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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
偽物の不断節季
9/35

調査結果

 部屋の片隅で蹲っているラージニイ。

 私は優しく声をかける。

「ラージニイ……ご飯できたけど、食べる?」

 ラージニイは答えなかった。

「……」

 何を言えばいいかわからない。私は部屋を出ようとすると、ラージニイが言ってきた。

「姉ちゃん、俺、兄ちゃんに何も言えなかった……」

「……」

「もし……俺があのとき兄ちゃんって叫んでれば……兄ちゃんは、助かったのかな……」

 涙を流すラージニイを私は思い切り抱き締める。折れてしまうくらい強く抱き締める。

「ごめんね、ごめんね……」

 謝ることしかできなかった。

 ラージニイは私の手を離そうとも、抱き締めようともせず、ただ力なくそこにいるだけだった。

 ノースエンドの出来事から1週間が過ぎた。

 俺達は1度ウェストエンドに戻ったあと、トゥウに報告し、調査のために集められた兵士達とともに俺とカユウは再びノースエンドへ向かった。ミーゼは足の怪我の治療とラージニイのためにウェストエンドに残り、ブライトもミーゼの手助けのためにトゥウにお願いし、ミーゼと一緒に残ることになった。

 小さいとはいえ一国が火の海になればさすがに他国は動き出す。今は各国が協力して灰になったノースエンドの調査をしている。生存者はいないとされ、骨になったヒトビトを埋葬する日々。

