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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
無責任の代償
18/35

カユウvsネーズ

 戦闘が始まってから数秒、状況は全く変わっていない。

「ふんっ!」

 襲いかかる小さな鉄球をギリキリで避け、また襲ってくる小さな鉄球を避ける。

 数秒間、それを繰り返しているだけだった。

「どうしました? 攻撃しなければ勝てませんよ」

 ネーズはモーニングスターという扱い方を間違えれば自分の命を刈り取られるような武器を躊躇いなく振り回す。

(くっそー、完全に調子乗ってるよアイツ。こっちが必死に避けてるの見て笑ってるよ)

 カユウはなんとか攻撃に転じたいと思考を巡らせながらも、休みなく襲ってくる鉄球のせいで良い案が浮かばない。

(これさえ! なんとか! できれば! いいんだけど! やっぱり! 難しい! よね!)

 棘か髪に当たり激しく揺れる。

 あと数センチずれていれば目をかすめていた、そんなことをもうカユウは何度も味わい、慣れ始めていた。

「避ける技術はなかなかのものですね。では……こうしましょうか」

 ネーズは少しだけ腕の振りを変える。

 すると、さっきまで空中を回っていた鉄球は棘の部分だけを床に当て、削るように走り出した。

 床を削ることで鉄球のスピードは少しだけ遅くなる。

「ッ!! あっぶね!!」

 だが、代わりに別の物が鉄球と一緒に襲いかかってきた。

 それは削られた床の木片であり、形や大きさがバラバラで避けづらく、カユウは大きくジャンプすることでそれを回避した。

 ネーズはそれをチャンスと見て鉄球を空中にいるカユウ目掛けて振るう。

「くっ! 硬化!」

 カユウは服に色力を流し、両腕で十字を作り硬くなった袖で棘のある鉄球を受ける。

 袖は破け、カユウは衝撃で飛ばされ床に激突するが、なんとか鉄球を直撃させずに済んだ。

「いたたたた、色力使ってなかったら死んでたね確実に」

 起き上がるカユウに対してさらなら猛攻が襲いかかる。

「休む暇はありませんよ!」

 ネーズはまた木片と鉄球を一緒に飛ばす。

「くっ!!」

 カユウは痛みに耐えながら鉄球を躱すが、木片を全てを躱すことはできず、体中に容赦なく刺さる。

 刺さった箇所からは血が溢れ、服が赤く滲む。

「痛そうですねー」

「うるさい!」

 カユウはナイフを1本投げると、ネーズはモーニングスターの鎖を使って防ぐ。

「おやおや、怒りに任せて自分の武器を投げるとは、あと2本しかありませんが大丈夫ですか?」

「少し黙っててくれないかな。苛つくんだよねその声」

「ふふふ、だいぶ体力がなくなったみたいですね。息が荒いですよ」

 ネーズは攻撃を一旦やめ、カユウの分析を始めた。

(さっきの私の攻撃は間違いなくこの方の命を刈り取るのに充分な威力でした。腕でガードできるほど生ぬるいものではありません。一瞬だけ使った緑色の色力、おそらくあれのおかげでしょうね。服の色が変化したということは他色系、そしてぶつかったときの音から察するに触れている対象を硬くする能力でしょう。そして袖が破けているということは私の攻撃の方が強いということ。つまり、このまま攻撃し続ければいずれ私の攻撃を防ぐことはできなくなる。ふ、ミーゼのせいでだいぶ過剰評価していたようですね。そこまで警戒する必要はなかったようです)

 少しだけニヤつくネーズ。

「ではまだまだいかせてもらいますよ!」

 鉄球がカユウの顔目掛けて飛んでくる。

 カユウは今までとは違い少し顔をずらすことで耳に掠ると同時にナイフを投げる。

「なっ!?」

 突然の攻撃にネーズは鎖でガードする暇もなく左に避ける。

「ここだ!」

 カユウはモーニングスターの攻撃が止んだ一瞬の隙を突いてネーズとの距離を詰める。

 最後のナイフを手にし、ネーズに振るう。

(……やはり警戒など不要でしたね)

 ネーズは足元にある小さな木片を蹴る。

(は、そんな小さな破片を蹴ったところで僕が止まるわけ――)

 カユウは蹴られた木片のある違いに気づく。

(あれ? 色が――)

 そう、ネーズの蹴った木片は薄橙色になっていたのだ。

「色力解除――」

 ネーズの言葉とともに蹴られた木片は元の色に戻ると大きさも変化し、1枚の木の板になった。

 カユウはそれをギリギリで躱すが、ネーズは隙だらけになったカユウの腹に左手でパンチを喰らわす。

「ガハッ!!」

 カユウは後方に飛ばされ、壁に激突した。

「ゲホッ、ゲボッ! アイツ、最初から足元にあった木片を小さくしてたのか……」

 形勢逆転とはならず、カユウはさらに傷を負っただけだった。

「他色系の人間はその場にあるあらゆる物を使って闘うのが常識です。自分以外は全て武器、最初から用意していた武器だけで闘うのは三流のすることです」

「ははは、言うねえ。まるで自分が一流みたいな言い方、腹が立つよ……」

 腹を抑えながらゆっくりと立ち上がるカユウ。

「君みたいに全てのことをわかったような口で喋る奴は嫌いなんだ。己の実力を過信して、この世の真理なんかも全部自分が正しいなんて思い込んで、それを周りに言いふらしてさ、本当に気持ち悪いったらありゃしない」

