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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
伝播不可能の怒り
28/35

似た者同士

 成績発表から1日が経った。

「ぶー」

 今、俺は重い体を動かして情報機関の仕事に励んている。

「ぶー」

 昨日はいろいろあったせいか、ベッドに横になりたいほど疲れているな。

「ぶー」

「……」

 だけど今日は天気が良くて気分を晴れやかにしてくれる。

 これなら多少疲れていても、なんとか今日の分の仕事を終えることはできるだろう。

「ぶー」

「……なあカユウ。昨日からずっとそうしてるけどさ。俺がシールドにならなかったのがそんなに気に入らなかったのか?」

 昨日、シールドへの昇格を断ったあと、カユウにそのことを話したらずっとこの調子だ。

 ふくれっ面をしながらこちらをずっと見てくる。

 いい加減しつこく思えてくるからやめてほしい。

「べっつにー。ナイトのことを気取(きど)ってるとか、カッコつけてるとか思ってないよ」

「思ってるじゃんそれ。だからさ、何度も言うけど俺はシールドが務まるようなニンゲンじゃないんだってば」

「そこが気に入らないのさ僕は。君なら十分にシールドの資格があると思ってたのに」

「いや褒めてくれるのは嬉しいけどさ。自分のことは自分が1番よく理解してるからわかるんだって。お前やミーゼの方がよっぽど向いてるよ」

 だがカユウは納得しない。

 それどころかさらに不機嫌になっていっている。

「カユウ、もういい加減にしなさい。これはナイトが決めたことよ。私達が口出しすることじゃないわ」

「そうだよ。それにナイトがシールドになってたら4人揃って仕事することもできなくなっちゃうんだよ。良かったじゃん、離れ離れにならなかったんだから」

「……はあー、わかったよ。まあ僕が何を言ったって結果は変わらないしね。もう諦めるよ」

 ふくれっ面をやめ、いつもの表情に戻る。

 とりあえずこれで不満を表に出すことはもうないだろう。

 ブライトとミーゼのおかげだな。

 あとでお礼に何か(おご)らせてもらおう。

「あ、良かった。みなさんいらっしゃいますね」

 部屋のドアが開きトゥウが安堵しながら入ってきた。

「全員こちらへ集合してください。重要な話があります」

 真剣な顔で机の前に立つトゥウ。

 その顔でこれから起こることは大体察せられる。

 俺達はトゥウと向かい合うように机の前に横に並んだ。

「ナイト、ブライト、ミーゼ、あなた達には明日バーモンとともにサウスエンドに向かってもらいます」

「え、サウスエンドに? それにお父さんも一緒ってどういうこと?」

「ここ最近国同士の睨み合いが続いています。サウスエンドはウェストエンドと最も親密な関係にある国ですが、それでも警戒は怠れません。いつも護衛は他の兵士に任せていますが、時期が時期なのでバーモンの実力に近い兵士を護衛として同行させることになり、あなた達が選ばれたわけです」

 たしかにここ最近各国は他国への警戒心が強くなっている。

 たとえウェストエンドとサウスエンドが仲が良くても完全に信用できるわけじゃない。

「でもお父さんなら心配いらないんじゃないの? あんなんでもこの国で最上位の力を持つ人間よ。サウスエンドでお父さんに匹敵するような実力者がいるなんて聞いたことないけど」

 ミーゼの疑問はもっともだ。

 現状で考えればバーモンほどの実力者がサウスエンドにいるという話は聞いたことがない。ある1人を除いては。

「私もバーモンなら心配ないと思いますが、今回はもう1つ理由があります。できればあなた達にはそちらを優先してもらいたいです。バーモンにも秘密で」

「お父さんにも?」

「ええ。みなさん知っての通りサウスエンドはユーラシア大陸の南端に位置する王国であり、希少な漂白石(ひょうはくせき)を大量に輸出している国でもあります。今回、ウェストエンドはその漂白石を今までにない量の輸入をすることになりまして」

