ミーゼの過去
ウェストエンドに帰ってきてから今日で3日が経った。
現状はあまり良い状態ではない。
ノースエンドが無くなってからまだ1か月とちょっとしか経っていないのに再び国が消えた。
しかも今回はユーラシア大陸で最も広い領土を持つイーストエンドなだけあって、残りの国からは緊張が走っている。
このままだと次は自分の国なんじゃないかと国同士の睨み合い、牽制し合いになるのではないだろうか。
また、イーストエンドの領土を次はどの国が領土にするのかも問題になる。
ウェストエンドはイーストエンドと冷戦状態だったので、今回の件で脅威は1つなくなったと言えるかもしれないが、領土問題でまた新たな火種が起こりかねない。
もちろんどの国も争いは望んでいないだろう。
アメリカ大陸には1つの国を跡形もなく消し去ることのできる兵器があることもわかったことだしな。
話し合いが始まるのはいつかわからないが、各国協力し合う体制になることを祈るしかない。
「もうそろそろ着くね」
今、俺とブライトはミーゼの屋敷に向かっている。
昨日ミーゼから話があるということで招待され、カユウも来ることになっている。
「話があるって言ってたけど、多分イーストエンドのことだよね?」
ブライトも同じことを考えていたようだ。
聞いた話だと、ミーゼがケルロスを倒しに行こうとしたときにラージニイに理由を話す約束をしたらしい。
現場にいた俺達にも話をしなければならないと思ったのだろう。
普段はがさつだが、こういうときはしっかりしているのが実にミーゼらしい。
屋敷の前に着くと、扉を3回ノックする。
ドアが開くと、笑顔でミーゼが歓迎してくれた。
「いらっしゃい2人とも。遠慮しないで入って」
……空元気、というほどではないが、無理をしているのだろう。
普段よりも明るいせいか、余計にそう思えて仕方がない。
「カユウはもう来てるわ。今紅茶用意するから座ってて」
リビングにあるテーブルにはカユウとラージニイが並んで座っていた。
少しだけ居心地が悪そうな顔をしているカユウ。
あちらもミーゼの様子がおかしいことを察しているらしい。
2人と向かい合うようにブライトと座ると、ミーゼが紅茶を淹れてくれた。
「ありがとう」
それを口に含みながらこれからどうするか考える。
ミーゼが俺とラージニイの斜め横に座ったところで俺から話すことにする。
普通ならここで呼び出した理由を訊くべきなのだろうが、ここはもう少し別の話題からにしよう。
「そういえばあと1か月くらいで実力試験だな。みんな準備は整えてるか?」
「実力試験?」
何も知らないラージニイは首を曲げて俺を見た。
「ウェストエンドでは6月と12月になると国民全員の知力、体力、技術を測る試験があるんだ。試験の対象者は20歳以上で、1週間かけておこなわれる。まあ、ちょっとしたお祭りみたいなものだな」
6月と12月という少し微妙な時期におこなう理由は、身体能力が低下している国民の数が多いのがこの時期だと統計で明らかになったかららしい。
といってもどの時期でも上がったり下がったりなので確証と言えるものはどこにもない。
「へえー、でも試験ってことは赤点取ったら何かあるってこと?」
赤点という言葉を聞いた瞬間、ブライトが紅茶の入ったカップを口につけたまま固まった。
「どうしたのブライト?」
様子がおかしいとラージニイも疑問に思ったようだ。
「ククク……」
笑うカユウ。
「あー! 今笑ったでしょカユウ! 私を見て笑ったあ!」
それに腹が立ったブライトは体をテーブルに乗り出してカユウを指差した。
「え? なになに?」
2人のやり取りに全く理解できないラージニイ。
俺はラージニイに耳をこちらに近づけるように促し、ブライトに聞こえないようにそっと教えることに。
「あいつ昔から色力以外の勉強が苦手なんだよ。俺達の中じゃ学力では1番下だったからさ。試験では学力も測るし、赤点取ると地獄のような補習が待ってるから心配なんだろうな」
「へえー、じゃあナイト達の中じゃ1番バカってこと?」
