第003話 「悪いスライムじゃないどころか、スライムですらない」
スライムってどこの器官で考えるの?
魂だけで済むなら身体は要らないのd……ヤバい……この物語の矛盾が……。
※2021/09/18 続投に向け整合性見直し、全体の記載方法統一、誤字修正実施
※2022/03/23 誤記修正
最後に言葉を認識したのはいつだろうか。
そう、あの時は頭の中に女性の声で
「天の声の音声を男性風、または女性の何れかから選んでください。」
と声がしたのに驚いて。
「女性でお願いします!」
と、何も考えずに反射的に答えたんだったかな?
「畏まりました。」
という返事が最後に聞こえた気がする。
男性風?って何だよ。
まぁいいか……実際には、もう意識がない。
違う、思考がない。
生きている。
動いている。
排泄している。
それだけ。
本能
存在
…
【天の声】
『担当生命体 斎京様には現時点で対話に必要な知性が備わっていません。
対話不可能と判断し強制的に自動運転に移行します。』
『対象惑星内において主要知的生命体から未認識の生物のため名称なし。
仮名をグリーンフラットと命名します。』
『経過観察を継続します。』
…
『継続中』
…
…
『継続中』
…
…
『継続中』
…
『10年が経過しました』
『生体活動を中止しますか?』
…
…
『継続中』
…
『20年が経過しました。』
『生体活動を中止しますか?』
…
『継続中』
…
『30年が経過しました。』
『生体活動を中止しますか?』
『中断メッセージに対し無応答が閾値を超えたため本転生を中断します。』
『繰り返します。』
『中断メッセージに対し無応答が閾値を超えたため本転生を中断します。』
ブツン!
「あ、斎京さん。
おかえりなさい。
どうでした?」
葉っぱの伊勢が居る。
元の白い部屋。
「…あ、いや、何か、分からないんだけど?
あれ?俺は…
…
何やってたっけ?」
本当に何があったのか分からない…
何故か今ここに居る。
それしか分からない。
それを見てニヤリといやらしい笑みを浮かべる伊勢。
「それはそうですよ。
考える器官のない生き物になってましたからね。
ほんの30年程ですが。」
は?
30年!
「おい、30年ってなんだよ?
なんでそんなに経ってるのに何も起きなかった?
何で戻ってきた?」
『説明します。』
「うぉっ!
え?
天の声?」
『はい。
通称、天の声です。
初対面の相手を呼ぶ場合には[さん]等を付ける事をお勧めします』
「ごめんなさい…」
天の声に驚く俺を横目に、伊勢がニヨニヨと気持ち悪い笑みを浮かべている。
「斎京さーん?
天の声は心の中で会話できるんですよー?」
クッ…
なんか伊勢にドヤ顔で説明されるのが悔しいんだけど。
「まぁここではオープンで説明してもらいましょうかね。
天の声さん宜しくお願いします。」
「はい。
オープンでお届け致します。」
おぉ、なんかさっきまでの頭の中の声じゃなく、ちゃんと耳から聞こえてきた。
使い分けできるんだ。
便利だなぁ。
「まず、斎京様の外観からになります。
斎京様は肉眼では認識できないほどの小さな生き物に転生されました。
細胞表面に3500本前後の繊毛を持つ単細胞生物です。
転生場所は目的の惑星の山奥にある大きな湖です。
当該惑星に住まう主要知的生命体はこの生物を未だ認識できておらず、現地での名称がございませんでした。
そのため種をグリーンフラットと仮称し管理しておりました。」
は?
い?
それなに?
どんな生き物?
「グリーン…フラット?」
「あ~、地球でのゾウリムシですよ?
斎京さん、分かりますよね?」
「ゾウリムシって…
俺、そんなのに転生したの?
つか魔法生命体とかでもなんでもなくて、ただの単細胞生物?」
それ無理じゃない?
っていうか実際ムリゲーだったんだよな?
意識無かったし……
ん?
意識はあった…のか?
伊勢曰く、
「うーん、実際にはスライムみたいな魔法生物でも思考するだけの器官や機能はないんですよ?
なので、例えスライムになってたとしても
[探知]
[移動]
[捕食]
[排泄]
[増殖]
を繰り返すだけです。
ちょっとは食べたとか、美味しいとか位はあるかな?
そんなものです。
まぁスライムにしなかった理由は他にもありますけどね」
だそうだ。
えーっ…
進化して知性が芽生えたりしないのかよ!
他の異世界物小説みたいに行かないのか…
伊勢の異世界厳しくない?
なんかゲンナリだな。
あれ?
「そういえば俺、不死だったんだよな?」
「そうですよ。
不死のゾウリムシでした。」
なんかあんまり凄く聞こえない……
「斎京様は予想外の大活躍をなされておりましたが?」
え?
