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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
王の迷走
4/35

変わる距離感

 日が出て森全体が朝日に照らされると同時に、ゴールがある南へと向かった。

「それにしても私達運がよかったね」

 ブライトの言う通り、俺達は運が良かった。

 昨日カユウが星を見て南の方角を確かめたとき、その前にミーゼが適当に歩いた方向が少し東にずれているだけだった。

 本当に運が良かっただけだが、一応俺達はゴールに近づいていたのだ。

「さすが私ね。わからなくても直感で理解していたんだわ」

「調子に乗らなくていいよ。本当にまぐれだったんだから」

「いいえカユウ、運も実力のうちというでしょう?」

「チェッ、ちょっと運が良かっただけのくせにさ」

 昨日のことをまだ根に持っているカユウは、今回のことはつまらないと思っているだろうな。

 もし真逆の北にでも向かっていれば今度はカユウがミーゼを煽ることができていただろうに。

「そういえば昨日の話をするけど、ナイトとブライトは一緒に暮らしてるのよね」

 唐突に話を変えるミーゼ。

「ああ、そうだが、それがどうした?」

「それおかしくない? 普通親のいない子供は養子として引き取られるか、孤児院で生活するはずでしょ? なんでアンタ達は2人で暮らしてるのよ」

「そのことか、簡単な話だ。養子に引き取ってもらったあと親と別々に暮らしてるんだ」

「そんなことできるの?」

「普通なら無理だろうな。でもミーゼも知ってると思うがこの国の王様、ちょっとずれてるところあるだろ? 感動的な話でもすればすぐに許可してくれたよ」

「ああ、なるほどね。確かにそれならできなくはないか……で、アンタ達を引き取った人は誰よ」

「トゥウですよ」

「え! トゥウ様⁉」

 ブライトがトゥウの名前を出した途端、ミーゼの態度が豹変した。

 というか今トゥウのこと様付けしたな。もしかしてミーゼって……。

「あっれぇー、なんで様なんか付けてるのさミーゼ?」

 ミーゼがしまったというように口を手で押さえるがもう遅い。

 いじれるネタができたとわかったカユウはミーゼに悪意のある笑顔で近づく。

「なんで黙るのさミーゼ? あれ、なんでこっち見ないのミーゼ? どうしたんだいミーゼ?」

 仕返しする気満々のカユウにミーゼは頬を赤らめながら顔を逸らすことしかできていない。

「なになに、もしかしてミーゼ、トゥウのこと――」

「おい! それ以上言ったらぶっ飛ばす!」

 好きという言葉だけは絶対に言わせまいと、カユウの顔を右手で掴むミーゼ。

「いててててて、そんなに怒るなよぉミーゼ。余計面白くなるだろ」

 今にも頭蓋骨を握りつぶされそうなのに、カユウはまだミーゼを煽る。

「ちっ、こんな話するんじゃなかった」

 後悔するミーゼだが、カユウはもうしばらくこのネタでミーゼを馬鹿にするだろう。

「ねえねえナイト、トゥウって結構有名人なの?」

 ブライトが耳元で小さな声で聞いてきた。

「トゥウはこの国の兵士の中でも能力がずば抜けて高くないとなれない『シールド』っていう役職なんだ。シールドは今現在2人しかいなくて、トゥウはその1人だ」

「へえー、そんな凄い人なのにナイトにこき使われてるの?」

「別にこき使ってるわけじゃ……」

 確かにここ最近頼ることが多いが、別にこき使うほどではない、と思う。

「てかアンタどういうことよ? トゥウさ……シールドに養子で引き取られるなんて滅多にないことよ」

「いろいろあるんだよ、俺にも……」

 ここでじいちゃんの名前を出しても変な風に俺の見方を変えられそうなので言わないでおく。

「ほらカユウ、ミーゼ、じゃれてないで早く行こうぜ」

「「じゃれてない‼」」

 2人とも息ぴったりじゃないか。

「とりあえず先急ぐぞ。そろそろ他の生徒がゴールし始めててもおかしくない」

 ミーゼとカユウも睨み合いながら歩き出す。

 それにしてもこの森はどこまで広がっているんだろうな。

 感覚的に20キロは歩いたと思うのだが、それでも森から出ることはない。

 すると、右から気配がしたので警戒しながら視線を向ける。

 ブライト達も俺の変わりように気付き、同じ方向を見る。

「何かいるな」

 何かはわからないが、森の中で出会うのは動物か俺達と同じ生徒のどちらかしかない。

 少しだけ近づくと、茂みの中からピンク色の頭のようなものが見えた。犬のような耳があるので、おそらくこの森にいる動物だと思われる。

「なにあれ? 犬? 狼? 変な色ね」

 ミーゼの言うとおり、ピンク色の動物なんて珍しいものだ。

 頭の大きさからして犬だと思われるそれは、茂みから体全体を出してきた。

「……犬みたいだね。随分へんてこりんですけど」

「いや、これ人形だろ。僕似たようなの見たことあるよ」

 出てきたのは手の平サイズの犬の人形だった。

