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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
無責任の代償
16/35

俺だけの笑顔

 ブライトとバトラは地下へ続く階段に向かっていた。

「クッソー、なんで階段へ近づくほど兵士と会う機会が増してるんだよ? 普段はこんなんじゃないぞ」

「でも一人一人がそこまで強いわけじゃないからまだマシ。それよりも本当に地下への階段はこっちでいいの?」

「ああ、順調に近づいてるよ」

 話しながらも襲いかかる兵士を剣でいなしカウンターで倒すブライト。

 ナイト達と分かれてから戦闘はほとんどブライトが担当し、バトラはそれを愕然と見ているだけだった。

「お前の小さな体のどこからそんな馬鹿力が出てくるんだよ」

「小さいって言うな! 別に特別な力があるわけじゃないよ。ただ力の流れを上手く扱ってるだけ。私のことはいいから道案内に集中して」

 そんな2人がある曲がり角に着いたときのことである。

「ここを左に曲がれば階段だ」

「あ、待って!!」

 先に曲がろうとしたバトラの手をブライトは引っ張った。

「何するんだよ!?」

「しっ、人の気配がする」

 そう言って待ち伏せするように壁に張り付いて足音が近づくのを待つブライト。

 バトラも耳を澄まし足音を確認したあと同じように壁に張り付いた。

 足音が2人の目の前から鳴った瞬間。

「おりゃああああああ!!」

 ブライトは曲がり角から出てきた者に対して剣を振り下ろす。

「ぎゃあああああああ!!」

 聞き覚えのある声がブライトの耳に響いた。

「て、あれ? ラージニイ!?」

 剣を振り下ろすのをやめたブライトは2日ぶりに見るラージニイの姿に驚愕する。

「え…………ブライト……ブライトだよね!? 良かったあぁー! 助けに来てくれたんだね!」

 ラージニイもブライトの姿を見て驚きと嬉しさに笑顔になる。

「どうしてこんなところにいるの? 捕まってたんじゃ……」

「見張りの兵士2人に怪我したところが痛いって泣きながら言ったらさ、俺のこと治療しようと牢屋の扉開けてくれたからその隙にボコボコにして逆に牢屋に入れてやったんだよね。で、そのあと姉ちゃん助けに行こうと下に向かってたら兵士に見つかって逃げ回ってたらいつの間にか上に来ちゃってさー、アハハハハ」

「「……」」

 言葉が出ない2人。

(……私達が入る前から城の兵士達が騒がしかったのはラージニイが脱走したせいってことか)

 呆れながらも冷静に状況を整理するブライトだった。

「あれ? 隣にいるそのおじさんだれ?」

「お、おじさん!?」

 バトラはラージニイのおじさん発言に怒りで反応してしまう。

「ああ、この人はバトラ。まあ簡単に言えばあなた達がここに連れてこられた原因を作った人かな」

「おい! 変な言い方するな! それじゃあ俺が全部悪いみたいだろうが!」

「実際バトラが来なかったらミーゼ達が連れ去られることだってなかったでしょ?」

 ブライトの言うとおり、バトラがイベネスの暗殺に行かなければナイト達はいつもどおり買い物を終え、ネーズ達がミーゼを連れ去る前に戻ることができた。

「ぐぬぬ……」

 バトラもそれがわかっているので反論できない。

「えっと……じゃあ敵ってこと?」

「敵っていうか、今は私達に仕方なく協力してくれてるって感じかな。もうケルロスの部下じゃないっぽいし」

「そういうことだ。だから警戒しなくてもいいぞクソガキ」

「ク、クソ!? 俺がクソ!? 失礼じゃないのこのおじさん!」

 今度はラージニイが反応した。

「見たまんまだろ。それにお前だって失礼だろうが。俺のことおじさんなんて言いやがって!」

「俺だって見たまんまのことを言っただけだもん!」

「まあまあ、喧嘩はあとにして今は仲良くしましょう。ラージニイ、さっき下に行こうとしたって言ってたよね? ミーゼはまだ地下にいるってこと?」

「多分。もし姉ちゃんが脱走してたら大暴れして城が滅茶苦茶になってるからまだ捕まってるんじゃないかな」

(おいおい、城が滅茶苦茶って。どんな女なんだよそのミーゼってやつは……)

