第一話 始まりの日
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「まもなく三番線に普通浅千行きが到着いたします。危ないですので黄色い線の内側までお下がり下さい。男性専用車両は4号車と5号車でございます」
いつも通りの時間にいつも通りのアナウンスが流れる。俺は4号車乗車口でスマホを適当にいじりながら、大きなあくびをする。別に夜行性という訳では無いし、特別昨日夜更かしした訳でも無い。でもこのプラットホームで電車を待つ時間は何故か眠気が襲ってくる。手持ち無沙汰でなんでもない時間。好きなようで嫌いなような時間だ。
「ちょっと蓮、後ろ下がりなよ」
ポケットにつっこんだ左手が軽く後ろに引かれる。気づくともう電車が到着して乗客が降りてきていた。とは言ってもいつも通りその人数は少ない。なにせ、四号車は男性専用車両なのだから。
俺は親友の伊織に言われた通り降りてくる人に道を開けるために少し下がった。
「おう、わりぃな」
軽く謝ると右ポケットにスマホをつっこむ。人が降りきるまでぼーっと待つ。どうせ男性専用車両なので大した人数は乗っていない。
通勤ラッシュとはいってもそもそも働いてる男性は珍しく、それに加えて会社まで電車で移動していることも珍しい。
降りてくる男性のほとんどは中年から初老の男性であり、男性が圧倒的少数派になっても男性=仕事という古風な考えを貫く珍しい人くらいだろう。
俺が産まれる約30年前。2020年に起こった大規模な感染爆発は人類史に大きな爪痕を残した。人類史上最悪なウイルスと称された『Mill20』。通称『男殺しウイルス』は人類から男という性のほとんどを連れ去った。
西暦2066年現在。その傷跡は癒えていない。
現在の世界の男女比は1:100と言われている。男1人につき女性が100人いるということだ。『男殺しウイルス』は男性にしか感染せず、その致死率は99%。多くの男性を殺し、男性はほとんど絶滅しかけた。
しかし、僅かにウイルスに抵抗を持つ男性も現れたのだった。『男殺しウイルス』に抗体を持つ男性はまさに人類の希望。各国の政府は彼らを積極的保護し、その抗体でワクチンを作ろうとした。
はや30年。まだワクチンは完成していない。いや、完成できないのだ。凶悪な『男殺しウイルス』に対する有効なワクチンは未だ見つかっていない。そのせいで今はもうウイルスに対して抗体を持つ僅かな男性を残すばかりだ。加えて新たに産まれる男児のほとんどもすぐに死亡する。
まさに未曾有の危機。人類は絶望の危機なのだ。そして奇跡的に抗体を持つ俺たちだけが人類の希望といえる。
「……って教科書に書いてたな〜」
俺は大きなあくびをする。男ってだけで優遇されているこの社会。楽だけどなんだか退屈。それに息苦しさも覚える。
周りから送られる熱い視線に嫌気がさす。まぁ、学生がこの時間帯に駅にいるだけでこうなるか。
本来なら駅なんて使いたくない。飢えた女の巣窟なのだから。考えるだけで吐き気がする。
全員が降りるまで待ってから俺は電車に乗り込もうと進む。その瞬間、左の方からざわざわと人の歓声が聞こえてきた。なにやら悲鳴なようなものも混ざっている。
「なにあのイケメン…」
「学生?ていうか本当に男の子?」
「かっこよすぎでしょ!」
やけに騒がしいので気になってちらりと横目で見てみる。
そこだけ異様に人が密集しており、みんな何かに目を釘付けにされているようだった。数秒ごとに大きな歓声と悲鳴が交互にあがる。
その人だかりの中心を見ると、同じ学校の制服を着た見慣れない顔の男子がいた。
黒髪マッシュで色白で高身長。そして遠目からでも分かるくらいのかなりの美形だった。
我が校の男子生徒は他の学校よりは多い。それでも大体が顔見知りなのだが、やはり記憶を探ってもあの顔は見た覚えが無かった。さらに不思議なのは隣は3号車。つまりは男性専用車両ではない普通の車両に彼は乗り込もうとしているのだ。時間帯は最悪。通勤通学ラッシュのしかも普通車両。地獄の車両だ。
しかし謎のイケメンは堂々と3号車乗車口に立っていた。今まさに彼に引き寄せられるかのように多くの女性が3号車に集結していっている。右から左から後ろから。まるで獲物を狙う狩人のようにギラついた目でたくさんの女性達は3号車へと移動する。
あっという間に女性に囲まれたその謎の青年はそれを歯牙にもかけないような態度で颯爽と電車に乗り込んでいった。そしてその表情はどこか笑っているようにさえ見えた。
「ちょっとどうしたの?蓮?」
伊織に後ろから肩を叩かれる。
「あ、いや、何も……」
「じゃあ、早く進んでよ。後ろがつっかえてるじゃん」
俺は伊織に催促され、やっと電車に乗り込んだ。妙にちらりと見たあの男が気になって仕方がなかった。顔見知りでもなんでも無いのだが、言葉にできないが、何か違和感のようなものを感じていた。
「もう、まだ寝ぼけてるの?」
考え事をしている俺の肩を伊織が前後に揺らす。
「いや、別にそういうわけじゃないんだけどさ」
俺と伊織は空いている席に隣同士で座る。いつもお節介を焼いてくる伊織とダラダラ会話しながら過ごすのがもはやルーティンとなっている。
「じゃあ、どうしてそんなにボーッとしてるの?」
「考え事だよ。なんかさっき見た男の子が気になってな」
俺は正直に伊織に言う。
「あぁ、いたね。なぜか隣の車両に乗り込んでたイケメン」
どうやら、伊織も認識していたみたいだ。俺は続けて疑問をぶつける。
「今時男が男性専用車両使わないなんてことあるか?普通?」
「確かに変だよね〜。この時間女の人多いし。痴漢されても文句言えないよね〜」
当たり前のことだが、満員電車の中に男が一人でいれば確実に痴漢に遭う。きっと同性愛者でない限り男の尻や胸を弄るだろう。助けを求めてもきっと誰も助けてくれない。想像しただけで気持ち悪い。
そもそも、若い男性はほとんど電車などの公共交通機関を使わない。男性を保護するために家族や使用人がどこに行くにも送り迎えをするのが普通だからだ。
今日俺たち二人が電車を使ったのもたまたまだ。俺の家の車のタイヤがパンクしてしまっていて学校に間に合いそうになかったためである。伊織は俺と一緒に登校するためにわざわざ電車で来てくれた。二人とも半年ぶりぐらいに電車を使ったくらいだ。
「まぁ、気にしても仕方ないんだけどさ」
「心配になっちゃうのは確かに分かるよ。うちの高校の制服着てたし」
俺と伊織が通う高校。天真院学園の制服は遠目でも分かりやすい。ベージュのブレザーにグレーのズボン。派手なフォルムの校章も特徴的だ。そして、学年毎に色の違うネクタイも独特な仕組みで面白い。
「そういえば、ネクタイ何色だった?」
「え〜、そこまでは見てないな〜」
もし赤色なら俺や伊織と同じ三年生だが、だとしたら面識が無いのはなぜだろう。もしかしたら何かの事情で学校を長期間休んでいたのかも。
「……まあどうでもいいか」
考えるのをやめて、もう一度大きなあくびをしてから俺はゆっくり目を閉じた。
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