第二話 転入生
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
教室の扉を開けるといつものように甘ったるいようなフルーティーのような香りが鼻に飛び込んでくる。
女子特有の匂いと言い換えてもいいかもしれない。学校に香水をつけてくることは禁止されているので、これは香水の匂いではない。柔軟剤やらシャンプーやらの匂いだろう。
それぞれの女子生徒のその香りが混ざった空気が教室中に充満しているのだ。
高校2年の夏。なんとか慣れたが慣れるまでにはかなり時間がかかったものだ。
しかし、それも仕方が無い。なんせ、このクラスは俺と伊織以外は男子がいない。
女子特有の匂いが教室に充満するのは当たり前なのだ。受け入れるしかない。
「わぁ!いらっしゃったわ!」
「おはようございますっっ!」
「伊織君と蓮君が来た!」
「今日もカッコいい!そして可愛い!!」
慣れないといけなかったのは、他にもある。この女子からの『声掛け』である。
教室に入ると、毎朝クラスメイトからポツポツと遠目に挨拶を受ける。
クラスの女子は基本的に遠巻きにこっちを見ているだけで直接話しかけてくることは無い。
別に『女子は男子と極力話すな』とか『女子は男子と距離をおくべし』というような校則がある訳ではない。
もちろん国の法律やらに特別記載されているわけではない。
だがまあ生活の秩序維持のために基本的に男子と女子は特別な男女の仲では無い限り、一定の距離は保つべきとされている。そういう社会規範が定立しているのだ。
というか、そうしないと女子同士で喧嘩や争いの種になるんだろう。
男子が圧倒的に少ない中で女子が男子の取り合いをするのを防ぐこと、そして男子の気分を損なわないようにすることが目的だ。
男子の少ないこの世の中。男、特に若い男子はとても貴重な存在だ。老若男女問わずそれは分かっているから、若い男の取扱いにはセンシティブになる。
まぁ、悪く言えば、女は男に嫌われないよう『ご機嫌取り』をするようになってきている。それに加えて最近は女嫌いな男も増えている。性犯罪の増加やマナーの悪い女性か増えたことが原因らしい。俺達からすればあちらから適切な距離をとってくれるのはありがたいことだ。
「いい加減ジロジロ見るのはやめてほしいよね、蓮」
「いやまぁ、俺は流石に慣れたけどな。伊織は視線に敏感すぎるんだよ。悪意のない視線だってあるだろ?」
俺の親友ーー蒼木伊織はあまり女が得意では無い。元々可愛らしい顔立ちをしているせいか良く女に襲われそうになっていたからだ。
昔のトラウマもあって男か本当に信用している女にしか関わろうとしない。まぁ、別段特殊と言う訳ではないが。さっきも言ったように女嫌いな男は少なくない。女が嫌いだからって将来何も困ることは無いし、責められることも何も無いのだ。俺だって一部を除いて、極力女とは関わりたくは無いと思っている。伊織みたいに露骨に態度や行動に出すことは無いだけで。
「そ、そうだね。ほら、早く席に着こう」
「おう、先生ももうすぐ来るだろうからな」
伊織はクラスの一番後ろの一番窓側の席に座る。そしてその右隣に俺が座る。この席順はたまたまではなく、伊織が先生に頼んでズルをしてこうなった。どうしても俺の隣じゃないと嫌だとか。こういうことができるのが男の特権と言えるだろうか。
「やば〜〜いっ!!」
廊下から聞き慣れた声が聞こえてくる。
小走りで慌ててこのクラスの最後の生徒が教室に入ってきた。
桜色の長い綺麗な髪をなびかせ、膝まで伸びたスカートを揺らしながら急いで1番前の自分の席に着席する。
「よし!ギリギリセーフッ!」
その女子が入ってきた瞬間、教室が太陽に照らされたかのように明るくなった。女子達は活気づいたようにテンションが上がり、彼女の席に群がる。
「虹花ちゃんおはよ〜!」
「今日生徒会だったんでしょ!」
「それで!どうだった!?」
「話聞かせてよ!」
彼女の名前は居関虹花。このクラスの1番の人気者で、クラスの中心。頭脳明晰でスポーツ万能。コミュ力も高く、生徒会にも入っており、生徒と先生からの信頼も厚い。いわゆる陽キャラだ。
「……それにしてもなんだか今日は騒がしいね」
「あぁ、確かに。いつもより女子達が浮足立ってるっていうか」
どうやら、今日は何かイベントがあるらしい。女子達は少し緊張した面持ちでそわそわしだした。
ちらりとクラスメイトの隙間から居関虹花を見る。一瞬彼女と目が合う。だが、すぐに目線は逸らされる。
「ふふん!みんな聞いて驚きなさい!!生徒会の清水先生が言ってたんだけど……。なんと!今日は我がクラスに転入生がくるらしいの!」
女子は歓喜の声をあげる。
なるほど。道理でみんな浮き足だっているわけだ。
「転入生……か」
我が高校。天真院学園は中高一貫校だ。
中学から高校へは一応学力試験はあるもののほとんどの生徒はエスカレーター式に上がる。外部入試もあるが、ほんの数人しか認めておらず、毎年倍率は何百倍にも膨れ上がる。つまり、外部の干渉を極力避けるのが学校の方針なのだ。そんな学校にしかもこんな時期に転入生なんて聞いたこともない。
そろそろ本格的に夏の暑さを感じる季節になってきた七月。夏休みという長期休暇の直前に転入生がくるなんて聞いたこともない。
「転入生なんて珍しいよね」
「そうだな、しかもこんな時期に」
しばらくするとチャイムが鳴り担任の川北先生が教室に入ってきた。クラスメイト達はお喋りをやめて各々の席にいそいそと戻る。
「あ、そうだ。ねぇ蓮。転入生って男の子かな?」
朝礼中、伊織はひそひそと俺に聞いてきた。女嫌いの伊織からしたら男の方が良いのは当然だろう。俺は川北先生の話を聞きながら答える。
「さぁな。でもまあ…相当優秀か、それとも特殊な奴なのは間違い無いと思うぜ?」
「え?それはどう言うこと?」
一通り朝礼が終了した所で川北先生が突然手を叩き、生徒を黙らせた。クラス全員先生にまっすぐ目線を送っている。
「さて、ここで嬉しいお知らせです!なんと!このクラスに転入生がやってきます!」
川北先生が珍しく興奮していた。同時にクラスの女子達も大盛り上がりになる。勢いよく立ち上がり、机を叩いて、大声をあげる。
「せ!先生!もしかして!」
「まじ!まさか!本当に!?」
「あぁ!神に感謝しますっ!」
ゆっくりと先生が教室の扉を開く。
一瞬で騒がしい教室に静寂が訪れた。
──余裕のある表情。
ゆったりとした歩み。
堂々たる佇まい。
そして、
ちらりと白い歯を見せながら、爽やかに微笑む。
「皆さん!初めまして!今日からこの学校に転入することになりました!白羽勇樹です!ここにいる皆んなと仲良くできたら嬉しいです!気軽に声を掛けて下さい!よろしくお願いします!」
そこにいたのは、今朝見たあの不思議な青年だった。
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