実力試験(1)
イーストエンドから帰ってきてもう1ヶ月が経った。
あと1週間もすれば半年に1回の実力試験がおこなわれる。
初参加なこともあり、最近は日が昇って1日が始まるたびに緊張感が増していく。
勉強が苦手なブライトは俺よりもさらに緊張していることだろう。
ここ1か月ずっと仕事と勉強を交互にしているので、だんだんと疲労が溜まりどんよりした顔になっている。
俺もブライトが赤点を取らないよう最低限の知識が入るように教えているが、果たしてどうなるのだろうか。
「うおおおおおおおおお!」
そんなことを考えている今もテーブルの向かいでブライトは必死に参考書の内容を頭に入れようとしている。
今日は仕事が休みだったので1日中勉強に付き合っていたのだが、もうそろそろ日が沈む時刻だ。
ふとブライトが暗記するために書いたノートを見てみる。
いつも思うが、コイツは字がとても綺麗だ。
俺も極力綺麗に書こうと心得ているが、それでもブライトのような字は書けない。
「あ、そういえばそろそろ剣の修復が終わった頃だな」
イーストエンドでチャップとの戦いで折られた剣、父と母を鍛冶屋に預けていたのを思い出し外に行く準備を始める。
「出かけるの?」
「ああ」
「私も行く」
「勉強はいいのか? せっかく順調に進んでたのに」
「ちょっと休憩。だからいいでしょ」
「まあ、別にいいが。剣を返してもらうだけだぞ」
家で休んでた方が有効的な時間の使い方だと思うのだが。
「いいのいいの。そういうのが1番休めるから」
そういうものなのだろうか。
「よし、じゃあ行こう!」
ブライトの後を追うように俺も町に向かう。
ウェストエンドの市場の近くには鍛冶屋がある。
一部例外もあるが、この国の武器はほとんどその1つの鍛冶屋だけで鍛造されている。
「こんちはー」
そう言って鍛冶屋に入る。
早速鍛冶屋らしい鉄の匂いが鼻腔をくすぐってくる。
昔から剣が鍛造されていくのを見るのが好きだったせいか、この匂いも気に入ってしまったようだ。
「はい、いらっしゃい! 自称伝説の鍛冶師と謂われたこのヘストス、頼まれた仕事はきっちりこなしてみせますぜ!」
奥の工房から元気ハツラツな声とともに筋骨隆々の男が出てきた。
「よ、預けてた剣を貰いに来たんだが、もう修復できてるか?」
「なんだナイトとブライトか。お前達いつも一緒なんだな」
ゲラゲラと笑いながらヘストスは言った。
「もういっそのこと結婚しちまえよお前ら。それで子供ができたらそいつを俺の弟子にしてやるからさ」
「馬鹿なこと言ってないでできてるなら早く俺の剣を返してくれ」
ヘストスはよくこんなとんでもないことを躊躇いもなく言ってくる。
コイツに仕事を頼みに来たヒトは絶対に1回は反応に困る発言をされているのではないだろうか。
「……」
横を見るとブライトが少しだけ含みのある顔をしていた。
たしか前にも同じようなことを言われたがそのときも同じ反応だったな。
「相変わらず2人とも反応が薄いなあ。まあいいや、ちょっと待ってろ」
また工房へ戻り、しばらくすると俺の剣を2本とも持って出てきた。
「はいよ。お前の愛剣、プードルとコリーだ」
「いや、全然名前違うんだが……父と母だぞ」
「はあ? お前勝手に改名してんじゃねえよ。しかもなんだそのネーミングセンスは? ダサすぎだろ」
「プードルとコリーよりはマシだろ」
ヘストスは犬好きでよく剣に犬の名前をつけるのだが、似合わないにもほどがある。
「どっちもどっちだと思いますけど……」
「「……」」
冷たい目でブライトが言ってきた。
「ま、まあいい。それよりも本当に修復だけでいいのかナイト? その剣かなり年季が入ってるからまたすぐに折れるぜ」
「いや、これでいいんだ……」
愛でるように剣を撫でる。
前と変わらない長さ、太さ。
折れた剣をここまで完璧に修復できるのはヘストスぐらいなものだろう。
