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Lonely Peace  作者: 天気雪晴
王の迷走
1/35

記憶のない肉塊

 あれはたった一日の『変化の旅』の帰り。

「だからっ! 数が多くても質が良くなきゃ意味ないだろ!」

「アンタは質ばかり考えすぎなのよ!」

 俺は三日前に出会ったばかりのリェゼルという名前の白馬のような動物と『白色(はくしょく)の森』という白い葉の木に囲まれた場所で言い合いをしていた。

 なぜ馬が喋るのか、なぜ言い合いをしているのか、そんなことは俺にもわからない。

 俺の中の何かが変わりすぎていて、そんなことを考えるほどの余裕はなかったのだろう。

「数も質も良かったら一方的過ぎて抜け道作れないだろ!」

「はあ⁉ 抜け道? 何言ってるのよ」

「当たり前だろ、抜け道がないとフェアじゃないからな」

「なんでフェアとか考えてんのよ」

 俺の考えにリェゼルは呆れていた。

「それに……これはまだ考え中のことだ。俺はまだ諦めてないからな。これからちゃんと見て決めていくさ」

「あっそう……」

 そのあとどれぐらい話しながらリェゼルに(またが)っていただろうか。

 気が付くと雨が降っていて、俺とリェゼルはびしょ濡れのまま家へと向かっていた。

「ん?」

 すると、すぐ先の方で小さな女の子が足を抱えて座っていた。

 俺はリェゼルに小さな声で語りかける。

「何してんだアイツ?」

「さあ? でもこんな雨の中ずっとあの状態だったら体壊すわよあの()

