第二記 國田酒商と石㠀ダガシ店
この大正恋記〈一〉は、第一記から第六記までで構成される恋物語である。現代人にとってあまり馴染みのない大正時代を生き抜いた男女の恋愛事情をとくとご覧あれ。
はああ。とても気持ちの良い朝だ。今日は1923年7月某日。何時ものように朝からラムネの仕入れ。5キロメートルもある道を、重い荷物を持って走る、開店時間に間に合うように。今日から夏休み、小さな子供たちが大勢、店に来るだろう。うちはダガシ屋、今時期ラムネが人気である。そのラムネの在庫を運んでいる最中なのである。重いとても重い。腕がはちきれそうになる。私には1つ下の妹がいるのだが、その妹は、婆ちゃんとお母ちゃんの手伝いをしていて、店先にいる。爺ちゃんとお父ちゃんは、別の商品を取りに行っているため、ラムネ運び係は私1人だ。やっと西洋風なキツサ店が見えてきた。もうすぐ着く。あのキツサ店の向いが私の家、ダガシ屋だ。
着いた。冷たい氷の中にラムネの瓶を入れる。店の掃除を簡単にして、シャッターを開ける。早い、もう今日の1番客が来ている。常連さんだった。この人は隣の酒屋さんの長男、多分年上。まともに話したことは無く、挨拶くらいしかしない。親同士は仲良いんだけどなー。ほとんど知らない人。2番目に来た客は、向いのキツサ店の看板娘、私がお姉ちゃんのように慕う、みっちゃんこと、道代さんだ。彼女とは、幼い頃から仲が良く、もちろん親同士の付き合いも長い。軽く世間話をして、みっちゃんはサ店へ戻っていった。おそらくだが、ここからしばらく客は来ない。なぜなら、子供は皆、川遊びに行くからだ。川遊びが終わるであろう昼過ぎ、そこが私たちの勝負所であろう。それまではゆっくりしようと思う。
そういえば、まだ私の名前を記していなかったね。私は石㠀ダガシ店3代目看板娘、石㠀三千佳、15歳だ。家族構成は祖父、祖母、父、母、妹の、合計6人家族なんだ。向いはキツサ店、さっき来ていたみっちゃんは、一つ上のお姉ちゃん。隣の酒屋の作之介君は多分、みっちゃんとおんなじ年。あ、隣は國田酒商っていうんだった。同じ商店街で昔からの付き合いだから、親も爺ちゃん婆ちゃんもみんな仲良し。ただ私は作之介君のこと、よく知らないけどね。これから毎日来てくれるだろうから少しずつ話してみよう。お姉ちゃんも入れて。