第3話 旅立ち
あれは数年前の事だ。古王国エルディアの遥か南にエルディアと同じ、古くからある「ルーラ」という国があった。エルディアの次に栄えた国で他の国との関係は良好、資源にも恵まれている素晴らしい国だ。
そのルーラの中心都市が一夜で滅んだ.........。
街中が炎で焼かれ逃げ惑う人々の悲鳴で満ち溢れた。厄災と呼ぶべきなのだろうか......この事件はすぐに他国にまで広がり国中に震撼が走る。ルーラの中心都市があったその場所は廃墟と化し城があった場所には1匹の巨大な「竜」が住み着いた。
「厄災の魔王竜ハディエス.......その大きな翼は竜巻を起こしその口からは人の身体を一瞬で灰にするほどの炎を吐き、巨大な爪で大地を切り裂く。ハディエスの緑色の瞳を見たモンスターは全て彼の奴隷と化してしまう」
いつしかそう人々に噂されるようになってしまった。
「って言うのが私達がこれから倒しにいく相手の情報よ........」
「こっこえぇ~!そんなヤバそうなやつと俺ら戦いに行くのかよ!?」
グレスがジェネスにまるで怪談を話すようなテンションで魔王竜の話をした。それを呆れたような顔でボルグは見つめる。
「流石に誇張され過ぎじゃないのか?酒場の綺麗な姉ちゃんの情報によると首が3本あるって.......」
「首が3本!?」
「宿屋の清掃員をしているおじいちゃんが言うには腕が10本あってそれぞれが違う武器を持って「私は血を求めているクックックゥ.........」って言うって」
「いやそのジジイの発想やべぇな」
「???????」
プシューーーー!
ジェネスは2人のせいで混乱してしまい頭から湯気が立ち上って目をグルグルと回しながらその場に倒れてしまう。
「あーーダメだ。ジェネスが完全に混乱しちまってる。おーーい大丈夫かー?」
「しっかりーー」
「はっ!」
ボルグが倒れたジェネスの身体を揺らすと目をぱちっと開き勢いよく立ち上がる。
「なんだかよく分かんないけど.......ヤバそうな奴だって事は分かった!」
「あのーーお話は終わったでしょうか?エルディア王がお待ちです」
「「「あ、」」」
自分達がエルディア王のいる王の間にいる事を完全に忘れていたらしくグレスとボルグはひざまづく。その様子を見たジェネスは数秒後に「あ、このポーズすればいいんだ」と理解し見様見真似で同じポーズをする。
「やっと話が終わったのか........ボルグ・エルディア、グレス・ヴィルナシア、ジェネス・セーヴァ......3人共よく集まってくれた...........」
王はそう言うと横にいる秘書官のような人を呼んで秘書官が王のすぐ近くまで来ると秘書官に耳を貸すよう言って彼の耳に囁いた。
「次なんて言うんだっけ?(小声)」
「王........昨日台本渡しましたよね?(小声)」
「長男の子のアルフレットくんが紙飛行機にして飛ばしちゃった(小声)」
秘書官はため息を吐くと再び王の耳元で囁いた。
「簡単に言いますよ、彼らに魔王竜を討伐を命じてください。あとは私達がやりますから(小声)」
「えーーーゴホン!3人にはこれからルーラ跡地を住処とする魔王竜ハディエスの討伐を命じる......後は秘書官のルッドリア君に任せる!」
「親父...........」
「秘書官のルッドリアです。まずはこちらの資料をご覧ください。」
秘書官の人がそう言うと3人に地図を手渡す。その地図にはルーラが赤く記されておりエルディアは青で記されていた。2つの国はかなり離れているようだ。
「そちらが我々が住む世界の地図となっております。これより貴方達の向かうルートをご説明いたします。まずはこのエルディアを出て次に「ノルヴァ地方」に向かってください。ノルヴァ地方はどこの国にも所属しておらず数十個の街がそれぞれ独立した政治を行なってなりたっています。ちなみに私はオリオンの街出身です」
