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越えられないその距離は  作者: 月日
3/4

『大きな一歩』



月日は過ぎ、期末テスト当日



綾瀬さんが何日も時間を掛けて教えてくれたから、この日だけは頑張って学校に行こう、そう心に決めていた。もちろん綾瀬さんには伝えていない。ビックリさせてやろう、そんな魂胆だ。



朝、鏡の前で身支度をする。綾瀬さんに見せたくて、美容院で切り揃えてもらった髪を軽く整えた。そして、一緒に勉強した時にまとめたノートをカバンに入れ、準備万端だ。



外に出て、空を見上げると気持ちの良い晴天で、まるで俺を応援してくれているかのようだった。地面をしっかりと踏みしめながら学校へと足を進める。学校に行くのはいつぶりだろうか。不安と緊張で足取りは重いが、心は不思議と軽かった。



学校へと近づくに連れて、人が増えてきた。俺にとって此処は生きにくい世界、それもそのはず。俺は陽の光も浴びず、狭くて暗い世界に閉じ籠もっていたからだ。『今日は頑張るぞ!』と気持ちを奮い立たせ、校門を潜る。少し周りの視線が痛い、それでも前へと足を踏み出す。



久しぶりの登校で、自分の教室に行くのはさすがに厳しかったので、自習室でテストを受けさせてもらうことになった。



「始め、今から50分な」



先生の声を聴くやいなや、真剣モードに入る。1時間目の国語を筆頭に、次々とテストをこなした。思っていた以上に問題を解くことが出来て、正直自分でも驚いている。



『綾瀬さんに後でお礼言いに行こう、そしてこの髪も』





『驚くかな?喜ぶかな?それとも笑うかな?』色々な綾瀬さんを想像しては、俺の鼓動が高まるのを感じる。早く綾瀬さんをこの目で見たくて、頭で考えるよりも先に身体が動いていた。



自習室のある棟を出て、渡り廊下を進んでいく。晴れ渡っていた空の色は、少し曇りがかっていて朝の空とはまるで違っていた。そんな事はつゆ知らず、教室棟に辿り着いた。階段を上り、綾瀬さんの姿を探す。2年の教室全てを覗いてみたが、何処にもその姿はなかった。



「すみません、2年の綾瀬千紗さんってどこに行ったか知らないですか?」



周りの視線を気にしながら、恐る恐る近くにいた先生に問い掛ける。



「綾瀬千紗……?そんな子いないと思うけど、、あ、でも1年にならいるよ、3組だったかな」


「あれ、、そうなんですね、すみません、ありがとうございます」




『1年……?どういうことだ?』



若干の違和感を抱きつつも、1年3組の教室に向かう。テストの日の席順は五十音順。『あやせ』だから当然、窓側の1番前かその次くらいだろう。教室の後ろの扉から中を覗くと、前から2番目の席にそれらしき姿の女の子が座っていた。耳の上辺りで結ばれたポニーテール、『綾瀬さんだ!』そう確信した途端、俺の胸は踊り出す。



「綾瀬さ、、、」



俺が口を開くと同時に、後ろからやって来たクラスメイトであろう女の子が『千紗〜!』と呼び掛ける。その声を聴いた女の子は、こちらへと振り向き、その瞬間俺と目が合った。



ハッと驚くような顔をする綾瀬さんだが、すぐにいつもの表情に戻る。だがしかし、目元は少し悲しげに見えた。



ほんの少しの表情の変化、ただそれだけなのに、『俺たちはこのままじゃいられないんじゃないか』何故かそんな風に思えて仕方なかった。その日俺は、綾瀬さんに話しかける事が出来なかった。というより、真実を知るのが怖くて、意識的に話しかけるのをやめたというのが正しいだろう。



帰り道、帰宅ラッシュであるこの時間は、車の音や話をしながら下校する生徒たちの話し声でかなりガヤガヤしている。その音が気にならないくらいに、綾瀬さんの事を真剣に考え込んでいた。



色々な考えが頭の中を駆け巡る。鼓動はうるさいくらいに速まり、全身から熱を感じる。よくよく考えれば、俺は2組、確か初めて家に来たあの時、俺と綾瀬さんは同じクラスだと言っていた。



綾瀬さんは1年生……?

俺にわざわざ嘘を付く意味は……?



頭の中はパンク寸前だ。今までの楽しかった時間が、全て嘘だったかのように感じてしまう。段々と視界が揺らぎ、暗くなっていく。その後俺は、どうやって家に辿り着いたのだろうか、そこからの記憶が断絶しており、気が付いた時には自室のベットで横たわっていた。



ただただ呆然としている間にも、時間だけは刻々と過ぎていく。一睡もする事が出来ず、翌朝を迎えた。全身が鉛のように重い。窓の方へと目を向けると、雨が降り始めており、空は薄暗く淀んでいた。その雨音を聞いているうちに、だんだんと意識は遠ざかっていった。







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