第027話 「サービスという物は存外ケチ臭い」
無料枠ってほんと、もうちょっとってところで有料になるんですわ。
固定課金も、もうちょっとってところで個別購入に……
え?どうでもいいって?
※大規模修正
フゴゴゴゴゴゴォ……
プァァァ
フゴゴゴゴォ……
フゴッ!
……
……
……
……
ブッファァ! フゴ、フゴォォ……
如何にも睡眠時無呼吸症候群だと思われる鼾が響き渡る。
森の静寂を切り裂く、不健康なノイズ。
まだ日は高く、時刻は昼を迎えていない位だろうか。
木漏れ日が眩しい。
その不安な気持ちにさせる爆音を中心に辺りを見回せば、緑が生い茂り多種多様な虫や生き物達が居る自然のど真ん中である事が分かる。
鳥が囀り、風が葉を揺らす。
大凡人工物と呼べる建物が存在しない、自然と人外の聖地ともいえる場所。
簡単に言うと『山の中』だった。
ただ、そんな場所にあって唯一、人が手を入れたと思われる山道。
獣道に毛が生えた程度の小径。
その道の脇で地面に転がり、気持ちよさそう眠る一人の男。
少し肥えた体躯に心許ない頭髪、そしてだらしない顔。
口元からは涎が垂れている。
男は時々呼吸を止めてみたかと思えば、急に苦しそうに呼吸を戻して寝返りを打ったりと忙しい。
生存本能と睡眠欲が戦っている。
(え? それはワザとじゃないって?
いや、それはまぁ本人が一番分かってますけどね?
あれ?――寝てる時は息止まってるのは自覚してないけど……分かってないの……か?
いや、起きたときに喉乾いてるから多分そうなんだけど。
あぁ、私ですか?
はい、キョウちゃんです。
あ、今回は女子高生でも若き天才剣士でもなく、元の世界のオッサンの方なので斎京です。
[斎京 剣士 -さいきょう けんし-]ですよ?
中身と外見が一致した、純正のオッサンです。
残念な顔が目に浮かぶなぁ……
いやぁ、現在爆睡中なんですよね~
って分かります?
流石ですね。
というか何故寝てるか!
ソコですよね!!
そう、アレはこの世界に飛ばされ……)
『キョウ様の語りが煩いのでスキップします』
脳内に響く天ちゃんの声。
強制早送り。
◇◇◇◇◇ 約4時間程前 ~
[プシュン]
「うぉっとぉ~!」
緑生い茂る山間の小径。
何も無かった空間に、地面にただ立っているだけの中年のオッサンが現れた。
……かと思うと、変な掛け声と共にふらふらと身体を揺らす。
三半規管が弱い。
『キョウ様、もしかして元の身体では加齢で普通に立つことも出来ないのでしょうか?』
フラつく斎京の頭の中に、不意に天ちゃんの声が響く。
辛辣だ。
『天ちゃん! 急に飛ばされた直後ってなんか周りの環境が急に変わるでしょ!?
平衡感覚がおかしくなるんだよ!』
いや、もちろん衰えてるのは分かるけど言い方酷くね?
『その何とも言えない身体に不具合が発生したのかを確認したまでですのでお気になさらず』
(気にしなくていいって言うのは失言した方じゃなくてされた方だからね!?
やっちゃった方が[ドンマイ]って言ってるのと変わらないからね?
って、まぁいいんだけどさ……)
慣れたもんだ。
「で、天ちゃんさ、ここはどこなのかな?』
『はぁ、異世界ですが……そこから説明が必要でしょうか』
『……ワザとやってるよね?』
『物語には間とか布石という物がありますので』
そう言うメタな部分は説明しなくていいと思うよ?
『でさぁ、その布石は終わったってことでいい?
終わったなら物語の前提を説明してほしいなって思うんだけど』
『はい。キョウ様。
鑑定スキルはPrime契約となっております』
おい。
無視かよ。
しかも何だその単語。
『その前に言う事が……
いや……え?
鑑定スキルがPrime?』
それってスキルに契約条件があるって事だよな?
Prime……プライム……あぁ!
特典とかついてくる、あの有名な通販サイトの契約の事か!
送料無料になったり、動画見放題のアレか!
『Prime契約って事は特典で殆どの事が出来るんだよね?』
違ったっけ?
『いいえ、出来ません。
尚、Prime対象外の詳細を表示する場合にはUnlimitedの追加契約が必要となっております』
鑑定スキルの契約には更に上があったようだ……。
課金制かよ。
しかもサブスクリプション。
『では、付近に丁度良い小さな蜘蛛のような魔物がおりますので、試しに鑑定されて見ては如何でしょうか』
天ちゃんからそう提案された斎京が辺りをキョロキョロと見渡すと、道の脇に生えている木々の間に蜘蛛の巣が張られているのが見えた。
丁度その中央部分に、脚を含めて5cm程のオニグモのような蜘蛛がいたので、多分その生き物の事だろう。
でかいな。
『お、いたいた。
じゃあ鑑定してみるぞ~』
斎京が対象の蜘蛛を見つめながら頭の中で[鑑定]と念じると、対象の情報が視覚情報として目の前に表示された。
『おぉ、ホログラムみたいなんだな?
どれどれ~』
【鑑定】
--------------------------------------------
+蜘蛛のような生き物[Prime]
--------------------------------------------
(ん? これだけ?)
『なんか全然鑑定感ないんだけど?
見りゃわかるよ、蜘蛛っぽいのは!』
不満げに天ちゃんに愚痴る。
無料版アプリかよ。
『左に+があればPrimeの範囲で詳細を見る事が出来ます』
なるほど! 展開けるのか!