「よし、これで最後だな」

 シャベルを置いて汗を拭い、永遠と感じた作業の終わりに少しだけ喜びを感じながら墓石に刻まれているルイスの名を読む。

「ラム・リバイバル・ルイス……」

 ラム・リバイバル……。

「終わったのかい?」

 後ろから声をかけられた。

「ああ、カユウか。北側の調査は終わったのか?」

 トゥウも南側の調査をしているが、まだ戻ってきていない。

「うん。トゥウから言伝があってね、先にウェストエンドに戻っててもいいってさ」

「そうか……」

 やっと帰れると思い体を伸ばす。

「んー、1週間ぶりに我が家に戻れるぞっと」

「そうだね」

 終わりの風が吹く。ここにもう残る必要はないと思うと、気持ちが少し楽になる。

「……カユウはさ、あれがイーストエンドの仕業だと思うか?」

「さあね。怪しいやつならあと3人ぐらいいるから、まだ確定はできないな」

「ミーゼの言ってた『ラプラスの王』ってやつと『ピグラ』のことか? あとは……」

「『君』だよ」

「……は?」

 少し驚くと、カユウが笑いだした。

「ごめんね。こう言えばナイトが驚くと思ったんだ」

「びっくりしたー。マジで疑ってると思ったわ」

「でもあのとき君だけ単独行動だったからね。僕達じゃなかったら君も真っ先に疑われてると思うよ」

 カユウの言うとおりだ。

 もしこれが付き合いの短い仕事仲間とかだったら、俺も容疑者の1人だっただろう。

「それよりも、僕はなんでラズム達があんなに豹変したのか気になるな。誰かの仕業なのはわかりきっているけど、方法がわからない」

「……色力(しきりょく)って可能性は……」

「それはないだろうね。色力(しきりょく)は体には影響するけど、精神には影響しない。それは君自身も言ってたことだろ」

「そうだったな」

 いつ言ったかは思い出せないので、ほんの些細な雑談でもしてたときのことなのだろう。そんなことまで覚えているとは恐ろしい男だ。

「あ、これさ。残ってたから持ってきたんだ」

 ポケットから出してきたのは半分だけ焼け残っている紙幣だった。

「助け合いとか節約とか言ってたけどさ、心の中ではラズムも他の人達もこれに執着してたってことなんだよね……」

「……」

 カユウが手を離すと、紙幣は風に乗ってどこかに飛んでいった。

「帰るか……」

 リェゼルの馬車に乗り、いつもよりゆっくりとウェストエンドへ戻った。



 翌日の昼頃にウェストエンドに着きカユウを家に送ったあと、ブライトが待っている我が家へと戻る。

 1週間ぶりに見る自分の家は、心の中で大きな存在から小さな存在へと変わっていた。

「ただいまー」

 ドアを開けるが、返事はなかった。昼時なので、もしかしたら外食に行っているのかもしれない。

「そうか、いないのか……」

 大きく息を吐き、今までのしかかっていた重責が一気に解放する。だが、次に来たのは大きな疲労感。立つのが辛くなるほどの。

「ねえ、アンタ大丈夫なの?」

 馬小屋の前にいるリェゼルが言ってきた。

「殺し合いなんてものを見たからな……」

「そう……」

 俺は重い足を動かしてリェゼルのもとへ。

「少しだけ……話を聞いてくれないか?」

 リェゼルは何も答えずその場に座り、俺はその大きな腹に頭を置いて横になる。

「辛いのね?」

「見切りをつけたから、前ほどではないが……それでも……心に来るものがある」

「そう……」

「こういうとき、昔の人間(ニンゲン)は眠りにつくことで心身共に回復していた。今それができないのが少し残念だ」

 睡眠時間がなくなり、活動時間が増えて生物としてはもっと上の存在へと成り上がっても、精神は何1つ成長していないのが、大きな悩みだ。

「悪いな。こういうときだけ頼りにして」

「いいのよ。誰だって弱音を見せられる相手が必要よ。アタシだってよくミーゼに弱音の見せ合いをしてるし」

「そうなのか?」

 初めて聞いた。

「みんなそうよ。でも、ちょっと不満があるわ。アタシじゃなくてブライトに弱音を吐きなさいよ。強がってないで膝枕でもされてきなさい」

「それは……、難しいな」

「どうして?」

「だって……立場的にさ。わかるだろ?」

 いつも頼られる側なので、あまり情けない姿は見せたくない。

「アホくさ。いつまで兄貴ぶってんのよ。もうアンタ達は大人よ大人。対等なの。だから頼ったって何も恥ずかしくないわ。ブライトがアンタを頼ってるようにね」

「うーん……」

 ダメだ。やっぱり恥ずかしい。

「はあー、アンタって柔軟な考えができるのに、なんでブライトのことになると堅物になるのかしらね」

「すまん……。だが、俺のことを1番理解してくれてるのはお前だ。だからこうして頼ってしまうんだろうな」

「……まあ、そう言われると悪い気はしないわね」

 だけどそろそろ離れた方がいいな。ブライトだっていつ帰ってくるかわからない。

「そういえば、1つだけ訂正したいことがあるんだ。ノースエンドに入る前に話したこと覚えているか?」

 ノースエンドに入る前、リェゼルは俺が殺生したあとのことを心配してくれた。

「ああ、罪悪感がどうとかの話しよね」

「俺はすぐに解決すると言ったが、あれは間違い、いや、愚かな決めつけだった。俺は何も変わっていない」

 ヒトの心は変わりやすい。些細なことで変化する。だが、心の底から思うもの、根が張られたものは簡単には変えられない。ノースエンドでそれを身に沁みて学んだ。

「だが、念の為言っておく。俺の考えに変更はない」

 立ち上がって、リェゼルと目を合わせる。

 俺の固い決心がリェゼルに伝わったことだろう。

「そう……わかったわ」

 すると、遠くから声が聞こえた。

「あ、ナイト! 帰ってたんだね! おかえりなさい」

 紙袋を2個持ったブライトが笑顔で帰ってきた。

「随分買い込んだな」

 重そうだったので、代わりに俺が持つことに。

「うん。ちょっと料理してみようかなって思って」

「え……」

 衝撃の発言を聞いた気がする。

 ブライトはそのままリェゼルのもとへ。

「リェゼルもおかえり。大変だったでしょ。リンゴ買ってきたからたくさん食べてね」

「ええ、遠慮なく食べさせてもらうわ」

 ブライトはそのあと家に入ったが、俺は動けなかった。

 あのブライトが、料理? いつも俺に任せっきりだった料理を、ブライトがする?

