表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lonely Peace  作者: 天気雪晴
王の迷走
2/35

イベネス王

 ブライトと家に帰ったあと、俺達は互いにあまり話をしていなかった。

 俺はフライパンに乗っている肉を、ブライトはテーブルの模様を見ているだけだった。

 俺が料理をしているからかもしれないが、聞こえる音が肉を焼く音ってだけなのはちょっとキツイ。

「なあ……肉好きか?」

「は、はい。好き……だよ」

「そうか……」

 そのあとまた無言になる。

 もうちょっと会話出来ただろ俺。

 さっきちょっと恥ずかしい発言をしたせいか調子が狂ってしまう。

 ブライトも敬語で話していいのか、普通に話していいのかわからないのだろう。言葉が混ざって変に聞こえる。

 そんなことを考えているうちに肉がちょうどいい焼き色になってきた。

 匂いも強くて、食欲がそそられる。

 ぐぅぅ……。

「あっ⁉」

 空腹の音の発生源であるブライトは赤面しながら腹を押さえた。

 相当空腹みたいなので、少し急ぐことにしよう。

 できる限り早く、そして味が落ちないように。

「はい、できたぞ」

 ブライトの前に出来立てのステーキを置く。

 ステーキを見るブライトの目はとてもキラキラしていて、すぐにでも食べたいという気持ちが伝わってくる。

 横にサラダやスープ、パンを置き、最後にナイフとフォークを並べる。

「いただきます!」

 大声で言ったあと、ブライトはナイフとフォークを持ってステーキを切り始めた。

「おう、たくさん食べてくれ」

 俺も向かいに座って食事を始める。

 かなり大きめに切った肉を口に入れた瞬間、なんとも言えない至福の感触があった。

 ああ、やっぱり肉はハンバーグとかよりステーキの方がちゃんと味わえるな。

「ぷはーっ、おいしかったー!」

「はやっ⁉」

 俺なんかまだ一口しか食べていないのに、満足そうに腹を撫でるブライト。

 俺もかなりの大食漢だが、ブライトはさらに大食いなのだろうか。

「ブライト、俺の分も少し食べるか? ちょっと大きくて食べきれるかわからないんだよ」

「え、うんうん大丈夫。私ももう限界なんだ」

 ブライトは早食いだが、大食いではないってことなのか?

 申し訳なさそうに断るブライトを見て、言わなきゃよかったと後悔する。無駄に気を使わせてしまった。

 そのあと、俺も食べ終わり片づけに入ろうとしたときだった。

 ドアをノックする音とともにある男の声が聞こえる。

「ナイト、私です。トゥウです。入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいぞ」

 「失礼します」と言って、白装束の眼鏡をかけた男が入ってきた。

「ナイト、今月のお金を……、こちらの少女は?」

 封筒を持ってきたトゥウが、ブライトを見て首をかしげる。

「ああ、紹介するよ。ブライトだ。今日から一緒に住むことにしたから」

「え? ちょっと待ってください、聞いてませんよそんな話!」

「今日決めたからな」

「そんな勝手に決めないでくださいよ。あなたは私の養子ということになって特別にこの家で1人で住める許可を貰ったんですから」

 トゥウの言う通り、俺はかなり特殊だ。

 じいちゃんが死んだあとトゥウにお願いして養子になったが、ここを離れるのは嫌だったし、誰かとこの家で住むのも嫌だったのでトゥウに王を説得させてここに1人で住めるようにしてもらった。

 もちろん俺に何かあればトゥウの責任になってしまうので、トゥウはかなりギリギリのラインで生き残っていることになる。

「それに、こんな幼く小さな少女をあなた……いいえ、子供に任せるなんて了承できません」

 小さいという言葉にブライトが頬を膨らませる。

「そこでお願いがある」

「え? まさか……」

「ああ、また王に頼んでくれないか」

 するとトゥウの顔が汗だらけになった。

「勘弁してくださいよ。前のときだってかなり緊張したんですから」

「でもお前あのとき王を号泣させてたじゃん。だから今回も大丈夫だって」

 あのときの王の涙は今でもはっきりと覚えている。

「……わかりました。ですがあなたたち二人にもついて来てもらいますからね」

 トゥウは真面目だが優しいので基本頼めば大体のことはやってくれる。勿論俺はそんなトゥウに頼りっぱなしにはなりたくないのだが、今回は大人の話になるので、トゥウに頼らざるを得ない。

「まあそうなるよな。ブライト、いいか?」

「え? うん、私は大丈夫だけど……」

「よし、じゃあ行くか」

 こうして俺達三人は王のいる城まで行くことになった。



 城はこの町の中心にある。

 外見は絵本にある城をそのまま現実に持って来たようなもので、独特な部分は頂上に天使の像があるくらいだ。

「ねえナイト、今から王に会いに行くっていうけど、そんなすぐ会えるようなものなの?」

「まあ他にヒトがいれば待つかもしれないけど、多分そんなに時間はかからないと思うぞ。基本的に誰とでも話したがるニンゲンだからな」

「誰とでも?」

「ああ、ほら見てみろよ。入口で兵士が立ってるけど、城に入るヒトを誰も止めないだろ」

 もし絵本と違う点をあげるならここだろう。王は城に入ってくるヒトを止めず、どんなニンゲンでも受け入れる。王として警戒心がなさすぎるんじゃないかとも思えるが、それが王の強みでもある。誰にも負けないという意思の表れだ。

