第一記 昔からある駄菓子屋さん
この大正恋記〈一〉は、第一記から第六記までで構成される恋物語である。現代人にとってあまり馴染みのない大正時代を生き抜いた男女の恋愛事情をとくとご覧あれ。
第一記 昔からあるダガシ屋さん
吾輩は猫、いや失礼、私はただの新聞記者である。昨年、還暦を迎え、親しい友人と酒を呑んでいたら、見習い記者だった時に聞いた話をふと、思い出した。その話を一から皆さんにお話ししよう。
私は、どこから見てか知らないが、遠い遠いアジアの島国の中の、北のほうに住んでいる。私が子供の頃に住んでいた所の近所に古い駄菓子屋があった。私はそこの婆ちゃんに気に入られていたので、よくラムネをタダでもらったと記憶している。大きくなってからは、その向いにある喫茶店に通うことが多くなったのだが。
私の就職先が決まった時、久しぶりに行ってみた。婆ちゃんは自分の孫のことのように、誰よりも喜んでくれた。私が就いたのは地方新聞社だったが、雑誌刊行にも力を入れているらしい。就職して一発目の仕事、新しく刊行する雑誌の一部連載記事の執筆であった。いきなりそんな大役任せて大丈夫か、と不安になったが、お試しで出版するだけだから大丈夫だった。私が任された記事は「大正の恋愛事情」。婆ちゃんなら何かしら話は持ってるだろうと思い、尋ねてみた。なぜなら、彼女は駄菓子屋の看板娘だったからだ。ここからは、彼女の視点から、そして、後に出てくるキーマンの視点で話を追うことにする。少々複雑な物語だが、最後まで聞いてほしい。では、始めよう。