「でも漂白石(ひょうはくせき)なんて手錠とか武器に使う以外役立つところなんて聞いたことがないんだけど。なんで大量に輸入する必要があるんだい?」

 カユウの言う通り、漂白石(ひょうはくせき)は色力を無にする石で、希少価値が高く滅多に手に入らないが、使い道は武器や手錠以外は少ない。

 それに漂白石(ひょうはくせき)を扱うには腕の良い鍛冶師も必要で、この国でそのレベルに位置するのはヘストスぐらいなものだ。

 武器として優れた物質ではあるが、扱いを間違えれば自滅しかねないほど危険なものでもあり、あまり需要がないように思える。

「ここ最近現れた謎の組織。みなさんからの情報によりその存在が知れたラプラスの王と(きわみ)と呼ばれる者達への対策のため、ウェストエンドとサウスエンドが協力することになったからです。最近滅んだノースエンドにはピグラ、イーストエンドにはエメ、どちらもその組織の関係者が潜伏していたのは、彼らに会ったことがあるあなた達が1番理解しているでしょう。そしてエメの言葉通り組織の人数が6人というのが本当なら、その組織はあとラプラスの王を合わせて4人いることになります。そのうちの誰かがこの国に潜伏している可能性は十分に考えられます。今は混乱を防ぐために(おおやけ)にしていませんが、彼らは危険です。大きな事件が起こる前になんとしても彼らを捕まえなければなりません」

「なるほど。それで色力を無にする漂白石(ひょうはくせき)ってわけね」

「はい。ですが先程も言った通り漂白石(ひょうはくせき)は希少です。あなた達に調べてもらいたいのは、サウスエンドがなぜそんなに漂白石(ひょうはくせき)を保有しているのか、そしてどのようにそれを採取しているかを調べてきてほしいのです。バーモンにも秘密にするのは、彼はサウスエンドの女王ニコラと交渉しなければなりませんので、彼の様子からあなた達のことを勘づかれないようにするためですね。念には念を入れるべきですから」

 たしかにちょっとでもバーモンがおかしな動きをすれば向こうは怪しむだろうからな。

「それと、これは王からではなく、私の要望により決まったものです。王はそこまで気にすることでもないと(おっしゃ)っていましたが、私にとっては目を向けるべき問題と判断しました。ですが全てを(あば)けなどという難題は出しません。危険だとわかったらすぐに任務を棄てて自分の命を優先しなさい。わかりましたね」

「了解したわトゥウ。私達に任せなさい」

 大船に乗ったつもりでいなさいと言うように自信満々に胸を叩くミーゼ。

「ねえ、僕はどうすればいいの?」

「カユウ、あなたには私の仕事の手伝いをしてもらいます。なのでカユウはここで私と留守番です」

「なーんだつまんないの。僕だけ仲間外れかー」

 不満なのはわかるが、決まってしまった以上しょうがない。

 とりあえず帰ったらすぐに旅の準備をしなくちゃな。


 夜。

 ナイト達はすでに帰宅し、情報機関の部屋に残っていたのはトゥウだけだった。

「失礼しますよっと」

 そこに、王立兵士学校の教師であり、ナイト達の元担任であるオクト・レザムが入ってきた。

「お久しぶりですレザム先輩。今日はどのようなご用件で?」

 自分の先輩が入ってきて少し嬉しいトゥウは笑顔で迎え入れる。

「用って言うほど重要なことでもないが、ちょっと教え子たちがどんなもんな気になってな。特にナイトとカユウの様子はどうだ? 変わったところはないか?」

「いえ、特に気になることはないですよ。あの2人はこの機関では特に優秀な方達ですから」

「そっか。いやそれならいいんだ」

「先輩はあの2人が心配なのですか?」

「ん、まあちょっとな……」

 含みのある顔をするレザム。

「よければ理由を聞かせてもらえませんか? 今後の彼らのためにも知る必要がありそうです」

「……そうだな。トゥウには話しておくか。あれは8年前ぐらいだったかな……」

 レザムは懐かしむように話し始めた。



 