「そう、バカバカ」
「そこ! 聞こえてるんですけど!」
笑っているカユウの胸ぐらを掴んでいたブライトが怒った顔でこちらを睨みつけてきたので、俺はラージニイから離れる。
「でも色力の知識ならあなた誰にも負けたことないじゃない。そこの記憶力化け物男にすら勝ってるんだから大したものよ」
「化け物って酷くないかな! もう少しマイルドな感じにしてほしいんだけど!」
ミーゼの言葉にツッコむカユウ。
たしかに1度見たり聞いたりしただけで全てを記憶できるカユウよりも知識を持っているのは大したものだ。
「それは……まあ、そうだけど。えへへ……」
あ、機嫌直ったな。
「体力とか技術の試験なら僕達は楽勝だからね。まあブライトほどじゃないけど僕も試験に向けて勉強しなくちゃなー」
「カユウは参考書一読するだけだろ?」
「あったり前さ。それで全て頭に入るんだからね」
右肘をテーブルに乗せながら自慢気に左手を大きく広げるカユウ。
「ずるいよカユウは。私なんか何回読んでも頭に入ってるかわからないのに」
「それは仕方ないさ。これは僕の持つ能力だからね。それを有効活用しない手はないよ。君は諦めて地獄のような補習を受けるんだね」
「むー」
たしかにこればかりはしょうがない。
カユウの記憶力は欲しいと思って手に入るものじゃないからな。
それに良いことばかりでもない。
全てを記憶できるということは、忘れたい出来事だって常に頭に残り続けるということだ。
恥ずかしかったことや悲しいこと、辛いこと、それら全てを忘れたくても忘れられない。
本人は顔に出さないが、今まで相当な苦労を重ねてきたのだろう、強すぎる共感性も含めて。
「まあ、勉強の方は俺も付き合ってやるから安心しろ。赤点ラインは超えるようにしてやる」
そう言うと、キラキラと輝いたブライトの目が俺を見た。
「やったね! どうだカユウ。私にはナイトがいるから補習なんてありえないもんねぇ!」
「はあ……?」
威張るところが違うような気がするぞ。
カユウも反応に困ってるし。
「ふふふ」
俺達の話を聞いてミーゼが笑った。
「ありがとうナイト、それにみんなも」
どうやら俺の意図を最初から察してたようだ。
他のみんなも俺に合わせてくれていたので、ミーゼが話す心構えを作る時間が十分にできたらしい。
「……そろそろ話すわね。私がみんなを呼んだ理由」
ミーゼの緊張感がこちらにも伝わってくる。
「私が呼んだのは、みんなに私とケルロスがどういう関係なのかを教えるべきだと思ったから。……私は10年以上前、ケルロスと一緒にイーストエンドで暮らしてた」
「……やっぱり、そう、なんだね」
ブライトはあまり驚いていなかった。
まあ大体予想はつくだろう。
ラージニイとカユウもブライトと同じ反応をしている。
「まだ4歳のときだった。ケルロスのところにいた私は彼からいろいろなことを教わった。私が使ってる体術もその1つ。そして人間を殲滅するということも」
「人間を殲滅?」
ブライトが返すと、ミーゼは背中を向けて上の服を脱ぎ始めた。
いつも厚着をしているので肌を見せるまで時間が掛かると同時に、徐々に俺達に大きな違和感を憶えさせる。
背中が異常に盛り上がっているのだ。
コブができたと言って納得いくはずもないぐらいに大きく、何か小動物が背中に潜り込んでいるのではないかと言えるほどのもの。
普段は服を何枚も着ている上にマントをつけているのでその存在に誰も気づくことはなかったが、こうして今俺達の目の前にそれはある。
そして最後の1枚であるシャツも脱ぎ、上半身が完全に裸になったところでその正体が現れる。
「それは……羽?」
現れたのは赤く染まった天使の羽だった。
「私は天使の一族。そしてケルロスも同じように背中に赤い羽がある」
「天使……たしか数百年前に絶滅したって謂われてる種族だね。君はその生き残りってことか
。でも、それが人間を殲滅することとどういう関係があるんだい?」
