ショートホラー第1弾「帰ってくる…」
短いですが怪談話です。
「なぁ、聞いてくれ」
俺は社員食堂で同僚の徳田にある相談をしていた。
「去年、妻が亡くなっただろ」
「あ、ああそうだったな」
俺は去年、妻の透子を亡くした。
大恋愛の末、親の反対を押し切って結婚した。
子どもには恵まれなかったが幸せな生活だったと思う。
「それでなんだがな……あいつが、帰って来るんだよ」
「お前……大丈夫か?」
親友の言う事もわかる。
だが事実だ。
「あいつを墓に納骨した次の日なんだけどな……納骨したはずの骨壺が戻って来たんだ。テーブルの上に置いてあったんだよ!!」
「いや、戻って来たってネコじゃないんだぞ。あれだろ、別れるのが辛くて思わず持って帰ってきてしまったとか」
「俺もそう思った。だから弟に頼んで今度はあいつと一緒に納骨に行ったんだ……だけど次の朝やっぱり戻ってきたんだよ」
「よし、それじゃあ戻って来るのが本当と仮定してだ。あれじゃないのか、奥さんには心残りがあるんだ。例えば死んだあと『こうしてくれ』とか言ってなかったか」
あいつの遺言か……何か無かっただろうか……何か……
「そう言えば結婚した時に言っていた。『海が好きだから死んだら海に還りたいな』って」
「それだよ。きっとそれだ。墓に閉じ込めなんかするから奥さんは戻って来るんだ」
「そうか。そうと決まれば早速海に散骨してみるよ」
良かった。
これでもう悩むことは無くなる。
□
それからしばらくして。
「それで、奥さんは散骨できたのかい?」
徳田の質問に俺は静かに頷く。
「ああ、海にしっかりと撒いて来てやった。あいつの生まれ故郷の海にな」
「そうかそれじゃあ……」
「だけどな……」
俺は机の上に鞄から出した骨壺を置く。
「また戻って来たんだ。それで思い出したよ。あいつが死ぬ前に言ってたこと。『この先もずっとあなたと離れたくない』ってさ。全く、可愛い奴だよな」
嬉しそうに話す俺を何かおかしなものを見る様な目で見た徳田は一言『よ、良かったな』と言って去っていった。
『死が2人を別つまで』とよく言うが俺達は『死でも2人を別つことは出来ず』というわけだ。
「それじゃあ俺は仕事するよ。鞄の中で待っててくれよ、透子」
愛しい妻に声をかけ、俺はカバンの中に骨壺を入れた。