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第11話 山頂へ

俺はキャロちゃんを抱っこしたまま走り出した。エルメラもマジックバッグとキャメロンを拾って走り出す。

エルメラのコットだけは仕舞う時間がなく、置いてきてしまった。


「いくらなんでも追いつかれるのが早すぎないか?」

「やはり、広範囲の探知魔法で追われてるのだろうな。マフィアが裏切ったとは思えないしな。」


地図によるとこのまま川沿いに上流方向に少し進むと、岩を足場にして川を越えらるポイントがあることになっている。


「よし、この川を越えたらイライザで足場の岩を爆破する。それで時間を稼げるだろ。」

「うむ。それは良いアイデアだ。」

「エルメラが先に渡ってくれ。」


目的の場所にはすぐに着いた。マフィアから買ったこの地図は実に正確だ。

岩を飛び移って川を渡っていく。先に川を渡りきったエルメラが、キャメロンを構えて対岸へ発砲し始めた。振り返る余裕もないが、もう追手がすぐそこまで迫っているのだろう。あ、今俺の背中に何か当たった。矢でも飛んできたかな。キャロちゃん背負ってなくて良かった。

俺は対岸に渡ると同時に半身だけ振り返りイライザを構えた。イライザは発砲時の反動がないため、片手でも撃てる。川を渡り始めた追手の足場に狙いを定めて発砲する。岩が派手に爆破され、狙い通り追手の足を止めることができた。先頭を渡っていた奴は川に落ちて流されている。


「アキラ!早く走れ!魔法が来るぞ!」


エルメラが発砲をやめて山道の奥へと走り出した。何だかよく分からんが、エルメラの焦り具合からまだ危機が去っていないことを察して俺も後に続く。直後、俺の隣に生えていた木が爆発した。

咄嗟に抱っこしていたキャロちゃんを庇ったので、彼女は無事だった。その後も背後で爆発音が続いていたが、何とか逃げ切った。


「はぁっ、はぁっ・・・。」


エルメラは肩で息をしている。


「何とか逃げ切ったな。」

「・・・足場はどの程度破壊できた?」

「岩2つ分位だったと思う。」

「川、渡って来ると思うか?」

「流れの速い川だったから泳いで渡るのは無理だろうし、それこそ魔法で橋でも掛けないと無理だと思う。」

「楽観視はできんな。他に渡れそうな場所があるかもしれないし。」

「そもそも国境ってどこなんだ?奴らは国境を越えることはできないんだろう?領土侵犯とかで。」

「明確には決まっていないと思う。山を挟んで国境と言われるから、山頂まで着いて下山ルートに入れば国境を越えたことになるんじゃないか?」

「地図の通りに進んだとして山頂に着くのは3日後か。」

「野営ポイントを一つ飛ばして進もう。」

「体力持つのか?」

「キャロを背負って私を抱えて走れないか?」

「それだと魔物と遭遇した時に対応が遅れるぞ。」

「私が抱えられた状態でキャメロンを撃とう。」

「分かった。やってみようか。」


このエルメラの策はなかなか上手くいった。魔物の気配のない時はエルメラは抱えられた状態で休息もとれていたし、抱えられた状態での発砲も問題なかった。また、運が良い事に昼前に遭遇した大鹿のような恐ろしい魔物が現れなかった。こうして昼夜走り続け、2ヶ所目の野営ポイントは小休憩だけにして、3ヶ所目の野営ポイントに辿り着いた。既に日付も変わって深夜になってしまっている。


「よし、追手は絶対にこの速度で行軍することはできないし、今日はゆっくり休めるな。」

「ああ。だが、ここから先は抱えて進むのは無理だぞ。地図によると岩場や急な斜面をよじ登るようなポイントが結構あるみたいだ。」

「これだけ引き離せたなら問題ないだろう。ここからは予定通り進んでいこうか。」


エルメラはコットを置いてきてしまったので、新しいコットを購入してあげた。キャロちゃんの分も並べて組み立てておいてもらおう。


さて、俺は飯の準備だ。キャロちゃんが俺の足元で腹ペコの舞を踊り始めている。

レトルト惣菜も色々と購入してあるのだが、キャロちゃんにはできるだけ料理する姿を見せておきたい。料理が簡単に出てくるというのは、この世界では非常識なはずだ。勘違いされると教育上よろしくない。


というわけで、短時間でできるお手軽料理。今回はフライパンで作るお手軽グラタンにしよう。

パン粉をオリーブオイルでカリカリに炒めておく。鶏もも肉をバターでこんがり焼いて、玉ねぎ・マッシュルームを加えて炒める。茹でておいたマカロニ、ブロッコリー、ホワイトソース缶を投入して煮詰める。ピザ用チーズをのせて溶けてきたら、炒めておいたパン粉を散らして完成だ。


キャロちゃんをコットに座らせて、取り分けたグラタンを冷ましながら口に運んであげていると、雨が降り始めた。


「む、雨か。」

「隣にタープ張るか。出来上がったら移動してくれ。」

「山は天気が変わりやすいし、強くなるかもしれんな。」


小雨のうちにタープは張れたのだが、だんだん雨足が強くなってきた。


「明日の出発までに止んでくれれば良いが。」

「雨装備を渡しておこう。キャロちゃんの分もあるぞ。」


『宿泊登山におすすめ』と書かれた上下セパレートタイプのレインウェアを選んだ。防水性、透湿性、撥水性と三拍子揃ったハイスペックレインウェアだ。レインコートや被るだけのレインポンチョは登山には向いていないらしい。商品説明を色々と読んで学んだのだ。


