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越えられないその距離は  作者: 月日
4/4

『決意』




ピンポーン



チャイムが鳴る。その音を聞いた俺は、一目散に玄関へと走り、扉を勢いよく開けた。



「凛月、来たよ…」



そう言う綾瀬さんの声は、いつものような覇気はない。今にも泣きそうな表情で、目は潤んでいるように見える。

俺は勇気を出して、ずっと気になっている事を聞いてみることにした。



「綾瀬さんって俺より年下……?何で俺に嘘を……」



緊張のあまり声が震える。



『そんな訳ない、何言ってんの?』って『たまたま1年生の教室に行ってただけだよ』って、お願いだから否定してくれ!!いつものように笑い飛ばしてくれ!!



「ごめんね……」



そんな思いも虚しく、か細い声で綾瀬さんが呟く。そして、何かを決意したような表情に変わる。



「どうしてそんな嘘を……」







それは私が1番恐れていた言葉。

恐る恐る発せられるその声は真っ直ぐ私の元に届く。力強く握られている凛月の拳は、微かに震えているように見えた。



初めて会ったあの日、私はあなたを変えたいと思った。もっと外の世界を知ってほしい、そう思った。学校に来てほしくて、1つ上の学年の勉強も必死に頑張った。いずれこうなる事は、分かっていたはずなのに……




「あのね、私たち本当は血が繋がっているの」


「それってどういう……。」


「私たちは兄妹ってこと。両親が離婚して、凛月が小さい頃に別居したでしょ?私も覚えてないんだけど、私はお父さんに、凛月はお母さんに付いていくことになったの。」


「……。」


「父親には、凛月やお母さんに会うなって言われてる。だけど、こっそりお母さんとは連絡取ってて。」



「そ、そうなのか……」



あまりの驚きで、頭の中が真っ白になってしまい、曖昧な返事しか出来ない。



「私、ずっと凛月……お兄ちゃんに会ってみたくてお母さんにお願いしたの。たった一人の私のお兄ちゃんだから。でも……」



そう言う千紗の顔は、火照っていた。それを隠すかのように少し俯く。



「俺が、綾瀬さんの兄で、血が繋がってて……」


「そう。ずっと隠して嘘ついてて本当にごめんなさい」



()に薄っすら涙を浮かべ、今にも泣きそうな表情をしている綾瀬さんを見て、思わず抱きしめた。



「綾瀬さん……。」



そっと抱きしめる腕を緩めながら名前を呼ぶ。



「どうしたの?」



息を呑む凛月を見て、その緊張が千紗にまで伝わる。

凛月は、ゆっくりと口を開く。



「俺、綾瀬さんのことが好きです。好きで好きでどうしようもなくて、気が付くと綾瀬さんのこと考えてしまって……」



こんなこと言うと綾瀬さんは、困ってしまうだろう。しかし、自分でも止められないくらいに感情が溢れ出してしまったのだ。



「私も好きだよ、凛月。髪もすっごく似合ってる。」


「……!!」



想像もしていなかった言葉に思わず驚いてしまう。



いつの間にか綾瀬さんがいるのが当たり前になっていて、気が付けば彼女の事を考えていた。その相手が、自分の事を好きでいてくれたなんて……。そんな幸せな瞬間は束の間、俺たち2人は血の繋がった兄妹。お互いがどれだけ想っていても、あってはならない関係なのだ。



しばらく沈黙が続き、その後お互いに目を合わせる。その視線から伝わってくる強い決意は、俺と同じものだろう。



「私たち、もう会わない方がいいよね…」


「俺も同じこと思ってました。」



これ以上一緒の時間を過ごすと、楽しい時間が続くと、このままでは居られない。それ以上を求めてしまう、そう思った。ここ数ヶ月、楽しかった思い出が頭を(よぎ)る。この先、あの日常は戻ってこない、そう理解した途端に胸が締め付けられるように苦しくなった。




笑いあったあの日々は、もう二度と……




たった一人のお兄ちゃんに会ってみたかった、ただそれだけなのに。同じ時間を過ごせば過ごすほど、だんだんと惹かれていくキモチに嘘がつけなくなってしまった。絶対に好きになってはいけない人、わかっていたはずなのに……




「凛月、最後にお願いがあるの。」


「お願い……?なんですか?何でも言ってください。」


「私も名前で呼ばれたい、あと敬語じゃないのにしよ?今だけは兄妹じゃなく……」



顔を赤らめてそう言う綾瀬さんが、愛おしくて堪らない。



「千紗、好きだよ。俺と出会ってくれてありがとう。」



千紗は、俺の方に真っ直ぐ近付いてくる。そして、背伸びをしながら優しく唇を重ねた。少し離れて千紗の方をみると、その瞳から一筋の光が零れ落ちた。



俺たち2人は手を繋いだ。そして、そのまま目を閉じる。そしてゆっくりと目を開けて見つめ合う。




「ありがとう、さよなら……」







もう二度とあなたを見ることも、この手で触れることも出来ない。

だがしかし、最後に交わした口付けと、繋いだ手の感触、そして『綾瀬千紗』という存在を一生忘れる事はないだろう。



あなたに出会えて、俺は、変わることが出来た。

そして、それはきっとこれからも……




















この度は、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!!

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