第五話 案内
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
放課後の学校は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。外のグラウンドではテニス部の女子たちが歓声を上げ、校舎の影がゆっくりと長く伸びていく。
そういえば、部活もまだ決めていない。転入初日から滑りだしは上々。あとはテンプレに従って生徒会やら部活やらに参加して、たくさんの女と関わる機会を作るだけだ。
俺のハーレム学園生活の計画に狂いはない。
窓から差し込む夕陽が廊下を橙色に染め、カーテンが風にふわりと揺れていた。
「白羽くん、こっちこっち」
クラス委員長の佐竹真綾が、少し先で手を振る。真面目そうな眼鏡と、淡い栗色の髪が特徴的な女。彼女は今日、転入してきた俺に学校を案内してくれるらしい。
「ありがとう、助かる」
「いいの。委員長の仕事だから」
「でも、わざわざ放課後に付き合ってくれるなんて優しいな」
「そ、そういうのじゃないよ」
照れたように目を逸らしながらも、歩幅を合わせてくるあたり、律儀だ。
俺はそんな彼女の横顔をちらりと見た。
顔立ちは整っている。いわゆる“隠れ美人”というやつだ。
この世界なら、男子に一言褒められるだけで舞い上がるのも無理はない。
この世界は男女比が極端に偏っている。
男1に対して女が1000――。
この学校に至っては、在校生1500人のうち男子は15人しかいない。
数字で聞くと笑ってしまうが、実際に入学してみると、文字通りどこを見ても女子、女子、女子。
廊下を歩いても、グラウンドを見ても、男子はほとんどいない。
教室で隣に男子が座っているというだけで、奇跡のような確率だ。
「ねぇ、佐竹さん」
「なに?」
「うちのクラス、男子三人だっけ?」
「うん。白羽くんと、黒宗くんと、蒼木くん」
「黒宗と蒼木……どんなやつ?」
俺が聞くと、佐竹さんは少し考えてから答えた。
「黒宗くんは、まあよく言えばクールってかんじかな。あんまり女子と会話してるとこ見たことないし。まあほとんどの男子はそんな感じなんだけどね」
「へぇ……彼女とかいるのかな」
「いないと思うよ。女子嫌いって噂もあるくらいだし」
「マジで?」
「うん。だからクラスではみんな声をかけないようにしてる」
思わず心の中で安堵の息をついた。
この世界では、男の行動ひとつで周囲の女子が騒ぎ出す。今日の俺の発言一つ一つが女子の心を揺さぶったのがその証拠だ。
黒宗はパッと見イケメンだったが、もちろん俺には及ばない。それに女子に興味なしなら、競合は一人減る――そんな計算が一瞬で頭をよぎる。
「じゃあ、もう一人の蒼木は?」
「蒼木くんは、女子恐怖症らしいよ。だからほとんど関わらないかな。黒宗くんとは楽しそうに会話してるから、根は良い子なんだと思うけど……」
「そうか……」
「うん、だから二人とも高嶺の花ってかんじかな」
「そっか。つまり、男子三人で全員フリーか。……なんか、安心した」
「安心?」
「いや、俺だけ浮くのかなって思ってたけど。まあ、気楽にやれそうだなって」
佐竹は小さく笑った。
「白羽くん、なんか落ち着いてるよね。普通なら“女子に囲まれる学校”って聞いたら嫌がるか取り乱すと思うんだけど」
「取り乱してるよ、内心は」
「うそ」
「ほんと。だって、入学初日でクラスの女子、全員可愛いんだもん」
「なっ……!」
佐竹は顔を真っ赤にして固まった。
「い、いきなり何言ってるの!?」
「いや、事実を言っただけだよ」
「そ、そういうのは軽く言うもんじゃないって……」
「ごめん、佐竹さんが可愛いから、つい」
「~~っ!!!」
声にならない悲鳴を上げて俯く佐竹。
その肩がかすかに震えていて、どう見ても怒ってるというより――照れていた。
俺はその様子を見て、内心でニヤリと笑う。
(やっぱり、女に優しくしておけば簡単に落ちるな)
もちろん、それを顔に出すつもりはない。
あくまで“無自覚”を装うのが、この世界での立ち回り方だ。
「……も、もう。ほんとにそういうこと言う人じゃないと思ってたのに」
「悪い。調子乗った」
「別に怒ってないけど……」
「でも、佐竹さんが案内してくれて良かったよ。なんか安心する」
「え?」
「最初、女子だらけの学校って聞いた時、少しビビってたんだ。けど、佐竹さんみたいな人がいたら、平気かもな」
「……っ」
夕陽がちょうど校舎の窓を染めて、二人の影を伸ばす。
佐竹の頬が、光を受けて桜色に染まる。
彼女は何かを言おうと口を開いたが、言葉が出てこなかった。
胸の奥が、じんわり熱い。
ただ案内しているだけのはずなのに、どうしてこんなに心が落ち着かないのか。
「白羽くん」
「うん?」
「そういう優しいこと言うの、反則だよ」
「優しいかな?」
「自覚ないのが、また反則……」
ぽつりと呟く佐竹。
夕陽が沈みかけた空の下、風がそっと二人の髪を撫でた。
校庭の向こうから吹奏楽部の音が聞こえる。
遠くでボールを打つ音、女子の笑い声。
そのすべてが、どこか遠くの世界のように霞んでいく。
「ここ、屋上?」
「うん。夕陽が綺麗だから、見せてあげたくて」
金網越しに見える街は、茜と群青の境目で光っていた。
校舎の屋根に反射した夕陽がまぶしく、風がほんの少し冷たくなってきている。
白羽はその景色を見上げ、静かに呟いた。
「すげぇな。……この景色、なんか懐かしい気がする」
「懐かしい?」
「うん。前の学校でも、夕方にこうして屋上で話したことがあってさ」
「へぇ、どんな人と?」
「……秘密」
「なにそれ、ずるい」
「秘密が多い男の方が、ちょっとはモテるって聞いた」
「誰にそんなこと……」
彼の軽口に、佐竹は思わず吹き出した。
でも、笑いながらも胸の奥では、確かに何かが芽生え始めていた。
それは恋と呼ぶにはまだ小さな感情。
けれど、彼といると、自分の中の何かが変わっていくのが分かる。
「ねぇ、佐竹さん」
「なに?」
「案内してくれて、ほんとありがとな」
「どういたしまして」
「それに……佐竹さん、話してると落ち着く。こういうの、久しぶりだ」
「……やめてよ、そういうの」
「なんで?」
「ほんとに、勘違いしちゃうじゃん」
「勘違いって?」
「だから……」
佐竹は頬を染め、視線を落とす。
その瞳の奥には、もうはっきりとした想いが宿っていた。
夕陽が完全に沈む。
屋上のフェンス越しに、街の明かりがぽつぽつと灯り始めた。
彼女の胸の鼓動が、風よりもはっきりと聞こえる。
――この人、たぶん、他の男子とは違う。
そう思ってしまった瞬間、佐竹真綾の恋は始まっていた。
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