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第1話 転生~逃走

初投稿です。よろしくお願いします。更新は不定期になります。

「・・・・・・・・・!・・・功だ!」

「・・・・・ね!状態も・・・・・ます!」


何だ?意識がぼんやりしている。俺は寝ていたのか?


「まだ、分からんぞ。前回はぬか喜びに終わったんだからな。」

「しかし、この成果は大きな前進ですよ!」


周りが騒がしいな。何やら興奮したような声が聞こえるが、俺は一体どうしたんだ?


「直に覚醒するはずだ。」

「しばらくは経過の記録ですね。」


意識がはっきりしてきた。

そうだ、俺は休日に趣味のクレー射撃をしていたんだ。・・・そこから記憶がないな。ここはどこだ?


「後は書き込んだ情報が正しく作動するかだな。」

「そうですね。余剰スペースはミトラ大陸語の言語情報と精神制御の魔法陣しか書き込めなかったですからね。」


ミトラ大陸語?精神制御の魔法陣?何の話をしているんだ?そういえば聞き慣れない言葉が聞こえるが、何故か理解できるな。


「魂を呼び込むだけでスペースのほとんどが埋まってしまってるからな。これ以上サイズを大きくはできないしな。」

「こればかりは仕方がないですね。」

「魂を入れてしまえば大量の情報を書き込まずに済む。素晴らしい発案ですよ。」

「この博士の発案以上の方法はありませんよ。単純な動きしかできない魔導ゴーレムに大量の情報を与えるには。」

「うむ、最初から知能を持った状態で覚醒するわけだからな。学習能力もあるだろうし、足りない部分はこれから習得してもらえば良いのだ。」


・・・さっきから寝たふりをして周りの会話を聞いているのだが、すごくファンタジーな言葉や不穏な言葉が飛び交っている。

しばらく聞いた会話の内容をまとめると、性能の良い魔導ゴーレムを作って暗殺者に仕立て上げよう!ということらしい。でも性能の良い魔導ゴーレムを作るにはたくさん情報を書き込まないといけない。そんなことはできないから、魔導ゴーレムに人間の魂を放り込めば最初から知能を持った状態になるのでは?という計画のようだ。


これは異世界転生というやつだな。ドッキリではなさそうな気がする!だって体の感覚がないんだもん!

いや、動くことはできそうなんだ。ただ、気温を感じないし、触覚や嗅覚が働いていない。そして何より、俺は呼吸をしていない。


「おかしいな。もう覚醒しても良い頃なのだが。」

「魂の定着に時間がかかってるのかもしれませんよ?」

「起動はしているんだ。落ち着いて待とうじゃないか。」


どうやら、いつまでも寝たふりをしているわけにはいかないようだ。俺は頃合いを見計らって視覚に意識を向けてみた。


・・・知らない天井だ。周りにはおっさんが数人見える。


「おお!覚醒したぞ!」

「暴れるかもしれん!精神制御をリンクさせろ!」


上体を起こして自分の体を見てみる。全身金属になっている。ある程度予想していたからか、割りと冷静でいられている。


「俺はどうしたんだ?ここはどこだ?」


言葉も発することはできるようだ。自分が発した声とは思えない、全く聞き慣れない声だが。


「おお!喋ったぞ。書き込んだ言語情報も正常に作動しているようだな。」

「精神制御のリンク完了しました!博士、何か命じてみますか?」


俺の質問を無視して会話を進めるなよ。

ぽっちゃりしたおっさんが赤黒く光る立方体の物体を博士と呼ばれた人物に渡している。

精神制御?会話の内容からして俺を洗脳でもするつもりなのか。リンクしたとか言ってるけど普通に動けそうなんだが。まあ、情報が不足している状況だし、茶番に付き合ってみるか。


「よし、立ち上がってみてくれ。」


言われた通りに立ち上がってみる。目線が高いな。身長は2メートル近くありそうだな。


「次は壁際まで歩ってみてくれ。体の動かしにくい箇所はないか?」

「問題ない。体は正常に動く。」


洗脳されてるっぽい状況なので、問いには短めに答えることにした。それにしてもこの金属の体はよくできている。作り物とは思えないほど動かしやすい。以前の自分の肉体よりも馴染んでいる感じすらある。


「動作確認は問題ないな。次は質問だ。君の名前を教えてくれ。」

「・・・覚えていない。」


嘘です!ばっちり思い出せます、前世の記憶!でも、このハゲのおっさんに情報をくれてやるつもりはない!


