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◇0 - 神の祝福

 世界は悪しきモノで満ちている。

 神は世界の救済を願い、人々に力を与えた。

 故に、女神の祝福を受ける者はすべからく、魔と戦う使命を帯びている。




 それが俺達の暮らすこの世界の、絶対的なルールだ。

 人は誰しも生まれながらに、神から授かった祝福ギフトを所持している。


 ギフトとは即ち才能だ。天賦の才。俺達の人生は、この才能次第で全てが確定される。


 ≪白魔法≫や≪剣術≫といった戦闘系のギフトは特に重視されていて、巡礼者への道が約束される。


 この世界で教会に所属するという事は、支配階級である貴族以上の特権を得られるチャンスを手にするという事である。


 教会が実質的な支配権を有するこの国では、聖者は貴族よりも偉いのだ。


 自分のギフトが判明するのは、【授紋式】と呼ばれる特別な儀式の場である。

 八歳になると、国の子供は全員がこの儀式を受ける事になっていた。

 

 そんな人生を左右する一大イベントに、俺は今日のぞむ。

 教会の大聖堂に集められ、大神官様の前に並ばされた。


「どんなギフトが貰えるんだろうね。楽しみ」


 幼馴染のアイシャが、俺の横に来てそう言った。彼女は今日という日をとても楽しみにしていた。

 一週間も前からずっと、儀式の話ばかりしていたくらいである。


 アイシャは、昔から外を駆けまわるのが好きな女の子で、将来は巡礼者になって冒険しまくると息巻いている。


「アイシャの志望は≪剣士≫だったよね」


 俺がそう訊くと、アイシャは「もちろん!」と言って親指を突き立てた。


「そういうギルは≪白魔法≫だったっけ?」


「うん。俺は怖くて、とても魔物と接近して戦うとかできないから」


 意気地がないと周囲に笑われるが、そう言う性分なのだから仕方がない。

 だけど、アイシャの様に外に出て冒険したいという好奇心もある。だから、遠距離攻撃と回復ができる≪白魔法≫が欲しいのだ。


「一緒に巡礼者になれると良いね」


 アイシャは、はにかみながらそう言った。俺もそうなればいいと思うから、頷き返す。


 俺たちの番が来た。

 一列に並べと言われたのに、俺とアイシャだけ二人で並んでいるからか、大神官様は困った様に微笑んだ。


「さて、どちらからにしましょうか?」


「アイシャ、先に良いよ」


「うん。ありがとう!」


 こんなにも楽しみにしている奴が隣に居るのに、俺が先にとはとても言えないよな。

 アイシャは礼を言うと、一歩前に出て右手の甲を差し出した。


 大神官様は、アイシャの手の甲に大判のスタンプを押した。スタンプの押された手の甲に、黒文字の紋章が残る。


「さあ、開いてごらんなさい」


 大神官様に言われ、アイシャが紋章に触れる。すると、紋章が歪んで別の文字列に変わった。

 アイシャの能力値が、手の甲に映し出されたのだ。

 その一番上の行に書かれたギフトの名前を見た途端、大神官様は目を見開いた。


「なんと! ≪神聖術≫とは!」


 大神官様の言葉に、他の僧侶たちもざわめいた。


 ≪神聖術≫とは、≪白魔法≫の上位ギフトとされるものだ。

 扱える神聖魔法の幅や、身に持った魔力の量が常人と比べて桁違いである事を示している。


 これを持って生まれる者は非常に稀で、しかも≪神聖術≫を持った者はいずれも教会組織の幹部になっている。

 アイシャはたった今、大出世の切符を手にしたのである。


「やったよ、ギル! 私、なんか滅茶苦茶すごかった!」


 歓喜のあまり落ち着かないのか、アイシャは俺に飛びついてきた。

 幼馴染とはいえ、女の子に抱き付かれるのは照れくさい。だが、今はそんな事よりも、親友の門出を祝わなくては。


「おめでとう、アイシャ!」


「うんっ! ―――さぁ、ギルも早く!」


 アイシャは俺から離れると、道を開けた。

 俺は一歩前に出て、大神官様に右手の甲を差し出した。


 緊張の瞬間。甲に紋章が押され、大神官様の指示でそれを開く。



 俺の能力紋に表示されたのは―――


 ≪黒魔法≫


 ―――だった。



 それを目にした途端、全身から力が抜けるのを感じた。

 膝から崩れ落ちた俺の頭上で、大神官様が狼狽えた様子で何かを叫んでいた。その声ももう、聞こえない。


 世界には、呪われたギフトというものがある。

 生まれる時に悪魔か何かの仕業で、神様からの祝福が穢されてしまう事があるのだという。


 神聖な≪白魔法≫に対する、悪しき≪黒魔法≫はその典型だった。


 大昔は、≪黒魔法≫のギフトを持っていると分かった子供は、すぐに処刑されたと聞いた事がある。

 なら俺は、一体どうなるんだ?



「君、大丈夫かい?」


 大神官様が、手を伸ばしてきた。

 何をされるんだ俺は。これからどうなるんだ。


 死にたくない。


 そう思った瞬間にはもう、俺は聖堂の出口へ駆けだしていた。

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