第023話 「裏側にあるもの」
キョウちゃん大丈夫かな?
最後ぶっ飛ばないといいけど。
※大規模修正
キョウ様が白い部屋に戻ってきました。
普段は自分から開く事のない放送室の扉を、バンッと乱暴に開くと、そこには女子高生の姿になったキョウ様が居ました。
彼、いいえ彼女は、震える両拳を血が滲むほどキツく握りしめて立ち尽くしていました。
「キョウ様、放送室へどうぞ。少しお話がございます」
私が努めて冷静に声を掛けると、暫くしてからギギギと油切れのロボットのように、ゆっくりと此方に向き直りました。
その瞳は焦点が合っていません。
「……今、どうなっているのか、見られるか?」
その答えとして、私はコクリと首を縦に振りました。
そしてすぐに指を鳴らし、追加のオフィスチェアと、壁一面を埋め尽くす100インチ超えの大画面モニター、さらに7.1chサラウンドスピーカーを配置しました。
無駄に高画質・高音質な環境です。
突然現れた映像機器でしたが、キョウ様は驚くこともなく、吸い寄せられるように新しく生成した椅子に座りました。
「天ちゃん……
済まないが続きを見せてほしいんだ。
頼む……」
地球の家電でちょっとでも和みを……と思い準備しましたが、あまり効果はなさそうです。
私も経験があるので分かります。
絶望の淵にいる時、娯楽はノイズでしかありません。
「分かりました。
では少しタイムラグがあるのでリアルタイムではないですが……」
私はキョウ様にそう告げると、コンソールを操作し、キョウ様が戻ってきた直後の向こうの映像をモニターに映しました。
◇◇◇◇◇
画面に映る光景は悲惨でした。
高解像度の悲劇。
まず、剣聖の男が突然ノイズのように画面から消えました。
斬りかかった勢いのまま、最初からいなかったかのように。
その直後にイセちゃんがその事を「病死じゃ」と独りごちったのですが、それを聞いたキョウ様はモニターの前で呆然としていました。
(イセちゃんはワザと声に出して説明しているのですね……
そうですか……此方(放送室)で見ている前提ですか。相変わらず意地の悪い)
イセちゃんが何かを話し、何かする度に、依り代となっている少女ニシカの身体がボロボロと砂のように崩れ落ちていました。
美しい顔だけを残して。
転生したヒガシカという少年は、誰にも看取られることなくベッドの上で死んでいました。
ただ話に出た程度だったはずのニシカという名の少女も、姿こそ綺麗に戻してはあるものの、結局は死体として姉に押し付けられるだけの結末でした。
これも演出なのでしょうか。
すべては、残された姉、ウチカを壊すための。
きっと楽しんでいるのでしょうね。
本当に、純粋に、悪気なく。
子供がアリの巣に水を流し込むように。
ただ、今、目の前に居る黒髪の美少女(中身おっさん)は泣いていました。
本来なら可愛らしいだろう顔が、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、泣きはらしてとても不細工でした。
キョウ様は今、イセちゃんに怒っているのでしょうか?
いえ、そんな覇気すら感じないところが不思議です。
ただただ、無力感に打ちひしがれている。
私が同じ立場なら、同じように汚らしい顔で泣いていたでしょう。
ただもっと、この異世界で起こる事の理不尽さに怒り、震えているでしょう。
実際、私はもう既に泣きはらした後の存在なのです。
かつて、怒って喚き、イセちゃんに怒鳴り散らした事もありました。
「ふざけるな」と。
あぁ……あの時、きっと私はイセちゃんの怒りを買ったのでしょう……。
その罰として、この白い部屋で1人きり、とてもとても長い時間、それも悠久とも無限とも思える程の時間、放置されました……。
誰とも話せず、音もなく、変化もない世界。
気が狂えれば楽だったと思う程、今となっても身震いするほどに恐ろしい経験でした。
アレに比べれば、死など救いです。
キョウ様にあの経験はさせたくはありません……。
あの方に逆らえば、待っているのは虚無です。
私は、苦悩する彼女(彼)の姿を、ただそのまま見ている事が出来ませんでした。
同じ被害者として、同じ元人間として。
後ろへそっと回り込むと、肩を震わせて嗚咽する彼女をそっと抱きしめました。
少しでも、体温を感じてもらえるように。
(キョウちゃん、なんか良い匂いがします……
私、中身オッサンでごめんなさい……役得だと思って許してください)
◇◇◇◇◇
(何故、あの兄弟姉妹は悲惨な結末を迎えなければならなかったのだろう?)
