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第四話 それぞれの想い

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

 窓の外から景色を眺める。今俺は虹花の家の車に乗せてもらっている。


「その……今朝はごめんね。連絡をくれたらすぐに私の家から車を送ったのに……」


 男性の、特に若い男性は電車を使わない。公共交通機関を使うと女性から狙われる可能性が高くなる。痴漢はもちろん男性がいるというだけで注目を浴びる。


 それを避けるためにいつも登下校は車だ。だけど今朝いつも送り迎えしてくれている使用人の車がパンクしたせいで、仕方なく電車を使うことにした。


 一人で電車に乗るのでも良かったのだが、それは母さんと使用人に強く反対されたので、心苦しかったが伊織を誘ったのだ。優しい伊織は俺についてきてくれた。


「伊織がいたから大丈夫だ。たまにの電車も悪くなかったし」

「そ、そう…?」


 俺と伊織、そして虹花はいわゆる幼馴染というやつだ。

 

 家が隣合っている訳でもなく離れているのにも関わらず昔から三人で一緒に行動していたのは家族ぐるみの付き合いがあったからだ。俺達三人の親ーーもっと詳しく言えば俺の母と伊織の母と虹花の母は昔からの付き合いらしく、とても仲が良い。今でも月に一度は必ずお茶をしに出掛けに行くくらいと言えば想像しやすいだろうか。


 俺と伊織は男同士だからすぐに仲良くなれた。昔から二人で良く遊ぶし、なんでも言い合える気の置けない友人だ。


 しかし、虹花はそうはいかなかった。幼い頃は三人で仲良く遊んでいた。男女なんて境界線を超えて楽しく過ごしていたはずだ。


 今は虹花とは少し距離を取ってしまっている。その理由がなんなのかは俺自身もよく分からない。とにかく、虹花が『女性』だというだけで一定の距離を保ってしまうのだ。


 もちろん他の女子に比べたら圧倒的に話しやすいし、今でも一緒に過ごす時間は少しはある。昔のようにべったり一緒にいないだけで、仲が悪い訳ではない。


 学校では特に俺と伊織に気を遣ってなのか、あまり虹花自身も話しかけてくることは少なくなっている。


 親同士がすごく仲良い分子供の俺たちも仲良くなるように強制されてきたが、それが逆に今の歪な関係を生んでしまったのかもしれない。お互い気を遣って顔色を伺う。幼馴染だからといって無条件に仲良くなるなんて都合よくはいかないものだ。


 学校でたまに話しかけてくれる虹花にはどうしても冷たく接してしまう。うまく話せない。彼女がそれをどう思っているのかは分からない。だけど、きっと、そんな俺を嫌っているに違いない。彼女はいつも寂しそうな顔を見せる。そして、そんな顔をさせている自分にも嫌気がさすのだ。


 毎日は、それの繰り返しだ。


 家族ぐるみの付き合いと言ったが、例えば今日のように誰かの家の車に乗せてもらったり、時には食事にも行ったりする。男性だと何かと苦労するからと俺と伊織は特に良くしてもらっているのだ。


 ちなみに俺と伊織は父親はおらず、家族は母親ときょうだいと後は家政婦さんだけ。


 対して虹花には父親もいる。まぁ、とは言っても月に一度顔を会わせるかどうかと言うレベルらしいが。彼女のように所謂『父親持ち』と言うのはかなり珍しい。なんせ、年々男児の出生率が低くなっているこの現代。男女比が『1:100』にまで落ち込んだ社会の中で、しかも父親となるとかなり割合は低い。結婚しない男性も多いのだから。普通、女性は妊娠適齢期になると人工授精をするので、父親はいない。俺と伊織の母親もそのパターンなのだ。


 また、もし仮に男性との間に子宝が恵まれたとしても認知するかどうかは別問題だ。男性は自分の子供を認知するかどうかは選択することができる。認知すると色々面倒な手続きがあるのでしない男性も多い。するとしても本命の女性一人の子供に対してだけだろう。このような理由から『父親持ち』というのはかなり社会的に見てもレアであるし、羨ましがられる存在なのだ。


