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見たくも無い笑顔だった
落ちていく手がとても綺麗で、反射的に手を伸ばした。
あんなに汚く汚したのに、その長い黒髪は、世界の美を集め写したように、夕日に照らされ輝いていた。
ふわりと天使が舞うように。くすりと悪魔が囁くように。
好きな人がいた。
彼女は不思議な人だった。
とても綺麗な人だった。
伸ばした手は空を切り、僕は天使を捕まえられない。
「私が死んだら貴方は嬉しいのですか」
鈴のような綺麗な声が、脳裏に焼き付いている。
悪魔のような魅惑的な微笑みが、僕の思考回路を奈落に落とす。
「私と違って貴方はとても綺麗ですね。まるで夜空に浮かぶ星々のように、私には遠過ぎて、それでいて眩し過ぎて。なんて、綺麗なんでしょう」
彼女は笑った。
僕は身体が動かなかった。
待って、まだ、僕は。
届かなかった手が悔しくて、咄嗟に僕は身体を乗り出した。
次に驚いたのは彼女だった。
大きな瞳を溢れそうな程更に大きく見開いて。
ああ、その瞳に反射する僕の姿が、とても滑稽だ。
空中で抱いた君の身体は、とても柔らかくていい匂いがした。
羽の生えない僕らは共に───。
観覧ありがとうございました。