「これは動きやすくていいな。雨用のローブは銃が構えにくくなるから好かんのだ。」

「だが、明日は足場が悪い所を進む予定だぞ?予定通り進めるかどうか。」

「確かに足場は悪くなるが、良いこともあるぞ。雨の日は魔物もあまり動かなくなるのだ。」

「そいつは有り難いね。あのでかい鹿みたいなのには、もう会いたくないよ。」

「既にかなり山の深い所まで来ているからな。マフィアが警告していたマーダーグリズリーのテリトリーに入っている可能性もある。だが、このタイミングの雨なら遭遇せずに済むかもしれん。」

「熊の魔物か・・・。」


マフィアが護衛は無理だと匙を投げて警告するほどだ。よほど危険度が高い魔物なのだろう。遭遇せずに済むことを祈るしかないな。


雨は夜通し降り続け、朝になって雨足は弱まったものの止む気配はなかった。

雨の中の強行軍の始まりだ。岩場や木の根は濡れるととても滑りやすくなる。俺はキャロちゃんを背負っているので、絶対に転倒するわけにはいかない。慎重に進む俺とは対象的に、エルメラは山歩きに慣れている様子だ。足場が悪いことを感じさせない足運びですいすい進んでいく。


岩場の斜面をよじ登ったところで木々はなくなり、開けた場所に出た。もうすぐ山頂だ。相変わらず石がごろごろ転がっていて歩きにくいが、ここまでくればもう一息だ。


何とか日暮れまでに野営ポイントまで辿り着いた。大きな岩に囲まれていて、風除けにも身を隠すにも丁度いいな。


「やっと着いたな。」

「やはり雨の中は体力を持っていかれるな。」

「そう言う割には歩き慣れてる感じだったぞ?」

「学生時代に狩猟クラブの連中と付き合いがあったからな。時々、誘われて山に入っていたのだ。私も自分で作った銃を実戦で使ってみたかったんだ。」

「山歩き経験者だったか。」

「ここまで山の深いところまで登ったのは初めてだがな。」


ひとまずタープを張って、二人には休んでおいてもらおう。

エルメラにキャロちゃんの着替えをお願いして、俺は晩飯の準備だ。

雪は降っていないが、山頂だから冷え込んでいるはずだ。温かいものがいいだろう。疲労回復効果のありそうなスタミナ鍋にするか。鍋物のセットもたくさん購入した記憶がある。ショッピングスキルの購入履歴を検索して良さそうなものを探す。

ニンニクを効かせたモツ鍋にしよう。今回は塩とんこつスープだ。『今だけ限定つくねがオマケで付いてくる』と書かれていて買ったやつだ。俺が買った鍋物セットは、全部何かしらオマケで増量されている商品ばかりだ。貧乏癖でお得感のあるもの優先で選んでしまった。そんなわけで2人前の鍋セットだが、量が多いかもしれない。余ったら朝食の雑炊にするかな。


鍋セットの説明書に従って、モツを下茹でしておく。後は鍋にキャベツ、ニラ、豆腐、ニンニク、鍋セットの附属品をぶち込んで完成だ。鍋は楽でいいね。


3人で鍋を囲む。俺はキャロちゃんの分を取り分けて冷ましてあげる役だ。その隣でエルメラがもりもり食べ進めていく。キャロちゃんが鍋とエルメラを交互に見ながら心配そうな顔をしている。大丈夫、キャロちゃんの分がなくなったりはしないよ。流石に2人前を一人では食べきれないはず・・・。


「これは寒いところでは体が温まっていいな。」

「うむ。寒い季節の定番料理だな。」

「快適な登山だな。追手が現れた以外は、ここまで順調だしな。」

「それもこれもマフィアから買った地図のおかげだろう。こいつは完璧な登山計画書だ。マフィアの仕事の完璧さには恐れ入るよ。」

「アキラの支援にも助かってるぞ。正直、私一人ではこの山越えは無理だったな。」

「まだ気は抜けないけどな。下山ルートも魔物の巣窟だぞ。」


温かい鍋は好評だった。キャロちゃんもご満悦の様子だ。締めのラーメンまで美味しそうに食べてくれた。


「キャロは大分元気になってきたようだな。」

「明日はキャロちゃんも歩ってみるか?天気が良くなればだが。」


キャロちゃんの歯を磨いてあげながら尋ねてみたが、彼女はコックリコックリと舟を漕いでいて返事はなかった。



夜の間に雨は止んだようだ。


翌朝、キャロちゃんを山歩き用装備に着替えさせて、一緒に岩場の外に出てみた。


「絶景だな。」


山の頂上から見渡す景色は素晴らしいものだった。昨日は霧がかかってたから景色はよく見えなかった。まだ少し霧は残っているが、それが逆に幻想的な景色を演出している。

この山を登ってきたのかと思うと感慨深いな。反対側を見ると、これを下山しなければならないのかとうんざりするが。


ここから先はしばらく尾根伝いに歩くことになる。道幅は狭いが、比較的歩きやすいはずだ。キャロちゃんにもこの絶景を見ながらの稜線歩きを楽しんでもらおう。

見通しがいいから魔物が現れてもすぐ対処できる。そもそも両サイドは斜面になってるから、魔物が駆け上がってくることはないだろう。注意すべきは鳥の魔物らしいが、魔導銃の格好の的でしかない。エルメラの腕なら難なく撃ち落としてくれるだろう。


明日からはまた過酷な下山ルートに入るが、今日だけは今回の山越え旅を楽しむとしよう。


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