 そう言えば、最近は家族ぐるみの付き合いも少なくなったかもしれない。最後に三家で集まったのはいつだったか……。


 そんなことを考えながら、高速道路から見下ろす住宅街の景色をぼーっと眺める。つい数分前伊織を家の近くで降ろしたので、今車内には運転手さんと俺と虹花しかいない。


「ん?ど、どうしたの?蓮?」


 隣に座る虹花が心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。


「あー、いや、最近龍治(りゅうじ)さんや三咲(みさき)さんに挨拶できてないなって」


覗き込んできた顔から逃げるように俺は窓を見る。景色なんて見たいわけでもないのに。


 龍治さんとは虹花の父親。三咲さんとは虹花の母親である。


 俺は幼少期からこの二人によく可愛がってもらった。最近会えていないなとふと思った。彼らにはよくメールなどで「虹花とは最近どう?」などと聞かれるが、あまりうまくいっていないことを話すことはできていない。なんとなく後ろめたい気持ちがするからだ。


「そんな!気にしなくて良いのに!私こそ逆にお母様に挨拶行かないとなのに!」


 虹花がすかさず否定する。俺の母さんと虹花は特に仲が良い。お互いきちんとした性格なので、気が合うらしい。良く料理や掃除なんかの話題で盛り上がっている。俺からすればどうしてそんな話で盛り上がれるのか不思議だが。


「あー、か、母さんも会いたがってたぞ?」


 車内で距離の近い彼女の顔をやはり見れないまま答える。反射した窓を介してでしか、彼女の顔を見れない。


「ほ、本当にっ!?」


 夕日に照らされてピンク色の髪を紅く染めた少女はクリッとした大きな瞳をキラキラと輝かせる。そして弾けるような笑顔を見せた。きっと母さんに同じことを言っても同じような反応を示すだろう。普段落ち着いているのに、こうたまに無邪気な表情を見せる所が虹花の魅力なのかもしれない。


「………ふふっ、嬉しいなぁ」


 暫くの間、横目で彼女の楽しそうな笑顔を見つめる。


 相変わらず本当に綺麗な笑顔だなと正直うっとりしてしまっていた。そして同時に夕日に照らされたその少女はいつもよりどこか色っぽく見えた。


 だけど、俺には彼女の横顔を見る資格なんてあるだろうか。


 俺は自分自身に問いかける。


****


──まさか、こんなことになるなんて。


その頃、佐竹愛美(さたけまなみ)ーー学校の案内を頼まれたクラス委員長ーーはあまりの幸せに狂喜乱舞していた。右手には生まれて初めて触れた男性の手が握られている。それも、『恋人繋ぎ』だ。


 こんなことあっていいのか?夢では無いか?それとも幻覚を見ているのではないか?


何度も頬をつねって確認するが、やはり現実だ。


しかし、もう一度右手を良く確認する。


男の手。男の手。男の手。男の……手…………!?!?


「ん?どうしたの?佐竹さん」


 右耳に心地よいイケボがスーッと染み込んでいく。咀嚼を楽しむ時間は無いので、すぐさま返答する。


「え!えっと!そのぉ……幸せすぎて、こんなの現実なのかなって……」


 心臓がドキドキする。いや、そんな生易しいものではない。もう、バクバクしている。冗談抜きで飛び出しそうだ。なんだか、苦しいし、痛い。だけど、そんなのどうでも良いくらい本当に幸せだ。


「ははっ!まだ言ってるの〜?」


──まるで天使のような人だ。私を優しく包み込んでくれる。


もう言うまでもなく、間違いなく、彼に恋していた。

脳がトロトロにふやけて理性や思考力は溶け出した。


「……本当に、幸せなの……」


 白羽勇樹。今日初めて会った男子。転校初日に私達女子に優しく接してくれた王子様。クラスメイトから抜け駆けして彼と二人きりになった。二人きりで話したかったから。これをきっかけにゆくゆくは良い関係になりたいと言う野心ももちろんあった。今はどうだろう。なんというか、捕食しようとしたのに逆に捕食された気分だ。自分の魅力をアピールしてメロメロにしてやろうと思っていたのに、逆に魅了されてしまった。もう、骨の髄まで彼に恋している。


「廊下は滑りやすいからね。手を握るのは当たり前だよ?」

「ま、またそんなこと言って〜……」


 距離が近い。手を握っているので当たり前だが。歩くたびに腕同士が擦れて濁して言えばちょっといかがわしい気分にさえなってくる。なんだか、感覚が研ぎ澄まされているせいか彼の呼吸音までハッキリと聞こえる。


──こ、こんなの!ほぼキスじゃない!!