「私達天使が絶滅した理由は、人間による殺戮のせい。そのせいで私達は人間に大きな恨みを持って生まれることになった。人間を殲滅することは正しいことだとケルロスから教えられて、私も初めはその教えになんの抵抗もなかった。やられたらやり返す、それが言葉を持つ生き物にとって当たり前のことだから。でも、あるときそれは間違っていると思い知らされた」
「あるとき?」
ミーゼは突然震え出す。
口を開こうとしても痙攣したように何度も塞がってしまう。
「わ、わたしは……10年前に『愛の幸福』と呼ばれる孤児院で……子供を、殺した」
それは罪の告白だった。
「イーストエンドにエメって名前の女がいたでしょ。彼女はもともとその孤児院で子供を育ててた。女神と謂われるぐらいに美しく優しい女性だと誰もがエメを尊敬していた。だけど私達天使は彼女を拘束するためにその孤児院を襲って、邪魔な子供を殺した。逃げ惑う子供を天使達は笑いながら殺した。それが私達天使の求める仕返しそのものだったから」
「……」
カユウは何も言わずに顔だけ強張る。
「悲鳴を上げながら泣く子供、助けを乞う子供。そしてそれを容赦なく殺す天使達。そんな光景を見て私は初めて自分の間違いに気づいた。こんなのは何も正しくなんかない、ただの悪なんだって」
体を震えさせながらも話しを続ける。
まだ幼い子供が体験するにはあまりにも残酷すぎた光景だったのだろう。
快楽殺人者のようにならなかっただけまだ救いがあったかもしれないが……。
「孤児院を襲ってから数日後、私は逃げることを決心してケルロスの追跡をなんとか振り切ったあと、ボロボロの状態でトゥウに発見された。あのときトゥウがいなかったら今の私はいなかったと思う。これが私の過去、大罪。私は決して赦されることはない」
振り返って俺達を見るミーゼ。
「今でもこの手で子供を殺したときのあの精神を汚染させるような感触は鮮明に憶えてる。エメが私を殺そうとしたのは当然のこと。でも私は自分の罪を償いたい。そしてそのために1つだけやらなくちゃいけないことができた。それは自分の命を棄ててでも他の天使を止めること。そうしないと、今回みたいに犠牲者が次々と出てくることになる」
握りこぶしを作ってそれを強く見つめている。
今のミーゼからは何を感じることができるだろうか。
後悔、贖罪、今までの彼女からは出てこない言葉が頭から浮かび上がってくる。
「……ミーゼの言いたかったことはわかったよ。でもさ、自分の命を棄てるのは間違ってるんじゃないかな?」
さっきの強張った表情はなくなり、肘をついていつもの顔になったカユウは当然のようにそう言った。
「君は子供を殺したことに後悔して、反省してるんだろ。だったらそれで充分なんじゃない?」
「え?」
「別にさ、君が死んだって殺された子供が生き返るわけでもないんだ。だったらさ、君はその殺した子供の分まで生きる。それが何よりの償いになると僕は思うけどね」
笑顔のカユウに誰も何も言えなかった。
カユウの言葉からは妙な説得力があったからだ。
哲学とか、そんなレベルのものではない。
もっと別の何かが、みんなにその言葉の重みを伝えている。
「なんだろう……カユウもそういうこと言うんだね。ちょっと見直した」
「ちょっと!? ていうかブライトは普段僕のことをなんだと思ってるのさ!」
「他人をからかうことが好きなくせに変なところで優しくなる揶揄野郎」
「バカにしてるのか褒めてるのかわからないねそれ! もう少し他の言い方できただろ!」
揶揄野郎か。
たしかにカユウにはその言葉がよく似合うな。
「ナイト、今笑ってただろ?」
俺の心を読んだカユウが睨みつけてきた。
「……はは、やっぱり面白いわアンタ達」
安心し涙目になりながらミーゼは笑った。
「はあー、こんな風にスッキリしたの久し振り」
息を整え、もう1度俺達を見渡す。
「ナイト、ブライト、カユウ、そしてラージニイ、ありがとう。今の私があるのはあなた達のおかげ。心から感謝するわ」
頭を下げてお礼まで言われると少し照れてしまう。
相手がミーゼなら尚更だ。
彼女が頭を下げるなんて滅多にないことだからな。
