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第八話 それぞれの休日3

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

「お迎えにあがりました。蓮様」


 レストランから出た俺を既に待っていたのは俺の専属男性保護官である小林沙夜(こばやしさや)さんだった。


 男性保護官とは、その名の通り男性の身辺警護を担当をしている警護官のことである。男女比が1:100のこの世界で男性はとても貴重な存在。一人の男性を巡って争いになることがあったり、貴重な男性の身体自体が狙われたりなど、男性が生きるにはこの世界は危険が多すぎる。そこで、男性一人につき、男性保護官という男性の安全を守る女性が一人、必ず国から派遣されるようになっている。


 その選考基準はとても厳しく、わが国で取得するのが一番難しい国家資格とも呼ばれている。倍率が高いのはもちろんのこと、厳格な審査の下でどんな状況でも男性を守り抜き、命を捨てる覚悟ができる者、そして男性との距離がどれだけ近くなっても理性を保ち続けることができる者のみが選ばれる。


 この男性保護官になることができるのはそうした厳格な審査を潜り抜ける実力を勇し、さらに直接男性に指名された幸運の持ち主なのである。


 男性をいかなる脅威からも守り抜くことができる身体能力を持ち、そして難関国立大学に合格することができるほどの学力も有している。つまりは完璧なオールラウンダー。冷静沈着に仕事を淡々と遂行する超人ロボットなのである。


「……紗夜さんに電話した覚えはないんだけど?」

「予定時刻よりかなり早くお電話を頂きましたので、何かあったのかと思い、馳せ参じました」


 ぺこりと一礼してから紗夜さんは助手席の扉を開ける。


「……まあいいよ。母さんにも連絡入れといて」

「かしこまりました。では」


 扉が自動で閉まり、車がすぐに発進する。暗い表情の俺を気遣ってなのか、紗夜さんは俺に問いかける。


「……何かあの女に嫌なことでもされましたか?もしそうなら私の全力を持って相応の報いを受けさせます」


 紗夜さんは基本無口である。表情を動かさず、常に冷静に、そして静かに俺を見守っている。男性保護官は男性を守ることが任務だ。だからといって常に俺の隣にいるのではなく、むしろ遠くから俺の見えない所で俺を護ってくれている。


 実際いつも彼女がどこにいるのかなんて俺は知らない。だけど、何かあった時のためにすぐ動けるようにしているみたいだ。


「……馬鹿なこと言うな。俺が……俺が全部悪い」


 彼女は何も悪くない。勝手に不機嫌になった俺がおかしいのだ。こんな感情になったのは初めてだ。本当に気分が悪い。自分で自分が嫌になる。


 大きなため息をついて、座椅子にもたれかかった。


「……そう……ですか。しかし、もし何かあればお申し付け下さい」

「……あぁ」


 家に到着した時には既に22時を回っていた。いつもはセットすらしない髪の毛は今日はキッチリ固められている。なんだか鬱陶しくなって髪の毛をくしゃくしゃに崩す。


 いつもは着ないような黒を基調にしたフォーマルな服もすぐに着崩した。ジャケットを脱いで紗夜さんに渡す。


 玄関を開けると、すぐそこに母さんが待っていた。


 やはり急な仕事が入ったなんて嘘だったのだ。俺と虹花をどうにかして二人にして仲を取りもとうとしたのだろうが、それは失敗に終わったということだ。


「……虹花ちゃんもついさっき家に着いたそうよ」

「……そう」


 母さんは少しはにかんで、俺に近寄る。


 両手を広げて俺を抱きしめる。思わず俺は「えっ」と声をあげてしまう。母さんに抱きしめられるのは何年振りだろうか。懐かしくて暖かい。そしてとても優しい。


「ちょっと、急になんだよ」


 だが、気恥ずかしい俺はすぐに腕をほどいて抜け出す。高校生になって母さんのハグするなんて恥ずかしい。


 母さんは少し寂しそうな顔をした後に、じっと俺の目を見て話す。


「何があったかなんて言わなくていい。だけど、蓮ちゃん。これだけは覚えておいて。今も昔も、虹花ちゃんはね。貴方のことが大好きなのよ」


 そのまっすぐな瞳は俺が逃げることを許さない。


「……こっちに来なさい。三咲も待ってるわ」

「え……」


 虹花の母さんは一体俺をどう思っているのだろう。実の愛娘を蔑ろに扱う俺を見て何を思うのだろうか。怒鳴られても仕方がない。相応のことをしたのだ。勝手に不機嫌になって店に彼女を置いて一人で帰った。


 本当に俺は何をしてるんだ。


「こんばんわ〜、蓮君。大きくなったわね」


 虹花と同じ桃色の長い髪。高身長で年齢を感じさせない肌艶の良さ。何よりぱっちりとした目元が虹花そっくりだ。


「ご無沙汰してます。三咲さん。あの……すみませんでした」


 俺は頭を下げて謝罪する。顔を合わせるのも気まずい。なんて弁明すれば良いのだろうか。背中からじんわり汗が滲む。


「頭をあげて。蓮君。私の娘が迷惑をかけたみたいね」

「……え?」


 三咲さんは俺の手を握って俺の目線に合わせるために少しかがむ。俯いていた俺は三咲さんと目を合わせる。いや、合わせてしまった。


 その顔は慈愛に満ちており、それ以上謝らないでと語りかけてくる。あぁ、これだ。この人はいつもそうだ。


 この人の目を見たら自分を責めることも他人を責めることもできなくなる。不思議な人だ。


 だからこそ余計申し訳なくなる。


「無理に虹花とどうなろうなんて考えなくていいのよ。大事なのは蓮君の気持ち。そうでしょ?」


──大事なのは俺の気持ち。心の中で何度も反芻する。自分の気持ちと向き合わなくてはいけない時が来ている。


「……蓮ちゃん。焦らなくていいのよ」

「この世界は広い。あなたにはまだまだ選択肢があって輝かしい未来が待っているのよ」


 あれだけ重かった身体が一瞬で軽くなった気がした。目の前が明るくなり、視野が広がる。


 あぁ、決めた。もう俺は逃げない。

ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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