「……とりあえず行くか」

 俺達は驚かさないようゆっくりと女の子に近づく。

 女の子の方はこちらの存在に全く気付く素振りはなく、ずっと地面を見ていた。

 よく見ると女の子の格好は上品で、どこかの良い貴族の娘のような感じだった。

 髪もさらさらと長く、綺麗な金色をしていた。

 目の前まで来たが、女の子はまだ気付いていない。

 俺は一度リェゼルと向き合った後、女の子に話しかけることにした。

「なあ、お前こんなところでずぶ濡れで何してるんだ?」

 話しかけた瞬間、女の子はビクッと反応した後ゆっくりと俺達を見上げた。

「え? あ、すみません、考え事してて気付きませんでした」

「どう見ても考え事ってより落ち込んでたけどな」

「あははは……そう見えちゃったか……」

「ナイト少しはこの()の気持ち考えてやんなさいよ。そんなこと言って喜ぶと思う?」

「う、馬が喋った⁉」

「そうよ、喋っちゃ悪い?」

 リェゼルが睨みつけると、女の子は首を激しく横に振った。

「ああ、こいつのことは気にしなくていい。で、このバカの言葉を信用してるわけじゃないが、嫌だったか?」

「あ、いえ大丈夫です。落ち込んでいたのは本当ですし……」

 そう言って女の子はまた黙り込んでしまった。

「……」

「なんか訳ありって感じね」

 なぜだかわからないが、俺は今この女の子に親近感が湧いていた。

 ……しょうがないな。

「なあ、雨が止むまでとりあえず俺の家にいないか? すぐ近くにあるんだ。このままだと身体に悪いぞ」

「え?」

「うわ、ナイトそんなヤバそうなことよく堂々と言えるわね」

「うるせえ!」

 確かに俺も言われたら誘拐かって思うけど、どういう言い方が正しいかわからなかったんだからヤバいとか言わないでほしい。

「……ほんとにいいの?」

 怖がるかと思ったんだが、この子意外と勇気あるな。

「ああ、ちょっと小さい家だけどそれでもいいなら歓迎するぜ」

「……じゃあ行こうかな」

 優しい作り笑いをしたあと、女の子は同意した。

 俺はリェゼルから降りて、女の子の隣を歩く。

 家までの間、何か話そうかとも思ったが女の子の顔を見たら会話できるような感じでもなかったので黙ることにした。

 リェゼルも空気を読んだのか、さっきの言い合いが嘘のように静かになる。

 結局家までの5分間何も話すことなく時が流れ、女の子と一緒に家に着く。

 リェゼルを馬小屋で休ませたあと、俺達も家に入った。

「まあとりあえず座ってくれ。今タオルとなんか温かい飲み物用意するから。コーヒーでいいか?」

「あ、はい、ありがとうございます」

 とりあえず先にタオルを渡して体を拭かせる。

 あとはコーヒーだな。まだ確かコーヒーの粉があったはず。

「お、あったあった。あとはポットに湯を沸かしてっと……」

 できたコーヒーをテーブルに置いて女の子とは反対の席に座る。

 女の子はコーヒーの入ったカップに砂糖をスプーンで2杯ほど入れたあと、両手で優しく持って冷ますように息を吹きかけ口に入れた。

 ちょっとだけ眉間にしわが寄っていたので、もしかしたらコーヒーは苦手だったのかもしれない。少し気を使わせてしまったな。こんなことなら甘い飲み物でも用意するべきだった。

「ごめんな、今家にコーヒーしかなくて」

「え?」

 俺の言葉に女の子は驚く。

「苦手なんだろ?」

「少しだけ……すみません」

「謝らなくても大丈夫だ。むしろコーヒーしか出せないこっちが悪いくらいだ」

「……優しいんだね」

「え?」

 今度はこっちが優しいという言葉に少し困惑してしまう。

 なぜなら、俺がやったことは女の子のためではなく、自分のためにやったことだからだ。

 あのまま女の子をほっとくのは罪悪感が残るし、俺だけコーヒーを飲んだりするのも居心地が悪い、だから家に招いたしコーヒーも与えた。それだけのことだ。

「別に大したことじゃねえよ。ヒトとして最低条件のことをしているだけだ」

 とりあえず女の子を傷つけないように言葉を選びながら答える。

「そう思ってるならもっとすごいことだと思う、少なくとも私は」

「……そうか」

 本当に大したことはしてないんだけどな。

 とりあえず話せるようにもなってきたから良しとするか。コーヒーも少なからず役に立ったな。

「ねえ、一つ聞いてもいいかな?」

「ん? なんだ? 答えられることならなんでもいいぞ」

 そう言ったのだが、女の子はなかなか言おうとしない。何か言いづらいことなのだろうか。

 しばらくして女の子から予想外の質問が飛んできた。

「あなたは、2つの正しさとは違うもう一つの自分の正しさを考えることができる?」

「は?」

「私にはできなかった。どれだけ考えても多分理解されないものばかりで、私なんか……」

 あまりにも予想外な質問にほんの少しの間困惑する。

 女の子の質問は何か壮大なことのようでとても小さなものに聞こえた。

 2つの正しさからもう一つの正しさを考える、そこよりもある言葉が気にかかったからだ。

「よくわかんないけどとりあえずこれだけは言うわ。お前自分の考えなのになんで他人に合わせようとしてるんだよ?」

「え?」

「だってお前さっき理解されないって言ってただろ? それってつまり他人が理解するような自分の正しさを考えるってことだよな?」

「……うん」

「じゃあもうそれは自分の正しさじゃない、他人のものだ。その時点で矛盾してる」

「そう……なのかな」

「俺はそう感じた。まあそもそも正しさとか言っている時点で俺にとってはお遊びのようなものだけどな」

 素直に感じた意見を俺は述べる。

「お遊び?」

 するとその言葉に引っかかったのか、女の子が聞いてきた。

「ああ、これは俺の考えだから参考にしなくてもいいが、世の中に正しい考えも悪い考えもないと俺は思ってる。ヒトそれぞれで考え方が全く違うからだ。だから、お前がさっき言っていた正しさというのは、俺にとっては一つの考えとしか思えなかったな」