「ナイトー、何してるのー? 早く入りなよー」

「ああ……」

 やっと動けた俺は、家に入るまでに心の中で呟いた。

 神様、いや、地球、ありがとう……。



「で、何を作るんだ?」

 どういう心境の変化か知らないが、とりあえず聞いてみる。

「ふふふ、それは見てからのお楽しみってね」

 笑いながら紙袋から出る食材を隠すブライト。

 ちくしょう! さっき見とけば良かった!

 いつもの表情でコーヒーを飲むが、心の中はめちゃくちゃだ。さっきまでリェゼルにあんなこと話しておいて……。

「じゃあナイトは自分の部屋で待っててね」

 背中を押して俺を部屋に入れるブライト。

「……なんだろうな。少しだけ楽しみだ」

 普段あまり使わないベッドに横になり、枕に顔をうつ伏せの状態で置く。

 俺がいつも作ってる料理の中のどれかか。それとも何か違うものなのか。

「あれ? ちょっと待てよ……」

 なんかちゃんとした料理想像してるけど、ブライトって料理できるのか?

「そういえば、あいつ火加減とかちゃんとわかってるのか!」

 俺はドアを開けようとするが、寸前で躊躇う。

 待て待て。落ち着け。ここで出ればブライトの機嫌が損なう。でも気になるなあ。ドアを開けてしまえばブライトの機嫌が損なう代わりに俺が料理の仕方を教えられる。開けなければ意味不明なこの世のものとは思えないグロが出てくる可能性が高い。それはブライトに恥をかかせてしまう。

「……いや、違う……開けなくていいんだ」

 ヒトは体験することで教えられる時よりも大きく成長することができる。

 そうだ。ここで開けず、グロが出てきても、ブライトが恥をかいても、その失敗から成長できる。もしかしたら、リベンジと思ってこれから料理を積極的にしてくれるかもしれない。

「……よし」

 俺はベッドに座ってそのときを待つ。

 それから1時間。ようやく扉は開いた。

「ナイト、できたよ……なんで座禅なんか組んでるの?」

「いや、ちょっと精神統一を……」

 グロを食べるにも勇気がいるのだ。

「おかしなナイト。ほら、早く食べよう」

「そうだな」

 俺がベッドから立ったときだった。

「あ、ちょっと待って」

 そう言ってブライトが俺の後ろに回った。

「おい、何するんだ?」

「えへへ、テーブルの前までお楽しみー」

 ブライトの手が俺の目を覆って何も見えない。

「そういうことか、いいぞ」

 たとえグロだろうと、1時間の座禅によって磨き上げた俺の心には問題ない。

「はい! どうだ!」

 さあ、来い!

 俺は初めてブライトが作った料理を見る。それは――

「……」

「えへへへ、どう? 私が作ったステーキ」

 ……ああ、そうだな……。

「よく出来てるじゃないか……、うん、ちゃんと焼けてるし……、うん、うん……」

 思ったよりずっと美味しそうなステーキだな。

「なんか嬉しくなさそうだね……」

「いや、心の準備をしてたのに、ちゃんとした料理が出てくるとさ……」

 正直言ってあれだけ考えてたのがバカらしくなってくる。

「もしかして失敗すると思ってたの!? そうなんでしょ!」

 やべ!

「グロが出るとは考えてない! 本当だ!」

「ウソ! ナイトって嘘つくときそうやって急に聞いてもないこと言うもん! 私の料理をグロって考えてたんでしょ!」

 グロまで言ってしまったのは失敗だった。

「もう知らない!」

 機嫌を損ねたブライトはプンプンと怒りながら自分のステーキを食べ始めた。

「い、いただきます……」

 俺も喉に通る気がしなかったが、食べることに。なんとか全て腹に入れることができたが、全然味わえなかった。

「なあ、もう許してくれよ。俺が悪かったって」

 皿洗いしながら謝るが、ブライトはそっぽむいたままだ。

「ほら、肩揉んでやるからさ。機嫌直してくれよ」

「冷たい! 手濡れたままでしょ!」

「あ……」

 やっちまった……。

「……ぷ……」

「?」

「ぷ、ふふふ……ははは……」

 怒られると思ったが、ブライトは逆に笑い出した。

「あはは、はー良かった。ようやくいつものナイトに戻った」

「……は……?」

 何を言ってるのかさっぱりわからない。

「やっぱり気づいてなかった。ナイト任務が始まった日からずっと変だったんだよ」

 俺が……変?