「そうなの?」
「グリーンフラットとなった斎京様は不死のため殺しても死にません。
そのため、転生先での生態系の異物となりました。
そして天敵となる捕食者が居ないため 周辺の餌となるものを片っ端から取り込みました。
最終的に無限に増え続けて最悪の環境汚染を生み出しました。
それは悲惨な程でした」
えーーーーーっ!
「環境汚染って…ゾウリムシが?
なんで?
さっぱり覚えてないんだけど?」
「周辺一帯300キロ四方の有機生命体が死滅しました。
斎京様の分裂体を除いて…です。
緑化計画としては成功といえるでしょう。
あり得ない程の数の不死のグリーンフラットが犇めき合ってる状態ですね。」
おぉぅ…?
普通に大災害?
地上版の赤潮みたいなのか?
「斎京さん?
良く考えてみてください。
死ななくて永遠に増え続けるだけでも大変なのに、ゾウリムシは捕食性なんですよ?
周辺の細菌や酵母は死滅しますし、湖からゾウリムシは溢れ出て地表を埋め尽くしても増える事を止める術がありません。
結果、生態系が崩れたってところでしょう。」
なにそれ?
なんか災厄~
最悪~じゃなくて災厄~
「はい。
実際の結果として観測済みです。
ただし、25年目の時点で永久氷壁の手前で増殖が停止しました。
そこから惑星内の知的生命体にグリーンフラットの弱点を悟られました。
急遽編成された知的生命体の連合軍により全個体を氷漬けにされ斎京様の活動はそこで一旦停滞。
また、10年に一度の周期で転生中断の確認を入れておりましたが反応がありませんでした。
30年目の時点で閾値の3回を超えたため転生は中断。
現地の斎京様を構成するグリーンフラットは存在を消去しました。
そして現在に至っております。」
まったく…
知らないうちに何やってんだ俺?
「どうでしたか?
楽しかったでしょうか?」
だから自我がないって。
お前がそう言ってたじゃねぇか!
「全く?
全然?
ちっとも楽しくなかったんだけど?
というか、意識があって無いようなもんだったけど?」
「ですよね。
と言うわけでこういった生物での異世界転生はイマイチだなってわかって頂けたと思います。」
つうかそれ、前もって話せば分かるけど?
ねぇ?
俺、知的生命体だよね?
実体験じゃないとダメなの?
「なんでまたこんな事に30年も無駄にしたの?」
「30年経過したのは斎京さんと天の声さんだけですよ?」
「な、なんだってー!?」
あれ?
天の声さんはノってくれないのね…
知ってたのかな…
「でさ、結局はゾウリムシは駄目だった訳だけど、真面目にスライムだったらどうなるの?
気になるんだけど。
良かったらやってみないか?」
俺の問いに対し、フッと鼻で笑う伊勢。
イラっとくるわ。
「いえいえ、その必要はないですよ。
基本行動に関しては先程話した通りでしょうし。
あと、スライムはすぐに対候性を得るんです。
なので燃やしたり凍らせたりで何とかなるものではないでしょう。
要するに知的生命体達も不死のゾウリムシのように簡単に対策は打てないと思います。
それだけ不死のスライムは厄介です。
ま、それでもスライムの知性が発達する前に事は終わると思いますけど。」
事が終わる?
「どう言う事だ?」
俺の疑問には天の声さんが答えてくれた。
「はい。
こちらで代わって説明致します。
簡単に申し上げますと、地表の生命体は全て不死のスライムとなった斎京様に捕食され絶滅します。
それも極短期間の内に。
そして捕食対象を失った斎京様は無機物を吸収する進化を遂げられるでしょう。
捕食が本能ですから当然の進化と言えます。
あとは惑星そのものすら捕食し終え、ただ宇宙に浮かぶだけの物体になりさがります。
ご理解いただけましたでしょうか?」
「あ…
…
あ~うん。
はい。
わかりまし…た。」
つまらん!
実につまらん結果じゃないか!!
「確かにやる意味ないわ…」
「ですよね?
実につまらないと思いますよね?
自分もそう思いますので、スライムはやめておきましょう。
で、次はどうしますか?」
次、次かぁ…
「世の流行りだと虫か?」
「あぁ、なにか蜘蛛ですね?
えーと、そうですね…
じゃあとりあえず不死やめましょう!
知性が低い不死の生命体は、概ね他の生命体を駆逐してしまうのが目に見えていますからね。」
目に見えてるじゃねぇよ。
分かっとるんやったら最初からそう言えよー!
「どうせ死んでここに戻ってくるなら不死はいらんよな…
その方が早く戻ってこれるよな…
じゃあ…次頼むわ。」
もうね…
どんどん行ってみるしかあるまいて…
「おぉ、斎京さん、ノってきましたね。
では行きますよ。」
プシュン!
実はもう抵抗する気力の残りが少ない斎京おじさんでした。
次回、ある意味蜘蛛以上ではある。
もし
もしですよ?
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