 心の中でバトラはこれから会うと思われるミーゼに対して恐怖を抱いていた。

「じゃあ早く行かなきゃ。今はカユウが囮をしてくれてるから兵士達が右往左往してるけど、それもいつまで続くかわからないから急がないと。バトラ、お願い」

「へいへい。わかりましたよ」

 そのあと、バトラの道案内によりミーゼのいる地下2階へと無事たどり着いた。

「姉ちゃん! 姉ちゃーん!」

「ミーゼ! どこにいるのー!」

 全ての部屋に響き渡る声。

「ラージニイ! ブライト!」

「ッ!! 姉ちゃんの声だ!」

 3人は声がした部屋に入ると牢屋の中で壁に鎖で繋がれたミーゼがいた。

「ミーゼ! 良かった、今助けるから!」

「ええ、お願いするわ」

 ブライト達が牢屋の中に入り、ミーゼを縛る鎖を見る。

「なんだろうこの鎖? 普通の鎖とはちがうような……?」

「これは漂白石(ひょうはくせき)でできた鎖よ。触ると色力が使えなくなるわ」

「じゃあ性道流を使う私の出番だね。鎖斬るから2人は離れてて」

 そう言ってブライトが剣を構えた瞬間。

「そうはさせませんよ。小さな逃亡者さん」

 突然現れたのは、蒲公英色の髪をした女だった。

「お前はラーヴェ!!」

 バトラだけがよく知っている人物。

 ケルロスの付き人ラーヴェである。

「お久しぶりですねバトラさん。元気にしてましたか?」

「テメェ……」

「おや、なぜだが怒っているようですね。それにどうしてあなたが敵と一緒に行動しているのでしょうか?」

「うるせぇ! テメェが俺にイベネスの暗殺を命令したからこうなったんだろうが!」

「おやおや、そんなに怒ると(ワタクシ)こわいこわーいですわ」

「ぐぬぬ、性悪女め……」

 完全に舐めた態度を取るラーヴェに歯ぎしりをするバトラ。

 ブライトはそれよりもあることに疑問を持っていた。

「なんか、シュランと雰囲気が似てるような……」

「気をつけろブライト。たしかにシュランと似てるがあいつの性格は悪い。特に俺にはな。あいつに何度おかしな命令をされたことか」

 バトラはブライトが近づかないように腕を前に置く。

「……まあ、似ているのは血筋上仕方のないことかと。でもバトラさん、1つ訂正してください。(ワタクシ)の性格が悪くなるのはケルロスとあなたとそこで捕まってるミーゼだけですから」

「血筋?」

 ラーヴェの言葉にさらに疑問を持つブライト。

「いずれ分かることですよ。ま、そのことは置いておいて。その方の鎖を解くのは許しませんよ。特にバトラさん」

「え、俺?」

「はい。あなた達2人はこの()()()()()()()()()によりここで死んでもらいたいのです」

 突然の殺害予告にバトラは黙っていられなくなる。

「はあ? 突然何言ってんだよお前!? それにエメってなんだ? ラーヴェじゃないのかお前の名前?」

「……待って……エメ……アンタ今エメって言ったの?」

 突然ミーゼは目をカッと開いてエメを凝視しだした。

「ミーゼ、あの人のこと知ってるの?」

「エメって……まさかあなた『愛の幸福』にいたエメ!?」

「ふふ、やっと思い出しましたか。まあ(ワタクシ)が名前をバラすまでは記憶が無くなるようにしていたので今まで気づかなかったのは当たり前ですが。思い出したなら(ワタクシ)があなたの命を狙っている理由はおわかりですね?」