「今とは違って凄い冷静で真剣だったし、まるで別人みたいだったもん。リーダーの責任感からってやつかな? あ、それにラージニイ達に自己紹介したときに私を使って上手く取り入ろうとしてたでしょ?」

「……バレてたのか」

「当たり前でしょ。何年一緒にいると思ってるの」

 それでもやっぱりバレてるとは思わなかった。意外とブライトも鋭いな。わかった上で演技してくれてたってことか。

「もしかして、たまに変だったりするのか、俺は?」

「うん。学生のときさ……ほら、カユウ達と初めて森の中でサバイバルした最初の授業、あのときもナイト凄い静かだったし、試験のときとかもそうだったよ。家にいるときとは違うから苦手なんだ、真剣なナイトは。さっきみたいにオロオロしてた方がナイトらしいもん」

「そ、そうか……」

 そんなに違うのか。自分ではわからないものだな。

「でも、ちょっと頼りにもなるんだ……」

「え?」

「ノースエンドのときさ、人が争ってる姿見て凄く辛かった。()()()()()()()()()()だったけど、やっぱりああいうのは慣れない。でも、冷静に判断するナイトを見てると、少しだけホッとするんだ」

 ブライトはブライトなりに俺のことをちゃんと見てくれているのか。

「あーあ、私もナイトみたいになりたいなー」

「俺みたいになっても困るが、ブライトだって変わってるぞ。早く成長したい気持ちはわかるが、焦っちゃダメだ。それだと、自分の欲しいものは見つからないぞ」

「そうだね……」

 ブライトから離れて皿洗いに戻る。

「ねえ、1つ聞いていい?」

「なんだ?」

「ナイトさ、辛くないの?」

 またそれか。

 俺はさっきのリェゼルの言葉を思い出していた。

『アタシじゃなくてブライトに弱音を吐きなさいよ』

「……平気じゃないが、蹲っててもしょうがないから体を動かしてるだけだ」

 俺は何故か辛いとは言えなかった。嘘でもブライトに弱音を吐きたくなかった。

「そっか……私と同じだね。私も、平気じゃない。だけど何かしなくちゃいけない。そう思ったんだ」

「だから急に料理なんかやり始めたのか」

「……バレちゃった?」

「そりゃあ普段しないことをしてたらな」

「でも料理って凄い難しいんだね。ナイトの真似したのにいつも食べてる味が全然しなかった」

 まあ、細かいところまでは見ただけじゃわからないからな。

「初めはそんなものだ。ゆっくりやっていけばいい。むしろ初めてであの出来なら良い方だ。俺なんか最初は失敗ばかりでよく食材を無駄にしてた。だから自信を持て」

「ありがとう」

 皿洗いが終わり、一息つく。

「なあ、ミーゼとラージニイの様子はどうだった?」

 本当は聞きたくなかったが、聞かなければならない。

「……ミーゼは多分大丈夫だと思う。ラージニイがいるからだと思うけど、今はラズムの代わりになろうと頑張ってる。ラージニイの方は……時間がかかりそうかな」

「そうか……」

「カユウの方はどうだった?」

「こっちはいつもどおりだった。カユウには変化がない。調査も頑張ってたみたいだしな」

「そっか……」

 コーヒーを口に含む。

 まだみんな壁に当たっているが、これから登っていくことだろう。ヒトの心は誰かによって救われることもある。さっきの俺がそうだったように。



 ラージニイの様子を直接見たかった俺は、ミーゼの屋敷にブライトと行くことにした。

 ドアをノックしてしばらくすると、ミーゼが出てきた。

「あれ? ブライトどうしたの? 忘れ物かしら? ナイトも帰ってきてたのね」

「ナイトがさ、どうしても来たいって言うから」

「悪いな。で、調子はどうだ?」

 包帯の巻かれた右足を見る。

「順調に回復してるわ。あと数日ってところかしらね」

「そうか……」

 相変わらず凄い生命力だな。1週間ちょっとで骨のヒビって治るものじゃないだろ。

