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第三話 王子様

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

 「皆さん!初めまして!今日からこの学校に転入することになりました!白羽勇樹です!ここにいる皆んなと仲良くできたら嬉しいです!気軽に声を掛けて下さい!よろしくお願いします!」


 なんだがそんな予感はしていた。やはり、あの時見た男子生徒だったか。遠目で見てもそうだったが近くで見るとより一層よく分かる。本当に綺麗な顔立ちをしている。どの顔パーツを切り取っても整っている。身長も高い。180cm以上は確実にあるだろう。それになんだがやけに爽やかなオーラを発しているように感じられる。男の俺がそう感じるのだから異性はさらに敏感にそのオーラを感じ取っているはずだ。


「お、男の子じゃん!蓮!男の子だよ!しかも朝の子!」


 興奮したように伊織はそう言った。確かに紛れもなく目の前にいるのは朝、駅で見かけた謎の男子生徒だ。


「あぁ、まじで男が来た。珍しいにもほどがある」

「こんなことあるんだ!すごいねっ!」


 キラキラ目を輝かせる伊織をよそに俺は耳を塞ぐ準備をする。転校生が来て、それもイケメンの男が来たのだ。女子達が黙っているはずがない。数秒後にはここは動物園と化すだろう。


 そう思ったのだが、女子達はやけに静かだった。なんだか違和感を感じて周りを見渡す。教室が静まり返っていたのだ。女子達はコソコソと何か言っている。


「え、嘘…」

「今…え…?」

「いやでも確かに…」

「……そんなまさか」


 困惑した表情を浮かべて周りと顔を見合わせていた。口を両手で覆い、目を丸くさせている。


──ん?ちょっと待て。そういえば今この男……



 その時、突然クラス委員長の佐竹さんが立ち上がる。普段大人しくて真面目キャラの彼女は手を挙げて、これでもかと声を荒げる。


「い、今!仲良くしたいと!そう言いましたか!?」


 クラスメイト全員が疑問に思っていることを委員長は代表して聞いた。いや、確かに言った。でも、あり得ない。


 男が不特定多数の女に向かって、


『仲良くしたい』と言うなんて。


 この学校でこのクラスでその発言をする意味を理解していない訳でも無いだろうに。


「え?あ、はい。できれば皆んなと。俺は部外者って立場だから皆んな嫌かも知れないけど……。それでも皆んなと仲良くしたいんだ」


 そう言うと、少し困ったようにはにかんで笑った。

その瞬間、クラスは大盛り上がり。言葉にならない言葉で叫びまくっていた。泣いている女子もいた。


「えぇ…」

「うわぁ…」


 俺と蓮は教室の端っこでその光景をただ見ているしかなかった。二人して固まってしまった。まるで、動物園の檻の中、それも肉食動物の檻の中に放置されているようなそんな気分だった。


──数分後、


 やっと女子達は落ち着きを取り戻した。先生の制止を無視して発狂し続けた女子達に伊織は完全に引いていた。まるでとち狂った獣を見るような目で女子達を見ているのだ。まあ、俺もそれに近い反応はしていると思うが。


「……これからなんだか騒がしくなりそうだね」


 呆れたような表情で伊織はそう言った。俺と伊織はずっと耳を塞いで事が治るのを待っていたのだが、考えていることは同じらしい。


「あぁ、タイミングがタイミングだからな」


 高校ニ年生の夏。この時期から本格的に()()が始まる。ほとんどの男子生徒は頭を抱えることだろう。


 俺は渦中の人をちらりと見る。依然和やかに笑っていた。


 これから彼に待ち受ける試練を思うと憐れまずにはいられない。笑っていられるのもいつまでか……。


「えぇっと、竹下先生?俺はどこに座ればいいですか?」

「え、えぇそうね。そろそろ話を進めないと…。そこの有野さんの隣の席が空いているからそこに座ってちょうだい」


 先生が指さしたのは有野さんの隣の席。つまり、一番後ろの一番廊下側の席だ。俺とは真反対。有野さんは拳を突き上げてめちゃくちゃ喜んでいる。同時に雄叫び周りの女子達は羨望の眼差しを送っている。いいなぁだとか、ずるいだとか、そんな声がちらほらあがる。


