第013話 「神の悪戯」
さぁて。
仕事仕事。
あ、またシリアスさんが来たよ……
※大規模修正
さて。
どうやら師匠と元軍医長のお婆さんの話は一段落したようだ。
深刻な空気も少し落ち着いた気がする。
そろそろ目を覚ましておこう。
いつまでも寝たふりを続けるのも、大人の処世術としては限界がある。
「う、うぅ~~ん……はっ!」
と、我ながら少しわざとらしく声を上げ、カッと目を見開く。
名演技だ。
手を使い、ゆっくりと上半身を起こそうと腹筋に力を入れた、その瞬間。
ズキリ、と両膝の芯が焼け付くように痛んだ。
「ッぅク……!」
冗談じゃない……。
傷は治った、そう言ってた筈だ。
表面上の傷は塞がっているのに、骨の髄に鉛を流し込まれたような重さと、神経を直接ヤスリで削られるような激痛。
――これが呪いか!!――
これはゲームの話じゃ無い。
ネタのためとはいえ、流石に酷い状況だな……。
デバフアイコンが付くだけのゲームとは訳が違う。
痛みと脱力感で、もう一度ベッドに倒れ込みそうになったが、駆けつけたお師匠様がそっと背中を支えてくれた。
「ヒガシカ! 大丈夫か。
無理に起きなくていいんだぞ」
師匠の太い腕が頼もしい。
あ~、済みません。
もう起き上がってしまいました。
なんか、全身麻酔から覚めた人とかは無意識に起きようとしちゃうんですよ。
自分も前世で経験があるし。
「あの、ここは?」
本当は知ってるけどね。
俯瞰視点で見てたし。
でも、流れからして一応聞くべきだろう。
俺は空気が読めるビジネスパートナーさ。
どうやら、この問いには横に居たウエルシアお婆さんが答えてくれるようだ。
「ここはアルケンダス帝国の首都クルー=マイスの近くにある軍施設。
そこに併設された治療施設じゃよ。
アタシは元軍医でね。
名をウエルシア・ファインと言う。
今はこの施設で臨時の治療師をしておる」
うん。
知ってる。
お姉さんじゃない婆さんだ。
「あ、初めまして!
あの……」
自己紹介をしようとしたのだが、老婆はそれをシワだらけの手で制す。
「よいよい。
お主の名前はヒガシカ・ワグチで合っておるじゃろう。
ショー坊……いや、ノワール卿から既に聞いておるわぃ。
今回は本当に災難じゃったの……」
老婆の目が、憐れむように細められる。
「今のお主の身体は非常に難儀なことになっておる。
当面は無理をせず休むがよいじゃろう」
俺はぺこりと老婆に頭を下げると、目線をノワール卿、剣聖ショーヴ・ノワール・ミズカミへと向ける。
師匠の顔が、痛いくらいに歪んでいる。
「師匠、自分はやはり……」
その言葉に師匠は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにいつもの真面目な顔を作り、重い口を開いた。
「『[リョウ]ヒザニヤーヲ・ウケテシ・マッテナ』だそうだ」
……。
あぁ……アレね。
ゲーム内ではどんなに膝に矢を打ち込んでも走り回れるのに、設定では昔膝に矢を受けただけで戦えないって設定のアレですね?
しかも殴ると衛兵たちがワラワラと追っかけてくる、あの有名な元兵士の名言ですよね?
[リョウ]って事は両方だもんね。
倍率ドン、更に倍。
スキルレベルにステータスまで8分の1かぁ……。
それに加えてさっきの激痛。
まともに歩くことすらままならない。
これ、リタイヤした方が良くない?
人生のログアウトボタンは何処ですか?
ネタになる部分はやったよね?