 本当のことを言うと、何が正しいとか悪いとかそんなことを言う奴は目の前の現実を直視できず、己の考えを通したいだけのニンゲンとしか思っていない。

 だけどそれをこの子に言えばいろいろ傷つけてしまうだろう。

「そう……」

 怒るかもと思っていたが、女の子はただそう答えただけだった。

 俺の意見など聞いていないというわけではなく、そもそも何か()()()()()()()()()があるのだろう。

「お、雨が止んだな」

 窓を見てみると、雲の間から太陽の光が出てきていた。

「どうする? もし家が近いなら今から送ってくぞ。それとももう少しここにいるか? 夕飯ぐらいご馳走できるぞ」

「え、でも迷惑じゃない? 両親とかにちゃんと話さないと」

「ああ、そこらへんは全然大丈夫だ。俺親とかいないから。育ててくれたじいちゃんも3日前に死んじゃったし」

「……それじゃあナイトはここでこれから1人で暮らすの?」

「ああ、でもリェゼルはいるし特に問題ないだろ」

「本当にいいの?」

「だから問題ないって言ってるだろ」

「……じゃあもう少しここにいようかな」

 少しためらいながらも、女の子はここにいる選択をした。

 俺は何故かそれに喜びを感じている。

「よし、じゃあ買い物してこなくちゃな。なんせ今家に何もない状態だからなあ。あ、そういえば俺お前の名前聞いてなかったな。俺の名前はナイト。お前は?」

「ぶ、ブライト! ……です」

「よしじゃあ俺は町に行ってくるから、ブライトはここで休んでてくれ」

「あ、じゃあ私も……」

「いいって、いいって、今はゆっくり休んどけ」

 今町に出たら多分他のヒトに質問攻めを喰らうことになるだろうからな。今のブライトの精神状態でそれは辛いだろう。

「じゃあ一時間ぐらいで戻ってくるから」

 家を出て、俺は見慣れた町に向けていつもより上機嫌で歩き出す。



 『ウェストエンド』、ユーラシア大陸西端にある国。

 町の中心には大きな城が建っていて、そこを中心に建物が広がっている。

 俺はじいちゃんとよく訪れていた町へ入っていく。

 そこでは、いつものように活気が良いヒト達で溢れていた。

「さあ買ってちょうだい! 今日はリンゴが新鮮だよー。見てって見てって!」

「こっちの野菜も新鮮で良いよー。お、そこの強そうな奥さん。これなんか今日の晩御飯にどうだい?」

 どこもかしこもみんな大声で客を呼び込もうとする。

 そんな光景を俺は目に焼き付けるように見ていた。

「おや、ナイトじゃないかい? 四日ぶりだね」

 すると、肉屋のおばちゃんが話しかけてきた。

「よ、久しぶりだなおばちゃん」

「ディーエさんのことは辛かったねえ。ついこの前まであんなに元気だったのに」

「体力無限のじじいだったからな。死ぬ寸前まで元気なのは当たり前だろ」

「これから入学だってのにいきなりこんなことになるなんて。大丈夫かい? 辛くないかい?」

「今は別に大丈夫だよ。とりあえずなんでもいいから肉くれ」

「なんでもいいって……一人暮らしするんだからちゃんと家計のことも考えなきゃだめだよ」

「はーい!」

 おばちゃんはそう言って牛ヒレ肉を他の肉よりも安くしてくれた。

 ありがたい配慮だが、こっちも申し訳なくなってしまうので、これからはちゃんと選ぶことにしよう。できる限り安いやつを。

「とりあえず今日はステーキにでもするか」

 かなり贅沢だが、今日は客がいるので別に構わないだろう。

「肉食って体力つければ、少しは元気になるかな」

 そのあともステーキに合わせた食材を選び、家に向かった。



 家に着くと、馬小屋から出てきたリェゼルが言ってきた。

「遅かったわね。もうちょっと早ければ止められたのに」

「どういう意味だ」

 俺は問いかけるが、リェゼルは家に視線を向けるだけで何も言わなかった。

 俺は急いで中に入るが、テーブルの上に一枚の紙があるだけでブライトの姿はなかった。

「やっぱり……」

 俺はブライトが置いていったであろう紙を手に取り、そこに書いてある内容を読む。

『すみません、やっぱり申し訳なくて家を出ることにしました。実は私の母も私を産んだあとすぐに亡くなり、父親と優しい伯母(おば)がいましたが、自分の居場所が嫌いになって家出してきたんです。そのあと、すぐにどうすればいいかわからなくなって、ナイトと出会った森で路頭に迷っていました。あの質問のことは忘れてください。私のような自分勝手で優柔不断な女には正しい答えを出すなんてできないのでしょう。短い間でしたが、ありがとうございました』

 短く俺が森で最初にした質問に答えているが……。

「短すぎて何が言いたいかわからねえよ……」

 急に自分の母親の話をしたかと思えば家出したことになっていたり、いきなり質問のこと忘れろって言ったり……。

「……ちゃんと帰れるかしらねあの()