「有野さん!宜しくね!」


 席に着いた白羽はやはり笑顔でそう言うと、何故か右手を差し出した。有野さんは状況が掴めず困惑している。


「えぇっと…俺と握手するのは、嫌、かな?」


 教室中が再度ざわめく。教室全体が揺れ動いたかと思うほどのどよめきがおこる。


 一体今日は何度驚かされればいいんだ。仲良くしたいと言ったと思ったら、今度は握手。いや、同性同士ならそれは普通だが、異性間で握手なんて相当仲が良く無い限りしない。それを会って早々の人に…?


「れ、蓮…白羽君って、女の子なの?」

「言いたいことは良く分かるが、確実に男だな」

「いや…信じられないよ…」

「……同感だよ」


 伊織も俺も眉をひそめて困惑した表情でその不可思議な光景を見ていた。初対面の女の子に手を差し出す男。こんな光景誰も見たことがないだろう。同性ならまだしも。いや、良く考えれば、普通同性同士であったとしても初対面でいきなり握手を求めるだろうか?今から商談でもしようと言うなら話は別だが。


「よ!宜しくお願いしましゅ!」


 顔を真っ赤にしながら、有野さんは両手で差し出された手を握る。遠目からでも分かるくらい力強く握っているのが分かった。


「ははっ、そんなに緊張しないでよ。ね?」


 にっこりとまた笑う。真っ白な歯が眩しく輝いているように見えた。


 優しく微笑む白羽を見ていると、一瞬こちらと目があった。吸い込まれるような綺麗な瞳だった。だけどなぜか、その一瞬、また強烈な違和感を彼に覚えた。


「……どうしたの?蓮?」

「いや、なんでもない」


 俺は向きを直して黒板の方へと視線をやる。


「さあ、みんな!白羽君の言った通り仲良くしていきましょう!来たばかりで分からないことも多いと思うので皆んなで教えてあげましょうね!」


 そんな言葉で先生が締め括る。クラス中の視線がずっと白羽に釘付けになったまま、騒がしい朝礼はやっと、終了した。



****



「あの!好きな女性のタイプってなんですか!?」

「今度一緒にデートを!」

「ちょっと!今私が喋ろうとして!」

「待って!抜け駆け禁止よっ!」


 予想はしていたが、まさかこんなことになるなんて。


 放課後、クラスのほとんどの女子だけでなく、隣のクラスからやってきた女子達までも白羽勇樹とどうにかお近づきになろうと奮闘していた。会話をする毎に上がる悲鳴。手が触れるごとに上がる歓声。女子が全員乙女顔になっていた。頬を赤く染め、目をトロンとさせている。中々見たくは無い光景だ。


──正直言うと、見苦しい。


「うぅ…まさかこれからずっとこれが続くの〜?」


 伊織は耳を塞いでそう項垂れた。明日から耳栓がいるなと思いつつ、俺も同じように耳を塞ぐ。


「あはは、みんなの気持ちも分かるんだけど、二人ともごめんね?」


 居関虹花は苦笑いしながら俺たちに近づいてきた。伊織はさっと俺の陰に隠れる。女子と話すのが苦手な伊織はたとえそれが幼馴染の居関虹花であっても変わらない。昔よりはだいぶマシにはなっているのだが。


 周りの女子がこちらを見ていないことを確認して、俺は虹花に返答する。


「……別に、お前が謝ることじゃないだろ」

「……え、あ、うん……ご、ごめんね……えへへ」


 もう一度彼女は苦笑いをしながら俺たちに謝罪した。


 気まずい沈黙が流れて思わず視線を逸らしてしまう。


 それにしても、誰かがこの状況を収めなくては特に伊織の精神がもう限界だろう。だが俺や虹花が女子達に注意する訳にもいかない。本来ならこういうのは委員長の仕事なのだが──