フォルダ構成みたいになってるのか。
頭の中で+を展開するイメージで情報が展開された。
【鑑定】
--------------------------------------------
-蜘蛛のような生き物[Prime]
-種族:ポイズンタラテクト[Prime]
-名前:エビルデスゾーマ[魔王]
-性別:雄[Prime]
+年齢:6ヶ月[Unlimited]
+LV:228[Unlimited]
-称号:魔王適合種、同族の王、ヒューマノイドキラー[Prime]
-状態[Prime]
-健康[Prime]
-魔王[Prime]
+詳細[Unlimited]
-備考[Prime]
毒のある蜘蛛。
--------------------------------------------
……
(なにこれ? え?
[魔王]?)
『ま、ま、ま、まおうって書いてあるぞ!!
ってLV高っ! (Unlimitedで見えないはずなのになぜか見えるけど!)
毒蜘蛛でこのLVはマジツヨじゃない!?』
情報にある[魔王]の文字と高LVに慌てる斎京。
いきなりラスボスかよ!
インフェルノってこれのことか!
『確かに、[魔王]のようですね。
少々おまちください』
天の声の返答は変わらず冷静なままだ。
斎京はじっと動かず息を潜めて視線の先にいる毒蜘蛛?を刺激しないよう最新の注意を払う。
脂汗が流れる。
『ぱんぱかぱ~ん。
おめでとうございま~す。
わー、パチパチ』
感情の起伏の少ないいつもの口調。
棒読みの祝福。
だが、それが大音量で頭の中に鳴り響いた。
『うぉぁ!
急になんなの?
マジビビるから!!
っていうか何が[おめでとう]なのか全然わかんないから!!』
(驚きのあまり心臓がバクバクするわ!
不整脈で死ぬわ!)
山中の小径で木を眺めながら、たった1人で無駄にゼーハーしている斎京。
端から見たら不審者以外のなにものでもない。
『山中にお一人で気持ち悪い動きをされていますが大丈夫でしょうか?
人に見られていなくてよかったですね。
通報案件ですよ』
(いや、天ちゃん……アンタが急に大声だしたせいだからな……)
『そうそう、今日は魔王と勇者の日のようです。
話すと長くなりますが、100年周期でLVの高い経験値ボーナス的な魔物が発生する日だと思って頂ければ問題ありません。
メタルでスライムなアレです。
高LVで討伐時の獲得経験値が異常に高いので、倒せば大幅にLVがあがります。
そのため、おめでたいとご案内を差し上げた次第です』
(な、なるほど?
魔王と勇者の日って、勇者は? もしかして俺か?
で、経験値の話もしてるから魔王を倒せってことか!)
『コレ、俺が魔王を倒せばいいのか?』
『そうです。
多分近くに同族の[勇者]持ちが居ると思うので一緒に退治すれば二倍美味しいのですが……』
(え?
一瞬俺が勇者かと思ってしまったじゃないか~って、まぁそんな訳ないか。
しかし、同族の勇者って……勇者も毒蜘蛛なのかよ!)
『それにしても、[勇者]も倒して二倍美味しいってどう言うこと?』
『正確には[魔王]と[勇者]の称号がついて[LVが高いだけだけの魔物]です。
中身はただの虫です。
小型の毒蜘蛛で魔法適性もありませんので普通に物理で殴れば倒せます。
というか、世界最強の蜘蛛程度が膂力で人間サイズの生き物に勝てる道理はありません。
質量差は絶対です。
少々間の抜けたキョウ様でもお分かりかと思いますが……高LVだと毒も高LVとなり喰らうと即死します。
そこだけは注意ですね』
(まぁ流石に毒虫だから素手はやらんけどね?
一瞬手で叩き落として踏もうかと思ったりなんてしてないよ?)
『素手ではなく、付近に落ちている木の棒で叩いて退治して頂ければ良いでしょう。
原始的な武器こそ最強です』
斎京は天の声に言われるがまま、その辺りの手頃な長さの木の棒を拾い上げる。
へっぴり腰で近づき、巣の真ん中に居た蜘蛛を、ペシリと叩き落とす。
地面に落ちた蜘蛛が素早く体勢を整えようとしたので、止めも忘れずに刺した。
グシャッ。
あっけない最期。
ふと[魔王]だった毒蜘蛛がいた木の奥に、似たような蜘蛛が巣を張って居たので鑑定してみると、なんとこちらが[勇者]だった。
名前は……ロトンヌラ? だった。
どこかで聞いたような名前だ。
(魔王といい勇者といい、ネーミング大丈夫かな?
怒られないかな?)
などと思いつつも、取り敢えずはラッキーとばかりに魔王と同じように退治した。
ペシッ。
グシャッ。
こうして、魔王と勇者の日は人知れぬ山奥で、ただのオッサンの棒切れによってその物語を終えたのであった。
歴史に残らない英雄譚。
『さて、これで俺もチート級な強さを手に入れたと思っていいのかな?
確認するには自分を鑑定すればいいのかな』
意外にもホクホク気分の斎京。
レベルアップのファンファーレが幻聴で聞こえるようだ。
『ご自身のステータスは頭でステータスと念じると見る事が可能です。
アカウント情報のようなものですので』
(アカウント情報……ってファンタジー感皆無だな。
さ、気を取り直してステータスを見るか!)
頭でステータス表示と念じると、鑑定のようなホログラムと違い頭の中に直接ステータスが表示されたのだった。
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