他色系により触れた対象を溶かすという危険な能力だが、ヘストスはそれを鍛冶師の仕事に最大限活かしている。
「愛着ってやつか? まあいいが、くれぐれも命を落とすようなことにならないようにしろよ。もし剣が折れたのが原因なんて言われたら俺の信用に関わるからな」
「わかってるよ。俺だって何度も折ろうとは思わないさ。じゃあまたな」
そう言って鍛冶屋をあとにし、家に向かって歩いていたときだった。
「そういえばさ、イーストエンドで私を助けてくれたとき、久し振りにあの大きな鎌出したよね」
「よく憶えてたな。もう10年ぐらい前だぞ」
「ナイトと初めて会った日だったし、あんな見た目の武器は忘れたくても忘れられないって」
「それもそうだな。あの鎌の正式名称は死性っていうんだが、それがどうかしたのか?」
「秘密にするように言われたけど、まだ言えないの?」
そういうことか。
ブライトと初めて会ったあの日、熊を殺したあと大鎌のことは他言無用にしてほしいとブライトに頼んでいた。
掠っただけでも相手を殺す武器なんて恐怖の対象にしかならないしな。
ブライトは約束をちゃんと守ってくれているので今のところ知っているヒトは他にいない。
「ああ、できればずっと秘密にしたいくらいだ。あの鎌には意志がある。持ち主と決めた者以外は例外なく死へと誘おうとしてくる。俺も前の持ち主から預かっただけでかなり危うい状況だ」
手に持つと触れている部分がピリピリと軽い痛みを感じられるのが、俺のことを持ち主と認めていない証拠だ。
「そんな危険な武器は人知れず腐らせるのが1番だろ」
「だからいつも黒の色力で隠してるの?」
「黒の色力で作られた鎌を空気中に分散させてると言った方が正しい。そして使いたいときは空気中に分散させてた色力を集めて鎌の形に変化させてるって感じだな」
俺もまだ両手で数えられるほどしか使っていないので実感はないが、そういう作りをしているのだから他に言いようがない。
「ふーん。でもチャップのときは長柄の部分が剣になってたよね。使いづらそうだったけど」
「まあ、コツがいるのはたしかだな。あれを使うやつはどうかしてる」
「いや、自分で言っちゃダメでしょ」
「はは、そうだな」
ただ、イーストエンドでチャップに対して感情任せに死性を出してしまったのは軽率すぎる行動だった。
もしもあの鎌を使うなら、それ相応の力を有する相手だけにするべきだ。
敵に情報を与えずに済むしな。
「あ! ナイト、あっちで人が集まってるよ」
ブライトが歩みを止め、ある方向に顔を向けた。
「ホントだ。なんだろうな?」
ヒトが集まっているのは市場のすぐ近くだった。
気になったのでヒトだかりの中を通り中心へ。
そこには黒い服に黒い帽子を着た老婆がテーブルの前に座っていた。
といっても怪しい雰囲気はなく、格好以外はどこにでもいそうな普通の老婆だ。
「なあ、なんでこんなにヒトが集まってるんだ?」
近くにいた男性に訊いてみることに。
「あのばあちゃん占い師なんだってさ。手で触れただけで相手の未来が見えるんだと」
なるほど、それでこんなにヒトが集まってたのか。
そういえば今時占い師なんてかなり珍しいからな。
ほとんど絶滅危惧種だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
目の前では老婆が女性に1枚の紙を渡していた。
女性はそれを見て嬉しそうに老婆から離れていく。
どうやら触れた相手の未来を見たあとその内容を紙に書いているらしい。
「次の方どうぞ」
さっきの占いを終えた女性の後ろに並んでいた男性が近づく。
「お、お願いします」
「はい、じゃあ手を出してください」
男性が手を出すと老婆は左手で優しく握り、しばらくしたあと右手にあるペンで横にあるテーブルに置かれてある紙を見ずに書いていく。
「はい、これがあなたの未来に対してのアドバイスです」
「ありがとうございます! 『食事に注意』……食べ過ぎとかかな?」