「とにかくあがって。今紅茶用意するから」

「あ、それなら私がやるよ」

 そういえばブライトがここに残ってたのはミーゼの手伝いのためだったな。

「いいわよ。動いてないと落ち着かないから私は」

 リビングに案内され、大きなテーブルの前に座る。

「バーモンはまた『サウスエンド』に?」

「ええ。もうお父さんの役目みたいになってるもの。何年も前から留守が多くなったわ」

 つまり、橋渡し役はほとんどあのヒトになっちゃったってわけか。

「ラージニイの様子はどうだ?」

「ラージニイは……」

 ミーゼの顔が暗くなる。

「どう言えばいいのかしら……。最初は泣いたりご飯は食べなかったりで悲しんでいたのだけど、最近は泣くこともないし、ご飯はおかわりするぐらいちゃんと食べてるのに、それ以外はずっと部屋にこもってる状態が続いてて……。立ち直ってるわけじゃないのはたしかなんだけど……」

「まあ、1週間で立ち直れるわけないよな。でもご飯はおかわりするか……」

「どうしたのナイト?」

 もしかしたら……。

「なあ、数時間ラージニイと2人だけにしてくれないか? ちょっと外に連れていきたい」

「はあ!? アンタ何言って――!」

「まあまあまあ、ここは俺に任せてみろって」

 俺は勝手にリビングを出て、2階に上がる。

「ここか?」

 1つの部屋を指さしてミーゼに聞く。

 ミーゼは答えようとしなかったが、ブライトに「大丈夫じゃない?」と言われると、少しだけ黙り込んだあと、頷いた。

「じゃ、入るぞー」

 部屋に入ると、汗だくのラージニイが腕立て伏せをしていた。

「え、ナイト……」

 やっぱりか……。

「来い。ちょっと遊びに行くぞ」

「ちょっと――!」

 ラージニイの腕を引っ張って部屋から出る。

「じゃあ少しだけ借りてくぞー」

 2人の間を通り過ぎて屋敷を出る。

「ナイト! ちょっと手を離して。どこに連れてく気?」

「面白いところだ。考え事するならぴったりだぞ」

「それどういう……」

「いいから来い。俺を信じろ」

 そう言って俺達は少しだけ準備をしたあと町を出た。

「これが……面白いところ?」

「ああ、面白いだろ? 考え事ならこれがぴったりだ」

 俺は釣り糸と川を見ながら言った。

 すると、ラージニイは竿を置いて立ち上がる。

「こんなの全然楽しくない! からかってるつもりなら俺は帰る!」

 そう言って戻ろうとするラージニイに俺は言った。

「なあ、兄の(かたき)討ちがしたいなら、手伝ってやろうか?」

 ラージニイは足を止め、俺の方を振り向いた。

「したいんだろ? (かたき)討ち」

「なんで……」

 知っているんだ? という顔をラージニイはしている。

「大体は勘だ。お前が(めし)はおかわりするほど食べるって聞いたあと、目を見て確信に変わった」

 部屋にこもっていたのは、自分を鍛えるためだろう。だが、1人で身体を鍛えるのは大変なことだ。比較対象がいないからな。何を学べばいいかもわからない。

「目?」

「俺は今のお前の目を、鏡で見たことがある。そのときにそっくりだ」

「鏡……」

 ラージニイはわかっただろう。俺が誰のことを言っているのか。

「だから手伝ってやろうと思ったんだ。お前の復讐を」

「……」

 ラージニイはさっきの位置に戻り、竿を握る。

「どうやってやるの? まだ誰が犯人なのかすらわからないんだよ」

「焦るな。まずやることは相手を探すことじゃない。お前が強くなることだ。話はそれからだ」

「……俺の修行ってこと?」

「そうだ。ミーゼにも頼んでお前に戦い方を教える。ただし、ミーゼにはこのことは言うな。復讐が目的なんて言ったらアイツは絶対に賛成しない。その前に自分がラージニイの代わりにやる、とか言い出しかねない」