委員長は心の中でそう叫ぶ。いや、確実にキスでは無いが。


 それほど男子と近づくことは貴重なのだ。委員長の所属する三年一組は超エリートクラス。学年上位の成績者しか所属することを許されない教室。なぜなら、男子が二人もいるから。他のクラスはいないか、もしくは一人いるだけなのに。そんな選ばれたクラスですら、男子にはほぼ接触できない。クラスの男子の一人は黒宗蓮君。もう一人は蒼木伊織君ーーちなみに私の推しはこの子ーーだが、どう足掻いてもボディタッチまでは行かなかった。委員長として厳格な態度を繕い、冷静を装えば、話すことはできる。引かれることは無い。だが、それが限界。それが普通だと思っていた。でもそんな常識は今日ぶち壊された。


「もしかして、俺と手を握るのは嫌?」


 手を握る力が弱まる。急に塩らしくなった態度に動揺を隠せないでいた。ただ、まずい!と思い、強く握り返す。


「そんなことない!待って!私はずっとこうしてたい!」


 顔が真っ赤なのは鏡を見るまでもなく自分で分かっていた。こんなみっともない顔を晒すなんて嫌だが、仕方がない。自分の本気を彼にぶつけたい。会ったばかりの彼に自分の想いを知って欲しい。そう思った。


 両者は立ち止まり、数秒の間見つめ合った。

夕日に照らされたまるで彫刻のように美しい顔の少年は耳元で囁くように言う。


「ーーやった、嬉しい」


 彼は爽やかに笑ってみせる。イケメンで爽やかで優しくて、それに触っても怒らない。そう、触っても怒らない。むしろ触ってくれる。こんな完璧な男が世の中に存在したのか。今日初めて神に感謝した。これから毎日神に祈りを捧げよう。


委員長はさらに強く手を握り返した。



****




「よし、一通り周ったね」

「今日はありがとう、委員長」


 気がつけば自然と手は離れていたが、一通り案内を終えることができた。もう夕日が消えかけていた。かなり時間がかかってしまったらしい。まあ、意図してそうしたのだが。


「こちらこそだよ!本当に楽しかった!」

「そう言ってもらえて俺も嬉しいよ」


 ベンチに二人で腰掛けて、しばらく休憩を取る。目の前の噴水を無言で眺めながら先程自販機で買った缶ジュースを飲み干す。噴水の音と後はカラスの鳴き声だけが聞こえてくる。このままこの二人きりの時間が永遠に続けば良いのにと委員長は頬をほんのり赤く染めながら考える。


「そういえば、さ」


最初に静寂を破ったのは彼の方だった。


「居関さんってどんな子なの?」

「な、ななかさん!?」


 突拍子の無い質問に少し困惑しつつも、なんて答えればいいか考えを巡らせる。早く答えなければ。そう思いつつも、ある疑問が頭をよぎる。


──もしかして……虹花さんのこと気になってる……とか!?う、嘘!まずい!


無理やり笑顔を作り、冷静を装って答える。


「す、すごくいい子だよ!誰にでも気さくだし。それに料理が上手って聞いたことがある!」


 とにかく知っている情報を並べた。彼女は聞く人によって印象は真逆になる。だが、それを今言う必要は無いだろう。


「そ、そうなんだ……」


夕日のせいか、それとも勘違いか。


 一瞬、彼の頬が赤らんだ気がした。少し考えるようにして腕を組み、数秒後おもむろに立ち上がる。



「……今日はもう遅いし、帰るよ。今日はどうもありがとう!助かったよ!」


「えっ!?」


 突然の帰宅宣言。何か間違ったことをいってしまったのかとパニックに陥ってしまう。だが、そんな委員長をよそに爽やかな表情に戻った彼は礼を言った後、すぐに走り去ってしまった。


 まるで、沈みゆくあの綺麗な夕日を追いかけるかのように。


 恋する乙女はただ白馬の王子様の背中を見ることしかできなかった。そして、ぽつりと呟いた。


「まさか……ね」

ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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