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第九話 謎の女

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

「それではお気をつけて」

「うん、ありがとう」


 週末が空けて今日は月曜日。いつもは憂鬱な週の最初の日。今日はなんだか気分が晴れ晴れしている。


 今日は運転手さんの仕事の都合でいつもより学校に早く着いてしまった。


 まだ周りに生徒はいない。まるでこの学校に俺だけが閉じ込められているかのようだ。この静寂が妙に心地よい。


「……暇だな」


 あくびをしながらお気に入りの場所を目指す。静かに一人で過ごしたいときに良く行く場所だ。


 北西棟真下にあるフラワーガーデンと呼ばれている場所。ここは昔、園芸部が活動場所として利用していたらしいが、今は園芸部は廃部となってしまい、誰もここを利用する者はいないらしい。季節毎に違う花が咲いており、梅雨の季節は紫陽花が咲いている。水やりをした跡があるのでここが完全に使われていないということは無いのだろう。


 中央の広場にはベンチが置かれている。よくここに座って瞑想しているのだが、今日は先客がいた。


「あなたは……紫陽花好き?」


 風が巻き起こり紫陽花の花びらが宙を舞う。


 ベンチに座っている女子生徒は顔をこちらに向けることもしないまま突然訳の分からないことを聞いてきた。


 長い黒髪は風に靡いて左右に揺れる。雪のように真っ白な肌には少しの凹凸すらない。真紅の瞳は研ぎ澄まされたような鋭い光りを含んでいる。


──知っている人か?……いや知らない……


「とりあえず座ったら?」


 彼女は尻をずらして俺の座る所を空けてくれた。そして、トントンと空いたスペースを指で叩いて、にこりと笑う。座れということだろう。


「…………」


 軽く会釈し、なるべく名も知らぬ女子生徒と距離を取って座る。警戒をするにこしたことはない。


「…今日はいい天気ね?朝から少し暑いくらいだわ」

「……ちゃんと曇りだけど?」


 梅雨後半のこの季節。湿気の多いどんよりとした天気だ。俺は会話のペースを掴ませてもらえないまま、何という事もない世間話に付き合わされる。

 

 だが、彼女の俺に対するある意味いい加減な態度が俺の警戒心をほどいていく。


「あ、そうだ。あなたは紫陽花の花言葉知ってるかしら?」

「たくさんあるんだろ、紫陽花の花言葉って」


「ふふっ、あなた物知りなのね」

「別に普通だよ……」


 ぐいっと顔を近づけてくる彼女はにやりと笑う。全てを見透かしているかのようなそんな瞳を見て俺は思わず目を背けてしまう。


「……浮気。花言葉の一つよ」


 彼女はまっすぐ俺の目を見る。


「……へぇ。でもなんでそれを俺に?」


 俺の質問を無視して彼女は喋り続ける


「何世紀も前は人類は男も女も浮気をしまくっていたらしいわよ。倫理的にはダメと分かっていても人は浮気の快楽に負けてしまうらしいの」


 謎の女子生徒はペロリと唇を舐める。舐め回すような目で俺を見た後にさらにぐいっと距離を縮めてくる。


「……おいさっきから何が言いたいんだ」


 明らかにこの女は俺の反応を見るためにこんな話をしているのだろう。さっき出会ったばかりの女だが妙に馴れ馴れしいのも気にかかる。


 俺は少し距離を取り、質問をする。


「お前何者だ?何が望みだ」

「やだわ。怖い顔しないでくれる?」


 また適当にはぐらかされそうになる。こいつのペースに乗ってはダメだと思い、今度は質問の内容を変える。


「俺は黒宗蓮。お前の名前は?」

「……ふふ、知ってるわよ。有名だもの」

「そりゃどうも。で、君は?」

「私の名前はまだ言えないわ。適当に……そうね…。レインと呼んでちょうだい。あなたと響きが似てるから」

「はぁ?なんだよそれ……」


 嬉しそうに口角を上げて笑う彼女は距離を取った俺にぐんぐんと近づいてくる。柔軟剤の良い匂いが梅雨の雨上がりの匂いと混ざって俺の鼻に入ってくる。


 そのまま彼女は俺の耳元に顔を近づける。そしてゆっくりと囁く。


「────」


 俺はベンチから立ち上がって彼女を見る。


「一体どういう意味だ……それ」

「そのまんまだよ、ほら」


 彼女はシャツの一番上のボタンを外して、胸に手をつっこむ。そして谷間から一枚の写真を取り出して手渡してくる。どうしてそんな所に収納しているのか、なんて面倒くさいことは聞かない。どうせ答えてくれないか、はぐらかされるだけだろう。


「こ!これは!」


 恐らく盗撮されたであろう写真。その写真は驚くべき光景を撮ったものだった。


「それで?君はどうするの?」


 赤い瞳はまるでルビーのようにキランと輝く。その瞳はじっと俺を見つめて離れない。


 きっとこの女は俺を試しているのだろう。


 何が目的かは分からない。だけど、いいだろう。


 その挑発に乗ってやる。


 俺は一枚の写真を握ってベンチから立ち上がる。同時にまるで試合開始を告げるゴングのようにチャイムが鳴った。


 

ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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