 本当にあのときは驚かされた。

 授業の一貫で愛について話していたときだ。

 俺は歴史が専門なので生徒達が授業を受けている光景を廊下から観察していただけだったのだが。

「いいですかみなさん。愛は独り善がりになってはいけません。強すぎる愛は時に人を傷つけます。扱いが1つ違うだけで善にも悪にもなりえるのが愛なのです」

 道徳担当の先生がいつものように愛について語っていると、ある生徒2人が同時に手を挙げて質問してきた。

「「先生、愛は誰かに理解されなきゃいけないんですか?」」

「え?」

 先生はまさに意表を突かれたような顔をしていた。だが、誰よりも驚いていたのは質問した本人達。

 手を挙げたまま、ナイトとカユウは目を大きく開きながらお互いを見て固まっていたのだから。

 そして、何かを悟った2人はすぐに視線を先生へ向け、休み時間の鐘が鳴るまで再び目を合わせることはなかった。

 何を悟ったのかはわからない。

 2人にしか感じられない()()()が両者の狭間(はざま)で俺達を監視するように見ていることだけしか、俺には理解できなかった。




「本当に驚かされた。あんな質問してくる生徒は今まで見たことがなかった。先生も返答に困ってたなあ」

「それは困りますね。しかしその質問をしたということは、彼らは()()()()()()()()()()を持っていることになります。ちょっと怖く感じますね」

 顎を触って頭を回転させるトゥウ。

「俺も最初はそう思った。だけどこんな考え方もできる。『理解されなくても構わない、ただ自分の愛を守れさえすればいい』、そんな心を持ってるんじゃないかってな」

 柔らかい表情でそう言ったあと、レザムらしい考えにトゥウは感心する。

「なるほど、そういう考え方もできますか」

「普段はお互いライバル視してるが、根はそっくりなんだろうな。じゃなきゃ同時に同じ言葉で質問したりしない」

「そこは私も同意見です。あの2人は表は全く似ていませんが、裏がよく似ていると思います。本当は優しいのに、それを素直に出せないところとか」

「ハハ、違いない。ナイトは普段頼り甲斐のある人間だが、多分あれは素じゃない。もっと別のところが優しいんだろう。カユウの相手を馬鹿にする態度も同様にな。本当は学生のうちにその裏の部分を引き出してやるべきだったんだろうが、俺には無理だったよ……」

 悔やむように後頭(うしろあたま)を掻くレザム。

「そこまで心配することもないと思います。彼らだけでなくミーゼもブライトも成長し続けている。いつかその胸の中にある全てを曝け出すときがやって来るでしょう。私達はただ見守るだけでいいんです」

「そうかもしれないな。じゃあ俺は帰るよ。お前はまだ仕事か?」

 ドアに手を掛けながらレザムはトゥウを見る。

「はい。やらなければならないことが多いですから」

「相変わらず仕事人間だな。体壊さないように気を付けろよ。じゃあな」

 ドアを開け、背中を向けたレザムは顔の横で手を振って部屋を出た。


 

 翌日の朝。

 サウスエンドへ行くための支度(したく)を終えた俺とブライトは、家の前でミーゼとバーモンが来るのを空を見ながらただ待っていた。

 頭を空っぽにして陽光を浴びると悩みなんか全て吹き飛んでしまうほどに……

「気持ちいいなあ」

「そうだねえ。天気も良いし、風もちょうど良いし、最高だねえ」

 草原(くさはら)に横になり、肌にチクチクと弱く刺さる雑草がなんとも言えない気持ちよさがある。

「ナイト、ミーゼ達が来るまで昨日のことについて話してもいい?」

 こちらには顔を向けず唐突に口を開くブライトを俺は見る。

「昨日のこと?」

「ナイトがシールドにならなかったことにカユウが怒ってたでしょ。私ね、カユウの気持ちもなんとなくわかるんだ。だってさ、対等なライバルの認めている部分をライバル本人が否定しちゃったんだよ。自分には無いリーダーとしての資質を持ってるのにライバルはそれを有効活用しようとしない。それでも自分と対等なんて許せないでしょ。それって手を抜いてるのとほとんど同じだもん」

