第七話 それぞれの休日2
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
今日は休日。俺は今虹花とともにレストランにディナーを食べに来ている。今日は珍しく二人きりの食事だ。『デート』と言い換えることもできるだろうか。
本来なら虹花のお母さんと俺の母さんも一緒に来る予定だったが、どうやら別の用事が入ったようでどちらもこれなくなった。どうせ用事があるというのは嘘だろうが。
親の狙いは俺達二人を仲良くさせることだろう。魂胆が見え見えで、いまいち気が乗らない。俺と虹花の仲があまり良くないことは親も知っている。幼い頃は仲が良かった分、親が心配するのも納得いく。だからってこんなお膳立てされても困るのだが。
「すごい綺麗なレストランだね!」
綺麗な夜空が見える男性向け高級レストランは約270mの高さに位置する。欧風料理、日本料理、そして目の前で新鮮素材を調理する鉄板焼を提供するレストランだ。コース料理は一人10万もする。
「そうだな。初めて来たけど中々良いな」
その道何十年の腕利きのシェフが採れたての海の幸を目の前で焼いてくれる。一つ一つの所作に無駄な動きが何一つなく、それでいて調理の仕方は豪快であるので、実に見応えがある。
隣を見れば幼馴染の虹花がキラキラと目を輝かせてその調理の様子を見ている。この店は虹花が本当に幼い頃に虹花のお父さんの龍司さんと一度だけ来たことがあるらしい。当の本人は覚えていないらしいが、それが最初で最後の父との外食になっているのだから、虹花は少し寂しい思いをしているに近いない。
普段見慣れている制服姿の虹花は、清楚な印象が強いが、今は逆に大人びており、少し色気が出ている。
彼女が見に纏うネイビーのリボン付きサイドレースドレスと普段はつけない金色の小さなイヤリングは彼女がもう少女でないことをものがたっている。
あの頃とはもう違う。彼女は大人の女性になった。だけど、自分はどうだろうか。いつまでも過去に囚われている自分はきっと彼女に置いて行かれてしまっているのだろう。
彼女とはもう幼馴染ではいられなくなる。その決断を迫られる時が近づいていることは良く分かっていた。
だが、自分の気持ち。そして虹花の気持ち。無意識のうちに俺は考えることを避けてしまっていた。
「……ん?どうしたの?蓮?」
料理に夢中になっていた彼女は俺の視線に気づく。
「あ、いや!なんでも!」
いつものごとく、俺は彼女から目を逸らす。
「あ、あはは……。ごめんね……」
そして彼女は寂しそうな顔を見せる。いつものごとく。
良く親に聞かれることがある。虹花を嫌いになったのか。どうして避けるのか。何がダメなのか。
その質問にはいつも答えない。なんて答えれば良いのか分からないのだ。嫌いになんてなってない。彼女に悪い点なんてない。これは俺自身の問題なのだ。
彼女はあくまで幼馴染なのか。それとも……。
彼女との関係を考えるたびに俺はとっさに彼女を避けてしまう。これは逃げだ。俺が逃げているだけなのだ。
「その……いつもごめん」
いろんな意味の「ごめん」が込められている。とにかく俺は謝らないといけないと思った。こんな機会でしか言えないことだ。
「え!な!なんで!」
「いつも避けてるから…」
特に口に出して「俺に関わらないでくれ」なんて言ったことはない。だけど、俺の態度を察した彼女は学校で俺に近づいてくることはなくなった。
彼女は誰にでも隔てなく優しい。人望も厚く、クラスの人気者。自分とは真逆の存在だ。俺は何も持っていない。男であるというだけでちやほやされる、しょーもない人間だ。
幼馴染を蔑ろにして、周りの目を気にして、勝手に避けて。
それでも自分と一緒にいてくれている彼女を俺に留まらせてもいいのだろうか。きっと彼女にはもっと相応しい人が──
「れ、蓮。わたしは、私は蓮のことが──」
彼女が何かを言いかけた時、彼女の携帯に電話が入る。音からしてRAINの電話だろう。
「あ、ご、ごめん……」
彼女はポケットからスマホを取り出して席を立つ。どこかその表情は困っているように見えた。
誰から?なんて野暮なことを聞くことはしない。そんなこと聞けば俺が食事中に電話をする彼女に腹を立てているみたいだからだ。
一人残された俺は途中だった食事を再開する。先程までお腹が空いていたというのに今はあまり喉を通ろうとしない。お腹に何か重たいものが詰まっているかのようだ。
虹花が言いかけたことはなんだったのだろうか。考えても何も思いつかない。だけど、彼女が席から戻ってきても聞く気にはなれない。
数分で彼女は席に戻ってきた。彼女はどこかそわそわしているような態度を見せる。
「あ、あの途中で抜けたりしてごめんね……。マナー違反だよね」
「別にいいって」
必死に謝る彼女を見て少し腹が立つ。俺と彼女の仲はぺこぺこと頭を下げるようなそんな仲だったろうか。昔は性別なんて関係なかった。たくさん冗談言い合って喧嘩しあった。そんな幼馴染を俺は……
「その!どうしても出なくちゃいけなくて!その!男性からの……あの、白羽君からの電話だったから……」
白羽勇樹。そういえばこの前虹花は彼とRAINを交換していた。まさか連絡を取り合ったいるとは思わなかったが。
「最初はメールがたくさん来ててね……。でも最近、電話をかけてくるようになってるの……。私はやめて欲しいって言ってるんだけど……」
虹花は俺の顔色を伺うように事情を説明してくる。確かに男性からの連絡を無視する訳にはいかない。男性の気分を害することに繋がってしまうからだ。それは女性が絶対にやってはいけないことだ。
それはもちろん理解できる。理解できるんだ。
だけど、だけどもう俺の耳には何も届かない。何も聞きたくない。
この感情はなんだろうか。俺は今、腹が立っているのだろうか。心の奥がうずうずする。気持ちが悪い。気分が悪くなってきた。
「別に俺に気にせずあいつと電話してればいいだろ」
イケメンでコミュ力があって誰にでも優しい。人気者でいつも周りにはたくさんの人がいる。勉強もスポーツもできる完璧超人。俺とは真逆の人間だ。
男というだけでちまほやされてきた何もない俺とは人間としての格が違う。
そう、俺は。俺には何もない。
虹花にはきっと、あんな男が相応しいのだろう。
「……え、れ、蓮……?」
俺は席を立って、使用人に電話をかける。ワンコールで使用人は電話に出る。
「……すぐに車を出してくれ」
その一言だけ告げて親は電話を切る。
「え!?蓮!ちょっと待って!違うの!聞いて!蓮!」
俺はお会計だけして虹花を置いてレストランを出た。
夜空はいまだにキラキラと輝いている。
結局俺は今日も彼女と目を合わせることはできなかったのだった。
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