「てかおかしいでしょ。なんで人形が動いてるのよ」

「「「たしかに……」」」

 おそらく色力で操られているのだろう。つまり誰かがこの人形を動かしていることになるが、それらしい人影は見当たらない。

「ちょっと触ってみましょうか」

 人形に触ってみたいと思ったのだろう。ブライトが人形に手をのばす。

「うわっ!?」

 すると、人形はブライトに飛びかかってきた。

 危険だと感じたミーゼはすぐにブライトの前に入り、色力(しきりょく)を込めて赤くなった拳を人形にぶつける。

 衝撃に耐え切れなかった人形の中から綿が飛び出した。

「たく、もう少し警戒しなさいよね。あとちょっと遅れてたら大変だったわよ」

「ごめん……」

 ミーゼのおかげで助かったが、さてこの人形は一体なんなのか。

 俺は綿が飛び出した人形に触る。

「大丈夫だ。もう襲ってこない」

 人形を3人のところに持っていく。

「多分色力、他色系(たしょくけい)で操られてたんだろうな」

 人形に色力はもうなく、さっきよりもピンク色が薄くなっている。

「でも誰がこんなもの……」

 気味悪そうに人形の耳をつまむミーゼ。

 すると、後ろ、つまり人形が出てきた場所からまた気配を感じた。

 後ろを見ると、今度は20体程の人形の頭が見える。

「……逃げるぞ」

 人形の顔が出た瞬間、俺達は逃げることを決断した。

 南に向けて全速力で走る。

「ちょっとあれ数多すぎだろ! マジで誰なんだよ」

「いいからカユウ走れ! 追いつかれるぞ!」

「ブライト遅いわよ! もっと速く!」

「これ以上は無理です!」

 後ろを見ると、人形達が俺達を追っかけている。

 かわいい動物の人形のはずなのに、ここまで怖く見えるものなのか。

「しょうがないわね。ブライト!」

 そう言ってミーゼはブライトの手を握る。

「ほら、アンタ達も!」

「達ってなにが」

「私に掴まりなさいって言ってんのよ! どこでもいいから!」

 俺とカユウはミーゼのマントを握りしめる。

「振り落とされないようしっかり掴まってなさいよ!」

 ミーゼは足に色力を込めたあと、信じられない速度で走り出した。

「すげぇ、これ何キロ出てんのさ」

「いいからカユウ黙ってなさい! 舌噛むわよ!」

 俺はもう一度後ろを見る。人形達は追いつけないと思ったのか、もう追ってくることはなかった。

 だが、ここで止まればまた襲ってくるだろう。

 しばらくすると、前の方から光が見えだした。

「あれ、もう森から出たの?」

「じゃああそこを出ればゴールってこと、ナイト?」

「いや、森を出ればゴールなんて先生達は言ってなかった。もしかしたら少しゴールからずれてたのかもな」

「え、じゃあ戻らなくちゃいけないってこと?」

 焦るブライトだが、それはまだ早い。

「いや、まずは先に行ってみるのが一番だと思うよ。怖いけど、違っていたら引き返せばいいだけだし」

「俺もカユウと同意見だ。まず森を出てみよう」

 森から出ると、そこにあったのは3メートルほど開かれた崖とボロボロの木造の橋だった。

 ミーゼは止まりブライトの手を離したので、俺達もマントから手を離す。

 崖の底は霧のせいで見えない。

 橋の反対側には看板が立っているが、俺達から見えているのは裏側で何が書いてあるのかはわからない。

「普通こういう場所の看板って注意書きがしてあるもんだよな?」

「そうだね。赤い字で渡るなとか書かれてそう」

 ミーゼとカユウも同じような考えのようだ。

 俺もあの看板には注意書きが書かれてあるとしか思えない。

「じゃあ引き返すの?」

 確かに危険だが、橋を渡った先にも森が続いているのでここで引き返すのは無理だろう。

 横を見ても、これ以外に橋があるようにも思えない。

 もしあったとしても、それが古くない橋だという保証もない。

「渡るしかないな。問題は誰が一番最初に行くかってことだが……」

 一番最初に渡るニンゲンは安全性を確かめるだけでなく、生贄でもある。

 当然誰も自分から行こうという者はいない。

 たが、ここでゆっくりしている時間はない。人形がまた襲ってくる可能性だって十分ある。

「よし、俺が最初に渡る。まああとは適当に決めてくれ」

 話し合ってカユウ、ブライト、ミーゼの順番で橋を渡ることになった。

「よし、じゃあ行くぞ」

「気をつけてねナイト」

 心配そうな顔でブライトは言った。

 ゆっくりと一歩だけ橋を踏み入れる。

「え? うわっ⁉」

「ナイトっ!」

 たった一歩踏み入れただけで橋は壊れ、バランスを崩し落ちそうになった俺をカユウが手を掴んでくれたが……。

「重っ!」

 重さに耐えきれなかったカユウは俺と一緒に落ちてしまう。

「カユウっ!」

 今度は後ろにいたブライトがカユウの手を掴んでくれたが……。

「重っ!」

 ブライトも耐えきれず落ちてしまう。

「ブライトっ!」

 ミーゼがブライトの手を掴み、地面に腹を乗せることでなんとか耐えきる。

 というか重いって言われたんだけど俺そんなに重かったっけ?

