第018話 「理解と誤解」
楽しい異世界を創ろう。
イセちゃんはそれが全て。
イセちゃんに言われた事を頑張ろう。
天ちゃんはそれが全て。
その為に遊び場である異世界に好き勝手に手を入れるのは当たり前。
例えその世界の中に生きる者たちにも、それぞれの意思や心があるのだとしても。
※大規模修正
私はほんの少しだけ後悔しました。
私の眼前で跪き、祈りを捧げる少女は小刻みに震えています。
恐怖、畏敬、あるいは混乱。
私は彼女に、消えることのない畏怖を与えているのでしょう……。
恐ろしいのでしょう。
絶対的な力の前では、人は無力ですから。
それは、私があの方に思う気持ちと同じなのでしょう。
被害者同士の連帯感のようなものが、一瞬だけ心を過ぎります。
ですが。
これで良いでしょう。
上手くいったと、そう思って間違いありません。
異世界の者に対し、後悔などする必要はありませんでした。
彼女は駒であり、私はそれを動かす手。
感情移入はノイズです。
そして私には聞こえました。
「愚かな私をお許しください」という、少女の押し殺した声が。
ならばその[定義(罪悪感)]を上手く使わねばなりません。
人心掌握の基本ですね。
「あぁ、愚かなる少女ウチカよ……
私は貴女のその願いを許しましょう。
全ての望む心を自由と認めましょう。
心の羽ばたきを望みましょう」
意味深なようで、何も具体的なことは言っていません。
神託とは往々にしてこういうものです。
受け取り手が勝手に解釈してくれるのを待つのです。
この言葉で、目の前の少女は突っ伏して泣き出してしまいました。
安堵の涙でしょうか。
良い傾向です。
依存心が芽生え始めています。
もう少し[楽しんでから]次に進む事にします。
私も暇つぶしが必要ですし。
「さぁ、貴女の望みと罪を告白しなさい。
女神たる私が聞きましょう。
心の慟哭を、その懺悔を」
少し悦に入ってしまってましたでしょうか?
演劇部だった過去が疼きます。
「う……うぅうわぁぁぁん。
あっぐっ……あ、あ、あぁぁぁ、あぁっぁぁあ~~」
良心の呵責というものでしょうか。
言葉にならない嗚咽が響きます。
気丈そうな子だと思いましたが子供ですからね。
感情のダムが決壊したようです。
少し待つ事にしましょう。
10分程待ったでしょうか。
ぐすぐすと鼻を啜りながらも少女が話し始めました。
私は~まぁどうでもいいのですが、一応聞いてあげます。
「敬愛なる女神様、女神フォンティーヌ様……
卑しき私、ウチカ・ワグチは生き別れた弟と妹に会いとう御座います。
二人の母を差し置いてでも、私だけが……私だけが会いたいと願っております。
お許しください……お許しください」
目の前で必死に額を床に擦り付け、祈りを捧げる少女。
自分の望みを持つなんてそんな当たり前の事、詫びることでもないでしょうに……。
さぞ出来た良い子供なのでしょう。
その純粋さが、ここでは仇となります。
「弟はヒガシカ、妹はニシカですね。
ヒガシカには会う運命にあるでしょう。
ニシカについては……貴女次第です。
天啓を聞き届け使命を全うするのです。
貴女の行いを神は見ています。
きっと報われることでしょう」
言ってしまいました。
最後のこれ(報われる)はフラグになりそうです。
きっとイセちゃんはこれを聞き逃さない。
隣の部屋で「くくく」とほくそ笑んでいるに違いない。
ごめんなさい。
異世界の純粋で哀れな少女……。
貴女は私のせいで妹には会えないかも知れない。
ですが、それも運命です。
「あぁ、女神様。
どんな使命でも……
この身が砕け魂が失われても構いません!
最後に一目、ヒガシカとニシカに会えるなら、私は何にでもなり、何をでもやりましょう」
出来上がりましたね。
自己犠牲の精神。
扱いやすい手駒の完成です。
後は悪意の種を植えねばなりません。
ここからが仕事です。
「貴女が20歳になるとき、ヒガシカが成人し15歳になります。
その身体に、膝に矢を打ち込みなさい。
射るための弓術のスキルと聖弓の実力を授けます。
そしてその日のための必中のスキルも合わせて授けています。
必要な矢は時期が来れば自然と手元に現れるでしょう。
撃つべき時には天啓も降ろしましょう」
まずはジャブです。
愛する弟の膝を破壊せよという無茶振り。
少女の目が泳いでいます。
私の言った事に戸惑っているようです。
思考が停止していますね。
「め……女神様??
私が……私が弓で撃つのですか?
ヒガシカを?
弟を?
膝は呪いの場所です!!
膝を矢で打たれると呪いが発動するのに!!……ヒガシカは!
あぁぁ……済みません!済みません!