 ミーゼはそういうところは自分だけでやろうとするからな。

「じゃあ、なんて言えばいいの?」

「そこは自分で考えろ。復讐以外でミーゼが納得できる言い方でな」

「……わかった」

 すると、俺の釣り糸が引っ張られた。

「おっとっと!」

 竿を引っ張るが、魚は逃げてしまった。

「ありゃりゃ……今日はダメかな」



 そのあと、俺とラージニイはミーゼの屋敷に戻った。結局魚は1匹も釣れなかった。

 ノックをすると、ドタドタと足音が聞こえたあと、ミーゼが出てきた。

「やっと帰ってきた。心配したわよ」

「ははは、悪いな。でもちゃんと帰しただろ?」

「ラージニイ、何か変なことされてないでしょうね」

「うん、大丈夫。それと……」

 少しだけ躊躇ったあと、ラージニイはその言葉を口にした。

「ただいま……」

 その言葉を聞いた途端、ミーゼはラージニイを抱き締めた。

「うん、おかえり……」

 離さないように、離れないように、力強くも慈愛に満ちた抱擁だ。

 ミーゼにこれ以上心の負担を負わせるわけにはいかないからな。ラージニイにとっては復讐という辛い人生になってしまうが、それでも何もできなくなるよりは良いだろう。

 屋敷からひょっこりと出てきたブライトを見て、帰るように促す。

 ブライトは静かに頷いてこちらに来た。

 しばらく2人だけの時間にした方がいいだろう。あの空間に俺達は邪魔だ。

 

 

 城のある1室。

 中に入ると、ノースエンドから帰ってきたトゥウが資料を見ていた。

「おや、どうしました? 今日はお休みのはずですよ」

「家にいても暇だからね。それに、ちょっと聞きたいこともあって……」

「聞きたいこと?」

「ノースエンドの調査結果、どうなったのかなって」

 気になりすぎて来てしまった。

「そういうことですか。全員集まってから伝えようと思いましたが、まあ問題ないでしょう。今回、気になった点がいくつかありました」

「気になった点?」

「遺体の解析結果によると、北側と南側では死亡理由が違うようです。北側はあなた達の言ったとおり、住人同士による刺殺、殴打、失血死や焼死など様々ですが、南側は全て死亡理由が拳によるものなんです。ミーゼがピグラという頭がへこむほどのパンチを持つニンゲンと戦ったと言っていたので、おそらくその方の仕業でしょう」

「え、それって――」

 僕は考えたくなかったことが頭から再び出てきた。

「それと、あなたが言っていたルイスの屋敷の地下にあるトンネルの件ですが、やはり南東の方に向かって掘られていました」

「……じゃあ……」

「今回の誘拐事件は、あなたの言うとおりイーストエンドによるものでしょう。攫われた子供はイーストエンドにいる可能性が高いです」

「そうか……、参考になったよ。ありがとう」

「いえ、お役に立てたならよかった。今回、報告を見た限りあなた達の動きには正しいこともありましたが、誤りも多かった。そこは反省してください」

「そうだね。確かに諜報活動としては赤点だったよ。僕もそう思う。じゃなきゃあんなことにはなってなかったかもしれないしね」

 防ぎようのなかったことかもしれないが、それでも少しぐらいは助かってほしかったな。

「すみません。あまり説教とかは好きじゃないのでもう何も言いません。他に聞きたいことはありますか?」

「僕はもう帰るよ」

 出口へと歩き出す。

「トゥウも仕事しすぎてないで、たまにはゆっくりしたら」

 ドアを開けて部屋を出る直前僕は言った。

「ええ、わかっていますよ。帰り気をつけてください」

 笑って僕が出ていくのを見るトゥウ。あれは帰るつもりがないね。

 廊下で僕は考える。

 今回、ノースエンドの出来事はイーストエンドだけによるものではない。

 ミーゼが戦ったピグラ、そしてラプラスの王。この2人は一体何者なんだ?

 いくつもの謎を残したまま、僕達は先に進むことになった。

次回予告

「……アンタ、どこまで――」

「国というのは統治者だけでは成り立たない」

「なーにしてるのかなー?」




「無責任の代償」

勝利満足度 50

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