「ホントだ。しかも子供だけで入ってるのに笑顔だし。ここ観光施設か何かじゃないの」

「はは、だよな。俺もそう思うぜ」

 実際何回か『イーストエンド』から殺し屋が送られてきたこともあったが、大体が王に会うこともできずに捕まっている。兵士も何も見ていないようでヒトの仕草とかを細かく見ているのだ。

 町の住人達もそうだが、この町は一人一人の戦闘力が他よりもずば抜けて高い。

「二人とも、そろそろ王のいる玉座ですよ」

「はーい」

「は、はい!」

 玉座への大きな扉が開く。

 ブライトはかしこまっているが、そんなに警戒する必要はない。なぜなら――。

「おーよく来たなトゥウ、それにナイト! ん? それに知らん顔の奴がおるな。まさかトゥウの隠し子か!」

 こんな感じの軽い(ジジイ)だからである。

「いいえ違います。いつものことですが私に対する誤解されそうな冗談はやめてください、イベネス王」

「ハハハ! まあまあそんな固いことを言うな。余とお前の仲ではないか」

「ねえねえ王様遊ぼ!」

「今度は鬼ごっこしようぜ!」

 トゥウと王がそんな仲が良いようには思えないのだが。というか他の子供がうるさい。玉座の間で子供遊ばせてる王様なんて聞いたことがないぞ。

「おう! ちょっと待っとれ。今このメガネから話を聞かねばならんからな。そのあと余と遊ぼう」

 笑顔でそう言って王は子供たちを優しく玉座の間から出した。

「相変わらず子供がお好きなんですね」

「そういうお前も子供ではないか。まあ仕事上夜しか招けないというのが辛いところだがな」

 俺の言葉にも王は間を置かず返してくれる。

 本当なら昼も夜も子供と遊びたいのだろうが、国を支配する王ゆえにそんなことはできない。むしろ夜だけでも招いてることが凄いことだ。

 笑いながら玉座に戻ると、話を進めてくれた。

「で、今回は何の用で来たんだ。そこの見知らぬ少女のことなのは分かり切っているが、前は号泣させられたからな。今回もそんな話ではないだろうな?」

「はい、実は……」

 トゥウは俺とブライトの話を始めた。ただ、内容を少し変えている。この城に来る前に打合せしていた通りに。

「このブライトという少女は、先程まで白色の森で一人寂しく迷っていたところ、大熊に襲われ逃げ回っていました! するとそこにっ! まるで白馬に乗った王子のようにナイトが現れ窮地を救ったのです! そしてブライトは思いました! 『ああ、この方と共に生涯を過ごしたい』と! そしてナイトもまた『この可憐な少女をずっと守ってやりたい』と思いました! ともに孤独な子供同士の想い! ああ、なんて運命的な出会いなんでしょう。どうか王よ、この2人がずっと一緒に暮らせるような、寛大なお心をお願いします!」

 まるで演劇の舞台で中途半端な演技しかできない俳優のように、嘘と本当のことを混ぜた話をするトゥウ。

 そんなトゥウを見て、ブライトは少しだけ唖然としていた。

「ねえナイト、こんな演技が通じるの? なんか演技がバレバレで見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだけど」

 耳元でブライトが言ってきた。確かにその通りでトゥウの演技は誰がどう見てもバレバレだ。いきなり演劇のような喋り方になったのも嘘くさい。

「ぅぅぅぅ……いいよ、許す!」

「いいんだ……」

 涙を拭きながら親指を立てて許可した王に、ブライトは小さな声でツッコミを入れた。

「感謝いたします王よ! ほら二人とも」

「ありがとうございまーす」

「あ、ありがとうございます!」

 適当にお礼を言う俺と丁寧に頭を下げてお礼を言うブライト。

「うむ、良い話であった。ナイト、ブライト、余はお前たちを応援するぞ!」

 今度はウインクをしながら親指を立てて祝福する王だった。



「な、なんか最後いろいろと凄かったけど、あの王様良い人そうで良かったですね。民草(たみくさ)が相手でも同じ目線で話してくれましたし」

「だろ、この国じゃ一番尊敬されてるヒトって言っても誰も疑わないくらいだからな」

 家の前に着く。トゥウは振り向いてブライトに言ってきた。

「しつこいかもしれませんがもう一度聞きます。あなたは本当にこの家でナイトと一緒に住むんですか」

「なんだよトゥウ、今さら――」

 俺の言葉を言い終える前にトゥウが睨みつけてくる。

 それは今聞きたいのは俺の言葉なんかではなくブライトの本音だということだ。

 ……最終確認だな。

「どうなんですかブライト。これはナイトの時も言ったことですが、子供だけで生きるのはとても辛く厳しい道ですよ。もしそれが嫌だと言うなら、私はまた王のところに言って先程の言葉を撤回させてもらいますが」