「グッ!」

「て、手を離してミーゼ! じゃないとミーゼも落ちちゃう!」

「そんなことできるわけないでしょ……! みんなでゴールしなきゃ意味ないかもしれないんだから……」

「ミーゼ……」

「だから助けるんだよ! それでみんなで一緒にゴールする! わかった?」

「う、うん、わかった!」

 正直意外だな。ミーゼがこういうこと言うニンゲンだったなんて……。

「おーい、ちょっと感動的なこと言ってるところ申し訳ないんだが……」

 カユウが笑いを堪えながら言う。

「もう足ついてる」

「「え?」」

 カユウの言葉に2人が下を見る。

 そう、俺もカユウも地面に足がついている。

 霧のせいで深く見えたが、実は2メートルぐらいしかないどうということもない溝だったのだ。

「……」

「いてっ! ちょっとミーゼ急に手を離さないでよ。お尻打っちゃった」

 お尻に手を当てて痛そうに立ち上がろうとするブライトに俺は手を差し出す。

 ミーゼはさっきの言葉が恥ずかしかったのだろう。顔を真っ赤にしている。

「こんな浅いなら橋なんて渡る必要もないじゃん。紛らわしいなぁ」

 ブライトが怒りながら言う。

「多分、昔ここには川が流れていたんだろうな。それが干上がって今は橋だけが残っているんだろう」

「じゃあこの霧はなに?」

「それは俺にもわからない。でも有害かもしれないから早く向こうに行ってしまおう」

「うん、ほらミーゼ、いつまでも恥ずかしがっていないで行こう」

「……うん」

 ブライトが優しくミーゼに寄り添う。

 2メートルの壁を上り、また森の中へ。

 ただ、その前に少し確かめたいことがある。

「ナイトどうしたの?」

 看板の前に立ち止まる俺を見て、ブライトが先に進もうと言ってくる。

 俺が何も言わず立ち止まっているのを見て、不思議に思った3人は駆け寄ってくる。

「これ、読んでみろよ」

 俺は3人に『ドッキリ大成功‼』とレザム先生の顔が書かれてある看板を指差す。

「「「ふんっ!」」」

 3人は看板を思い切り殴り、粉々にした。

「……行くわよ、さっさとゴールして先生殴ってやる」

「「さんせーい」」

 ……ま、そうなるよな。

 おそらくさっきの人形も先生のものなのだろう。

 ゴールした後先生がどうなるのか、ちょっとだけ不安になってきた。



 10分ほど歩くと、出口と共にゴールと書かれた看板があった。

「随分早かったな。一番早くても今日の夕方頃だと思ってたんだが、いやいや今年の1年生は優秀優秀!」

 ゴールにはレザム先生や他の先生が何人かいるだけだった。

「はい、これはゴールしたご褒美とお疲れさまってことでジュースとお菓子だ。好きなだけ食ってくれ」

「「「……」」」

 レザム先生は笑顔でお菓子と水を渡すが、3人の顔は笑っていない。

「どうしたどうした、せっかく一番になって評価だって良くなるのにみんなもっと喜べよ」

「……先生、あの看板、どういう意味なのかな」

「え、あーあれね、驚いただろ? 俺にしてはなかなか良いドッキリだったと思うんだよ。お前らも楽しか――」

「「「なわけねえだろボケぇぇ‼」」」

 質問したカユウだけでなく、ブライトとミーゼも合わせて一斉にレザム先生の顔を殴る。

「ぶぼぁ⁉ ど、どうしたんだよ。殴るなんて酷いぞ!」

「またやったんですねレザム先生」

 騒ぎを聞き、主任が来た。

「またって、もしかして毎年やってるんですか?」

「ええ、レザム先生の悪い癖でして、内容は違うんですが、必ず一番乗りした生徒は酷い目にあってるんですよ」

 あんなことを毎年やってるのかよ。