「こ、ここは私が校舎を案内しよう!」


「「「ちょっと!委員長!!」」」



──うん。無理そうだ。完全にそっち側だ。


 これから始まるのは、いや、始まっているのは言うまでもなく白羽勇樹という男・の争奪戦。見るに耐えない光景が繰り広げられている。女子も躍起になるのは確かに理解できるが、どうにかしてもらいたいものだ。


「うぅ…。僕もう学校休もうかな…」

「おいおい、それじゃあ昔に逆戻りだぞ」

「そうだけどさぁ…」


 伊織は女が大の苦手だ。だが、幼少期からこの可愛らしいルックスもあいまって、女子からとことん追いかけられた。何度も危険な目に遭ったし面倒をかけられた。伊織にとって女子は迷惑な存在という認識しかないのだ。


「伊織君大丈夫?保健室行く?」


 気分の悪そうな伊織に虹花が声をかける。


「……い。いや、大丈夫だよ。これも試練……試練だ」

「なんか、可哀想に見えてくるな…」


 昔のトラウマを思い出しているのだろう。伊織は小学生の頃、四六時中女子に囲まれていた。私のものだとか、私が結婚するだとか。伊織争奪戦が勃発したのだ。その結果、伊織は鬱病を患って長期間学校を休むことになった。


「あはは……あの頃の伊織君は……うん、ひどかったよね」

「ぼ、僕自身もそう思うよ……」


 伊織は青白い顔で体を震わしている。


 女子達は全員こっぴどく怒られ、かなり重たいペナルティをかせられていたが、伊織は復活するまでかなりの時間を要した。俺もかなり苦労して伊織をケアしたものだ。


「それにしても…白羽君はすごいや。あんなに女子に囲まれているのに、むしろ笑っているなんて」


 白羽はどれだけ女子に話しかけられていても、一切嫌な顔をしていないのだ。全て笑顔で受け答えしている。


「ん?連絡先?いいよ。交換しようか。明日?分かった。一緒にお昼食べようか」


 男は女に対して、冷たく、辛辣。無愛想で、無関心。このような認識が一般的だろう。実際ほとんどその通りだと俺も思う。優しい男なんてフィクションにしか登場しない。だが、現実は小説より奇なり。こんな男が現実世界に存在するなんて、一体誰が想像できただろう。


 そんなことを考えていると、こちらに白羽が近づいてきた。なぜか無意識に身構えてしまう。


「挨拶が遅れてすまない。君が黒宗蓮君で、そちらが蒼木伊織君だよね?」


 にっこり笑い、俺に右手を差し出す。何故名前を知られているのかと疑問に思ったがとりあえず俺はグロッキーになっている伊織をよそに握手に応じる。


「よろしく、白羽君。同じ男同士だから聞きたい事があったら遠慮なく聞いてくれ」


俺はできるだけ、丁寧な口調でそう言った。


「勇樹で良いよ。俺も蓮って呼ぶからさ」

「おう、ならそうしようか」


 どうやら、誰にでも気さくなタイプらしい。それにしても女子とは流石に距離が近すぎると思うが。


「それでそちらが…………っ!?」

「……ん?私?」


 俺と握手をしたまま、何故か勇樹は時間が止まってしまったかのように固まってしまった。目線は俺では無く、居関虹花の方を向いており、だんだんと顔が赤くなっていく。


「ああ!す、すまない!挨拶がまだだったと思ってね」

「えぇ、初めまして。居関と言います。宜しくお願いします。白羽さん」


 ぺこりと丁寧に虹花は頭を下げる。


「う、うん!よろしくお願いします!居関さん!」


 たどたどしい言葉でそう言い、勇樹はぺこりと頭を下げる。


 どこかさっきよりも態度がよそよそしくなったように感じる。彼女にだけ遠慮することないと思うのだが。


「勇樹く〜ん!もうすぐ行くよ〜!」


 委員長が遠くから勇樹に声をかける。


 俺は彼にぶつけたい疑問がいくつかあったが、その前に今から委員長と校内を見て回らなくてはいけないようなので、おあずけとなった。

ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

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