男性は占いの結果に頭を悩ませながらも老婆から離れていく。
紙に書いてある内容からして未来を直接教えてくれるわけではないらしい。
いや、占いは基本そういうものだよな。
相手の悩みや相談を受けてそれを少しでも和らげるようなアドバイスを占いとして伝える。
曖昧な表現が多いが、それでも誰かは救われている、のかもしれない……。
「そういえばお金払ってなかったな」
無料で占いをしているということか。
だから男も短い内容に文句を言ってないんだな。
「……私ちょっと占ってもらおうかな。ナイトはどうする?」
「俺?」
まあ、自分の未来について知りたいとは思うが、占いに頼ってまで知ろうとは……。
「……まあ無料らしいし占ってもらうか」
うん、思ってないけど一応占ってもらおう……思ってないけど。
俺とブライトも列に並ぶ。
一人一人はそれほど時間が長くかからないので、15分くらいですぐにブライトの番が来た。
「はい、じゃあ次の方」
「はい、私です」
ブライトが老婆に近づく。
「おやおや、可愛らしい女性だこと。じゃあ手を出してね」
ブライトが右手を出すと、老婆はまた左手で触れる。
他のヒトと同様数秒経つと老婆はペンで占いの結果を紙に書き始めた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます! えっとなになに……『欲しいものは1つにすること』……どういう意味?」
ちんぷんかんぷんなブライトが老婆に聞いた。
「残念だけど、見た未来についてはすぐに忘れちゃうから私も細かいことは言えないわ。私が見える未来は触れた対象の情報から演算したもの。だから、1つの可能性とだけ思っといておくれ」
「なるほどな、未来が見えるなんておかしい話だと思ったがそういうことか」
「……どういうこと?」
俺の方を見て首を傾げるブライト。
「このヒトは未来を見てるんじゃなくて未来を計算してるんだよ。戦闘中に体の動きから次の攻撃を予測するのと似たようなものだ」
だが、触れただけで相手の情報を収集できるのは大した能力だ。
もしかして他国のスパイか?
でも邪気のようなものは感じられないし、そもそもスパイならそんなことを口にすることにメリットが感じられない。
「安心しなさい。敵じゃないよ私は」
老婆が笑って言ってきた。
どういうことだ?
俺は表情に出していないから疑っていることがわかるはずないのに。
「不思議かい? 考えを見抜かれたことが?」
まるで俺のことを全て見透かしているような目と口ぶり。
今の一瞬でこの老婆の印象ががらりと変わった。
俺と老婆と間にいるブライトにしかわからないこの緊張感。
一体何者なんだ?
「まあそう警戒しなくてもいいよ。後ろにも並んでるヒトがいるから早く占わせておくれ」
「……」
不安を感じつつも右手を出す。
「どれどれ……」
老婆が左手で触れてきた。
シワだらけの手はカサカサしていて高齢者の手だと実感できる。
しばらくして右手に握られたペンで紙に占いの内容を書いていく老婆。
目を瞑って紙を1度も見ることなく書き終えると、それを俺に渡してきた。
「はい、あなたの未来が川の流れのように順調に進んでいくのを願っているよ」
俺は書かれてある占いの結果を見る。
『命が終わるとき、お前も枝が切れるように死ね』
……おかしくね、これ?
普通占いって『〜したほうがいい』とか『〜に気をつけましょう』とかだよね。
死ねってこれ命令形じゃん、アドバイスじゃないじゃん、完全に悪口じゃん。
「どうだった?」
「いや、そんな大したものじゃなかったよ」
「えーちょっと見せて」
「いやマジで大したことないから!」
横からブライトが見ようとしてきたのですぐに紙をクシャクシャに丸めてポケットに入れ、その場から離れた。
おかしな時間だった。
なんで占いで死ねって言われなくちゃいけないんだか……。
あの老婆についてもよくわからなかったし。
でも……。
「死ね、か」