「……それは……そうだけど……」

 いつもと違い弱気なミーゼにブライトは不安を感じる。

「では、本当はヒト殺しなどやりたくありませんがお覚悟を、お二人とも」

 そう言うと、エメは赤い棒状のスイッチを取り出し親指で押した。

「な、なんだこの音?」

 突如時計の秒針が動くような音が鳴り出した。

「爆弾です。あと20秒ほどでこの階層は爆発するのでブライトさんとラージニイさんはお逃げ下さい。死ぬのはそこの2人だけでいいのですから」

「は? ば、爆弾!?」

「では(ワタクシ)はこれで」

 そう言うとエメは光に包まれ一瞬にして姿を消した。

「ふ、ふざけんじゃねえぞ! なんでいきなりケルロスの付き人から命狙われてんだ俺は!」

「ブライト、ラージニイ! 私はいいから2人は早く階段で上に逃げなさい!」

 頭を抱えるバトラとは正反対に2人を逃がそうとするミーゼ。

「そんなことできるわけないでしょ! みんなで帰らないと意味ないんだから! バトラ、ちょっとそこどいて!」

 バトラはミーゼから離れると、ブライトは剣を構えミーゼを縛る鎖を斬る。

 そして倒れそうになったミーゼをラージニイが受け止めた。

「よし! ミーゼ、立てる?」

「ダメね。長く鎖に縛られてたせいでまだ力が入らないわ」

「じゃあ俺が担いでいくよ」

「……ごめんね、ラージニイ……」

「お互い様だよ。それよりも早くこの階から離れないと」

 階段まで走る4人。

 躊躇いなく進む秒針の音に焦りが生じる。

「もう少しだ、お前ら急げ!」

「急げって、バトラが1番遅いじゃん!」

「なんだとぉ!」

「言い争わなくていいからさっさと走れ2人とも!」

 先頭を走るブライトと後尾を走るバトラの言い合いにミーゼが怒る。

(……これが大人のやり取り……か)

 そしてそれを見て呆れるラージニイ。

 爆発まであと3秒ほどで階段を登り地下1階へ走る4人。

 だが、まだ安心はできない。

「爆発がどれくらいかわからないから1階まで登るよみんな!」

「ああ、わかってるよ!」

 そう言ってバトラが地下1階の入口に入った瞬間だった。

 バトラとミーゼを担ぐラージニイの間に突然ヒトの形をした光が現れバトラの右手とミーゼの背中を掴んだ。

「は?」

 光が消えたとき、そこにいたのはエメだった。

 エメはラージニイが気付く前にミーゼを力任せに引き離すと、そのままバトラと一緒に階段下へ放り投げ――

「言ったでしょう、死ぬのはあなた達2人だけでいいと――」

 ゴミを見るような目でそう言い残しまた光に包まれ消えた。

「ッ!? 姉ちゃん!」

 投げられたミーゼに手を伸ばすラージニイ。

「ラージニイ!」

 ミーゼも手を伸ばす。

 だが、お互いの人差し指が当たっただけだった。

(そんな……)

 ラージニイがもうダメかと思った瞬間。

「ほらよ――」

 後ろにいたバトラがミーゼの背中を押し、そのおかげでラージニイとミーゼの手が繋がった。

 力一杯握り締めたラージニイはそのままミーゼを胸元まで引き寄せるが、バトラはそのまま下の階へ。

「バトラ!」

 全てを見ていたブライトは名前を叫ぶが、バトラは吹っ切れたように何も言わずに笑う。

 そしてその瞬間秒針の音は止み、バトラは迫りくる赤い炎と熱風に呑み込まれた。




 落ちる俺に手を伸ばそうとするブライトの必死な顔が最後に見た光景だった。

(何やってんだろうな俺は。こんなヒーローの真似事なんかして)

 ゆっくりと目を閉じて全てを諦める。

 別にヒーローを目指していたわけじゃない。

 多分、罪悪感から体が勝手に動いたんだろう。

 俺がウェストエンドに行かなければこんなことにはなっていなかった。

 ミーゼやラージニイが捕まることもなく、ナイト達がここに来ることもなかった。

 それがどうしても俺の心を締め付けてくる。

 だから、ここまでなんの役にも立たなかったから、最後くらいは役に立ちたいと思った。

 ただ、それだけだ。

 秒針が鳴り止むと同時、信じられない熱と痛みを感じながら俺の意識は途絶えた。


 