「さてと、じゃあ僕はそろそろ帰ろうかなぁ……」
お礼を言われたことにどうすればいいかわからなくなったのだろう。
少し顔を赤くしてカユウがそう言うと、ブライトが笑った。
「ププッ! カユウってばミーゼからお礼言われて照れてる」
「ち、違うし! 照れてないし!」
さらに顔を赤くして言い争いを始める2人。
「ねえねえ」
ミーゼはクイクイとラージニイから腕を引っ張られ、耳元で囁かれた。
「みんな、良い人達だね」
それを聞いたミーゼは自慢気に答えた。
「でしょ!」
今まで見たことがないほどの綺麗な笑顔。
さっきの暗い雰囲気はどこかに去っていってしまったようだ。
もうみんな普段の調子を取り戻し始めている。
そのあともからかいからかわれのやり取りを夜になるまでしたあと、ほんの少し距離が縮まった感じがした俺達はミーゼの屋敷をあとにした。
帰路につく俺とブライト。
「はあー、なんだか今日は久しぶりにみんなで笑った気がするなぁ」
ブライトはスッキリしたように伸びをした。
「そうだな……」
「なんか元気ないね? どうしたの?」
「いや、ちょっと笑いすぎただけだ」
「ふーん」
……上手くやった、というべきだな。
ミーゼはまだ全てを話してはいない。
本来天使の羽は純白であり、赤く染まることはない。
ミーゼはそのことを話さなかった。
だがそれは決して自分のためではなく、俺達のためを思ってしたことだ。
ミーゼはミーゼなりに未来について考えているのだろう。
それなら俺は何も問わない。
それがこの関係を維持するために必要なことならば……。
ナイト達が帰ったあと、私は1人城へ入った。
今日、本当は真実を話すのが怖かった。
みんなが私から離れてしまうと思ったから。
でも予想とは真反対の結果になった。
「ほんと、みんな変わってるわよね」
こんな人殺しとまだ一緒にいようとするなんて……。
ちょっと泣きそうになったじゃない。
「相変わらずここはおかしな像が並べられてるわね」
また出てきそうになった涙を戻すために廊下に並ぶ月明かりに照らされた天使の形をした像を見る。
私の知る天使とは違って絵に描いたような顔立ち。
とてもじゃないが同じ種族とは思えない。
きっと作った人の個性なのだろう。
「さてと……」
これは本当にすべきかはわからない。
目の前にあるのは開けることを赦されない扉。
『禁書保管室』という王族のみが読むことを赦された禁書が山のように並べられている部屋だ。
この中には私が知っている天使の真実について書かれている本もあるはず。
なぜ人間が天使を滅ぼすようなことをしたのか。
葬られた歴史をもう一度確認するために部屋の扉に手を置こうとしたときだった。
「なーにしてるのかなー?」
私はすぐに扉から離れ、声がした方に顔を向ける。
「ティア……!?」
思わぬ人物の登場に私は驚く。
なぜ? どうして? そんな疑問が頭から駆け巡る。
そもそもこの廊下は禁書保管室があるせいで人が通ることなんて滅多にないはずなのに。
「ここ禁書保管室だよね? 王様だけが入れるところだけど、その王様も入れないところ、いや、入りたくないところって言う方が正しいかな」
理由はわからないけど何か裏があるのは間違いない。
じゃなきゃここに来るはずがない。
「ええ、でも少し通っただけ。私はここに用はないから」
内心混乱しているが、それでもいつもの私らしい態度はできているはず。
「そっかそっかー! 通っただけかぁ!」
いつものように満面の笑みで私に近づくティア。
だが、後ろめたいことがある以上それが不気味に見えて仕方ない。
「ちなみにさ、この中にある本がどんな内容なのか知ってる?」
「いいえ知らないわ。そもそも興味ないし」
普段の私ならそう言うだろう。
ここは、怪しまれないように少しでもいつもの私を演じてみせる。
「ま、そうだよねー。実際私も興味ないし――!」
「――!?」
ティアの姿が消えたと思った瞬間、私は両腕を掴まれて壁に強く押し付けられていた。
なんて速さなの!?
反応できなかった!?