案外正しいのかもしれないな……はは……。
「ナイトー! ちょっと待ってよ!」
少し急ぎすぎたようで、後ろからブライトが走ってきた。
「もう、そんな早く帰ろうとしなくてもいいじゃん! 占いの結果がそんなに悪かったの?」
いや悪いというか悪口だったんだよ、て言うわけにもいかないよな。
「さっきも言ったけど大したものじゃねえよ。お前の勉強もあるから早く帰るべきだと思ったたけだ」
「そうなの? うーん、私としてはもうちょっと一緒に遊びたかったというか……」
どうも最近ブライトは甘えてくるというか、一緒にいようとすることが多い。
1か月前はそろそろ自立できる頃かと思ったが、今は学生のときよりも子供のようにくっついてくる始末。
俺としてはあまり望ましくない状況だ。
ブライトには1人でも生きていけるようにならなくては困る。
引き取っている身として、成長させる責任があるからだ。
「遊びなら実力試験が終わったあと好きなだけ付き合ってやるからそれまでは我慢して勉強しろ」
とりあえず今は実力試験だ。
補習にならないようにサポートしなければ。
「はーい」
残念そうに返事をするブライトとともに俺は家に戻った。
それから1週間はあっという間に過ぎ、実力試験の日。
今日は城で働く兵士達が試験を受ける日で、あとの6日は残りの一般人を6つのグループに分けておこなわれる。
最初はブライトが最も苦手な学力試験。
会場は王立兵士学校の中なので朝早くに兵士達が全員そこへ集まる。
「じゃあブライト、頑張れよ」
「うん、ナイトもね」
大きな学校だが、さすがに兵士全員が試験を受けれるほどのスペースがある部屋はない。
AとBの2つのグループを作り、学校の入口で渡された紙に書かれてあるアルファベットでどちらになるかを決められる。
俺はAだったのでAグループ、ブライトはBなのでBグループの会場でそれぞれ試験を受けることに。
部屋に入ると早速参考書を魔法を詠唱する魔法使いのように口にするヒト達が目に入ってきた。
長机が何列も並べられて少し前まではここで俺も授業を受けていたんだなと懐かしい気分になる。
「やあ、ナイト」
席は決められていないのでどこに座ろうか迷っていたら、カユウが声をかけてきたので隣に座る。
「お前もAだったんだな」
「まあね」
「心配ないと思うが、赤点を取らないようにお互いベストを尽くそう」
「そうだね。まあ僕としては君のところのお嬢さんが心配だけど」
カユウが誰のことを言っているのかはすぐにわかった。
「とりあえずは赤点回避できるレベルにはしたつもりだ」
ここに来るまで体を震わせていたが。
「ふーん。ま、君がそう言うなら安心だね」
そう言って試験とは関係ない小説を読み始めるカユウ。
カユウの顔を見て1つ気になったことがあるので訊いてみることにした。
「なあ、最近お前やつれてきてないか?」
「え、そうかな?」
「また空腹限界になるまで何も食べなかったんじゃないだろうな? 体に悪いからやめろ」
「うーん、いつも通りだったんだけどなー」
「ならストレスか? まあ仕事を始めてまだ3ヶ月なのにいろいろありすぎたからな。悩みがあるなら聞くぞ」
「別に何もないよ」
「本当にそうか? 隠すぐらいなら言った方が楽になることもあるぞ」
「なんか今日のナイトやけにお節介だね。本当に何もないよ」
これ以上は聞かないでくれというオーラを発し始めたので何も言わないことにする。
そういえばミーゼの姿がないな。
あいつもBグループか。
ならブライトも少しは緊張がほぐれるかもな。
「君、今ブライトのこと考えてたろ?」
本を読みながらカユウが言った。
「なんでわかるんだ?」
「顔に出てるからだよ。妹の成長を見守る兄のようだったよ」
「そうか?」
気になったので顔を触って確かめる。
「別に変わってないけどな」
「……普段はおちゃらけたポーカーフェイスだけど、彼女のことになると途端に顔に出てるんだよ君」
そうだったのか?
