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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
伝播不可能の怒り
31/35

はじまりの前

「たく、なんなのよあの男。いきなり悪口言ってきてさ!」

 宮殿に戻り、バーモンのいる客室のソファに座ったミーゼが早速さっきの男に文句を言い始めた。

「悪口?」

 もう1つ向かいにあるソファで横になっているバーモンがそう言ってミーゼの話に興味を持ち始める。

「そう。デモ隊のこーんな風に前歯出して笑う男にナイトが悪口言われたのよ。いきなり指差して『お前の心は酷い有様だ!』とか言ってきて。ホントムカつくわ!」

 上手いな。

 前歯の出し方とか声色もよく似てる。

「ああー、それはデモ隊のリーダーのマスクですねー。あのヒトは口が悪いですけどー、饒舌多弁なのでデモ隊からは支持されてるんですよー。私もこの前いろいろ言われましたしー」

「ワンもか」

 女王の付き人にも言うのは大したもんだな。

「というかナイトも、なんで何も言わずに帰っちゃうのよ。あれじゃあ負けたようなもんじゃない」

「……別にいいだろ。言わせとけばいいんだよああいうのは」

「私は腹が立つわ。何か一言ガツンと言わなきゃスッキリしないもの。ブライトもそう思うでしょ?」

「うん。その、さっきの対応はナイトらしくないと思うなー」

「そんなこと言われてもな……」

 あの場には他のデモ隊もいたし、下手に怒らせるようなことを言うと争いになりかねなかった。

 それにあの男は……。

「というか、今さら言うのはなんですけどー。ウェストエンドってルールとか凄い緩い国なんですねー。護衛が守る対象をほっといて観光とかしませんよ普通ー」

 ワンが本当に今さらそんなことを言ってきた。

 そういうのは俺達が宮殿を出る前に言うべきだろ。

「そこはあれだ。俺がこいつらを信用してるし、されてるっていう証拠だな。他の奴ならこうはならないだろうさ」

 バーモンがドヤ顔で言った。

 たしかに俺はバーモンの実力は評価してるが、多分ミーゼは護衛のことなんか忘れて観光したかっただけではないだろうか。実際護衛のことを聞いた瞬間、「あ……」って小さく声にしてたし。

 バーモンと一緒のせいか、今日のミーゼはいつも以上に抜けてるな。いや、それぐらい俺達に心を開いてきた、とも言える……か。

「そうですかー。信頼関係が強くて羨ましいですねー」

 とても羨ましいと思っている声ではないのだが……。

「グゥゥゥゥゥ……」

 すると、突然空腹の音がどこからか聞こえてきた。

「あ……」

 ブライトが顔を紅潮させてお腹を押さえる。

「そろそろ夕食のお時間ですねー。うちのコックが用意してくれるのでもう少しだけ待っててくださいねー」

「すみません……」

 子供にするような柔らかい微笑みをするワンを見てさらに赤くするブライト。

 恥ずかしいよな。ほとんど催促してるようなもんだもんな。



 食事の時間になると、ニコラと出会った長テーブルのある部屋に案内された。

「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「はーい。後片付けは私達がやるので、あとは自由にくつろいでいてくださーい」

 食事を終えたブライトがお皿を片付けようとしたのを察知したワンはすぐに近づいてブライトよりも先にそれを手に取る。相変わらず真面目な奴だな。

 広い場所で長テーブルで食事をするのは滅多にないことだから終始落ち着かなかったが、もう少しちゃんと味わいたかったな。

「さてと、俺は風呂に入るけどお前らはどうする?」

 手を上に伸ばしながらバーモンは言った。

「相変わらず自分の家のようにしてるわね。私は――」

 すかさず俺は横目でミーゼを見る。

「……もう少しあとでブライト達と入るわ。お父さん1人でゆっくりしてって」

「そっか。じゃあお先にー」

 バーモンには悪いが、そろそろ頃合いだ。

 俺達は当初の目的のために動かなければならない。

「じゃあ俺達は部屋に戻ってるか」

「そうね」

「ワンはバーモンの方へついてやってくれ」

「わかりましたー」

 ワンをバーモンのもとへ行かせ、俺達は部屋に戻る。

 道中誰かに尾行されていたが、構わず歩き続ける。

 部屋に入ったあと、ソファに座って2人と向かい合う。

「で、これからとうするの? あなたのことだからどこを調べればいいかもう見当はついてるんでしょ」

「ああ。町に出た時いろいろ調べたが、やっぱり漂白石を大量に入手できるような採石場はこの国にはない。トゥウの予想は当たりだな。ウェストエンドが大量に漂白石を保有しているのは何か別の理由がある」

「いつの間にそんなこと調べてたの? でもデパート以外私達どこにも行ってないよね?」

「お前らが長い買い物しているあいだに調べておいたんだよ」

 まさか買い物に2時間もかかるとは思いもよらなかった。

 女の買い物は長いとどこぞの筋肉も言っていたが、まさかここまでとはな。

「そっか、だから私達と合流したあとすぐに帰ったんだ。何も調べなかったのが不思議だったけど、そういうことだったんだね」

「で、情報から推測して、俺が怪しいと思った場所は2つ。1つは命の神が封印されている巨石がある神殿。もう1つはこの宮殿の地下だ」

「地下? この宮殿に地下があるの?」

「おそらくな。まだどこに地下へ繋がる階段があるかはわからないが、もしここに漂白石を保有している秘密があるのなら、存在するはずだ」

「なら、ちゃっちゃと調べちゃいましょう。女王が私達の目的に気づく前にね」

 ブライトと一緒に頷き、客室を出るために扉へ近づき扉を開ける。

「んなこったろうと思ったよ……」

「お父さん!?」

 開けた瞬間、バーモンが扉の前に立っていた。

 扉越しに聞いていたのはわかっていたが、気配は全くなかった。

 普段うるさい奴だけに気配を消されるとわかりにくいものだな。

「……聞いてたの?」

「護衛がつくなんて初めてのことだったからな。イベネス王は誰よりも部下を信用する人間だからおかしいと思ってたんだよ」

「……怒ってる?」

 ミーゼが申し訳無さそうに聞くと、バーモンは後頭を掻く。

「別に。お前達がやろうとしたことは秘密を探ることで俺を陥れるってわけじゃないからな。だが、軽率な行動をしたことは感心しない。諜報活動はもっとバレないようにするもんだ、ダンディにな」

 変なポーズをしながら父親のように悪かったところを指摘し、アドバイスしてきた。

「ま、お前達が護衛に来た時点であの人は気づいてたみたいだけどな」

「え?」

 廊下の奥から聞いたことのある足音が近づいてくる。

「でしょ? ()()()()()

 バーモンがそう言うと、難しい顔をしたニコラ女王が目の前に現れた。

「全く、今日はあなた達とばっかり関わる日みたいね。そういう因果なのかしら」

「……ニコラ女王」

 

 

 

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