殆どカド○ワネタばっかりでアレだったけどさ。
もう勘弁してくれませんかね、イセちゃん様。
と、心が折れかけたその時。
外が騒がしい。
パカパカ、ガラガラ……。
蹄の音と、車輪が石畳を転がる音。
馬車だろこれ。
さっき乗ってきたのと音が似てるし、かなり高級そうな馬車の響きだ。
間違い無い。
今、建物の側で止まった。
室内には緊張が走る。
師匠の肩がピクリと反応し、殺気のようなものが滲み出る。
暫くするとガチャリと治療施設の入り口の扉が開き、コツコツと奥のこの部屋に向かって歩いてくるヒールの音が聞こえた。
足音は治療室の前で止まり、続けてコンコンと上品なノックの音がした。
ウエルシアとショーヴは互いに目配せする。
招かれざる客。
「今は治療中ですが、どちら様ですかな?」
ウエルシアが扉の向こうの人物へ、少し声を張り上げて問いかける。
それに対する扉の先の答えは、鈴を転がすような、しかしどこか冷たさを孕んだ声だった。
「わたくしはエターノル神王国 筆頭近衛騎士 聖弓 ナーニ・ワノア・キンドウと申します。
……[役目を終えた]矢を回収に参りました」
役目を終えた、だと?
俺の膝を破壊したことを、そう呼ぶのか。
ウエルシアに向け、コクリと頷くショーヴ。
その目は笑っていない。
ベッドの横にいた筈の師匠が、扉と俺との間、対角線上に移動し立ち塞がる。
いつでも抜剣できる構えだ。
ウエルシアは部屋の入り口へと進み出て、その扉をガチャリと開けた。
「これはこれは、ワノア卿でございましたか。
お待たせし申し訳御座いません。
わざわざこのようなむさ苦しい場所までご足労頂かなくとも、矢の方はこちらから使いを出して送り届けましたものを……」
老婆の嫌味に、薄らと「うふふ」と嗤う声が返ってくる。
「お気遣いは不要ですわ。
わたくしがここへ伺ったのは確認のためもありますの。
剣聖の弟子の少年。
彼のご様子を見る事が目的です。
矢の回収は、あくまで『ついで』ですのよ?」
どの口が言うか。
完全に確信犯の言動だ。
扉の先に立つ人物、ナーニ・ワノア・キンドウ。
彼女はそう言うとウエルシアを軽く手で制して、部屋の中へと歩を進める。
コツ、コツ、と部屋の中に入ってくる美しき女性。
ベッドの上で上体を起こしていた俺は、師匠の背中越しに、扉から入ってきたその人物を見て――
――息が止まった。
年の頃は20歳位だろう。
背丈は160センチメートル少々位か。
少し厚手のシャツに、動きやすそうな長ズボン。
左手側が弓籠手のようになっている。
片側のみの革の胸当て。
弓手の練習着だ。
そのような無骨な格好であっても、隠しきれない女性のスタイルの良さが見て取れた。
しかし、俺が驚愕し、心臓を鷲掴みにされたのは、そんなことじゃない。
ウェーブ掛かった、薄紫色の髪。
少し垂れたような、優しそうな目。
すらりとした鼻に、薄く整った唇。
重なる。
夢で見た記憶と。
重なっていく。
優しく微笑む、あの顔と。
そして、決定的な特徴。
両目尻にある、泣きボクロが目に入る。
俺の、いや、ヒガシカの記憶にあるあの顔と、今目の前にいる女性の顔が完全に重なった。
言葉が出せない。
思考が真っ白になる。
目の前にいるのは、俺の膝を射抜いた憎き仇敵のはずだ。
守銭奴国家の騎士のはずだ。
なのに。
あの一言が、喉まで出掛かって止まらない。
だが、別の意識が。
身体に残るヒガシカの魂が、俺の理性を凌駕して、喉の奥に詰まった心の声を音にする。
「姉……う……え……?」
ありがち!!
伏線張ってからが短いですからね。
お姉たま生きてたの?
何しに来たの?
と気になりましたら★★★★★頂ければ幸いです。
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