「まあ、今回はパンチ3発で許してやってください。ミーゼもそれ以上レザム先生を殴ろうとするなら減点になってしまいますよ」

 怒った表情でレザム先生の胸ぐらを掴むミーゼ。

 恥をかかされたから腹が立ってしょうがないんだろうな。

「ち、次あんなことしたらただじゃおかねえからな」

 ミーゼはそう言いながら、レザム先生を離した。

「さて、あなた達はこれで授業終了となります。学校までは先生が送りますので、何か質問はありますか?」

「聞きたいことがあります」

「はい、なんでしょう?」

「今回の授業、結局何が狙いだったんですか?」

「狙い、とは?」

「とぼけないでください。今回の授業はいくつかおかしな部分が多すぎます。急に森でサバイバルさせられたことは言うまでもありませんが、3日間いるだけでいいのにゴールを設置したりするのはおかしいです。ゴールがあるなら競争させることで成長を促すのが教育者としては普通では? 見ていたニンゲンもいるようですし」

 森の中にいるときにずっと感じていたことがある。

 それは先生が遠くからずっと俺達を監視していたことだ。

「これは驚きました。気づいていたんですか?」

「ええ、まあミーゼやカユウも気づいていたようですがね」

「ふん、ホント気持ち悪いわね。影からコソコソ見るなんて」

「あー、あれ先生だったんだ。誰か見てるなーって思ってたんだよね」

「え、そうなの? 全然わからなかった」

 ただ1人気づいてなかったブライトはどこにいるんだろうと、周りを見る。

「なんだか落ち込んじゃうなあ。私だけ気づかなかったなんて……」

 シュンと犬のように落ち込むブライト。

「どうやらあなたはトゥウの言っていた通りの生徒のようですね」

「トゥウから何か言われてたんですか?」

「ええ、もしこの授業でナイトがゴールしようとせず3日間森にいた場合はすぐに知らせろと言われていたんです」

 あいつ、俺をあの家から追い出す気だったな。

 いや、試したと言った方が正しいか。

 トゥウはこの授業で俺がちゃんと生活できるのか見たかったんだな。

 しかもこんなことは今回だけじゃなさそうだ。これから授業の度にトゥウのジャッジがあるのだろう。

 もし酷い成績でも取れば、俺はあの家を追い出され、ブライトと一緒にトゥウの家に住むことになるだろう。

 これは一筋縄ではいかない学校生活になりそうだ。

「ありがとうございます、今回のことはそれでスッキリしました」

 これからの10年間は己との戦いだ。

 走り続けるのは辛いことだが、人間が築き上げた歴史の戦い(たば)に比べれば、一瞬に等しい。

 そうだ、これは始まりに過ぎない。

 俺にとってはここの学校生活など人生のおまけなのだ。



 先生に連れられながら、学校を目指す。

 森とは違い一本道なので、半日もあれば着くそうだ。

「ねえねえミーゼ」

「何よカユウ気持ち悪いわね」

 ニヤニヤと笑いながらミーゼに近づくカユウ。

「橋から落ちたとき君なんて言ったっけ? 『みんなでゴールする!』とか言ってたよね――」

 ミーゼの顔が一気に赤くなる。

「死ねぇ! この揶揄野郎(やゆやろう)!」

「アッハッハッハ! 最初にやったのはそっちだろう?」

 腕を振り回しながら追いかけるミーゼから笑いながら逃げるカユウ。

 これからのブライトの学校生活であの2人は良い友達になることだろう。


次回予告

「……この状況を作ってる元凶をなくすこと、かな」

「ごめんね、ごめんね……」

「……兄ちゃん」


『偽物の不断節季』

勝利満足度 30

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