「ふむ。では覚えていることは何かあるかな?どんな生活をしていた?」

「美容師として働いていた。」

「美容師?とはどんな仕事なんだ?」


しばらく質問が続いたが、記憶が曖昧な様子を装って適当に答えておいた。




「博士、ヘルマン伯爵との面会時間が近づいてます。」

「よし、今日はこれで終わるとしよう。伯爵には良い報告ができるな。ウェンリー、今日の記録を報告書に纏めておいてくれ。ジョイナスは経過の記録を続けてくれ。精神制御のコアは渡しておくぞ。他の者は帰って良い。」


ジョイナスと呼ばれたおっさん以外は部屋から出ていった。

チャンス到来だ。こんな所で研究材料にされるなんて御免だ。何とかここから脱出したい。


「じゃあ、質問を続けるよ。君は武術の経験はあるかな?」

「ない。」

「やっぱりないかぁ。民間人って言ってたもんね。一から訓練して身につけてもらうしかないね。じゃあ次は・・・」


質問はしばらく続き、記録を書き続けていたジョイナスが席を立った。

追加の記録用紙を取りに行ったようだ。こちらに背を向けている。やるなら今しかない。


素早く一気に距離を詰める。金属音の足音でジョイナスはすぐに気づいたようだが、言葉を発する前に俺の拳骨がハゲ頭に直撃していた。

ゴスッ!という鈍い音と共にジョイナスはその場に崩れ落ちる。手加減したつもりだったが、頭が陥没している。全力でやっていたら頭を粉砕していたかもしれない。この体、やはり相当スペックが高そうだ。


もう後には引けない。急がねば。しかし、どうしても必要な物がある。この魔導ゴーレム計画の資料だ。特に俺の設計図は入手したい。体が破損したら修理しなければならないだろうし、メンテナンスも必要かもしれないのだ。

急いで室内を物色していく。

おそらくジョイナスの物と思われるカバンがあったので拝借する。カバンの中身はいらないので、この国の通貨と思われる硬貨が入った袋以外は捨てておいた。資料は全て持っていきたいところだが、持ち出せる量には限りがある。重要そうな資料だけを厳選しなければ。精神制御のコアと呼ばれていた赤黒く発光する立方体も持っていくか。


残念ながらこの部屋には資料はあまりなかった。おそらく資料室は別の部屋なのだろう。

慎重に扉を開き、通路の様子を伺う。人に遭遇したら相手には申し訳ないが、素早く制圧しなければ。


人の気配はなさそうなので、隣の部屋から調べることにしよう。扉をノックをしてみると、中から返事が聞こえてきた。扉をノックし続け、相手が出てくるのを待つ。


「ジョイナスか?勝手に入ってくればいいだろう?どうしたん・・・」


扉の陰に隠れつつ、部屋から出てきた相手の口を塞ぎ、通路に引っ張り出して拳骨をお見舞いする。その場に崩れ落ちた相手は無視して部屋の様子を伺う。この部屋にいたのはどうやらこいつ一人のようだ。倒れたおっさんを引き摺って部屋に入る。おっさんのネームプレートにはウェンリーと書かれていた。確か、報告書を纏めるように命じられていた人物だ。


部屋の中は棚が多数あり、紐で綴じられた紙束が多数収められていた。机の上も書類の山になっている。どうやらこの部屋が資料室のようだ。

机の上の資料から目を通してみた。ウェンリーが先程まで書いていたと思われる報告書を見ると、被検体No.487の記録と書いてある。詳しく読んでいる時間はない。机の上の被検体No.487に関する資料を片っ端からカバンに詰め込んでいく。


部屋の奥に扉があったので注意して開けてみた。ロッカールームようだ。奥には仮眠室だろうか、パーテーションで仕切られて小さなベッドが2つあった。

金属の体では目立ってしまうので、ロッカーの中から服を拝借して着ておいた。一番サイズの大きそうな物を選び、ローブを羽織ってフードを被る。サイズが少し小さいが手袋もあった。顔はどうしても隠せないな・・・。鏡があったので自分の顔を見てみる。仮面を被ってるように見えなくもないかな。しかし、改めて自分の顔を見ると、俺はもう人間ではないのだという現実を突きつけられる。思わずため息が出てしまうが、落胆している場合ではない。

大きめの肩掛けカバンを拝借して、再び資料室に戻り資料漁りを再開することにした。


棚に収められた資料はほとんど理解できない内容のものばかりだった。とりあえず丁寧に製本されているものや立派な表紙の本などを中心に回収することにした。小一時間かけて膨大な資料の中から、被検体ごとの資料が順に収められた棚を見つけた。その棚の一番最後、被検体No.487の資料を見てみる。

ようやく見つけた。俺の設計図だ。前回の被験体の反省から、新たに改良された情報などの記載もある。


必要な資料は手に入れたし、早くこの場から立ち去らねば。あ、靴履いてなかった。倒れているウェンリーから靴を脱がして履いてみる。踵部分を踏んでスリッパみたいな履き方になってしまったが、無いよりマシだろう。大きいサイズの靴、どこかで手に入るかなあ。


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