第020話 「明かされる真名」
もう20話なのです。
おかしいな……
なぜ重たい感じに?
これ、パロディギャグだと思ったんですけどね。
なにか良い方向に進むといいのですが……
※大規模修正
「姉……う……え……?」
その声は、震えていた。
恐怖からか、あるいは懐かしさからか。
だが、その一言は確実にその場の空気を変えた。
ショーヴには、ヒガシカが目の前の聖騎士ナーニ・ワノア・キンドウを「姉上」と呼んだその呟きが、はっきりと聞こえた。
一度ナーニの姿を凝視したショーヴが、怪訝な顔でヒガシカの方へと向き直る。
「ヒガシカ、しっかりしろ。
彼女はエターノル神王国のナーニ・ワノア・キンドウ卿だ。
その方を見て姉とは……。
お前の家族は、ヒガシカ、お前と妹のニシカ以外は緑の悪魔の被害で全員行方知れずになったと聞いている。
俺も帝国の四方に手を回し探索を依頼したが、生き残った付近の住民も皆口を揃えて『ワグチ家の人間は逃げ遅れた』と言っていた。
そんなにも……お前の姉君に似ているのか?
しかも生き別れたのは10年も前の事だろう……」
ショーヴの言葉はもっともだ。
幼少期の記憶など曖昧なもの。
他人の空似など、いくらでもある。
だが、ヒガシカは確信していた。
彼女が自分の姉、ウチカ・ワグチで間違いないと。
魂が叫んでいる。
似ている・似ていないという次元の話ではない、分かるのだ。
だが、どう話し掛けて良いのか分からず、ヒガシカは言葉を飲み込み、視線を彷徨わせるしかなかった。
「ワノア卿、アタシは臨時でここの治療師をしておるウエルシア・ファインと言う者ですじゃ。
そこの少年ですが、どうも膝に矢を受けてしまった呪いのショックか、少々混乱しておるようなのです。
治療中の出来事じゃて、失礼な事を言ったのであれば、ワタシが代わってお詫び致しますのじゃ」
老婆の気遣いに、しかしナーニは特に気にする事も無く、優雅に首を横に振った。
「特に問題ございませんわ。
お詫びなど不要です。
それに……わたくしがヒガシカの『姉』である事については、間違ってはおりませんもの」
……!?
ヒガシカ、ショーヴ、ウエルシア。
ナーニを除く全員が、一斉にナーニを見る。
「そして矢を撃ったのもわたくし。
狙ったのも、もちろん『故意』ですわ」
彼女は悪びれる様子もなく、事も無げにそう言い放った。
「貴様!!」
ショーヴが叫ぶ。
理性が飛んだ。
チャキッ!
金属音が鳴り響く。
一瞬で亜空間から愛用の大剣を召喚抜刀し、瞬歩で詰め寄ってナーニの首元に切っ先を向けたのだ。
剣聖の神速。
瞬きする間もない早業。
その大剣は既に、紫電のようなスキルのオーラを纏っている。
このままショーヴがスキルを発動すれば、ナーニの美しい頭部は身体との永遠の別れを迎える事になるだろう。
だが、ナーニもまた、只者ではなかった。
彼女の掌の上には、いつの間にかスキルのオーラを纏った矢が浮いていた。
矢の先端は、ショーヴの眉間を正確に捉えている。
恐らくは自動射出スキルが発動待機状態にある。
たとえナーニの首が飛んだ後だとしても、この矢は間違い無くショーヴの眉間を追尾し、貫くだろう。
相打ち覚悟の構え。
いや、彼女の瞳には死への恐怖すら浮かんでいない。
ピンと張り詰めた殺気が、治療室の空気を凍らせる。
「止めぬか!!ここは治療の場じゃぞ!!!」
老婆が一喝すると、張り詰めた空気が霧散した。
年の功、場を支配する老婆の胆力が勝った。
ナーニはふっと笑って矢を消し、ショーヴも忌々しげに舌打ちをして大剣を異空間へと格納した。
「……弟子の事で頭に血が上ってしまいました。
とんだご無礼を……。
このことは後日、正式に謝罪を申し入れます。
ですのでこの場は何卒ご容赦頂けますでしょうか」
そう言うとショーヴは、悔しさを押し殺して若き女性騎士に頭を下げた。
外交問題にするわけにはいかない。
「謝罪は不要です。
なんの説明もなく重要な事を話してしまった、此方の責任です。
その少年の膝の呪いで気が立っておいでなのでしょう?
……であれば、原因は間違い無くわたくしに御座いますもの」
ナーニの返事を聞いたショーヴの表情が、ピクリと動く。
どうやら返事の内容に、違和感を覚えたようだ。
「……ワノア卿のご厚意に感謝のしようも御座いません。
しかし、先程はヒガシカの姉上殿であられると仰りましたが、今はヒガシカの事を[その少年]と呼ばれました。
実の弟を呼ぶにしては余所余所しい……これは一体どう言う意味なのでしょうか?」
「うふふふ」
突然、ナーニが楽しそうに、しかしどこか壊れたように笑う。
「まず、わたくしの事から話しましょう。
わたくしは本来のナーニ・ワノア・キンドウではございませんの。
中身はワグチ家の長女、ウチカ・ワグチですわ。
正確には、緑の悪魔に喰われて死んだ後、神の意志によりナーニの魂を乗っ取って転生致しましたのよ?」
……。
……は?
理解が追いつかないのか、ショーヴとウエルシアは口を開けて唖然としていた。
「本当ですのよ?