自分の顔は鏡でしか見えないので全く実感がなかったがカユウが言うってことはそうなんだろうな。
「それとさ、少し気になってたんだけどイーストエンドから帰ってきて以来彼女、君と一緒にいることが多くなった気がするんだよね」
「……やっぱりそう思うか。どうもここ最近子供のようにくっつくようになったんだよ」
「気づいてたんだね。イーストエンドで何か心境の変化でも? 思い当たることは?」
思い当たることか。
1つ確定していることがあるとすれば……。
「俺はシュラン……が原因だと思うんだよな。1日だけだったけど凄い意気投合してただろあの2人」
「他には?」
「え?」
「は?」
他になかったので問い返したらカユウも問い返してきた。
「いや、それだけじゃ君にくっつくようになった理由としては不十分だろ。君が直接関わったことはないのかって話さ」
あー、そういうことか。
「俺が直接、か。…………あ……」
俺はあの戦いのことを思い出した。
「チャップに殺されそうなところを助けたわ、そういえば」
「……それじゃないの、どう考えても」
呆れた顔で俺を見てきた。
「でも学生時代にだって何回も助けてたし。やっぱりシュランのことだと思うぞ俺は」
「いやたしかにそれもあるだろうけど、助けたことの方が割合的には大きいでしょ絶対。てか学生時代ってそれ試験勉強のことだろ。ピンチのレベルが全然違うじゃないか。なんで君って頭良いのにそういうことはわからないかなあ……」
頭を抱えるカユウに俺は首を傾げる。
「で、君はどうするつもりなんだい?」
「どうするって?」
「だってそれ多分あれだろ、恋ってやつ。助けられたときに君のことを好きになっちゃったんじゃないの? 今のブライトの行動からして本人も自覚してないんだろうけど」
「さあ、どうだろうな。だけど助けられただけで恋するような軽い女に見えるかアイツが?」
そんな夢物語のようなことがあるはずもない。
そもそもそんな感情抱かれたって……。
「恋っていうのは何がきっかけかわからないものさ。嫌いだった相手を急に好きになることだってあるんだから」
「お前がティアを好きになったみたいにか?」
「は!? どうしてそこでティアが出てくるのさ!」
頬を赤くして少しだけ声を荒げるカユウ。
どうやら図星みたいだ。
いや、もうみんなわかってるんだよな。
カユウがティアにだけ妙に当たりが強いところとか、わかりやすすぎる。
もしかしたらティアもそれを承知でいつもカユウをからかっているのかもな。
「隠そうとするなよ。どうせみんな知ってることなんだから」
「いや違うからね。別にティアにそういう感情はないから。と、とにかく! 僕が知りたいのはこれから君はどうやってブライトに接していくのかって話さ」
「どうって、別にいつも通りにすればいいだろ? まだ好きになったかはわからないんだから」
そもそもこれはあくまで予想の話だ。
勝手に好きだと思い込んで変によそよそしくなったりする方が気色悪い。
「そうだけどさ。じゃあもしこの先ブライトが自分の気持ちを素直に打ち明けることがあったら君はどうするんだい?」
ブライトから好きって言われたらか……。
「随分と答えづらい質問をするなカユウ。さっきの仕返しか?」
「僕は真剣そのものさ。愛されたならこちらもそれ相応の覚悟を持って面と向かう。それが愛された者の責任だと僕は思う。もし君が彼女から目を背けたりしようものなら、僕は君を赦さないよ」
睨みつけるような目をこちらに向けてきた。
「カユウ……」
……。
「ティアのこと好きなくせに否定してるお前に言われたくねえよ」
「ガクッ! ちょっと! せっかく真剣なムードに戻したのにそんなこと言わないでくれよ。台無しじゃないか」
いやだってマジでそう思っちゃったんだからしょうがない。
すると、ドアが開けられ試験監督と思われる人物が現れた。
なぜ監督とわかるのか、それは……。
「はーい! ここの監督を任されましたオクト・レザムでーす! よろしく!」
俺の元担任だからだ。
「はい試験時間だよー! 無駄な足掻きはしないでさっさと参考書はしまいなさーい!」
相変わらずというか、本当に変わらないなこのヒトは。
「はい試験の紙でーす! 後ろに回してってね!」
試験時間が迫っているのか先頭に座ってる受験者に乱雑に渡し始める。
試験用紙は順番に渡されていき、後ろまで渡されたあと余った分はレザム先生が回収した。
「はい始め!」
スタートと同時に全員一斉に試験問題に取り掛かる。
問題は110問で社会に関する常識的な知識や簡単な計算、さらに災害や戦争による緊急時の避難の仕方など様々だ。
これを100分で全て解かなければならない。
まあ、順調にやれば解ききれない量ではないのでそこは気にならない。
問題があるとすれば……。
「ふむふむ……」
受験者を見定めるようにあちこち歩いているあの教師だろう。
俺の横に来ると、レザム先生は胸ポケットから何かを取り出し口元に近づけて囁いた。
「ハイ、チョコレートダヨー。タベナサイ」
先生今試験中です。ふざけないでください。
「あら? 糖分いらないの? 頭に良いのに」
俺が口を開けようとしなかったので、レザム先生は自分の口にチョコレートを入れた。
そのあとも時々誰かの横に止まってはちょっかいをかけ続け、苛立ちを覚えながら学力試験は終わった。