 家に入ってきたリェゼルが横から言ってきた。

「なあリェゼル、ブライトが出ていった方角わかるか?」

「北の方よ」

「やばいな……」

「どうして?」

「あっちは結構大きな動物が多い。熊とか狼とかがいて危険な場所でもある」

「それじゃあ……」

「ああ、あんな意味深な質問しておいて、忘れるなんてできるわけないだろ。今すぐブライトのところへ向かって質問の真意を確かめる」

 全速力で家を出て北に向かう。

 横からリェゼルも追ってきた。

「お前……」

「女の子を助けに行くなんて素敵な状況じゃない? アタシも協力してあげる」

 そう言ってリェゼルは乗れと合図する。

 まだ会って3日しか経っていないが、なんとなくリェゼルのことが少しわかってきた気がする。

「サンキュー!」

 俺は遠慮なくリェゼルの背中に飛び乗った。



 暗い森の中、ブライトは1人ゆっくりと歩いていた。

「はあ……」

 軽いため息をして、自分のしたことを後悔する。

「なんで出て行っちゃったんだろう。この大陸じゃ他に行くところもないのに……」

 それでもブライトは出て行くことを選択した。

 それはナイトに迷惑をかけたくないという気持ちではなく、迷惑になりたくないという自分への気持ちからである。

「よし! もう決めたことなんだ。いつまでも考えない!」

 両の手で頬を叩き、自分が選んだ道へ行こうと決める。

 だがそれは無駄な行為である。なぜなら、ブライトはまだ若い優柔不断な意思の持ち主。少し時間が経ち足が疲れてくれば、またナイトのことを思い出すだろう。

「よーし! いっくぞー」

 前へ向けて歩き出す。

 だが、その前進はすぐに目の前に出てきた黒い影に止められる。

「え?」

 なぜなら、すぐ前にある木から出てきたのは、腹を空かせた大きな熊だったからである。

「グオオッ!」

「やっぱり残っとけば良かったああああ!」

 いつもより早い後悔とともにブライトは南へ逃げる。

 だが子供のブライトではすぐに追いつかれてしまう。

 熊とはもう1メートルぐらいの距離しかなかった。

「クッソー、負けないぞ! ()()()()!」

 その言葉とともに、ブライトの手から小さい黄色の光の玉が現れる。

「いっけー!」

 それを熊に向かって投げつける。

 熊はそれに反応できずに当たってしまう。

 その瞬間、ピチャッという水が垂れるような弱い音が鳴り、光の玉は消滅するが、熊には全くダメージが入っていなかった。

「……」

「……」

 熊は少しの間驚いただけで、すぐにまたブライトへ走り出す。

「なんでぇぇぇ⁉」

 また追いかけっこが始まる。

 と言っても、それはすぐに終わった。

「あっ⁉」

 ブライトは木の根に足を引っかけて転んでしまったのだ。

「いたたたた!」

 転んだブライトに対して熊は容赦なく襲い掛かろうとする。

「っ⁉」

「グオオオオ!」

 もう助からないと思って目をつぶったときだった。

「おらぁっ!」

 ナイトが現れ、熊の顔に足蹴りを喰らわす。

 熊は少し後ろに下がりナイトを睨みつける。

「無事か? ブライト!」

「ナイト⁉ どうして?」

「話はあとだ! まずはあいつをどうにかする!」

「どうにかって、子供の私達じゃあんな大きな熊に素手で勝てないよ!」