 ブライトの言うことはわからなくもない。

 たしかにカユウにとってはそう思えても仕方のないことなのかもしれない。

「俺は、カユウとは気の置けない友人として接したいな。対等なライバルよりもむしろ横に並んで笑い合っていたい。カユウには悪いが、俺はそっちの方が合ってる気がするんだ」

「ふふ、ナイトらしいや」

 微風(びふう)が止むまで待ったあと、俺は決心して口にする。

「……なあ、お前はどうなんだ?」

「え?」

 草原(くさはら)に横になってから初めてブライトが俺の方を見てきた。

「俺がシールドにならなかったこと、ブライトはどう感じた? カユウのようにムカついたか?」

 至近距離でブライトの目を心を覗くように見る。

 ブライトも目を逸らすことなく俺の目を見てくる。

 そして少し考えたあと、彼女は困った顔をした。

 それは口にすることを躊躇う表情そのもの。

 それでも俺は片時も逸らすことなく見つめ続けると、ブライトは空へ視線を変えて話し始めた。

「私は、ホッとした、かな。ナイトがシールドになったら情報機関から抜けて私達とは別の場所で仕事をすることになるでしょ。そしたら離れ離れになっちゃう。よくわからないけど、それが私には胸が締め付けられるくらい嫌だった。本当はこんなこと言うべきじゃないけど、すごく嬉しかった」

「そっか……」

 ばつが悪くなり、俺もまた視線を空に向ける。

 どうしよう、何を話せばいいかわからなくなってしまった。

 でも何か話さないとこの空気は中々キツイぞ。

「おーい、2人ともー!」

 グッドタイミングでミーゼの声が耳に入ってきた。

「遅くなってごめんなさい。何か話してたの?」

「いいや、ただ空を眺めてただけだ。な、ブライト」

「うん」

 元気のない声にミーゼは首を傾けるが、俺達の会話は聞こえていないのでその理由はわかるはずもなく、すぐに後ろにいる大荷物を持ったバーモンに手を振った。

「お父さーん! はやくー!」

 バーモンの背中にはパンパンに膨らんだバッグが5つもあり、旅の荷物というより特売セールで使わないようなものを買い込んでしまった妻に付き合わされる夫の姿に近かった。

「なんか、前にもこういうことがあった気がするな」

 たしか情報機関に入ってすぐノースエンドに行くことになった時、ミーゼも同じように大量のバッグを持ってきてたな。

 血は繋がっていないが、似てしまうところはあるということか。

「よし、全員揃ったな。それじゃあこれからは俺がシールドとしてお前達の指揮を取るからな。ダンディにいくぜ」

「私とブライトは女なんだけど?」

「細かいことは気にするな。気持ちさえあれば誰でもダンディになれる。さあみんなも一緒に俺のようにダンディに――」

「ならないわよ。ほら早く馬車に乗りましょう。時間が無くなっちゃうわ」

「……」

 ミーゼに無視されたバーモンは俺を見て「お前はどうだ?」とでも言うように半笑いしながら親指を立ててきたが、俺は何も答えずリェゼルの引っ張る馬車の御者台に座り出発を急いだ。

「……それでも俺はダンディにいくぜ」

「お父さん早くしてってば!」

 ミーゼに怒鳴られたことでそそくさとバーモンも馬車に乗る。

 出発前から不安なことが多いが、それでも俺はサウスエンドへ向けてリェゼルを走らせた。

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