて茹で上がったらチーズを大量にのせて完成だ。好みで粗挽き黒胡椒をかけても良い。

作り過ぎてしまったが、余ったら翌朝のホットサンドの具材にするので問題ない。


この二人は黙々と食べるので、いまいち食の好みが分からない。とりあえずキャロちゃんはグラタンが好きだということが分かったので、覚えておくことにしよう。初めて自発的に自己主張してくれた気がする。少しずつ心を開いてくれれば良いと思う。



翌朝、気持ちが良いほどの快晴だった。

だが、ここから本格的な下山ルートに入る。険しい岩場を降りれば、また魔物が跋扈する森の中だ。警戒しながらの行軍になるので、今日は早めの出発だ。キャロちゃんを背負って俺が先導し、魔導銃を担いだエルメラが後に続く。

雨が上がった後は魔物の動きは活発になりやすいらしい。やたらゴブリンの集団と遭遇した。エルメラと共に魔導銃キャメロンで蹴散らしていく。

そして、目印となる川に到着することができた。ここから先は川に沿って下っていくことになるので、もう迷うような心配はないだろう。今日も懸念していたマーダーグリズリーと遭遇しなかったのは幸運だ。


「ここで昼休憩としようか。」

「そうだな。このまま行けば今日の野営場には、早めに着きそうだ。」


川辺に座って、準備していたおにぎりで昼食だ。だが、のんびりとした昼休憩にはならなかった。


「あんたら、こんな所で何をしている?」


突然、声を掛けられた。咄嗟に声の方に魔導銃キャメロンを向けると、そこには細身の20代半ばくらいの男がいた。俺は魔物を警戒してあちこちに視線を送っていた。にも関わらず、声を掛けられるまで全く気付かなかった。


「ああ、悪いな。そう警戒しないでくれ。俺は冒険者をやってる、レインだ。そっちはラルフ。」


指を差された方にももう一人、同年代くらいのガッチリした筋肉質の男がいた。背には両刃の大きな剣が見える。

『冒険者』と聞いて、ここに来るまでに会った3人組の若者冒険者を思い出すが、この二人は明らかに相当な実力者だと分かる。マフィアの地図ではここから最寄りの集落まで、徒歩で5日はかかることになっている。こんな山奥まで二人で来れるのは只者ではない。


返答に迷っていると、エルメラが会話を繋げてくれた。


「アキラ、銃を下げてくれ。失礼した。私は『イライザ』という者だ。バルテラ王国からこちらの国へ亡命の途中なんだ。」

「亡命?子供連れで?この山道の危険度を知らないのか?」

「この子は途中で死にかけてるところを拾ったんだ。こんな幼い子を一人で置いていけないだろう。」

「そうか。で、何をやらかしたんだ?」

「王宮の地下で禁忌に触れる内容の研究が行われてる現場を見てしまった。それで国に追われることになった。」

「・・・ラルフ、どう思う?」

「そっちの仮面の奴は何故顔を隠している?」


まずいな。疑われてる。今の俺達はどう見ても不法入国者だ。エルメラが殺人犯の賞金首だとバレたら終わりだ。俺は下手に口を開くべきではないか。エルメラに任せよう。俺はチラッとエルメラの方を見た。


「それは王宮で作られた魔導ゴーレムだ。さっき言った王宮で行われている研究の産物の一つだ。人間の魂が入れられている。」


俺はフードと手袋を外して肉体がないことを見せた。被害者アピールをして同情を誘う作戦でいこう。


「俺はアキラという者だ。気付いたらこんな体にされていたんだ。」

「おいおい、なんだこりゃ。バルテラ王国はこんなもん作ってんのか!?」

「嘘は言っていないようだな。まあ、あれだ。気の毒だったな。ここから集落まで結構距離があるが、護衛は必要か?」

「いや、問題ない。そちらも仕事でこんな山奥まで来ているんだろう?邪魔をしたくはない。我々は自力で下山できる。」

「そうかい。まあ、山を越えてもまだ余裕がありそうだし大丈夫か。だが、この辺りはマーダーグリズリーの縄張りだ。奴は魔導銃では太刀打ちできんぞ。早く下山することだな。」


どうやら疑いは晴れたようだ。エルメラの機転に感謝だ。そこにキャロちゃんが会話に入ってきた。


「大きいくまさん見つけた。」


双眼鏡を覗いていたキャロちゃんがとんでもないことを言い出した。


「どこだ?マーダーグリズリーか?」


冒険者二人がキャロちゃんが見ている方角を警戒し始めた。


「見えないぞ?」

「ああ、これを使ってくれ。双眼鏡というもので遠くの物が見えるんだ。」


俺はマジックバッグから双眼鏡を取り出して差し出した。ついでにエルメラにも渡しておいた。


「おお、こいつはすげえな。目の前にマーダーグリズリーがいるみたいだ。今なら先制できるぞ。仕留めてしまおう。すまんが、これ少し貸してくれないか?」

「ああ、いいぞ。」


二人が消えるように森に入っていった。


「キャロ。よく見ておけ。おそらく一瞬で終わるぞ。あれが魔物を狩るプロだ。」


エルメラはキャロちゃんと双眼鏡を覗いて観戦している。俺も気になって一緒に観戦することにした。

でかい熊だ。どうやら食事中のようで、鹿らしきものに齧りついている。と、思ったら突然首から鮮血が吹き出した。更にラルフが一瞬で移動してきて、大剣を振り下ろしていた。熊の首が落ちるまであっという間だった。


「あの熊と冒険者、どっちが化け物なのか分からんな。」

「どっちも化け物だぞ。あの熊も魔力で身体強化を行っている魔物だからな。半端な攻撃では傷もつけられん。」

「なあ、エルメラが賞金首だとバレてたら、やっぱりアウトだったのか?」

「冒険者は賞金首がいると分かれば狩りに来るぞ。基本的には魔物狩りや採取の専門家だがな。他国の手配書までは流石に目を通していなかったのだろう。命拾いした。」


追手を振り切ってもう安全だと思ってたら、もっとヤバい連中がいるじゃないか。


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