 あの、ヒトを委縮させてしまうほどの鋭い目。前に見たときはイーストエンドからのスパイを捕えたときだったか。あのときと全く変わらない威圧感。どうするブライト。

「私は――」

 少しだけ言葉に詰まるブライト。

「私は、探したいものがあります。それはもしかしたら私の人生をかけても手に入らないものかもしれない。いや、人間では絶対に手に入れられないものかもしれないけど――」

 覚悟を決めたようにブライトはトゥウの目を見た。

「ここなら、ナイトなら、もしかしたら私に何か道しるべをくれるかもしれない。それがかなわなくても、ヒントぐらいならくれるかもしれない。だから私は、辛くても、苦しくても、ここにいたいです」

 少しだけうるっとした瞳がトゥウを映す。

「――そうですか」

 肩を下したトゥウはそう言って微笑んだ。

「わかりました! このトゥウ、あなたたちにできることがあればなんでもしてあげましょう!」

 どうやら無事合格、及第点には達したようだ。

 目を手でこするブライト。

 まだまだこれから俺同様十分成長できる少女だ。これからトゥウもブライトの成長を見守っていくことだろう。

「ではあなたは正式にこの家に住むことになります。なにかあればナイトでも私でも頼ってください。ナイトはまだ10歳ですが普通の大人よりもちゃんとした部分は――ないですが、まあおそらく多分頼りになるでしょう」

「おい、全く説得力がないぞ。一回ぶん殴ってやろうか」

 拳を振り回してかかってこいとアピールする。

「へえ、ナイトって私と同い年だったんですね。もう少し上かと思っていました」

「「……え?」」

 衝撃の発言に俺とトゥウは同じ反応をする。

 あれ? 10歳ってこんなに身長低かったっけ? 110センチぐらいしかないぞ。今は女性と男性の身長差はほとんどないから10歳って確か平均150ぐらいだったよな。え? 10歳?

「ブライト……」

 俺はそっとブライトの肩に手を置いた。

「見栄を張らなくていいんだ。小さいって扱われたくないからって年齢を偽るなんて馬鹿げてい――」

「嘘じゃないわ!」

「グボッ⁉」

 優しい眼差しで言ってやったのに、ブライトは頬を叩いてきた。

「え? マジで俺と同い年なの⁉」

「そうですよ悪かったですね小さくて! 私は他よりも成長が遅いんですよーだ」

 やっべー、俺今まで妹みたいな感覚だったわ。もう一発叩かれそうだから黙っておこう。

「なるほど、そうだったんですね。ではあなたも今年から学校に入学することになりますね」

「え? 学校?」

「ああ、王立の学校だ。ここに住むなら子供は必ずそこに入学することになってる。そうか、ブライトも俺と一緒に行くことになるのか。いやー嬉しいな。正直ちょっと心細かったからな」

 早速話せるニンゲンがいるというのは良いものだ。

「では私はこれで失礼します。おそらく明日にはいろいろと手続きなどの話が来ると思いますので、これにて」

 そう言ってトゥウは町の方へと歩いていった。

「……学校ですか」

「不安か?」

 小さな声で言うブライト。

「いいえ、大丈夫です! ここまで来たら当たって砕けろのようなもの! なんでも来いです!」

 その例えだと学校を砕くみたいになりそうだが、まあ本人が大丈夫と思っているのならいいだろう。

 俺も入学までの約一か月までにいろいろと準備しなくちゃいけないからな。

 ぐぅぅ、とまた腹の音が聞こえる。

「えへへ、安心したらお腹すいちゃった」

 赤面しながら言うブライト。

 そういえばもうすぐ夜中の12時だったな。

「よし、じゃあご飯にするか。何が食べたい?」

「私ステーキ食べたい!」

「それはさっき食っただろう!」

「えー。あ、じゃあお肉!」

「答えがあんまり変わってねえよ!」

 そんな話をしながら、俺達は家の中に入っていく。



 ナイト達が帰ったあと、いつものように玉座の間は子供たちの声が聞こえる。

「あれ? 王様、目の周りちょっと赤いよ」

「ホントだ。もしかして泣いたの?」

 玉座に座るイベネス王の近くにいた子供たちが言う。

「おう、ちょっと()()()してきたところでな、ハハハハハ!」

「すごーい! 王様泣けるんだ」

「見せて見せて!」

「よし、今度おままごとのときにでも見せてやろう。余の完璧な嘘泣きをな。だが今は鬼ごっこでもしようではないか。余がまず鬼をやってやる」

「えー、王様大丈夫? 腰痛めたりしない?」

「なにをー、ならば見せてやろう。素の身体能力なら最強と言われた余の脚力を」

 子供たちは笑いながら玉座の間から出て行く。

 1人になった玉座で王は笑う。

「ふっ、ナイトとブライトか……。見せてもらおうか、お前達の成長を」

 そう言って王は子供たちを追うために走り出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