明らかに異常な状況、それでもティアの顔は変わらず笑顔のまま。
だが、目だけは獲物を見る爬虫類のようだった。
「ダメだよ……わかりきったことを確かめようとするなんて……」
小動物を食べる直前の獣のようなプレッシャーが私に襲いかかる。
「な、なんのことよ!?」
「読むつもりだったんでしょ? ここにある1つの本。500年前の歴史を綴ったものを」
「な――!?」
それは私がこの部屋で探そうとしてたものと同じものだった。
どうして、ティアがそのことを知っているのか。
イベネス王に聞いた?
いや、それでも私と結びつけることはできないはず。
私の頭でわけもわからない討論が始まっていた。
「気持ちはわかるんだ。迷うこともさ。でも内容がわかってるものを見るのは止めたほうがいいと思うよ。ますます内側から壊れやすくなるから」
そう言ってティアは力を弱め、私の拘束を解く。
「安心して。今のことは誰にも言わないし言う気もない。デメリットしかないからね。でもまだ部屋に入ろうとするなら……ここで息の根、止めちゃおっか。その方があなたやみんなのためでしょ」
ティアの腕から銀色の色力が溢れる。
押し潰されてしまうほどの色力の圧。
自色系の私ですらこんな量の色力を手から出すことはできない。
この女は一体何者なの?
「……わかったわ。ここには入らない。そして二度と入ろうとしない」
「うん。いい子いい子。あなたはそうしてただ矛盾を抱えながら好きな男と一緒にいればいいの」
ティアの顔がいつもの笑顔に戻る。
そしてまるで小さな子供を可愛がるように頭を撫でてきた。
その行動に私は怒りを覚える。
「随分と子供扱いするじゃない。自分が上だと思ってるから?」
「そうよ。だってあなたはまだ小さな子供だもん。年相応じゃないものね」
「……アンタどこまで――」
「さてと、話も終わったし私は行くねー」
ティアはそのまま廊下を歩いていく。
その背中は今までよりも大きく、さらに大きく見える。
私は今日ティアの本性を見たのだろうか。
じゃあいつもカユウに悪ふざけをするティアは一体……。
これ以上考えてもわかるものではないだろう。
それに何よりあの目を見た瞬間、あれは関わっていいものじゃない。
敵に回してはいけない。
そんな確信に近いものがあった。
部屋に入ることを諦めた私はティアとは反対方向から城の出口へと逃げるように歩き出した。
「ただいまー」
誰もいない暗い玄関に対して僕は言った。
返事がないことに寂しさを感じながらも廊下を歩く。
孤児院を出て一人暮らしを始めてまだ2ヶ月も経っていないが、その間にいろいろなことがありすぎた。
ノースエンドとイーストエンドの事件、そしてミーゼの過去。
正直疲れた。
誰かに労ってもらいたい気分だ。
明かりもつけずにリビングへ入り、テーブルの前にある椅子に座る。
月明かりだけが僕と部屋の中を照らしている。
テーブルの上には読みかけの本や花瓶があって、物を置くスペースはほとんどない。
「はあー……」
上を見ながら大きく深呼吸をする。
本当に、情報機関に入ってからいろいろなことがありすぎた。
「……」
目を瞑ってミーゼの言葉を思い出す。
「わたしは……10年前に愛の幸福と呼ばれる孤児院で……子供を、殺した」
刹那、僕は感情任せにテーブルに乗ってある物全てを床へ撒き散らした。
花瓶は割れ、入っていた水が本に染み渡る。
「クソオオオオオオオオオオオオオ!!」
腹から何もかもを吐き出すような叫び声を上げる。
煮えたぎるような怒りが沸き上がってくる。
「なんでっ!! なんでっ!! なんでだよ!!」
痛いことすら忘れるほどにテーブルに拳を何度も打ちつける。
「なんで人生はこんなに……」
誰もいない家の中で、僕は朝まで悲しみに打ちひしがれた。
次回予告
「てめぇらにそんなこと言う資格はねえんだよ!」
「何も、見えない……」
「ニンゲンとして、ごく普通のことです」
「この世は、圧倒的な不幸の中にほんの少し幸福があるだけ」
「恐い……恐いよ……」
「俺を………………見てくれ」
「やっぱり勝利の喜びなんてすぐに終わるものなんだね」
「伝播不可能の怒り」
勝利満足度 5