「素手じゃねえよ」

 ナイトはそう言って手を前に出す。

 すると、ナイトの手のひらから黒い靄が出でくる。

 靄は次第に形を作り、そこには大きな鎌ができていた。

「ナイト、それは⁉」

 ナイトは自分の倍ほどの長さがある大鎌を軽く振り回す。

 そして、熊に向かって前進する。

「グオオ!」

 熊もナイトに向かって爪をのばすが、ナイトはそれを避けて熊の前足を大鎌で浅く斬る。

 少し鎌の先端で斬ったくらいでは当然熊は止まらない。

 熊は前足でナイトを吹っ飛ばす。

「ぐっ!」

 飛ばされたナイトは背中を強打する。

「ナイト!」

「心配いらないわ。もう終わったわよ」

「え?」

 いつの間にかブライトの横にいたリェゼルが言った。

「あの鎌はね、斬った相手が雌の場合はね――」

 突如、熊から悲鳴が聞こえる。

「どんなに傷が浅くても死んじゃうのよ」

 熊は血反吐を吐き苦しみながら倒れ、息を引き取った。

「あんな物騒な鎌、よく持っていられるわよねあの子」

 ブライトに言っているわけでも、ナイトに言っているわけでもない、リェゼルの独り言。

 ブライトには聞こえていたが、ナイトには聞こえていない。

 ナイトはそんなことが聞こえるほど、余裕がないからだ。

「ああ、また『1人』死んだ……」



 この手で、殺した。

 命を、殺した。

 俺は酷いニンゲンだ。

 誰かを守るためとはいえ殺しは許されることじゃない。

 己の罪を認識し一粒の涙を流す。

 この涙で、亡くなった命の記憶が無事あっちに届くように祈ろう。そうしなければ、罪悪感でいっぱいになって死にたくなる。

「大丈夫か、ブライト」

 涙を拭いてブライトの方へ行く。

 優しく言ったつもりだったが、ブライトは涙を流してしまった。

「なんで泣くんだよ。助かったのに」

「ごめん……なさい。勝手に出てった……私が悪いのに……ナイトに、迷惑かけて。私のせいで、苦しませて」

 どうやらブライトからも俺の涙が見えていたらしい。

「ああ……」

 しゃくりあげて泣くブライトを見て、今までの俺の行動理由がわかった。

 コイツ、死んだ弟とそっくりなんだ。

 だからまだ会って数時間だけなのに親近感が湧くし、またこうして会えたことに喜んでいるんだろう。

 寂しがりやのくせに1人で頑張ろうとしたり、弱虫なのに強がったり、他人のために泣いたり、ホントそっくりだ。

「ナイト?」

 手を引っ張って無理矢理立たせる。

「家なら好きなだけ泣けるんだ。そこで泣けばいい。寂しいなら、家に帰ればいい。独りぼっちが嫌なら……作ればいい」

 それは自分らしくない言葉だった。

 なにを言いたいのか自分でもわからない文字の並びだった。

 ただ、なんだか久しぶりに子供らしい言葉を述べた気がした。

 手を握ったまま歩き出す。

 ブライトがどうしようと、俺は家に着くまでこの小さな手を放すことはないだろう。

「……」

 ブライトもそれをわかっているのか手をギュッと握り返してくれた。

 それは、ブライトが俺達と住むという答えであり、あの小さな家を自分の帰る場所と認めた瞬間、そんな気がした。


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