第017話 「ブレインウォッシュ」
ヒガシカ・ワグチとニシカ・ワグチは駅名(地名)なのにウチカ・ワグチは名字です。
母親の違いで名付けの方式を変えていると、自分も後付けの設定を踏襲してみましょうかね。
※大規模修正
目の前の、神と名乗った幼女が横の白い壁に触れる。
すると、聞いたことの無い「ウィーン」という変わった音がして、壁が扉のように横へと開いた。
開いた扉の奥に部屋があり、そこには無機質な机と椅子。
それと綺麗な女性がいました。
見た事もない服装の女性が、椅子に座ったまま此方をみています。
眼鏡の奥の瞳は冷たく、どこか無機質で……。
私、寒そうですか?
女性のお顔がそう言っているように見えます。
そういえば、私は生まれたままの姿でした。
神は顎をしゃくり、そちらの部屋に行けと言っています。
早く移動しないとどうなるか分かりません。
怖いので、私は自分の体を抱きしめるようにして、そそくさと部屋に入りました。
「天ちゃんや、ちょっと思考転送しておくので対応を頼むのじゃ。
妾はキョウちゃんの冒険譚を考えるのに忙しいのでの。
権限を貸与しておくので上手くやるようにな。
でわのぅ」
そう言うと、あっという間に部屋の扉を閉められてしまいました。
私、絶体絶命でしょうか?
……。
あれ?
そう言えば私は既に、「絶対に絶命」しておりますわね。
覚悟は決まっているのでした。
死にはしましたが、私ももう10歳になった貴族の子女。
最下級とは言え、貴族に名を連ねた父上の娘です。
貴族に生まれた女児たるもの、お家の為に政略結婚で身を挺し、貞操を捧げるための教えも受けております。
相手が神の使いであろうと、化け物であろうと、毅然としていなければ。
……お家はもう、ないのでしたね。
ですが!
ヒガシカとニシカは生きている筈です。
あの子達は北の国にいるのですから。
ただ、このまま……何も抗うこと無く消えゆく訳にはまいりません。
おひげがチクチクして少し嫌でしたが、強く豪快でとても頼りがいのあるお父様。
皆にお優しく、私に色々な事を教えてくださったお母様。
良い香りでお話上手で、いつもおしゃれな、ヒガシカ達の母であられる小母様。
ちょっと横柄だけど気遣い上手な大兄様。
キザで女の子にモテモテの小兄様。
皆、居なくなってしまいました。
私以外の家族は、この部屋には居ませんでした。
私だけが選ばれてしまいました。
特に小母様。
私はヒガシカとニシカに会えるそうです。
出来れば私はこの立場を、貴女に譲りたい……。
あの子達には、本当のお母様が必要なはずだから。
……。
……。
あ……。
いや……。
いやよ……。
ごめんなさい……
私はヒガシカとニシカに会いたい!!
会いたいの!!!!
許してください……
涙と我が侭が抑えられないの……助けてお母様……。
私は、生きたい。
暫くすると涙も収まってきた。
泣いても状況は変わらない。
目の前には部屋にいた女性が椅子に座っている。
私の事は気にしていなかったようだ。
ただ虚空を見つめている。
その女性が不意に、此方を見た。
ドクン。
何か身体の奥の部分が変わった気がする……。
何?
お母様に刺繍を習って上手になった時の感覚がある。
知識が、技術が、頭の中に流れ込んでくるような。
まただ……。
また何かが増えた。
強く?
強くなったという気持ちがわき上がりました。
私は武芸を嗜んだことはありません。
兄達の真似事をしたことすらありません。
ですが、弓があれば……。
そう言う感覚があるのです。
弓は見た事しかありませんが、今なら誰よりも上手く使えるという気持ちがわき上がって来ます。
弦を引き絞る感触、風を読む感覚、矢を放つ瞬間の指先の離れ。
まるで何十年も修練を積んだかのように、身体が記憶している。
怖い。
自分が自分でなくなっていくようで。
この不思議な気持ちに慣れずキョロキョロしていると、目の前の女性は急に立ち上がりました。
そして……
[パチン!]
と指を鳴らしました。
目が眩みました。
音なのに……です。
世界が反転するような浮遊感。
ハッとした瞬間には景色が変わっていました。
ここは……?
10歳になった時、スキル鑑定に訪れたピュリナック教会にそっくりです。
懐かしい、神聖な場所。
あれ?
何故か神像がありませんでした。
神父様が立つ祭壇の上。
確か教会のあの場所には、とても美しい女神像があった筈です。
光と癒やしの女神フォンティーヌ様。
そう、確か目の前の女性のように美しい女神だった筈です。
……え?
違ったかしら?
いえ、昔からそうでした。
教会の御神体は、いつだって美しい女神様でしたわ。
私は何を忘れていたのでしょう。
そう思っていると、目の前の女性はもう一度指を鳴らしました。
[パチン!]
……。
いつの間にか服を着せられていました。
下着の感覚、靴下と靴の感覚、そして整えられた髪の感覚があります。
目で見える範囲で、頂いた服装は修道服(シスター服)である事が分かりました。
流石に全裸は恥ずかしかったので、本当に有り難いと思いました。
私に聖職者になれと。
神に仕えよと。
そういう事でしょうか?
ええ、私は敬虔な信徒ですもの。当然ですわ。
不思議に思い、同室の美しい女性に目線を移すと、女性は目の前で手を打ち鳴らしました。
[パンッ!]
と澄んだ音が響き渡ると、美しい光が礼拝堂を包みました。
天井から虹色の光が降り注ぎます。
どこからともなく、パイプオルガンの荘厳な音色が聞こえてきます。
目の前の美しい人の、顔にあった眼鏡というアクセサリーが消え、結わえた髪がほどかれていきました。
ふわりと、風もないのに髪が舞い上がります。
見た事もない服は透き通るような羽衣となりました。
天に浮き上がり、光を受ける輝かしいお姿。
女神。
女神!
これが女神!!
お母様も小母様もお綺麗でした。
私も顔はお母様に似て自信がありました。
ですが、そのお方は美しいという定義の全てが異なりました。
人間が到達できない領域。
女神は人が、人などが求めてはいけないものだと理解しました。
ただ、平伏すのみ。
もう、立っているのか座っているのかも分からず、ただただ女神の姿を眺めていました。
心酔し、涙が溢れてきます。
あぁ、私はこのお方に会うために死んだのですね。
「私は光と癒やしの女神フォンティーヌ
絶対神の僕。
恐ろしき魔の生物により命を落とした哀れな少女よ……
絶対神たる創造主様より、貴女に力と天啓と与えるよう仰せつかりました。
跪き、神に祈りを捧げなさい。
これから貴女に大事な使命を告げます。
心してお聞きなさい」
響く神々しい声に、私は直ぐに膝をついて祈りを捧げました。
疑う余地などありません。
私の全てを捧げます。
あぁ女神よ……。
フォンティーヌ様……。
私の欲深い願いを……。
小母様を差し置いてでも、愛する弟と妹に会いたいと願うこの愚かで小さき者をお救いください……。
さて、とても良い子のウチカちゃん。
書いてて可哀想です。
救われるかが気になりましたら★★★★★頂ければ幸いです。
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宜しくお願い致します。