王はこの時「いやその情報誰が得するの?」と心の隅っこの方で思った。
「ノルヴァ地方を抜けたら「和の国ツバキ」「剣の国クリュエナ」という順番で通ってください。この二つの国はエルディアの同盟国なので協力してくださるそうです」
「ノルヴァ地方のボルエノ火山に立ち寄る事は可能ですか?」
グレスが手を挙げて彼に質問する。
「可能ですがどうしてですか?」
「このボルエノ火山に6本目の聖剣が封印されているの♪それを取りに行った方がきっと魔王竜を倒すのも楽になると思うの♪」
「分かりました。そちらも考えて再びルートを考えていきましょう。質問は以上でよろしいですか?」
「まだあるわよ.....聖剣に選ばれた剣士は合わせて5人のはず.......あとの2人はどこに?」
グレスの問いに対して秘書官と王がギクッ!となった。どうやら何か隠しているらしい。王は数秒間ためらった後に口を開いた。
「じっ実はの........その2人はもう先に来ておったのじゃ。1人の「和の国ツバキ」のサムライでもう1人は「剣の国クリュエナ」の代々聖剣を守っていた一族の末裔なんじゃがの.........」
数日前
ジェネスが到着する前の事だ。王の間に2人の男女がいた。1人は身長の高い和服を着たサムライで柱に寄っかかっている。もう1人は金髪の長髪の少女だった。王の話をつまらなさそうに聞いていた。
「話はそれで終わり?まだ3人聞いていないようだけど........」
「1人はワシの息子じゃ。ちょっと体調を崩しておっての.........」
この時ボルグは体調を崩しておらず呼ばれている事を完全に忘れて街のお姉ちゃん達を酒場でナンパをしていた。ジェネスとグレスはまだ到着していない。
「そんなので大丈夫なの?貴方もそう思うわよね.....おサムライさん?」
「俺は.....単独での行動を希望する。エルディアの王よ」
「私も同意見よ。5人集まる必要なんてないわ.....私1人でなんとかできるもの!それじゃバイバーイ」
「俺もここで.......エルディアの王よ。息子の体調が良くなる事を願っているぞ」
そう言うと2人は鞘にしまっていた剣を取り出し空気をシュンッ!と切り裂く。次の瞬間には2人の姿は消えていた。
「それぞれ単独で行動する事を選んだんですね.......聖剣一本だけで太刀打ちできるような相手ではないのに......」
「だから頼む!道中で2人と出会ったら協力を申し出て欲しいのじゃ!」
「俺はいいよ!3人より5人の方が旅も楽しくなるし!強いやつがいいなーーいや、きっと強いはずだ!」
「俺もいいぜ.......可愛い女の子が増えるのはいい事だ!」
「可愛い女の子......金髪妹キャラ....私同い年のいとこはいたけど妹はいなかったから嬉しい!」
それぞれが瞳をキラキラと輝かせ妄想を膨らませている。その次の朝彼らは旅立った。それぞれがそれぞれの聖剣と荷物を持ちエルディアを去る。
「とりあえず今日の目標はこの地図通りに進んでいく事!そうね........まずは野宿は嫌だからこの「アルタイルの街」に行きましょうね。多分夕方には着くわ」
「宿の料金はどうするの?」
「今持ってる所持金があれば1ヶ月は生活できるな......足りなくなったらクエストでも受ければいいさ。」
「俺、村のみんなにお土産買ってくるって約束しちゃったからお金貯めなきゃなー」
ジェネスがそう呟くボルグが右の肩をポンポンと叩いた。
「魔王竜を討伐したらきっとめちゃくちゃ報酬貰えるはずだぜ!それで村のみんなにたくさん土産買ってやろうぜ。運びきれなかったら俺も手伝いに行くからよ!」
「ボルグ......うん!」
「そう言って~村の女の子達を見に行きたいだけでしょ?」
「そっ!そんな事ねぇよ!ひでぇーなグレスは~」
3人は楽しそうに会話しながら道を歩き続けた。