第五話 親睦会
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
「……親睦会?」
クラス委員長の佐竹さんからたどたどしい口調で伝えられたのは『クラス親睦会』と言う催しを行うということだった。
日時は今月末の午後6時から。都内の有名ホテルを貸し切るのだとか。どうやら学生にはもったいないレベルのだいぶ規模のでかい催しを計画しているらしい。気合いの入り方がいつもの数倍だ。
「そう!白羽く…勇樹君と!クラスのみんなとの親睦を深めようっていう企画なんだけど、どうかな?」
いつの間にか下の名前呼びになっていることに特別つっこみはしない。確か佐竹さんは勇樹に学校の案内をしてあげていた。その時にでも仲良くなったのだろう。
俺は手渡された一枚の招待状と書かれた紙を見る。一体いつから計画し準備を始めていたのか。ご丁寧に招待状なんてものまで用意していたとは。男子にだけ特別に作ったらしい。招待状には日時と場所、服装の規定なんて細かいものまで書かれていた。正直、手が込みすぎていて不気味なくらいだ。
「ん〜、どうする伊織?」
俺は隣で絶賛サンドウィッチもぐもぐタイムの伊織に声をかける。頬を大きく膨らませてまるでハムスターみたいになっている。
「む〜〜〜〜っ」
縦に二回首を振ったので、彼女には了承すると伝えた。この前伊織は、『勇樹君ともっと仲良くなりたいな〜』とか呟いていたので、確かにこれは良い機会かもしれない。
「良かったな、伊織」
「うん!早く友達になりたいからね!」
口にケチャップを付けたままキラキラと瞳を輝かせる。この意欲をもっと別の方向に、つまりは逆方向に向けることができたら、もっといろいろ上手くいくと思うのだが……。
俺はちらりと右の様子を伺う。そう、例えば彼のように。
「今日は私の弁当を!」
「ちょっと!先に私が渡す約束でしょ!」
「抜け駆け禁止って決めたじゃない!」
「こら!近づきすぎだってば!!」
「お、俺はそんな食べれないって」
白羽勇樹。彼がこの学校に転入してきてからはや一週間が経った。初日の様子を見ていれば分かる通り、彼はすぐにクラスに溶け込んで、今やクラスの中心。クラスで一番の人気者となった。女子人気は言うまでもなく凄まじく高い。それが良いのか悪いのか置いといて、彼の評判が隣の高校まで広がっているのだから、かなりの影響力だろう。噂じゃもうファンクラブまであるとか。
「一つずつ食べるから、みんなそれで我慢してくれよ?」
女子に囲まれながらも笑顔で優しく一人ひとりに神対応している。気分でも悪くなっていないかと同性のクラスメイトとして心配していたが、杞憂だったようだ。相当な労力だと思うのだが、何食わぬ顔で女子と接することができるのは正直脱帽する。女性慣れしているというだけでは説明できないほど、彼は女性の扱いが上手かった。
「「「キャー!!!!」」」
そのため、黄色い歓声は一日中鳴り止まない。ひどい時は俺と伊織が耳栓をするくらいだ。正直うざったいが、『女子だから』と納得しなさいと言われればそれまでだ。
「そう言えば、虹花も行くのー?親睦会」
小さくサラダを啄む彼女は首をかしげる。見た所、まだ虹花にまで話が通っていなかったようだ。彼女とは席が離れているが、彼女の友達の声が大きいので何を話しているかはすぐわかる。
虹花は教室の中ではかなり目立った存在だ。だが悪目立ちするという感じではなく、必然的に目を引いてしまう感じだ。あまり大声で話すこともなく、馬鹿みたいに騒ぐこともない。
人気者でありながら調子に乗っていないような態度が彼女の人気の秘訣なのだろう。
「親睦会か〜」
虹花はちらりと辺を見渡して様子を伺う。具体的にはクラスメイトの『女子』の様子を。彼女はあまり人の顔色を伺わない性格だと思われがちだ。いつも皆に明るく優しい。そんな彼女はクラスの人気者。
だけど、彼女にも苦悩の一つくらいはある。
「居関さん、ちょっと、良いかな?」
横から爽やかな風を纏いながら、美男子が現れる。
いつのまにか彼女の真後ろに彼は来ていた。
俺の言葉を遮るようにして、耳に心地よいイケボはロックオンした虹花に声をかける。先程まで彼と喋っていたであろう女子達はいつの間にか話をやめて、こちらを遠巻きに注視している。女子たちの目つきが日頃より一段と鋭くなる。
──なんだか嫌な予感がするな…
直感的にそう思った。
勇樹の右手には紙切れが握られている。
「え?わ、私?」
まさか自分に声がかけられるとは思っていなかったのだろう。虹花は慌てて危うくサラダを落としそうになっていた。すぐにサラダと箸をテーブルに置き、姿勢を直す。
「そ、そんな畏まらなくて良いよ。居関さん」
「そう言う訳には……」
彼女の視線は彼の奥にいる女子達に向いている。まるで、呪いの生産工場なのかと思うぐらい負のオーラが立ち込めていた。誰がどう見ても勇樹の虹花に対する態度は他の女子とは違っていた。
虹花は顔を引き攣らせながら、小さくひぃっと怯えた声をあげる。嫉妬に塗れた目線は虹花を睨みつける。
「まだ居関さんとはあまり話せていないと思ってね。仲良くしたいから、これ、RAINのアドレス」
……RAINのアドレス!?
この男、意味分かって渡しているのか?と流石に批判の目を向けたくなる。それもそうだろう。こんなの彼女が貰ったら……
「……ま、まさか!」
「あれって!」
「いやいや、で、でも!」
「勇樹君から渡すなんて!」
考えただけで恐ろしい。女子の殺気がここまで伝わってくる。それに伊織にまで被害がいきそうだ。久しぶりに発作を起こすかもしれない……。一週間前みたいにならないでくれよと願いながら、俺はただその光景を見守る。
「えっと……RAINは……」
かなり困っている様子だ。さぁ、どうするべきか……。
「あ!勇樹くん!僕と蓮もまだRAIN交換してなかったよね!」
ただただ勇樹と仲良くなりたいだけの天然の伊織が見事に助け舟を出す。今日はなんか冴えてるぞ!伊織!
──伊織君!ナイスアシストッ!!
そんな虹花の心の声が聞こえてくるようだった。すかさず船に乗っかる。
「た、確かに!女子よりも男子と話すことの方が多いだろうし!二人もRAIN交換したいって言ってたもんね!」
虹花は紙は受け取らず、笑顔を取り繕ってそう答えた。
これで、誰にも癇癪を買うことなく穏便に事が済みそうだ。
そう思った矢先ーー
「あぁ!そうだね!じゃあ居関さんから貰うことにするよ!あとで二人の連絡先送っといてくれるかな?」
どうやら船は泥舟だったらしい。
すぐさま船は沈没した。
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