 抑えていた手を離す。

「それと力を持ってるのに全部出さない奴はもっと嫌いさ。相手と同じ立場、フェアな状態で勝たなきゃ喜べない奴なんか特にね!」

「……何を言っているのです?」

「僕が言いたかったこと、腹に溜めたもの全部吐き出しただけだよ。もうスッキリした。あとは君を倒すだけだ」

 ギュッと力強く手を握る。

 それはカユウにとってある決意の表れだった。

「ふ、できるものならやってみなさい!」

 鉄球がカユウ目掛けて飛ぶと、カユウもネーズに向かって走り始めた。

「やはりバカですね! 自ら当たりに行くとは!」

 鉄球に当たる直前、カユウはほんの少しだけ顔を下げ髪が鉄球に掠れる。

 そして鉄球が通り過ぎると、カユウは鉄球に繋がれた鎖を左手で掴んだ。

「硬化!」

 すると、鎖はみるみる黒から緑に変わり、さきほどまで鞭のようにしなやかだった鎖が1本の棒のように固まった。

 カユウは固まったのを確認したあと、右ポケットに手を入れる。

「くっ! 小癪な!」

 モーニングスターを動かせず焦るネーズに対して

「ほらよ!」

 カユウはポケットからあるものを取り出し、ネーズ目掛けて投げつけた。

(これは、ボール!?)

 それはいつもカユウがキャッチボールをするときに使っている野球ボールだった。

(なにかと思えば……)

 ボールに対して思い切り左拳を繰り出し、跳ね返そうとするネーズ。

「こんなもの!」

 ボールに拳が当たる。

 すると、何かが折れるような音がした。

「ッ!?」

 ネーズもその異常に気づく。

「うっ、うあああああ!!」

 突如襲いかかる激痛にネーズは拳を抑える。

「な、なんなんですかこのボールは!?」

 ネーズの手は大きく腫れ、指の関節以外の場所で折れ曲がっていた。

 明らかに異常な状況、とても野球ボールが当たっただけでなる折れ方ではない。

「まさか色力で硬くした!? いや、ですがそれだけで手がこんなことには……」

「ああ、そのポールさ、いつもキャッチボールに使ってるんだけど、訓練用だから重くなってるんだよね。たしか20キロぐらいだったかな。バカだねぇ、そんなものを素手で跳ね返そうとするなんて。おまけに僕の色力で硬くしてるから豪速球の鉄球を拳で殴るようなものだよ。痛そー」

 いたずらが成功した子供のように邪気のある笑いをするカユウ。

「どうしたのかな? 僕は最初から用意してたもの、されてたものを使っただけだよ。そういうのは三流なんだよね? どうして左手がそんなことになっちゃってるのかなー?」

「この小僧がぁ!!」

 右手でモーニングスターを振るうネーズ。

 だが、カユウはそれを軽やかに躱す。

「な、なぜ当たらない!?」

「片腕だけじゃさっきよりコントロールも上手くできないし、スピードも出せないでしょ。今の君じゃ僕に攻撃を当てるなんて不可能だよ。残念だったねー」

「ふ、ふざけるなぁ!」

 挑発され、頭に血が登ったネーズはモーニングスターから手を離し殴りかかろうとする。

「だから不可能だって――」

 カユウはネーズの拳をひらりと躱すと、ネーズの顔を掴む。

「言ってるだろおお!」

 そしてそのまま地面へ叩きつけた。

「ガハッ!?」

 頭から激突したネーズはそのまま力尽きた動物のように動かなくなる。

「そ、そんな……わた、しが、こんな、こぞうに……」

「ふー、久しぶりに気持ちいい勝利ができた気がするよ」

 カユウは汗を拭うとネーズの横で胡座をかいて座った。

「な、なぜだ……」

「ん? なにが?」

「なぜ、殺さない?」

 戦意が無くなったカユウにネーズは問う。

「あー、やめてくれないそういうの。僕別に人を殺しに来たわけじゃないからさ。はっきり言ってそういうのいらないんだよ。殺すとこっちまで痛みが伝わってきて辛いだけだしね」

「……あまい人ですね。そんなことでこれから生き残っていけるとでも?」

「さあ、どうだろうね。少なくとも限界までは抗うつもりだよ」

「……ふ、いいでしょう。私の負けです。今回は油断しすぎたようです」

 そう言って敗北を証明するように目を瞑るネーズ。

(さて、ナイト達の方に行きたいんだけど、ちょっと体力使いすぎたかな。もう少し休まないと動けそうにないや。まあ僕がいなくても大丈夫だと思うけど、みんな無理するんじゃないよ)

 天井を見ながら、カユウは体力の回復を待った。 

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