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いつの間にか大好きになっていた人

作者: 高山小石



 ガタンと大きく揺れて馬車が動き出した。


「もうよろしいのですか?」


 向かいに腰かけている王宮からの使者は、気づかう声をかけてくれた。

 お見送りに出てくれた三人とハグするくらいですぐに別れたから、きっと素っ気なく感じたのね。


「心配してくれてありがとう。お別れは昨日すませたから大丈夫よ」


 アタシはそれ以上話しかけられないように、そっと視線を窓にやった。 

 見慣れた豊かな農場の中を、馬車は王宮に向かって止まらずに走って行く。

 

 使者に話したことはウソじゃない。

 長年お世話になった領主の奥さんとおばぁちゃんには、アタシが聖女妃として召し上げられることが決まってから、引き継ぎやなんかで毎日お話しできていた。

 お仕事を教えてくれた先輩聖女は、小さい子を預けてまで顔を見に来てくれて、心ゆくまでおしゃべりできた。

 だから最後はハグだけで十分なのよ。


 一番話したかった人はいないんだもの。


『明日は早朝から出ることになった』


 よりにもよってこんな日に?って思わないでもなかったけど、朝まで寝ないで別れを惜しんだんだから、それ以上を望んだらバチが当たるわよね。

 わかってるの。

 お別れの瞬間に同席したら泣いちゃいそうだから、わざと仕事を入れたのよね。

 昨晩だって、ほとんど、すがりついているみたいだったもの。


 でも、「行かないで」って言わないあたり、さすが領主の息子よね。

 自分の立場も、王命にどうしようもないことも、わかってるのよね。

 アタシも同じだから、なにも言えなかった。


 窓の向こうに流れていく元気な作物たちが、ここで暮らしていた四年間を思い返させてくれる。

 領主村の象徴である大きな木が遠くなっていく。

 あぁ、本当にここを出て行くのね。

  

 領主村の境にきたとき、大勢の人影が見えた。

 御者も気づいたみたいで、馬車の速度を歩くくらいに落としてくれたわ。


 顔がわかるくらい近づくと、領内のあちこちの農場で知り合った人たちだってわかったの。


「病気を治してくれてありがとう」

「種は順調に育っているからな」

「王宮に行っても元気でね」

「遠くから応援してるよ」

「こっちも頑張るから」

「がんばってー」


 みんなが声をかけてくれるから、窓から身を乗り出して「良かったわ」「ありがとう」「向こうでも頑張るわ」「みんなも元気でね」とこたえていく。

 王宮からの使者はなにか言いたげだったけれど、見逃してくれていたわ。

 街道に並ぶ人たちの最後に、一番会いたかった人がいた。


「これ。みんなから」


 早歩きで馬車と並ぶその人から手渡されたのは、大きな魔石がフタの中央に、小さな魔石は周囲を飾る花を()した、精巧(せいこう)な小箱だった。

 見慣れた繊細な彫刻で、おばぁちゃんの手作りだってすぐにわかったわ。

 魔石に刻まれた魔方陣は複雑なものだから、きっと領主の奥さんと息子が二人がかりで何日もかけて作ってくれたのね。

 小さな魔石はともかく、ここまで透明で大きな魔石は高価だから、購入するのに領のみんなも協力してくれたんでしょうね。


 みんなの気持ちがつまった贈り物をぎゅっと抱きしめる。

 詳しく聞き返す時間はなかったの。

 人波を抜けて、馬車はゆっくりと速度を上げ始めたから。

 領主の息子は小走りになって馬車に併走する。

 アタシはそれを馬車の窓から見ていることしかできない。

 どんどんアタシたちの距離は離れていく。


()()()聖女のこと大好きだった! ずっと愛している!」 


 あぁもう、なんで今そんなこと言うのよ。

 ずっとガマンしていたのに。


「アタシも大好きよ! どれだけ離れても、ずっと()()()の幸せを祈ってるわ!」


 口に出した瞬間、爆発したみたいに聖女の力があふれて、領内を(うるお)していくのがわかった。

 決壊した涙と一緒に、おさえていた気持ちも止まらなくて、聖女の力はどんどんあふれていく。


 こんなアタシを受け入れてくれてありがとう。

 あなたと一緒に暮らす生活はとっても楽しかった。

 どうかこれからも大事な農場が豊かでありますように。


 あなたとは8歳の頃に出会ったから、もう十年の付き合いね。

 幼馴染で親友で、アタシの一番大切な人。

 離れてしまっても、いついつまでもあなたが幸せでありますように。


 ついに足を止めた領主の息子の姿が小さくなっていく。

 視界がかすむのが嫌で、何度もなんども涙をぬぐいながら、見えなくなるまで、見えなくなっても、ずっと見ていた。


 ……さようなら、いつの間にか大好きになっていた人。



仙道アリマサ様、素敵な曲ありがとうございました。


初めて曲を聞いた時に、FF10でユウナが旅立つ時のような印象(覚悟を決めて旅にでる時に故郷のことを回想している)を受けたので、「旅立ち」の話にしようと思いました。


FF10では船でしたが、繰り返すピアノの音が、車輪などがある乗り物に乗っているように思えてきたので、最初は電車にしようと思いました。

『電車で故郷から新地へと出発する若者のプラットフォームでの別れ』

それで設定を考えていたのですが、どうも現代ものだとベタなものしか浮かばず、書くまで至りませんでした。


現在、自分が書いているのが異世界もので、しばらく後に「旅立ち」シーンを書く、ちょうど馬車での旅立ちだし切ないシーンなのでしっくりくるなぁと思い、そちらで書くことにしました。


曲の最後がキラッと光る星みたいに印象的でしたので、それも表現したかったのですが。

『さようなら、大好きな人』だと、ほぼ同じ有名曲はあるし、じゃあ『愛しい人』にしようかと思ったらそれもあるし、『大好きだった人』ならと思ったらやっぱりあるしで、かなり苦戦しました。


曲をききながら書くのは楽しかったです。

こちらまで読んでいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仙道アリマサ様主催の企画から拝読させていただきました。 ある意味、哀しい宿命ではありますが、登場人物たちがみんな前を向いて、決意のもと生きていこうとする姿に感銘を受けました。 読ませていた…
[良い点] ーー「行かないで」って言わないあたり、さすが領主の息子よね。ーー この一文に、お互いの性格や環境や置かれた立場など、なんだか色々と詰まっている気がして、すごくリアリティーを感じました!!…
[一言] 仙道企画その1から参りました。このお話のイメージと曲のイメージが重なるのがとてもよくわかりました。 悲恋といえば悲恋なんですけど、報われていないわけじゃない。なんだか切ないけれど、スッキリ前…
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