この姿も、女神フォンティーヌ様に[前世と同じ姿]で転生させて頂きましたの。
だから、ヒガシカだったらすぐにわたくしだと気が付くと思っておりましたわ。
ただ、元々存在していたナーニだった少女の意思と魂はわたくしと同化……
いいえ、わたくしが吸収してしまいました。
彼女の自我はもはや殆ど残ってはおりませんのよ?
可哀想なナーニちゃん……でも、これも使命のためですもの」
狂気じみた告白。
だが、その瞳には嘘偽りのない光が宿っている。
皆、黙ってナーニの、いや、ウチカの話に聞き入っていた。
勿論ヒガシカである斎京もじっとウチカを見つめ、その話を聞いていた。
同じだった。
俺と。
ヒガシカの意思や魂、そして明確な自我。
それらは今現在では既に無いに等しい。
元々の記憶やヒガシカの考えだろうなと思える思考はあっても、それは斎京から見て「彼ならこう思うだろう」と推測する程度でしかない。
データベースとしての記憶はあっても、それを駆動させるOS(人格)は斎京のものだ。
吸収した。
正しくは[喰った]のだろうと、斎京はそう考えたのだ。
俺も、彼女も。
今までは身体を借りたような気持ちでいた斎京は、途端にヒガシカの魂に対して、そして目の前の「姉」に対して、罪の意識を感じてしまった。
俺は、彼女の弟を喰って成り代わった化け物だ。
そして動揺が、如実に顔に出てしまった。
ヒガシカの顔色が急に悪くなったのを、ウチカは見逃さなかった。
射抜くような視線。
「ベッドのあなた。
……あなたはまだ、ヒガシカなの?」
斎京は答えなかった。
答えられなかった。
嘘をつくこともできたはずだ。
だが、彼女の眼差しを前にして、それは冒涜だと感じた。
答えに詰まってしまった。
「そう、やはりもう違うのですね……
可哀想なヒガシカ。
やはり、わたくしの大事な……最愛の弟はもう居なくなってしまったのね……」
ウチカが、悲痛な表情で俯く。
そのやり取りの重要性に、ショーヴがハッと気が付いた。
血相を変えてヒガシカに詰め寄る。
「ワノア卿、待ってくれ!
もう違うとはどう言う意味だ!?
ヒガシカは俺と一緒にここまで来た。
矢を膝に受けた以外、何も変わったことなんかなかった!!
昨日まで、普通に剣を振っていたじゃないか!!」
ウチカは頷いたまま答えない。
不安げなショーヴはヒガシカにも質問を振る。
「なぁ!?
ヒガシカも何を黙っているんだ?
こちらは本当に姉上殿なのか?
私はワノア卿の言う事が今一理解出来ていない。
転生だの、乗っ取りだの……。
どうなんだ?
お前はヒガシカなのだろう?
俺の、自慢の弟子なのだろう!?」
縋るように聞くショーヴ。
その手が、斎京の肩を強く掴む。
そしてウエルシアは少し離れた所から、油断なく様子をうかがっている。
頭の中で話を整理し、最悪の事態に備えているのだろう。
斎京は覚悟を決めた。
これ以上、この実直な男を騙すことはできない。
「師匠……いや、ノワール卿」
師匠と呼んでいいのは、ヒガシカだけだ。
俺には、その資格はない。
「……済まない。
そこに居る、ヒガシカの姉だった者が言うとおり……
俺はヒガシカの記憶と魂を吸収した、別人だ」
[ドサリ]
鈍い音と共に、ショーヴは膝を折って座り込んでしまった。
掴んでいた手が力なく滑り落ちる。
離れていた場所にいたウエルシアがスッとショーヴに歩み寄り、なにやら精神安定の魔法を掛けている。
ショーヴは本当にヒガシカの事を可愛がっていたのだろう。
実の息子のように、弟のように。
あまりのショックに、剣聖としての覇気を失い、ただの男としてその場にへたり込んでしまったのだ。
その姿を見た斎京は、胸が締め付けられた。
矢を撃たれた後は気を失っていた。
この世界で人としては何も行動していない。
ただ、目覚めただけだ。
だが、今の斎京は彼等からみて悪役になってしまったのだ。
大切な存在を奪った者。
覚悟を決めなければならない。
どんな罵倒も、刃も受け入れよう。
斎京の魂はそう理解した。
「ウチカさん」
「気安くわたくしの本当の名を呼ぶな!
貴様の正体は知っているぞ!
緑の悪魔の魂め!!!」
憎悪。
純粋な殺意が向けられる。
ウエルシアが目を見開き、驚きの表情でヒガシカを見たのが分かった。
だが、今は視線を戻しショーヴの事を優先し治療を続けている。
ショーヴはまだ目の焦点が定まっていないようだ。
心が壊れかけている。
「名を呼ばないと話が難しいんだけどなぁ……
そうだ、ワノア卿と呼ぶことにするよ。
貴女のいう通り、俺は緑の悪魔と同様の存在で間違いない。
俺の魂の根源は、あのヘドロと同じだ。
そしてヒガシカ君の身体に転生したのも、ヒガシカ君の自我の状態もその通りだ。
言い訳はしない」
斎京は淡々と事実を認める。
「それで……」
と一度言葉を切る。
ウチカは黙って、射殺すような目で見ている。
「ワノア卿、貴女はヒガシカを……いや、今の俺をどうするつもりだ?」
殺すつもりだろうか。
それならばそれも吝かではない。
この身体は本来、彼女の弟のものなのだから。
彼女が望むなら、返す方法を探すべきなのかもしれない。
しかし……。
「……一度話をしましょう」
その時、ウチカの口から出た言葉は、斎京の思っていた答えとは違うものだった。
感情を押し殺した、冷たく、理性的な響きだった。
なんか長引いて進めない!
次回、意外な闖入者。
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