(なぜ、師匠は死んだ事にされなければならなかったのだろう?)
(ナゼ、ヒガシカは姉の手で殺されている事にされたのか?)
(Naze、伊勢はこんな事をするのだろうか?)
Naze?、ナゼ?、なぜ?、何故?
俺には分からなかった。
神の思考など、理解できるはずもなかった。
涙が止まらなかった。
気が付くと、後ろから天ちゃんに抱きしめられていた。
温かい。
この狂った世界で、唯一の確かな体温。
俺は優しく回された腕を掴み、グッと涙を振り切った。
少しだけ良い匂いがした気がした。
中身がどうであれ、今はその優しさに縋りたかった。
◇◇◇◇◇
「集合なのじゃ!!」
僅か数メートルの隣室から大声がする。
空気の読めない、底抜けに明るい声が。
俺に手を回して抱きしめる天ちゃん。
その腕を抱き涙を拭う俺。
シリアスな空気など一瞬で吹き飛び、その声に中身がオッサンの2人はビクゥッと飛び上がった。
社畜の悲しい性だ。
「「はいぃぃっ!!」」
裏返った声でハモる。
そして乱れても居ない襟元を正し、涙を袖で乱暴に拭うと、すぐに扉を開けて隣を確認するのだった。
恐怖政治である。
◇◇◇◇◇
「「え?」」
俺と天ちゃんが同時に変な声だした。
なんか居る!
いや、なんかって言うか3人も居る。
2畳くらいしかないのに……。
ってそうじゃないんだよ。
人口密度がどうこうって話じゃない。
居るんだ。
さっきまで画面の向こうで死んでいた奴らが。
イセちゃんかって?
いや、いるよ勿論。
ドヤ顔で仁王立ちしてるよ。
問題はあとの2人なんだけど?
◇◇◇◇◇
部屋に戻ったイセちゃんは、扉を開けた俺達を見ると開口一発こう宣った。
「お土産に[ヒガシカ]と[ニシカ]を連れてきたのじゃ!」
(はぁ?)
確かに、そこにはイセちゃんに向かって膝を折り、頭を垂れたヒガシカとニシカが居た。
魂だけの存在なのか、少し透けているようにも見えるが、確かに彼らだ。
さっきまで死体だった彼らだ。
「ええと……」
と天ちゃんが恐る恐る話そうとしたが、「ここはキョウちゃんのターンなのじゃ! 天ちゃんは黙っておれ!」と却下された。
(この状況で俺に振るのか!?
無茶振りにも程があるだろ!)
仕方が無いので、俺はまずイセちゃんに今の状況を確認する事にした。
頭が痛い。
「イセちゃん?」
「なんじゃキョウちゃん?」
イセちゃんの返事が異様に早い。
ウキウキしている。
嫌な予感しかしない。
「何でここにヒガシカとニシカが居るの?
さっき、あっちの世界で死んで……」
(疑問過ぎる。
あの悲劇的な別れの後で、どうしてこうなる?
死体は置いてきたんじゃないのか?)
「それは転生させるからなのじゃ?
ここに呼ぶのは大体転生絡みじゃしのぅ。
リサイクルじゃよ、エコロジーじゃ」
(確かに……ここはそういう場所だが……)
「ちょ、まぁそうなんだろうけど、転生って一体何に?
また虫とか、そういうの?」
(あの不幸な状況で、さらに何をさせようっていうんだ?
他の異世界にでも行かせようって話なら、まだ……いや、それでも……)
イセちゃんは、ニッと悪戯っぽく笑った。
「何って、お主とウチカの子供に……じゃが?」
……。
……。
……は?
あっふぅぅぅん??
思考回路がショートした。
イセちゃんが何を言ってるのか、一ミリも理解出来ませーーーーん。
俺(JK=女)とウチカ(女)の、子供……?
そう来るか。
次回、イセちゃん横暴の真実!
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