 ……目を開けるとそこは何もない真っ白な空間だった。

 そして後頭部から感じる柔らかく懐かしい感触。

 これは……。

「あ、やっと起きたんだね。おかえりなさい」

 ああ、やっぱりそうか。

 俺は今、やっと再会できた妻に膝枕をされながら頭を撫でられている。

「セム、ここは……?」

「さあ、天国なのか地獄なのか……? 気が付いたらあなたが私の膝で寝てたんだよ」

 上を見て妻の目を見る。

「……やっぱり変わってないな、お前のその怖い目は」

 見えるのは光のない死んだ動物のような目。

「それを好きになったのはあなたでしょう?」

「……まあな」

 不思議だ、俺は昔から笑顔の似合う人間、特に女性の笑顔が好きだった。

 笑顔を見ると頬が緩んでしまい、心が癒やされるからだ。

 だが俺の妻はその真逆。

 目は怖いし笑顔なんてまるで殺人鬼がするようなものだ、癒されるはずがない。

 なのに好きになってしまった、愛してしまったのだ。

「ねえあなた、膝枕しながらあなたのこれまでを見てきましたけど……」

 クシャ……。

「え?」

 言い終える前にセムは撫でていた手を止め、俺の髪を握り締める。

「私がいないからって随分とまあ他の女性と親しくしていましたね?」

 怖かった目がさらに威圧感を増して俺を睨みつける。

「また私に殺されたいのですか?」

「いや、あの、それは……」

 これだ。

 セムはとても独占欲が強い。

 俺が女の人と話すだけでいつも浮気を疑って質問攻めしてくる。

 そして俺が女性の笑顔を見て頬が緩むとさらに嫉妬心が増し挙げ句には監禁しようとしてくる始末。

 今思えば、そんな嫉妬深い女なのに仕事ばかりして妻のケアを何もしてこなかった俺が悪かったのだろう。

 結局俺は嫉妬に燃えるセムに殺され、セムも後を追うように自分の首を切ってしまった……。

 生き返ったときはまた会えるかもしれないと少しだけ期待したが、俺のようにセムが生き返ることはなく、ずっと後悔と孤独を感じていた。

「でも……」

 握り締めた手から力が抜ける。

「最後のあなたはとてもカッコよかった。まるでヒーローみたいだった。さすがは私の自慢の旦那様ね」

「セム……」

「だから、今回は大目に見てキス100回で許してあげる」

「ひゃ、ひゃっかい!」

 最も強い愛情表現であるキスを100回だって!

「あら、イヤかしら? 起きるまでずっと待ってあげたのよ。時間はたっぷりあるんだからできるわよね?」

「そうだけど……ちょっと恥ずかしいというか……」

「ならもう1回死ぬ?」

「やります! やらせていただきます!」

 すぐに起き上がり、セムと見つめ合う。

「えっと、じゃあいくぞ」

 頷き目を閉じてキスを待つセム。

 俺はゆっくりと顔を近づけてセムの唇に自分の唇を合わせた。

「ふふ、なんだか久しぶりね」

 唇から離れると頬を赤くしたセムが笑った。

 キスしたあとだけは必ず誰よりも優しい笑顔をしてくれる。

 ああそっか、今はっきりわかった。

「そうだな、本当に久しぶりだ……」

 俺はその笑顔を誰よりも早くに気付き、自分だけのものにしたかったから彼女を好きになったんだ。

 似た者同士。

 俺も独占欲が強かったってことか。

「はい、じゃああと99回ね」

「えー」

 またキスを待つセム。

 さすがにあと99回もあの笑顔を見たら嬉しさで脳がふやけてしまう。

 だけど途中でやめるのを彼女が許すはずもない。

 しょうがない、久しぶりにちょっと頑張るとするか。

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