お許しください!!!」
普通はそうなるでしょう。
弟を守りたいのに、弟を傷つけろと言われているのですから。
混乱して当然です。
さて、アドリブを入れてみましょう。
「ウチカよ……
ヒガシカには剣術の大きな才能があります。
貴女達の死後、彼は今代の剣聖にその才能を見出され育てられます。
そのまま健壮に育てば次代の剣聖となるのは間違いないでしょう」
その話に少女は目を見開く。
剣聖を知っているのかもしれないですね。
有名人ですから。
「ヒガシカが今代の剣聖に拾われる?
今の剣聖はたしか、唄に聞く程の若き剣の英雄 アルケンダス帝国 黒のショーヴ様……
そうなのですね。
あの子が……よかった……
……
ですが、その才能溢れる弟の膝を、どうして矢で射貫く必要があるのでしょう?
射貫く事は拒否致しません。
もう一度出会うためであれば何でも犠牲にすると決めております。
弟と妹の命以外であれば構いません。
ただ、その理由だけは教えていただけませんでしょうか」
……少し壊れてしまいましたね。
「拒否しません」と言い切りました。
まぁこれで撃つ事は決まりました。
あとは理由付け、彼女が自分を正当化できる物語を与えてあげるだけです。
「不思議に思うのは最もです。
実はその日、貴女の弟のヒガシカは緑の悪魔の魂に精神を乗っ取られてしまうのです。
貴女の家族も世界の一部も全てを飲み込んだ悪魔が、大切な貴女の弟を蝕むでしょう。
そしてヒガシカの剣の才は今の剣聖を超える……
これが何を意味するか分かりますか?」
少女の目が泳いでいる。
家族を殺した「緑の悪魔」というワード。
それが弟の中にいるという恐怖。
かなり衝撃的だったのかも知れないです。
まあ、嘘ではないですからね。
中身は緑の悪魔(を作った張本人であるキョウ様)ですから。
少し意地悪な言い方をしただけです。
怒られますかね……。
「ヒガシカを!
弟は救えますか!!助けられますか!?
弟の膝を撃ち抜けば救われるのですか!?」
食いつきました。
弟を「傷つける」行為が、弟を「救う」行為へと脳内で変換されました。
「少なくとも彼がその剣の才を利用し魔王と成り果てることは防げるでしょう……」
そんな魔王はいませんがw
せいぜい、ちょっと強い冒険者になるくらいでしょう。
「その後は、膝の呪いを掛けたあとはどうすれば?」
「さぁ?」
「……さぁ?え?女神様?」
おぉっと……素が出てしまいました。
つい、どうでもいい本音が。
フォローが必要ですね……。
威厳を保たねば。
「さぁ……スキルを確認なさい。
洗礼を受けているのであれば自身を見る事は出来るでしょう。
通常、汚染された魂は死す事で浄化されます。
ですが貴女の想いがあれば弟は救えるかもしれません。
これは試練です。
精進なさい、話はこれまでです」
煙に巻きました。
これでいいでしょう。
「想い……強い想いを。
はい!
ヒガシカは魔王にはさせません。
私が命を掛けて救います。
緑の悪魔の魂もきっと滅ぼします!!
力を、天啓をありがとうございます」
ほほぅ?
緑の悪魔の魂を滅ぼす?
ですか。
異世界の虫ケラ風情が!
[キョウ様 ―物語の主役―]を害そうというのでしょうか?
生意気な。
今すぐコレは消して終わりにし………
……いや、いけません。
イセちゃんの考えた[こういう仕込み]でした。
これは物語を盛り上げるためのスパイス。
危うく自分が消されかねないところでした。
もっと軽薄な思考が必要ですね。
主役を愛しすぎてはいけない。
私自身も精進する事にしましょう。
では、冷静に次の設定を伝えることに致しましょう。
「現世ではエターノル神王国の大貴族の娘に拾われるようにしておきましょう。
全ての手筈は整えます。
見た目はそのままにします。
きっと弟や妹も貴女に気が付いてくれるでしょう。
ただし、その時までは決して正体を明かしてはなりませんよ。
では、使命を努々(ゆめゆめ)忘れぬよう……」
「はい……
女神様のご慈悲に感謝致します。
この命に代えても、絶対に成し遂げてみせます!」
良いですね。
狂信者の眼です。
概ね成功です。
そしてここで[慈愛の笑み]は忘れません。
営業スマイル0円です。
では幕引きと行きましょう!
右手を高く挙げ[パチンッ!]と指を慣らす。
少女は部屋から消え去り、荘厳な礼拝堂は元の無機質で白い部屋に戻った。
そこには、ノートパソコンとマイクが乗った机。
そして、オフィスチェアに深く座り、声なくほくそ笑む、金髪お団子頭の女性だけが残っていた。
イセちゃんと天ちゃん。
異世界人への優しさはバファリン以下!
次回、矢を射るところまで書きたい!
マジで書けよ!と気になりましたら★★★★★頂ければ幸いです。
ブックマークやコメントも嬉しいです。
宜しくお願い致します。




